最高で最強なふたり

麻木香豆

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美佳子と虹雨

美佳子と虹雨5

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 そう、美佳子は15年前のこの時間帯に死んだ。
「あの、なんであなたには美佳子が見えるんでしょうか……」
 阿久津はコウに聞く。美佳子は
「……あっくんには見えないの?」
 と悲しそうな顔をしていた。

 コウは胸元のポッケから名刺入れを出して名刺を2人に見せた。

「俺は霊媒師の虹雨と申します。なので美佳子さんの姿は見られるんです」
「……霊媒師?! 何、その冗談……あっくん、騙されてない?」
 美佳子は阿久津を触るが通り抜けてしまう。

「……なにこれ……」
「美佳子さん、よかったらもう一度作ってください。阿久津さんの、……あっくんのために親子丼を」
 美佳子は自分が死んだ、そして彼に自分の姿が見えないことにショックを受けているのかさっきまでの元気さは無くなっている。

 するとコウが阿久津に手を差し伸べた。阿久津は恐る恐る手を握る。

 すると阿久津はびっくりした。目の前に美佳子がいたのだ。
「美佳子……」
「あっくん、みえるの? 私がみえるの?」
「ああ。……ほんとあの頃のまんまだ。僕だけこんなおじさんになって」
「おじさんだなんて、ごめん。私も15年経ったらおばさんよ」
 2人はふふふっと笑ってるがコウはラブラブムードな2人を横目に咳払いした。美佳子と阿久津はコウの存在を忘れていた。コウもそんなつもりもなかったつもりだったが、つい出てしまった。なので続きをどうぞ、と引っ込んだ。

「こっちこそごめん。仕事が遅くなってたのは養鶏場をやっている先輩から仕事帰りに色々教わってて」
「えっ……浮気とかじゃなくて」
 阿久津は苦笑いした。
「ヤキモチ妬きの美佳子ちゃんらしいや……ちゃんと言えばよかったね。君は僕が遅くなっても料理を作って待っててくれた。本当にありがとう」
「……わたし、誤解してた。ごめんね。あっくん、なかなか自分から言うことできないのわかってるから……しょうがないか。あとね、ちゃんと美味しいものを食べさせたいなぁって。美味しいっていう顔見たいから」
「美佳子ちゃん……」
「今からいつもの親子丼、作るね」
「ああ……君も最後に親子丼を作って待ってた」

 美佳子はよけておいた阿久津の分を煮出す。ぐつぐつ。一気に部屋に良い匂いが漂う。
「さっきまで匂いがしなかったのに、どういうことだっ」
「まだまだこれからなんだから、待っててよ」
「ああっ……」
 阿久津は口に手を当てて目を潤ませた。

「なんであっくんは今会いにきたの……15年後に」
「……今度結婚するんだ」
「えっ!? 15年経っても結婚してなかったの?!」
 美佳子は思わず大きな声を出す。阿久津は頷いた。
「君が死んでから……養鶏場を継いだ。大変だったけどやりがいのある仕事で、君の家族も優しくて気持ちも持ち直した。で、去年に研修できていた子と結婚することにしたんだ」
「そうだったのね。養鶏場継いでくれてありがとう。みんな、元気?」
「うん、みんな元気だよ」
 美佳子は卵を割ってかき混ぜ、煮込んだ鍋の中に卵を入れ数秒火を通して蓋を閉めた。これまた手際よく。
 いい音と共に匂いも台所に立ち込める。阿久津はボロボロと泣く。
 そして膝から崩れ落ちる。美佳子は彼に寄り添う。今は触ることができた。それにも驚いていたが背中をさすってやった。
「あっくん、まだ泣かないで」
「そ、そうだな。早く食べたい」
「わかったわ……ダイニングで座っていて」
 阿久津とコウはダイニングに行き座って待つ。

「はい、お待たせ……美佳子特製のかさ増し親子丼!」
 阿久津は目を輝かせながら、涙もボロボロ流しながらどんぶりを自分の前に引き寄せ、コウから渡されたスプーンでバクバクと食べ始める。泣きながら。
 あっという間に親子丼は無くなって空っぽのどんぶり。
「……本当は美佳子ちゃんと養鶏場をやって、近くに食堂作って……その親子丼をみんなに食べて欲しかったっ!」
「もう、それくらいいつも言ってくれればよかったのに」
 阿久津は美佳子の手を握る。

「……美佳子ちゃん、ただいま。そしてご馳走様でした」
 美佳子は微笑んだ。
「あっくん、おかえりなさい」
 と同時に美佳子の体は透き通り、徐々に消えていった。どんぶりも消えて台所も元通りになった。

「美佳子ちゃん……」
 ボロボロと涙を流して名前を呼んでも彼女は再び現れなかった。
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