シノノメナギの恋わずらい

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
15 / 79
シノノメナギの妄想

第13話 樹洞

しおりを挟む
「よりによってここですか」
「いいでしょ。デートしたくないの?」
「したいっす、寺イイっすね!」
 イイっすね! の顔をしてない常田くん。わたしは仙台さんと話していたあのお寺に向かって急な坂道を下っている。険しい道だけどいろんな植物も生息していて。夕方近くもあり、人なんていない。

 仙台さんとの下見デートの下見よ。常田くんとのデートじゃなくてあくまでも。

 若いくせして下り道に足をプルプルさせてて。わたしはいつも出勤はズボンにスニーカーって決めてるし。
 これはちょっと小学生には向かないわね……薄暗いし。そしてデートにも、向かない。

 わたしたちはなんとかして寺まで降りていった。少し人がいるけど年配の人たちしかいない。

 広い境内、池にさらにかかる大きな橋、大きなお寺、紅葉した木々たち。真ん中には大きなイチョウの木。下にはいっぱいイチョウの葉が落ちていて黄色の絨毯になってる。

「綺麗……」
「そやな。この季節に来たの初めてや」
 わたしはイチョウの葉を一枚拾った。……しおりにぴったり。もちろんラミネート加工してだけど。図書館と同じ施設内にラミネートができる機械が置いてあるのよね。職場のはあえて使わない。

 わたしは数枚拾ってティッシュにくるんで鞄にしまった。作ったら仙台さんにあげるの。

「それなににするん?」
「ちょっとね」
「可愛い趣味あるんやな」
「まぁね」
 常田くんには理解できないかな。あげるわけない。

「綺麗や……」
 さっきまでチャラかった彼がこの風景を見て立ち止まり魅了されてる。あなたもこんな景色を愛でることができるのね。

 するとスマホを取り出して撮影している。さすが若い。これは確かに映える。ってことはSNSやってるのか? バシャバシャ撮りすぎ、常田くん。自分は映らないの?

「一緒に撮りましょ」
「いや、わたしはいい……」
「ええやん。減るもんじゃないし」
 って常田くんは私の肩に手をやって顔を近づけて……そう長くもない腕を伸ばして自撮り。私は顔を背ける。
「笑って」
「……」
「カメラ見て」
 画面にはイチョウの木(の幹)と犬歯剥き出しの常田くんの笑顔と上目遣いのわたし。まともな写真じゃない。

「はいチーズ」
 何枚か連写。

「可愛いカッコしてるんだから梛さん、ここ立って。スマホで撮ってあげます」
 ……確かに今日の着ているアウターはネネのお店の新作のダスティピンクのレザージャケットにトップスもそれに合わせてネネにコーディネートしてもらったタートルネック。ジーパンのボトムにも合う。可愛いって言ってもらえてうれしい。


「そろそろあたりも暗くなったし帰ろか」
「そうね」
 わたしたちは顔を見合わせた。言いたいことはわかってる。

「行きは下ったけど」
「帰りは上らなかん」


 前来た時は20代後半だったし、その時よりもきつい。常田くんも最初は余裕余裕とか言いながらも中盤で何度か足を止める。わたしよりも若いくせに!
 すごく息が切れる。メイク崩れてないかしら。

 いったん休憩。わたしが手をついたところは大きな木。その木は穴が開いていた。

 仙台さんと一緒に見たあの本にも載っていた。裏側には樹洞もある。奥まで見えない。何か落としたら取れなさそうだし、自分から落ちたらどこかに繋がってて戻って来れなさそうだ。
「そこに落ちたらどこにいっちゃうんやろな」
「……どこ行くと思う?」
「世界の裏側」
 疲れてても笑って冗談言えるのね。するとすっと手を差し出された。

「一緒に入る?」
 はっ? なに言ってんのよ……。わたしをじっと見てる。すごく真剣な顔している。さっきまで笑ってたのに。それに薄化粧のわたしの顔をそんなにみないで。顔を逸らしたかったけどその真剣な眼差しに惚れた。
 何でそう思ってしまうの……。彼の手がじわじわ温かくなる。わたしが妄想してドキドキしたネタが伝わってしまったのかな。

「なんてな。さぁ休憩は終わり。上まで登るで!」
「う、うん」
 少しは余韻持たせてよ。いつも以上にドキドキしてかなり息切れした。歳かしら、それとも恋……。

 わたしたちが参道の入り口に戻ったときには周りは薄暗くなっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

処理中です...