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第三話
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お父さんの家は、道場の近くにある高層マンションの一室だったんだ。
入ってみると、とても綺麗で広々とした空間が広がっていて、驚いてしまった。
「こんないいところに住んでいるんだ……」と思わず呟いてしまった。
玄関に上がるとうちよりもやっぱり広い。誰かいるのかな……。
すぐそばの洗面所で手を洗うように言われてそこも広くて大きなコンランドリー見たいな洗濯機があった。
次に入った部屋はお父さんの部屋らしい。ソファーはあるけどベッドはない。
部屋の中には、書籍が整然と並べられていた。高校の先生で国語を教えているって言ってたし、読書が好きだって言ってたから。
あ、僕が好きな剣道の漫画も置いてある。元々知っていたのかな。
この部屋で、お父さんがどれだけの時間を過ごしてきたのかなぁ。
「あんまし人の部屋を許可なしでジロジロ見るもんじゃないぞ」
「うん……本が多いなぁて」
「あぁ。本は読め。もし気になるのあったら貸してもいいぞ」
「……あまり文字ばかりも嫌だ」
「漫画は好きだろ、無理して最初から活字ばかりも読まなくてもいいけどこれなら読めるだろ」
とお父さんが渡してくれた本は有名な児童文学書らしいけど読む気はない。漫画の方がいいもん。
「とりあえず貸す」
と渡されたから受け取るしかなかった。
ふと頭をよぎったのは、もしママがお父さんとよりを戻したら、僕もここに住むことができるのかな、という想いだった。
ただ、それはなんちゃってのことで、現実的にはありえないんだろうなと思っていた。
ぐううう
僕のお腹がなってしまった。恥ずかしい。
「お腹すいたか、もうご飯は用意してあるから」
ドアを開けるといい匂いがした。あっちの部屋からかな。お父さんの後についていった。
お父さんの家は、僕にとっては新鮮な環境だったけれど、そこにはまだ知らない人がいた。
背の高い男性で、エプロンをつけているようだった。
そこには……。
「おかえりなさい。あっ、この子がミモリくん? こんにちは」
背の高い男の人がいた。
「こんにちは」
「シャワーに行く。ミモリは?」
「ううん、いいや」
それよりもこの男の人は……? 僕はじっと見ていた。
「彼は僕のパートナーだ」
とお父さんが教えてくれた。パートナーとは、結婚相手のことなんだって。
結婚相手? 男の人……パパと同じ性別だよね?
「じゃあミモリくん、さきにごはんたべましょ、私と」
とその男の人が言って、居間に通してくれた。そこにはおいしそうなチャーハンや卵スープ、鶏ハム、サラダが用意されていた。
「私はリヒトっていうの。リヒトさん、でいいからね」
「は、はい……リヒトさん」
「はぁい、ミナトくん」
優しく微笑むその彼、リヒトさん。男性でもこんなに綺麗な人がいるんだ。
彼の作った料理は、とても美味しそうで香りも豊かだった。思わず舌鼓を打ちながら、お腹いっぱいになった。
「ふふっ、彼に本当にそっくりー」
とリヒトさんは微笑んだ。
ただ、知らない人と二人きりで過ごすのは少し緊張する。でも、彼は親しげに話しかけてくれた。
「ねぇ?あなたのお父さんは剣道の時どんな感じ?」
と彼が尋ねてきた。
少し考え込んでから、僕は答えた。
「怖いです」
と率直に言った。
彼は微笑みながら言った。
「そうなのぉ? 普段は優しい人なのよ。そりゃあね、自分の子供ですもの。厳しくするわよ」
と言いながら、彼の言葉には暖かさが感じられた。僕のことはどう聞いているんだろう。
「普通反対じゃないの?」
と僕は疑問に思わず口にした。
彼は頷いて笑いながら言った。
「ううん、だって可愛いんだから。可愛いからこそ厳しくするよ」
と理由を説明した。
「訳わかんない」
と僕は戸惑う。
「私も訳わからないけどさ。てかね、せっかくの冬休みなのにあなたに稽古をしっかりつけたいって言って週に二回剣道場に行って、あなたのために通っているのよ?私との時間を削ってまで行ってるんだからさ、ちゃんと習いなさいよ」
と。
その言葉に、リヒトさんには申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「春の大会に向けて頑張ってるんでしょ? たくさん遠慮なく食べて食べて!」
鶏ハムをたくさんお皿に載せてくれた。ただただニコニコと笑っている。
「……こんだけ気合い入ってるのも、あなたが春に東京行くからっていうのもあるのよ。焦ってるかもしれないから熱が入ってるかもねぇ、多めに見てやって」
と彼は言った。
そうだったんだ。お父さんは僕が東京に行くことに焦っているのかもしれない。そしてリヒトさんがそれを気にかけてくれているんだ。
その時、風呂場からお父さんが出てきた。「お、チャーハンおいしそう」
と言いながら笑顔で近づいてきた。
お父さんの顔は、いつもの厳しい表情ではなく、柔らかさを湛えていた。それは、母さんが隠し持っていた写真の顔と同じ笑顔だった。そして、少し僕にも似ているってママが言っていたのもわかる。
「ミモリもたくさん食べろよ、大きくならないぞ」
とお父さんが言った。
「はい……」
と僕は小さく答えた。目の前で、お父さんとリヒトさんが仲睦まじく会話をしている光景を見て、僕はほっとした。
そうか、もうお父さんはお母さんとは一緒になれないんだという事実を受け入れる必要があるんだなと、改めて思った。
入ってみると、とても綺麗で広々とした空間が広がっていて、驚いてしまった。
「こんないいところに住んでいるんだ……」と思わず呟いてしまった。
玄関に上がるとうちよりもやっぱり広い。誰かいるのかな……。
すぐそばの洗面所で手を洗うように言われてそこも広くて大きなコンランドリー見たいな洗濯機があった。
次に入った部屋はお父さんの部屋らしい。ソファーはあるけどベッドはない。
部屋の中には、書籍が整然と並べられていた。高校の先生で国語を教えているって言ってたし、読書が好きだって言ってたから。
あ、僕が好きな剣道の漫画も置いてある。元々知っていたのかな。
この部屋で、お父さんがどれだけの時間を過ごしてきたのかなぁ。
「あんまし人の部屋を許可なしでジロジロ見るもんじゃないぞ」
「うん……本が多いなぁて」
「あぁ。本は読め。もし気になるのあったら貸してもいいぞ」
「……あまり文字ばかりも嫌だ」
「漫画は好きだろ、無理して最初から活字ばかりも読まなくてもいいけどこれなら読めるだろ」
とお父さんが渡してくれた本は有名な児童文学書らしいけど読む気はない。漫画の方がいいもん。
「とりあえず貸す」
と渡されたから受け取るしかなかった。
ふと頭をよぎったのは、もしママがお父さんとよりを戻したら、僕もここに住むことができるのかな、という想いだった。
ただ、それはなんちゃってのことで、現実的にはありえないんだろうなと思っていた。
ぐううう
僕のお腹がなってしまった。恥ずかしい。
「お腹すいたか、もうご飯は用意してあるから」
ドアを開けるといい匂いがした。あっちの部屋からかな。お父さんの後についていった。
お父さんの家は、僕にとっては新鮮な環境だったけれど、そこにはまだ知らない人がいた。
背の高い男性で、エプロンをつけているようだった。
そこには……。
「おかえりなさい。あっ、この子がミモリくん? こんにちは」
背の高い男の人がいた。
「こんにちは」
「シャワーに行く。ミモリは?」
「ううん、いいや」
それよりもこの男の人は……? 僕はじっと見ていた。
「彼は僕のパートナーだ」
とお父さんが教えてくれた。パートナーとは、結婚相手のことなんだって。
結婚相手? 男の人……パパと同じ性別だよね?
「じゃあミモリくん、さきにごはんたべましょ、私と」
とその男の人が言って、居間に通してくれた。そこにはおいしそうなチャーハンや卵スープ、鶏ハム、サラダが用意されていた。
「私はリヒトっていうの。リヒトさん、でいいからね」
「は、はい……リヒトさん」
「はぁい、ミナトくん」
優しく微笑むその彼、リヒトさん。男性でもこんなに綺麗な人がいるんだ。
彼の作った料理は、とても美味しそうで香りも豊かだった。思わず舌鼓を打ちながら、お腹いっぱいになった。
「ふふっ、彼に本当にそっくりー」
とリヒトさんは微笑んだ。
ただ、知らない人と二人きりで過ごすのは少し緊張する。でも、彼は親しげに話しかけてくれた。
「ねぇ?あなたのお父さんは剣道の時どんな感じ?」
と彼が尋ねてきた。
少し考え込んでから、僕は答えた。
「怖いです」
と率直に言った。
彼は微笑みながら言った。
「そうなのぉ? 普段は優しい人なのよ。そりゃあね、自分の子供ですもの。厳しくするわよ」
と言いながら、彼の言葉には暖かさが感じられた。僕のことはどう聞いているんだろう。
「普通反対じゃないの?」
と僕は疑問に思わず口にした。
彼は頷いて笑いながら言った。
「ううん、だって可愛いんだから。可愛いからこそ厳しくするよ」
と理由を説明した。
「訳わかんない」
と僕は戸惑う。
「私も訳わからないけどさ。てかね、せっかくの冬休みなのにあなたに稽古をしっかりつけたいって言って週に二回剣道場に行って、あなたのために通っているのよ?私との時間を削ってまで行ってるんだからさ、ちゃんと習いなさいよ」
と。
その言葉に、リヒトさんには申し訳ない気持ちが湧いてきた。
「春の大会に向けて頑張ってるんでしょ? たくさん遠慮なく食べて食べて!」
鶏ハムをたくさんお皿に載せてくれた。ただただニコニコと笑っている。
「……こんだけ気合い入ってるのも、あなたが春に東京行くからっていうのもあるのよ。焦ってるかもしれないから熱が入ってるかもねぇ、多めに見てやって」
と彼は言った。
そうだったんだ。お父さんは僕が東京に行くことに焦っているのかもしれない。そしてリヒトさんがそれを気にかけてくれているんだ。
その時、風呂場からお父さんが出てきた。「お、チャーハンおいしそう」
と言いながら笑顔で近づいてきた。
お父さんの顔は、いつもの厳しい表情ではなく、柔らかさを湛えていた。それは、母さんが隠し持っていた写真の顔と同じ笑顔だった。そして、少し僕にも似ているってママが言っていたのもわかる。
「ミモリもたくさん食べろよ、大きくならないぞ」
とお父さんが言った。
「はい……」
と僕は小さく答えた。目の前で、お父さんとリヒトさんが仲睦まじく会話をしている光景を見て、僕はほっとした。
そうか、もうお父さんはお母さんとは一緒になれないんだという事実を受け入れる必要があるんだなと、改めて思った。
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