最高で最強なふたり

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
85 / 99
シンクロカップル

第二話

しおりを挟む
 亜美、そして藤澤だけでなく由貴までもがシンクロするほどの驚きの事実である。
「由貴、お前までびっくりしなくていい」
「いや、筋肉に乗り移るって……聞いたことない」
「まぁ確かにな。非常に稀なケースだ」
 亜美がハッと思いついたようだ。
「まさかですが、アニメで目玉に乗り移ったとかいう……」
 コウは首を横に振って笑った。
「目玉の親父も確かにそうだったが。ファンタジー、架空の話だ……でもリアルに過去、似たような事例を聞いたことがあった」
 由貴は聞いたことないぞと首を傾げるがコウにカメラを回し続ける。
 さっきまでばてていたコウだが次第に饒舌さを取り戻しカメラ写りも気にしながら身振り手振りで語り始める。

「乗り移りや転生はこの世では様々ある、でもまさか筋肉というピンポイントに乗り移るとは。この目でみることができるだなんて驚きだ」

 すると亜美は笑った。
「どうしました?」
 そんな彼女に由貴はカメラを向けた。もちろん笑った時に隣の藤澤も笑った。

「き、筋肉だなんて……藤澤くんらしいわ」
「えっ……」
「筋トレ好きだし」
 たしかに藤澤は筋肉質だ。登山のためにも筋力も必要だろう。だが一般的な男性よりかは体は大きい、それはコウは思っていた。
「筋肉好きだから筋肉、なかなかなものだなぁ……」
 由貴も興味津々だ。ついカメラを回しながら話してしまった。

「しかもただの筋肉ではない、愛する人の筋肉に乗り移るというのはすごいことだ。亜美さんを愛するがあまり……自分の好きな筋肉に、亜美さんの筋肉に乗り移る。思いが強かったのだろう」
「でも……ありえない、こんなのありえない! 移植したわけでもないのに。それに乗り移るなら私の体全体に乗り移ればいいのに」
 亜美は体を動かしながら狼狽えるが横で藤澤も同じように狼狽えてる姿はコウも由貴も面白く感じる。

「確かにね。でも即死した藤澤さんが意識不明になった亜美さんの筋肉にすぐ乗り移って体を動かし安全なところに……まぁ確率的には奇跡的なものでしょうね、救いたい一心に筋肉に……体全体に乗り移ってもよかったのにねぇ」

 すると亜美は笑った。
「藤澤くんったら……本当あの人は早とちりで突拍子もない人なんです。筋肉に乗り移るって」
 次第に涙が溢れた。すると由貴はあることに気づく。

「もし藤澤さんを亜美さんから除霊したら……」
 すると遠くから声がした。

「亜美ー! お待たせぇー」
 同じように登山の格好をして現れたこれまた体格の良い男。藤澤よりもでかいかもしれない。

「桐生さん!」
 桐生は亜美の横に立った。

「すごい体格いいですよね」
「はい、山岳救助隊の方ですから」
 すると桐生が頼んでもいないのにマッチョポーズをする。

「はい……あの落石事故の時に駆けつけたのです。亜美さんはすごい血だらけだったのにあの大きな岩を持ち上げて出てきたんですよ。ありえない」
「たしかにありえない……」
「慰霊碑も場から私たち山岳救助隊やボランティアの方で建てました」

 なるほど、とコウ。
「結婚式前に藤澤くんに報告したくて……あ……」
 亜美はコウに耳打ちする。横にいる藤澤も。
「藤澤くんが筋肉に乗り移ってることは内緒ですよ」
「かしこまりました。……除霊はせず、残しておきましょう」
「ありがとうございます、一生彼と共に……生きます」
 桐生は不思議そうな顔をしていた。

「ん? 僕と?」
「そ、そうよ。桐生くんと、共に生きるって」
「当たり前だろ」
「ね、ふふふ」

 コウと由貴はその2人の会話を見ていてヒヤリとしたが……たしかにこの時点で藤澤を除霊したら亜美は死ぬ。

 筋肉は腕の筋肉だけでない。だからだ。

 仲睦まじく笑う亜美と桐生。しかし桐生はコウを見ている。

「……今日はありがとうございました」
「いえ、僕らも山登りを滅多にしませんからこんな綺麗な景色見ることができてすごく嬉しいです。由貴、亜美さんと別のところで撮影しててくれ」
 由貴は頷いて亜美を違うところに連れて行く。

 慰霊碑の前で桐生とコウは2人きり。コウは全てを話した。なぜなら依頼者は桐生だからだ。

「……やはりダメでしたか」
「ですね。残念ながら」
「はぁ……」
 桐生はうずくまる。そう、今回のご依頼は彼からのものであった。

 事故に遭った亜美を第一発見した桐生。なんと彼は藤澤と親交があり、同じジムに通っていたのである。亜美もジムに入会していたがスケジュール上会うことはなかったがチラッと見た程度、そしてあの落石事故で偶然亜美を助けることになったのだ。

「藤澤くんらしい、確かにそうだけども。僕が早くここに辿り着いてたら……僕に乗り移ればよかったのになぁ」
 桐生はがっかりしていた。
「……乗り移られる方もたまったもんじゃないですよ」
 と、コウは笑った。桐生は首を横に振った。

「藤澤くんが僕の肉体に……ああ、僕の本望でした」
「えっ」
「だって、僕……藤澤くんが好きだったんです」


 続
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

岬ノ村の因習

めにははを
ホラー
某県某所。 山々に囲われた陸の孤島『岬ノ村』では、五年に一度の豊穣の儀が行われようとしていた。 村人達は全国各地から生贄を集めて『みさかえ様』に捧げる。 それは終わらない惨劇の始まりとなった。

FLY ME TO THE MOON

如月 睦月
ホラー
いつもの日常は突然のゾンビ大量発生で壊された!ゾンビオタクの格闘系自称最強女子高生が、生き残りをかけて全力疾走!おかしくも壮絶なサバイバル物語!

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

真夜中の訪問者

星名雪子
ホラー
バイト先の上司からパワハラを受け続け、全てが嫌になった「私」家に帰らず、街を彷徨い歩いている内に夜になり、海辺の公園を訪れる。身を投げようとするが、恐怖で体が動かず、生きる気も死ぬ勇気もない自分自身に失望する。真冬の寒さから逃れようと公園の片隅にある公衆トイレに駆け込むが、そこで不可解な出来事に遭遇する。 ※発達障害、精神疾患を題材とした小説第4弾です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

都合のいい友だち

ことは
ホラー
「あなたは、わたしの都合のいい友だち。だから、いらなくなったら消えてくれるよね? だってその方が、都合がいいんだもの」 …………………………………………………………………… 中学1年生の矢井田さゆりは、家では普通に話せるが、学校では全く声を出すことができない。それに加え、身体が硬直して思うように動かせなくなってしまう。 医師には、特定の場所や状況によって話せなくなる場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)と診断されていた。 2か月ぶりに登校した早朝の教室。これまで1度も学校に来たことのない生徒の席に、見知らぬ少女が座っていた。 少女は一体、誰なのか。 【表紙イラスト】 こゆき Twitte ID ⇒ @KY_FoxoF ( https://twitter.com/KY_FoxoF )

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...