5 / 17
第四話
しおりを挟む
「えっ、愛知……」
「うん。三ヶ月後にはここ退去して愛知の支社のオーナーの住むマンションに入れてもらえるらしいの」
「そうなんだ……かなり猶予もらったね」
娘は本当に穏やかに、でも少しわがままに育った気もする。でも酷いわがままは言わない。反対に私のわがままでここまでついてきてくれた、申し訳ないくらいだ。
「あんたの高校のこともあって猶予もらえたのよ」
「高校は愛知の……?」
「今編入できるところを探してて一校だけ返事待ち。あまりシングルで途中からとかなるとさ、なかなか見つからないのよ」
もちろん娘には私の仕事はいってない。他の仕事だってあるだろうが、今の仕事をしてからは割が合わない。
「私、高校辞めて仕事してもいいんだよ。バイトももっといいとこ探して……」
「ダメよ、今学校辞めたら。せめて大学は出てほしいからママは一生懸命働いているの」
「……」
「なんかオーナーさんがいうには一階にファミレスがあるからそこでバイトもできるみたいよ」
「……うん、そこならいいかもね」
「今返事待ちしてる高校にも近いから。できれば二年生になってすぐがいいんだけどね……」
「いいよ、いい。無理しなくていいよ」
と、その時。
外は雨が降っていた。
なんか朝から頭が痛いし、眩暈もする。生理も近いしそれなのか、と思ってたけど雨のせいでもあったのか。
私は体が震えた。
「雨……」
カーテンを握る私の手は震えてる。藍里は気づいたら部屋に入ってた。この寮も5年近く住んでいて二部屋風呂トイレ付きだなんて贅沢なところに住んでいたんだなぁと。
愛知……住んでいた岐阜からは少し遠いが行けなくはない。あの家はもう売り払ったらしい。綾人から聞いた。
それを養育費に充てると毎月支払われている。我慢して彼と暮らしていたときよりも今は少し余裕はあるがまだ足りない。
ああダメだ、ネガティヴな感情はダメなのに……ポジティブでいなきゃ。
雨は強くなる。私は息が荒くなる。
もっと強くなる雨。
「……雨っ、あめっ、あめっ……あああああああっ」
居間の机を蹴り上げ壁にぶつかった。ああ、壁紙が破れてる。
……ああ……出る時にチェックされてしまう。どうしよう。わたしは壁紙を擦る。
他のところにもいくつか凹んだ跡や破れた備え付けのカーテンとか。
雨が降ると私は情緒が乱れる。
気づくと叫び泣き、酷い時は物に八つ当たりする。
その日はもう仕事に出られない。
生理と被ったらなおさらだ。
ああ、雨が嫌い。
「うん。三ヶ月後にはここ退去して愛知の支社のオーナーの住むマンションに入れてもらえるらしいの」
「そうなんだ……かなり猶予もらったね」
娘は本当に穏やかに、でも少しわがままに育った気もする。でも酷いわがままは言わない。反対に私のわがままでここまでついてきてくれた、申し訳ないくらいだ。
「あんたの高校のこともあって猶予もらえたのよ」
「高校は愛知の……?」
「今編入できるところを探してて一校だけ返事待ち。あまりシングルで途中からとかなるとさ、なかなか見つからないのよ」
もちろん娘には私の仕事はいってない。他の仕事だってあるだろうが、今の仕事をしてからは割が合わない。
「私、高校辞めて仕事してもいいんだよ。バイトももっといいとこ探して……」
「ダメよ、今学校辞めたら。せめて大学は出てほしいからママは一生懸命働いているの」
「……」
「なんかオーナーさんがいうには一階にファミレスがあるからそこでバイトもできるみたいよ」
「……うん、そこならいいかもね」
「今返事待ちしてる高校にも近いから。できれば二年生になってすぐがいいんだけどね……」
「いいよ、いい。無理しなくていいよ」
と、その時。
外は雨が降っていた。
なんか朝から頭が痛いし、眩暈もする。生理も近いしそれなのか、と思ってたけど雨のせいでもあったのか。
私は体が震えた。
「雨……」
カーテンを握る私の手は震えてる。藍里は気づいたら部屋に入ってた。この寮も5年近く住んでいて二部屋風呂トイレ付きだなんて贅沢なところに住んでいたんだなぁと。
愛知……住んでいた岐阜からは少し遠いが行けなくはない。あの家はもう売り払ったらしい。綾人から聞いた。
それを養育費に充てると毎月支払われている。我慢して彼と暮らしていたときよりも今は少し余裕はあるがまだ足りない。
ああダメだ、ネガティヴな感情はダメなのに……ポジティブでいなきゃ。
雨は強くなる。私は息が荒くなる。
もっと強くなる雨。
「……雨っ、あめっ、あめっ……あああああああっ」
居間の机を蹴り上げ壁にぶつかった。ああ、壁紙が破れてる。
……ああ……出る時にチェックされてしまう。どうしよう。わたしは壁紙を擦る。
他のところにもいくつか凹んだ跡や破れた備え付けのカーテンとか。
雨が降ると私は情緒が乱れる。
気づくと叫び泣き、酷い時は物に八つ当たりする。
その日はもう仕事に出られない。
生理と被ったらなおさらだ。
ああ、雨が嫌い。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
少年、その愛 〜愛する男に斬られるのもまた甘美か?〜
西浦夕緋
キャラ文芸
【和風BL】15歳の少年篤弘はある日、夏朗と名乗る17歳の少年と出会う。
彼は篤弘の初恋の少女が入信を望み続けた宗教団体・李凰国(りおうこく)の男だった。
亡くなった少女の想いを受け継ぎ篤弘は李凰国に入信するが、そこは想像を絶する世界である。
罪人の公開処刑、抗争する新興宗教団体に属する少女の殺害、
そして十数年前に親元から拉致され李凰国に迎え入れられた少年少女達の運命。
「愛する男に斬られるのもまた甘美か?」
李凰国に正義は存在しない。それでも彼は李凰国を愛した。
「おまえの愛の中に散りゆくことができるのを嬉しく思う。」
李凰国に生きる少年少女達の魂、信念、孤独、そして愛を描く。

職業、種付けおじさん
gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。
誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。
だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。
人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。
明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。
※小説家になろう、カクヨムでも連載中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
バリキャリオトメとボロボロの座敷わらし
春日あざみ
キャラ文芸
山奥の旅館「三枝荘」の皐月の間には、願いを叶える座敷わらし、ハルキがいた。
しかし彼は、あとひとつ願いを叶えれば消える運命にあった。最後の皐月の間の客は、若手起業家の横小路悦子。
悦子は三枝荘に「自分を心から愛してくれる結婚相手」を望んでやってきていた。しかしハルキが身を犠牲にして願いを叶えることを知り、願いを断念する。個性的な彼女に惹かれたハルキは、力を使わずに結婚相手探しを手伝うことを条件に、悦子の家に転がり込む。
ハルキは街で出会ったあやかし仲間の力を借り、悦子の婚活を手伝いつつも、悦子の気を引こうと奮闘する。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる