僕とお父さん

麻木香豆

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第二話

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 お父さんは毎週土曜日の朝に、剣道の稽古に連れて行ってくれるんだ。朝早くから掃除も厳しくて、ずっと怒ってる。

 稽古では、竹刀の握り方から姿勢、声の出し方、細かいことまでめっちゃ厳しく教えてくれるんだ。泣いちゃうとさらに怒るから、涙が出ても必死で我慢してた。

 僕はお父さんの子供なのに、なんでそんなに厳しいんだろうって。

 でもこないだの稽古の朝、道場の友達に
「ミモリくん、前より姿勢が良くなったし声も大きくなったね」
 と褒められたんだ。なんでみんなは褒めてくれるのに……。

 お父さんが厳しく指導してるところを、周りの友達が見ているんだ。それを見て
「ミモリくん、頑張ってるね!」
 って声をかけてくれるんだよ。そんな時、僕はもっと頑張ろうって気持ちになるんだ。周りの仲間たちが僕の成長を応援してくれてるんだなって思えるから、辛いけど頑張れるんだ。

 お父さんの厳しさに疑問を感じることもあるけど、おそらく僕の成長を期待して厳しくしてくれてるんだと思うんだ。だから、褒めてくれる友達の言葉を思い出して、もっと頑張ってみよう。

「ほら、気が抜けてる!」
 ああ、やっぱりダメだ。


 家に帰ってソファーに座っていたらママが横に来てくれた。
 痛めた左手に優しく湿布を貼り直してくれた。

「ミモリ、なんか浮かない顔ね」
「そんなことないよ」
 ママもきっとお父さんがあんな人だから一緒にいたくなかったのかな? だなんて聞けない。
「怪我はこれ以上しないように気をつけなきゃね」
「うん……」
「大きい子達が多いからしょうがないかもしれないけどさ」
 これ以上ママには心配かけたくないなぁ。でもやるって言ったからには頑張る。




 冬休みに入るとお父さんは週に二回稽古に来てくれるようになったんだ。でもそれによって憂鬱な曜日が増えた。まさか自分が言い出したことだから今更撤回するわけにもいかないけど、ちょっと心が重たくなるんだ。

 剣道を始めて初めての冬は、寒さも厳しくて傷も増えて、朝の稽古は本当に辛かった。手は赤くなって痛くて、休憩中に座ってその手をじっと眺めることが多かった。
 痛くて痒くて。薬もママと病院に行って塗薬もらったけどあまり効かない。前からできていた手のマメと共にボロボロになってしまった。
 学校にいる時も痛い。鉛筆はなんとか握れるからいいけども……物を持ったり体育の授業の時にすごく痛い。

「手が真っ赤だな」
「霜焼け」
「僕もできてるけどこれは酷すぎる」
 すると、お父さんが大きくてゴツゴツした手で、僕の手を覆ってくれたんだ。
 体は小さいけど手は大きい、って思ってはいたけど。

 あったかい……。その温かさに少し安心した気持ちになった。
「病院には行ってるんだよ」
「病院は薬もらうだけだろ」
「そうだけどさぁ」
「お風呂で熱いお湯と冷たい水、交互に入れるんだ。しもやけがあると力が出ないだろう。たく、美帆子さんはこれに気づかなかったのかよ」
 とお父さんが教えてくれた。ママのことは悪く言わないでよ。ママも病院あちこち調べていたの知っているし。

「先生、こっちきてください」
「はぁい。じゃああとでな」
 とお父さんは行ってしまった。残った温もり……。
 もっとその手で握りしめていて欲しかったな。その温もりが心地よくて、頼もしさを感じるから。

 手が痛くても頑張るよ。お父さんが厳しい稽古をしてくれる理由や、励ましの言葉には深い意味があると思うから……上級生のお兄さんたちに言われた。
 冬の厳しさを乗り越えて、ますます成長した自分になるんだ。もっと強くなれるように頑張ろう。

 時折剣道するきっかけになった漫画を読み返した。漫画の主人公みたいに困難を乗り越えて少しずつ成長し……ってそううまくいかないよね。

 昼まで稽古が続き、やっぱり手が痛いなぁと思いながらも素振りを再開していた。お腹も空いてきた。


 そしてお昼になると、お父さんが僕のところにやってきたんだ。

「ミモリ、よかったらお昼、うちに来るか?」とお父さんが優しく尋ねたんだ。

「えっ?」
と僕は驚いて答えた。

「いやか?」
とお父さんが聞いてくる。

「ううん、ぜんぜん」
と僕は素直に答えた。

「……ならついてこい」
とお父さんが言って、手招きしたんだ。

 お父さんの家に行くなんて、なんだかドキドキが止まらなくなったんだ。

 歩きながら、お父さんの家でどんな風に過ごすのか、想像するだけでワクワクとドキドキが。
お昼ご飯を一緒に食べることや、お父さんの家族と触れ合うこと、剣道の話題で盛り上がること。そんなことを考えるだけで、胸が高鳴ってきた。今までそんなことなかったのに。

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