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シノノメナギの妄想

第5話 チェス

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 今日は施設のイベントスペースにてボードゲーム展。いろんな部屋でさまざまなボードゲームを楽しめるという施設全体で行われているイベント。
 

 私たち図書館でもボードゲームの歴史の本や題材にした小説などの本の展示をしている。そして手にとってくれると嬉しいものである。

「梛さん、休憩1時からでしょ? ご飯終わったら展示見に行きましょうよ」
 そこに部下の常田くんが来た。
「んまぁ、いいけど。わたしも見たかったし」
「ほんまかー、めっちゃうれしいわぁー」
 たまに出る常田くんの関西弁が可愛い。笑う時の犬歯も。関西出身。本当は関西の図書館で働きたかったらしいけど採用がなくてこっちの親戚の紹介で来たらしい。点字司書という重要な役割で、見た目とは裏腹に仕事はしっかりするけど喋る言葉はちゃらい。
 普段の業務では共通語を使っているがリラックスすると出てしまうんだろう。

 いかん、年下に可愛いという感情は抱きたくない……。食べ終わった後に歯を磨き、残りの時間で常田くんとイベント会場に。


 少しだけわたしより背の高い常田くんだが猫背。一応図書館のスタッフということでタグを下げて見に行くことに。こういうところは細かい。

 いろんなボードゲームがあるわけで。日曜ともあって親子連れもいる。
 ボードゲーム店のスタッフやボランティアの人たちが解説しながらプレイをする。

 それぞれのスペースとは違って全く人が入らないコーナーがあった。

「チェスなんて高貴な人がやるゲームやからなぁー。できます?」
「できない」
「将棋だったらわかるんですけどねぇー……」
「へー、将棋はやるんだ」
「はい、じいちゃんが教えてくれたから」
 ニヒヒっと笑う常田くん。ああああー可愛いっ。

 でも将棋が得意ってことはある程度頭がいいのかもしれない。普段関西弁とチャラ語で、ヘラヘラしてるけどたしかに色々と手際もいい、検索しなくてもあれはこーでとすすすっと行動する。
 若さもあるのか、って常田くんは30歳である。私より五歳下。五歳下でも抵抗あるのよね。でも妄想するのは自由である。

 ん、チェスコーナーに見覚えのある人……。
「梛さん、あれってシソンヌの」
「こら、声でかい」
 常田くんっ! 彼もそう思ってたのか。……そう、あのエセメガネのじろーである。(エセメガネとわかってから「エセメガネのじろー」と呼ぶようになった)
 へー、彼はチェスをするのか。エセメガネも意外と頭が切れる人だなぁ。

 じろーは私たちを見て気付いたのか会釈する。彼はどうやらプレーをしにきた客の1人であり、スタッフと2人でチェスをしていた。
 スタッフが私たちに気付いて立ち上がり
「あっ、チケットお持ちですか? あー図書館の人か。よかったら教えますんでやりませんか?」
「僕もよかったら教えますんで」
 じろーにも教えてもらえるの? それはそれで嬉しいけど。

 私は常田くんの方を見る。彼も私を見る。目は笑ってるけど目の動きからして困っている。

「うーん、またちがうところ見に行くので……お二人楽しんでくださいー」
 と私はそう言って常田君とその場を去った。チェス……じろーと……心がもたない。もしかしたら近づけたかもしれないのになぁ。

 それによく見たら休憩まで後5分! 
「そろそろ終わりにしましょうか。梛さん、デート楽しかったです」
 ……デートじゃないし。でも彼からは数年前からデートに誘われていたがかわしていた。しまった、これが彼との初デート。
 そうだったらもっと洒落たところ行くわよ……。

「でも今度はディナーデートしましょうね」
 と耳元で囁かれた。

 耳元っ!

「へへへ!」
  いや、今のやられたら恋に落ちるパターン! と先に職場に戻って行った。

 でも彼には彼女がいる。……遊ばれてるのかな。本気なのかな。わかんないや。誘われないよりかはマシか。

 チェスのコーナーではまだじろーがチェスに興じてた。目があった。会釈された。



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