シノノメナギの恋わずらい

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
39 / 79
シノノメナギの師走

第2話 門男さんとさくらさん

しおりを挟む
 リビングには大きな白いツリー。飾りもつけて電飾も付けてうっとり、そしてイチャイチャイチャのつもりが……予想外にツリーが大きくこたつはしまうことになった。代わりにカウンターキッチンのカウンター前の椅子がしばらく定位置になりそう。
 部屋を暗くしてツリーの照明がパカパカ光る。とても綺麗。
「綺麗やなー。こんな豪華なツリーなんて初めて」
「わたしも。白だし可愛いよね……て、こんな歳で可愛いなんてどうなのかしら」
「ええんやない?」
「そう?」
 おでんをつつきながらというのもミスマッチだけどなんか幻想的。

 ウインナーやじゃがいも入れて洋風おでんにすればよかったかしら。まぁいいか。

 キラキラした光を嬉しそうに見る常田くんの笑顔がわたしにとって嬉しいの。

 食べ終わった後、ツリーの前でうっとり。
「ねぇ、こんな素敵なツリー飾ったらサンタさんがクリスマスにプレゼント持ってきてくれるかな」
「梛はサンタ信じてる?」
「すこしは」
「少しやないやろ」
 そうですね、お察しの通りよ……わたしの妄想力は子供の頃から酷くて小学6年までは本当にサンタがいると思ってたんだから。

「なんか欲しいもんあるんか?」
 しまった、なんかおねだりしてる感じになっちゃった。そんなつもりなかったけど。

「うーん、なににしよう」
「あったんかい!」
 なによ、聞いてきたくせに。わたしは常田くんに抱きついた。

「常田くんと素敵なクリスマス過ごせたらいいなぁって……モノじゃなくていい」
「それさぁ、僕がいうことや。僕もクリスマス、梛と話したい」
 ……でも……。

「クリスマスも、イブも仕事ー」
「二人してなぁ、ひどいよ……夏姐さん。自分一人だけクリスマス早番からの次の日休みとるなんてさ」
 そうなのだ。月末に出たシフトを見てがっかり。平日なのは承知していたが私たち二人は図書館でクリスマスを過ごしそうだ。まぁ毎年そんな感じだけどさ。

 でも今年はちょっと違う。
「仕事してるけど一緒にいられるからまぁいいよね」
「そうやな。クリスマスにイチャイチャできへんけど」
 やだっ、そんなこと常田くんが考えてたなんて……。
 仕事あってもできるし、実際してるじゃん。現に今、常田くんはわたしの首筋にキスをしてるし。

「次の日仕事だと思うと加減しちゃうからさー。クリスマスくらいたっぷり味わいたい……」
 って、めっちゃくちゃ今常田くんにスイッチ入ってるんですけどぉ。

「ツリーの照明の前でってめっちゃええシチュエーションやな」
 常田くんの変態いいいっ! 最初の頃は梛さんを傷つけたくないとか言って躊躇してたのに今じゃ……。





「梛さん、梛さん?」
 はっ、目の前には門男さんと奥さん。そう、あっという間に次の日の日中。仕事中に昨晩のことを思い出しちゃった。だって昨日あれから布団も敷かずにラブラブしちゃって身体中痛くて。その痛みで思い出しちゃった。

 常連の二人の前でなにやってんだか。今日もこの二人は私に孫のための絵本を見繕って欲しいとやってきたのだ。12月にも入り図書館内もクリスマスムードの装飾。
「すいません。え、えーと……今の時期だとやっぱりクリスマスの絵本がいいですけど干支の絵本とかお正月の絵本も人気なんですよ」
「そうだなぁ、行事を大事にする心を赤ちゃんのうちから教えてあげるのもいいなあ」
 いつも早朝の開館前から図書館の前の門の前で待つ長身の男、だからわたしは門男さんと名付けていたけど本名は門田和男さん。まさしく門男さん。
 そしてその奥さんであり小柄な女性の門田さくらさん。いつも門男さん一人で来ていたのにいつのまにかさくらさんも一緒に来るのが増えた。
 それもこれも孫の絵本のため。幼稚園児と赤ちゃんの孫がいる二人。

 やけにさくらさんが熱心なのよね。教育ママいや、教育ばあば。自分の子供でないのに熱心よね。でもそういうのがお嫁さんや娘さんにとっては鬱陶しいらしいけど。
 さくらさんはばあばって感じしない。

 ほんとこの二人は仲がいい。お孫さんいるから……少なくても20年近くは一緒にいるってことよね。
 二人の身長差はかなりあるけどほんとお似合い。どうやって抱きしめるのだろうか、キスの時は? エッチの時は? て常々考えてしまう。

 兎にも角にもわたしの中では理想の夫婦。わたしも常田くんと二人のように20年もその先も過ごしていきたい。

 門男さんはわたしが選んだ干支の本をじっくり見ている。するとさくらさんに呼ばれたのでそこに行く。

「梛さん、その髪の毛……ウイッグよね」
 !!! そうである。わたしは一回、常田くんの嫉妬を抑えるために男に戻って仕事に来た時があったのだ。なぜか来たモテ期でね、常田くんが心配するからバッサリショートにしてノーメイクで。でもやっぱり無理だと思っていつもどおり女の子として戻ったけど。仕事の時はボブのウイッグをつけている。

 その時にさくらさんも図書館に来ていたのだ。だから彼女はわたしが男だとその時知ったのだ。あの時以来だったから……ねぇ。

「今まで全く気づかなかったわ……でも元が美男子だから女装もすごく似合ってて……私は別になんとも思わないけどそういう生き方っていうのもありかなって」
 美男子だなんて初めて言われたけどさ。そういう生き方、かぁ。さくらさんはわたしのことを女装家としてか、女の子としてか……どう見てるんだろう。

「あとね、うちの主人。梛さんのことが好きで通いに来てたのよー」
 !! また無駄にモテ期ー。
「なんかやたらと図書館に通うから女がいるのかと思ったら……あなた目当てだってこないだ言ってたのよ」
 門男さん、その辺は黙っておこうよ。さくらさんの方が優勢なんだな、この夫婦。

「でも私はあなたが男とわかってからほっとしてるわ。ちなみにこのことは主人は知らないからねっ、ふふっ」
 と、さくらさんは門男さんのもとへ。

 ……仲良さそうに絵本を見ている。女の嫉妬は怖い。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...