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シノノメナギの師走

第2話 門男さんとさくらさん

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 リビングには大きな白いツリー。飾りもつけて電飾も付けてうっとり、そしてイチャイチャイチャのつもりが……予想外にツリーが大きくこたつはしまうことになった。代わりにカウンターキッチンのカウンター前の椅子がしばらく定位置になりそう。
 部屋を暗くしてツリーの照明がパカパカ光る。とても綺麗。
「綺麗やなー。こんな豪華なツリーなんて初めて」
「わたしも。白だし可愛いよね……て、こんな歳で可愛いなんてどうなのかしら」
「ええんやない?」
「そう?」
 おでんをつつきながらというのもミスマッチだけどなんか幻想的。

 ウインナーやじゃがいも入れて洋風おでんにすればよかったかしら。まぁいいか。

 キラキラした光を嬉しそうに見る常田くんの笑顔がわたしにとって嬉しいの。

 食べ終わった後、ツリーの前でうっとり。
「ねぇ、こんな素敵なツリー飾ったらサンタさんがクリスマスにプレゼント持ってきてくれるかな」
「梛はサンタ信じてる?」
「すこしは」
「少しやないやろ」
 そうですね、お察しの通りよ……わたしの妄想力は子供の頃から酷くて小学6年までは本当にサンタがいると思ってたんだから。

「なんか欲しいもんあるんか?」
 しまった、なんかおねだりしてる感じになっちゃった。そんなつもりなかったけど。

「うーん、なににしよう」
「あったんかい!」
 なによ、聞いてきたくせに。わたしは常田くんに抱きついた。

「常田くんと素敵なクリスマス過ごせたらいいなぁって……モノじゃなくていい」
「それさぁ、僕がいうことや。僕もクリスマス、梛と話したい」
 ……でも……。

「クリスマスも、イブも仕事ー」
「二人してなぁ、ひどいよ……夏姐さん。自分一人だけクリスマス早番からの次の日休みとるなんてさ」
 そうなのだ。月末に出たシフトを見てがっかり。平日なのは承知していたが私たち二人は図書館でクリスマスを過ごしそうだ。まぁ毎年そんな感じだけどさ。

 でも今年はちょっと違う。
「仕事してるけど一緒にいられるからまぁいいよね」
「そうやな。クリスマスにイチャイチャできへんけど」
 やだっ、そんなこと常田くんが考えてたなんて……。
 仕事あってもできるし、実際してるじゃん。現に今、常田くんはわたしの首筋にキスをしてるし。

「次の日仕事だと思うと加減しちゃうからさー。クリスマスくらいたっぷり味わいたい……」
 って、めっちゃくちゃ今常田くんにスイッチ入ってるんですけどぉ。

「ツリーの照明の前でってめっちゃええシチュエーションやな」
 常田くんの変態いいいっ! 最初の頃は梛さんを傷つけたくないとか言って躊躇してたのに今じゃ……。





「梛さん、梛さん?」
 はっ、目の前には門男さんと奥さん。そう、あっという間に次の日の日中。仕事中に昨晩のことを思い出しちゃった。だって昨日あれから布団も敷かずにラブラブしちゃって身体中痛くて。その痛みで思い出しちゃった。

 常連の二人の前でなにやってんだか。今日もこの二人は私に孫のための絵本を見繕って欲しいとやってきたのだ。12月にも入り図書館内もクリスマスムードの装飾。
「すいません。え、えーと……今の時期だとやっぱりクリスマスの絵本がいいですけど干支の絵本とかお正月の絵本も人気なんですよ」
「そうだなぁ、行事を大事にする心を赤ちゃんのうちから教えてあげるのもいいなあ」
 いつも早朝の開館前から図書館の前の門の前で待つ長身の男、だからわたしは門男さんと名付けていたけど本名は門田和男さん。まさしく門男さん。
 そしてその奥さんであり小柄な女性の門田さくらさん。いつも門男さん一人で来ていたのにいつのまにかさくらさんも一緒に来るのが増えた。
 それもこれも孫の絵本のため。幼稚園児と赤ちゃんの孫がいる二人。

 やけにさくらさんが熱心なのよね。教育ママいや、教育ばあば。自分の子供でないのに熱心よね。でもそういうのがお嫁さんや娘さんにとっては鬱陶しいらしいけど。
 さくらさんはばあばって感じしない。

 ほんとこの二人は仲がいい。お孫さんいるから……少なくても20年近くは一緒にいるってことよね。
 二人の身長差はかなりあるけどほんとお似合い。どうやって抱きしめるのだろうか、キスの時は? エッチの時は? て常々考えてしまう。

 兎にも角にもわたしの中では理想の夫婦。わたしも常田くんと二人のように20年もその先も過ごしていきたい。

 門男さんはわたしが選んだ干支の本をじっくり見ている。するとさくらさんに呼ばれたのでそこに行く。

「梛さん、その髪の毛……ウイッグよね」
 !!! そうである。わたしは一回、常田くんの嫉妬を抑えるために男に戻って仕事に来た時があったのだ。なぜか来たモテ期でね、常田くんが心配するからバッサリショートにしてノーメイクで。でもやっぱり無理だと思っていつもどおり女の子として戻ったけど。仕事の時はボブのウイッグをつけている。

 その時にさくらさんも図書館に来ていたのだ。だから彼女はわたしが男だとその時知ったのだ。あの時以来だったから……ねぇ。

「今まで全く気づかなかったわ……でも元が美男子だから女装もすごく似合ってて……私は別になんとも思わないけどそういう生き方っていうのもありかなって」
 美男子だなんて初めて言われたけどさ。そういう生き方、かぁ。さくらさんはわたしのことを女装家としてか、女の子としてか……どう見てるんだろう。

「あとね、うちの主人。梛さんのことが好きで通いに来てたのよー」
 !! また無駄にモテ期ー。
「なんかやたらと図書館に通うから女がいるのかと思ったら……あなた目当てだってこないだ言ってたのよ」
 門男さん、その辺は黙っておこうよ。さくらさんの方が優勢なんだな、この夫婦。

「でも私はあなたが男とわかってからほっとしてるわ。ちなみにこのことは主人は知らないからねっ、ふふっ」
 と、さくらさんは門男さんのもとへ。

 ……仲良さそうに絵本を見ている。女の嫉妬は怖い。



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