93 / 99
追いかけてはいけない
第六話
しおりを挟む
喫茶店に戻るともう閉店しているが奥の席に背を向けた席に座っている男の後ろ姿があった。宮野警部だ。
コウと由貴はその後ろに座る。宮野警部とは背を合わせる形だ。
「毎回言うかただの1人の客の独り言と思ってくれ」
「大丈夫っすよ、ほかの客もいないし」
「念の為だ。あんたらがよこしたキーワードでその事件の記録を見たら不正な箇所が」
「ほぉ」
「監査カメラの記録の一部が削除されていたこと。女性は当時坂を登っていたがその様子があってその数秒不自然に消されてすぐ事故が起きて五分後の映像になっていた」
「……その5分の間になにが……」
「当時の担当の刑事に当たったら吐いたよ」
カラン、と宮野警部はアイスコーヒーの氷を鳴らした。
「上から言われてその五分を消したと」
「あら、素直に吐いたのですね」
「まぁ……不正は許せませんからその刑事の他の弱みもちらつかせて」
「宮野警部、さすがです」
宮野警部は鼻で笑った。
そしてこう話した。
「記録は残ってないが彼の記憶ではその五分間の映像には……女性が飛び出たのは自分からではなくて……坂から降りてきたおしゃべりに夢中な高校生の集団にぶつかってバランスを崩して車道に出たものであった」
「高校生には故意は無いがそれをきっかけに事故が起きてしまったわけで。驚いて逃げて行く姿もあったそうだ。でも不正をした刑事の記憶によるもの、残念だが誰なのかわからない……」
「うわ……ある意味轢き逃げってか上から消させたって……」
「その刑事が言うには上から、とのことで……多分ぶつかった女子高校生の身内に警察に近いものがいたかもしれない。そしてこの事件の担当する上層部の名前も抜けていた」
「これは相当ひどい」
「そして刑事が言うにはもう一つ……」
コウは言う前からわかっていた。
「着ぐるみ窃盗事件は捏造だ」
「やはり……有名な作家がデザインした着ぐるみの盗難をでっち上げてそちらの記事を大きくした。女性が死んだ記事は小さくなった」
「酷い」
由貴は絶句した。
「……すまんがこれ以上は」
「いえ、結構です。ありがとうございます」
宮野警部は立ち上がった。
「あと一つ、白い綿……俺はそんなの信じないけども。被害者の死亡解剖の記録は残っててな……右手に何か強く握られていたらしく開いたらぬいぐるみの腕か足の部分が握られていた」
「ぬいぐるみ……の綿……てことか」
「市販されているぬいぐるみのものだと遺族や女性の友人達は特定できたが……大量生産されているものであった」
「てか警察じゃなくて遺族が、か」
「でも被害者の女子大生は日頃から心穏やかで争いの嫌いな人で……弁護士の夢を目指して前途洋々、周りからも慕われていた。これ以上残ったものがことをあらだてて足掻いていては天国にいる彼女が可哀想だと遺族達は身を引いたそうだ」
「……なんてことを!」
「警察もそれ以上動けないと判断した。いやもう動くなと。これで以上だ」
と宮野警部は喫茶店を去った。
コウと由貴はその後ろに座る。宮野警部とは背を合わせる形だ。
「毎回言うかただの1人の客の独り言と思ってくれ」
「大丈夫っすよ、ほかの客もいないし」
「念の為だ。あんたらがよこしたキーワードでその事件の記録を見たら不正な箇所が」
「ほぉ」
「監査カメラの記録の一部が削除されていたこと。女性は当時坂を登っていたがその様子があってその数秒不自然に消されてすぐ事故が起きて五分後の映像になっていた」
「……その5分の間になにが……」
「当時の担当の刑事に当たったら吐いたよ」
カラン、と宮野警部はアイスコーヒーの氷を鳴らした。
「上から言われてその五分を消したと」
「あら、素直に吐いたのですね」
「まぁ……不正は許せませんからその刑事の他の弱みもちらつかせて」
「宮野警部、さすがです」
宮野警部は鼻で笑った。
そしてこう話した。
「記録は残ってないが彼の記憶ではその五分間の映像には……女性が飛び出たのは自分からではなくて……坂から降りてきたおしゃべりに夢中な高校生の集団にぶつかってバランスを崩して車道に出たものであった」
「高校生には故意は無いがそれをきっかけに事故が起きてしまったわけで。驚いて逃げて行く姿もあったそうだ。でも不正をした刑事の記憶によるもの、残念だが誰なのかわからない……」
「うわ……ある意味轢き逃げってか上から消させたって……」
「その刑事が言うには上から、とのことで……多分ぶつかった女子高校生の身内に警察に近いものがいたかもしれない。そしてこの事件の担当する上層部の名前も抜けていた」
「これは相当ひどい」
「そして刑事が言うにはもう一つ……」
コウは言う前からわかっていた。
「着ぐるみ窃盗事件は捏造だ」
「やはり……有名な作家がデザインした着ぐるみの盗難をでっち上げてそちらの記事を大きくした。女性が死んだ記事は小さくなった」
「酷い」
由貴は絶句した。
「……すまんがこれ以上は」
「いえ、結構です。ありがとうございます」
宮野警部は立ち上がった。
「あと一つ、白い綿……俺はそんなの信じないけども。被害者の死亡解剖の記録は残っててな……右手に何か強く握られていたらしく開いたらぬいぐるみの腕か足の部分が握られていた」
「ぬいぐるみ……の綿……てことか」
「市販されているぬいぐるみのものだと遺族や女性の友人達は特定できたが……大量生産されているものであった」
「てか警察じゃなくて遺族が、か」
「でも被害者の女子大生は日頃から心穏やかで争いの嫌いな人で……弁護士の夢を目指して前途洋々、周りからも慕われていた。これ以上残ったものがことをあらだてて足掻いていては天国にいる彼女が可哀想だと遺族達は身を引いたそうだ」
「……なんてことを!」
「警察もそれ以上動けないと判断した。いやもう動くなと。これで以上だ」
と宮野警部は喫茶店を去った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
ホラー
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
小径
砂詠 飛来
ホラー
うらみつらみに横恋慕
江戸を染めるは吉原大火――
筆職人の与四郎と妻のお沙。
互いに想い合い、こんなにも近くにいるのに届かぬ心。
ふたりの選んだ運命は‥‥
江戸を舞台に吉原を巻き込んでのドタバタ珍道中!(違
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
百合カップルになれないと脱出できない部屋に閉じ込められたお話
黒巻雷鳴
ホラー
目覚めるとそこは、扉や窓の無い完全な密室だった。顔も名前も知らない五人の女性たちは、当然ながら混乱状態に陥る。
すると聞こえてきた謎の声──
『この部屋からの脱出方法はただひとつ。キミたちが恋人同士になること』
だが、この場にいるのは五人。
あふれた一人は、この部屋に残されて死ぬという。
生死を賭けた心理戦が、いま始まる。
※無断転載禁止
霊感不動産・グッドバイの無特記物件怪奇レポート
竹原 穂
ホラー
◾️あらすじ
不動産会社「グッドバイ」の新人社員である朝前夕斗(あさまえ ゆうと)は、壊滅的な営業不振のために勤めだして半年も経たないうちに辺境の遺志留(いしどめ)支店に飛ばされてしまう。
所長・里見大数(さとみ ひろかず)と二人きりの遺志留支店は、特に事件事故が起きたわけではないのに何故か借り手のつかないワケあり物件(通称:『無特記物件』)ばかり取り扱う特殊霊能支社だった!
原因を調査するのが主な業務だと聞かされるが、所長の霊感はほとんどない上に朝前は取り憑かれるだけしか能がないポンコツっぷり。
凸凹コンビならぬ凹凹コンビが挑む、あなたのお部屋で起こるかもしれないホラー!
事件なき怪奇現象の謎を暴け!!
【第三回ホラー・ミステリー大賞】で特別賞をいただきました!
ありがとうございました。
■登場人物
朝前夕斗(あさまえ ゆうと)
不動産会社「グッドバイ」の新人社員。
壊滅的な営業成績不振のために里見のいる遺志留支店に飛ばされた。 無自覚にいろんなものを引きつけてしまうが、なにもできないぽんこつ霊感体質。
里見大数(さとみ ひろかず)
グッドバイ遺志留支社の所長。
霊能力があるが、力はかなり弱い。
煙草とお酒とAV鑑賞が好き。
番場怜子(ばんば れいこ)
大手不動産会社水和不動産の社員。
優れた霊感を持つ。
里見とは幼馴染。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる