雨嫌いな私が雨を好きになるまで

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
10 / 17

第九話

しおりを挟む
 トイレに行き、その後も彼は待っていた。
「もうあの部屋まではいけるわよ……」
「心配なんです」
 なんか最初からこう優しくくるのは私は警戒している。なぜなら前の夫の綾人も優しかった。だから付き合って結婚してから一変した時にはあの優しさはどこに置いていったのか恐ろしくなった。

「さっき大将に行ったらもう上がっていいって言われたので……送らせてください」
 と頭を深々と下げられた。

 そんなことされても……

 私は彼の首から下げているタオルで彼の髪の毛を拭いてやった。
「あなただってまだ濡れている……風邪ひくわ」
「ありがとう、優しい人だ。あなただってまだ完全に乾ききってない」
 と反対にタオルを持った彼が私の髪の毛にタオルをあててくれた。そんな優しくしないでほしい、お願い、やめて……。私って優しくされたら……。

「はいはい、じゃあ車を出しておきます。小雨になったし。待っててくださいね」
 ……。

「大丈夫、タクシー呼んで」
「……」
 悲しい顔をしたつづはらさん。でも笑顔にまた戻って頷いてれた。

「わかった。呼ぶよ……」
「ありがとう」
「いいえ」
 しまった。送って貰うのが正解だったのかな。わからない。
 にしてもこんな出会い方、最悪だ。店内で大声で叫んで大雨の中泣き喚いて倒れて。
「今日はゆっくり休んで」
「本当にありがとう、ございました……」

 あぁ、この優しさは本物だろうか。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

アデンの黒狼 初霜艦隊航海録1

七日町 糸
キャラ文芸
あの忌まわしい大戦争から遥かな時が過ぎ去ったころ・・・・・・・・・ 世界中では、かつての大戦に加わった軍艦たちを「歴史遺産」として動態復元、復元建造することが盛んになりつつあった。 そして、その艦を用いた海賊の活動も活発になっていくのである。 そんな中、「世界最強」との呼び声も高い提督がいた。 「アドミラル・トーゴーの生まれ変わり」とも言われたその女性提督の名は初霜実。 彼女はいつしか大きな敵に立ち向かうことになるのだった。 アルファポリスには初めて投降する作品です。 更新頻度は遅いですが、宜しくお願い致します。 Twitter等でつぶやく際の推奨ハッシュタグは「#初霜艦隊航海録」です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

CODE:HEXA

青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。 AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。 孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。 ※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。 ※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

恋の味ってどんなの?

麻木香豆
ライト文芸
百田藍里は転校先で幼馴染の清太郎と再会したのだがタイミングが悪かった。 なぜなら母親が連れてきた恋人で料理上手で面倒見良い、時雨に恋をしたからだ。 そっけないけど彼女を見守る清太郎と優しくて面倒見の良いけど母の恋人である時雨の間で揺れ動く藍里。 時雨や、清太郎もそれぞれ何か悩みがあるようで? しかし彼女は両親の面前DVにより心の傷を負っていた。 そんな彼女はどちらに頼ればいいのか揺れ動く。

一人じゃないぼく達

あおい夜
キャラ文芸
ぼくの父親は黒い羽根が生えている烏天狗だ。 ぼくの父親は寂しがりやでとっても優しくてとっても美人な可愛い人?妖怪?神様?だ。 大きな山とその周辺がぼくの父親の縄張りで神様として崇められている。 父親の近くには誰も居ない。 参拝に来る人は居るが、他のモノは誰も居ない。 父親には家族の様に親しい者達も居たがある事があって、みんなを拒絶している。 ある事があって寂しがりやな父親は一人になった。 ぼくは人だったけどある事のせいで人では無くなってしまった。 ある事のせいでぼくの肉体年齢は十歳で止まってしまった。 ぼくを見る人達の目は気味の悪い化け物を見ている様にぼくを見る。 ぼくは人に拒絶されて一人ボッチだった。 ぼくがいつも通り一人で居るとその日、少し遠くの方まで散歩していた父親がぼくを見つけた。 その日、寂しがりやな父親が一人ボッチのぼくを拐っていってくれた。 ぼくはもう一人じゃない。 寂しがりやな父親にもぼくが居る。 ぼくは一人ボッチのぼくを家族にしてくれて温もりをくれた父親に恩返しする為、父親の家族みたいな者達と父親の仲を戻してあげようと思うんだ。 アヤカシ達の力や解釈はオリジナルですのでご了承下さい。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

処理中です...