雨嫌いな私が雨を好きになるまで

麻木香豆

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第六話

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 案の定、ダメだった。

 初日から散々だった。

 場所が違うだけでこんなにも違うのか。事務所の雰囲気とか個室とか。


 綺麗すぎる。

 スタッフもほぼ女性で男性は若い。

 良い環境すぎて反対に効果出ない、そんなこともあるのか。

 神奈川の事務長がスタッフに声をかける時もセクハラまがいの発言をしたが完璧にスルーされ、スキンシップだと触ろうとすると男性社員がすかさず間に入る。

 照明も常に明るく女の子たちのトーンの高い声、笑い声が絶えない。

 事務長も自分がいつもしているようなことが出来ず借りてきた猫のようである。

 約束通りおいしいところに連れて行ってもらうことにした。2人きり、というのは嫌だったが。

 相変わらずずっと雨。頭が痛いし気持ち悪いし。だから断りたかった。明日からは夜も働く。夜が1番稼ぎ時。だけどこんな時限って生理。一週間の出張のうち半分無駄にした感じだ。

 本当は一週間泊まるスタッフ用の部屋のベッドにうずくまりたかった。

 でも他のスタッフにお店の名前を言ったらお薦めですよ、と言われた高級料亭……滅多に食べられない、そんなところ。娘を人の家に置いて食べるだなんてあれだけど。
 事務所の近くらしくって持ち帰りもできるらしいから事務長をおだてて娘やママ友たちのお土産を持って帰ろう、最終日には。


 傘をさす。傘をさしても意味がないバケツをひっくり返したような雨。憂鬱だ。こんな萎れたおっさんな事務長よりも愛知支店にいた若い男の子がいい、って……そうよね。みんな若い人がいい。客もそうだ。

 今まで年上と付き合ってたけど私が若くてそれの年上だからそこまでおじさんとは思わなかったけど自分の歳が上がるにつれて自分より年上ってなんかなぁとか思ってるし。

 ダメだ、ネガティヴになってる。その繰り返し。

「百田さん」
「は、はい……」
 ほら事務長そっちのけでネガティヴになってた。また。

「天気悪いとパフォーマンス下がるよね、百田さんは。お薬飲んでる?」
「はい……」
「病院は通院できてるかな」
「ええ、なんとか」
 とか言いながら嘘。三週間に一回が一ヶ月に一回、二ヶ月に一回。
 病院に行くのは億劫。心療内科。
 毎日飲む薬も飲み忘れて三週間分を二ヶ月でも余らせる。
 シングルマザーともあって医療費は無料なのだが愛知に移った時にいい病院が見つかるのだろうか。今の先生とはとにかく気が合わない。

 私がここまで心が壊れてしまったのも夫のせいだ。夫から逃げて離婚してもなお夫の言動がメンタルを揺さぶる。

 特に雨だ。

 雨。

 雨は自分がさらにおかしくなる。

「ぼーっとしてると危ないよ。あとすこししたらお店だから」

 ぼんやり提灯が灯っている。

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