56 / 99
美佳子と虹雨
美佳子と虹雨5
しおりを挟む
そう、美佳子は15年前のこの時間帯に死んだ。
「あの、なんであなたには美佳子が見えるんでしょうか……」
阿久津はコウに聞く。美佳子は
「……あっくんには見えないの?」
と悲しそうな顔をしていた。
コウは胸元のポッケから名刺入れを出して名刺を2人に見せた。
「俺は霊媒師の虹雨と申します。なので美佳子さんの姿は見られるんです」
「……霊媒師?! 何、その冗談……あっくん、騙されてない?」
美佳子は阿久津を触るが通り抜けてしまう。
「……なにこれ……」
「美佳子さん、よかったらもう一度作ってください。阿久津さんの、……あっくんのために親子丼を」
美佳子は自分が死んだ、そして彼に自分の姿が見えないことにショックを受けているのかさっきまでの元気さは無くなっている。
するとコウが阿久津に手を差し伸べた。阿久津は恐る恐る手を握る。
すると阿久津はびっくりした。目の前に美佳子がいたのだ。
「美佳子……」
「あっくん、みえるの? 私がみえるの?」
「ああ。……ほんとあの頃のまんまだ。僕だけこんなおじさんになって」
「おじさんだなんて、ごめん。私も15年経ったらおばさんよ」
2人はふふふっと笑ってるがコウはラブラブムードな2人を横目に咳払いした。美佳子と阿久津はコウの存在を忘れていた。コウもそんなつもりもなかったつもりだったが、つい出てしまった。なので続きをどうぞ、と引っ込んだ。
「こっちこそごめん。仕事が遅くなってたのは養鶏場をやっている先輩から仕事帰りに色々教わってて」
「えっ……浮気とかじゃなくて」
阿久津は苦笑いした。
「ヤキモチ妬きの美佳子ちゃんらしいや……ちゃんと言えばよかったね。君は僕が遅くなっても料理を作って待っててくれた。本当にありがとう」
「……わたし、誤解してた。ごめんね。あっくん、なかなか自分から言うことできないのわかってるから……しょうがないか。あとね、ちゃんと美味しいものを食べさせたいなぁって。美味しいっていう顔見たいから」
「美佳子ちゃん……」
「今からいつもの親子丼、作るね」
「ああ……君も最後に親子丼を作って待ってた」
美佳子はよけておいた阿久津の分を煮出す。ぐつぐつ。一気に部屋に良い匂いが漂う。
「さっきまで匂いがしなかったのに、どういうことだっ」
「まだまだこれからなんだから、待っててよ」
「ああっ……」
阿久津は口に手を当てて目を潤ませた。
「なんであっくんは今会いにきたの……15年後に」
「……今度結婚するんだ」
「えっ!? 15年経っても結婚してなかったの?!」
美佳子は思わず大きな声を出す。阿久津は頷いた。
「君が死んでから……養鶏場を継いだ。大変だったけどやりがいのある仕事で、君の家族も優しくて気持ちも持ち直した。で、去年に研修できていた子と結婚することにしたんだ」
「そうだったのね。養鶏場継いでくれてありがとう。みんな、元気?」
「うん、みんな元気だよ」
美佳子は卵を割ってかき混ぜ、煮込んだ鍋の中に卵を入れ数秒火を通して蓋を閉めた。これまた手際よく。
いい音と共に匂いも台所に立ち込める。阿久津はボロボロと泣く。
そして膝から崩れ落ちる。美佳子は彼に寄り添う。今は触ることができた。それにも驚いていたが背中をさすってやった。
「あっくん、まだ泣かないで」
「そ、そうだな。早く食べたい」
「わかったわ……ダイニングで座っていて」
阿久津とコウはダイニングに行き座って待つ。
「はい、お待たせ……美佳子特製のかさ増し親子丼!」
阿久津は目を輝かせながら、涙もボロボロ流しながらどんぶりを自分の前に引き寄せ、コウから渡されたスプーンでバクバクと食べ始める。泣きながら。
あっという間に親子丼は無くなって空っぽのどんぶり。
「……本当は美佳子ちゃんと養鶏場をやって、近くに食堂作って……その親子丼をみんなに食べて欲しかったっ!」
「もう、それくらいいつも言ってくれればよかったのに」
阿久津は美佳子の手を握る。
「……美佳子ちゃん、ただいま。そしてご馳走様でした」
美佳子は微笑んだ。
「あっくん、おかえりなさい」
と同時に美佳子の体は透き通り、徐々に消えていった。どんぶりも消えて台所も元通りになった。
「美佳子ちゃん……」
ボロボロと涙を流して名前を呼んでも彼女は再び現れなかった。
「あの、なんであなたには美佳子が見えるんでしょうか……」
阿久津はコウに聞く。美佳子は
「……あっくんには見えないの?」
と悲しそうな顔をしていた。
コウは胸元のポッケから名刺入れを出して名刺を2人に見せた。
「俺は霊媒師の虹雨と申します。なので美佳子さんの姿は見られるんです」
「……霊媒師?! 何、その冗談……あっくん、騙されてない?」
美佳子は阿久津を触るが通り抜けてしまう。
「……なにこれ……」
「美佳子さん、よかったらもう一度作ってください。阿久津さんの、……あっくんのために親子丼を」
美佳子は自分が死んだ、そして彼に自分の姿が見えないことにショックを受けているのかさっきまでの元気さは無くなっている。
するとコウが阿久津に手を差し伸べた。阿久津は恐る恐る手を握る。
すると阿久津はびっくりした。目の前に美佳子がいたのだ。
「美佳子……」
「あっくん、みえるの? 私がみえるの?」
「ああ。……ほんとあの頃のまんまだ。僕だけこんなおじさんになって」
「おじさんだなんて、ごめん。私も15年経ったらおばさんよ」
2人はふふふっと笑ってるがコウはラブラブムードな2人を横目に咳払いした。美佳子と阿久津はコウの存在を忘れていた。コウもそんなつもりもなかったつもりだったが、つい出てしまった。なので続きをどうぞ、と引っ込んだ。
「こっちこそごめん。仕事が遅くなってたのは養鶏場をやっている先輩から仕事帰りに色々教わってて」
「えっ……浮気とかじゃなくて」
阿久津は苦笑いした。
「ヤキモチ妬きの美佳子ちゃんらしいや……ちゃんと言えばよかったね。君は僕が遅くなっても料理を作って待っててくれた。本当にありがとう」
「……わたし、誤解してた。ごめんね。あっくん、なかなか自分から言うことできないのわかってるから……しょうがないか。あとね、ちゃんと美味しいものを食べさせたいなぁって。美味しいっていう顔見たいから」
「美佳子ちゃん……」
「今からいつもの親子丼、作るね」
「ああ……君も最後に親子丼を作って待ってた」
美佳子はよけておいた阿久津の分を煮出す。ぐつぐつ。一気に部屋に良い匂いが漂う。
「さっきまで匂いがしなかったのに、どういうことだっ」
「まだまだこれからなんだから、待っててよ」
「ああっ……」
阿久津は口に手を当てて目を潤ませた。
「なんであっくんは今会いにきたの……15年後に」
「……今度結婚するんだ」
「えっ!? 15年経っても結婚してなかったの?!」
美佳子は思わず大きな声を出す。阿久津は頷いた。
「君が死んでから……養鶏場を継いだ。大変だったけどやりがいのある仕事で、君の家族も優しくて気持ちも持ち直した。で、去年に研修できていた子と結婚することにしたんだ」
「そうだったのね。養鶏場継いでくれてありがとう。みんな、元気?」
「うん、みんな元気だよ」
美佳子は卵を割ってかき混ぜ、煮込んだ鍋の中に卵を入れ数秒火を通して蓋を閉めた。これまた手際よく。
いい音と共に匂いも台所に立ち込める。阿久津はボロボロと泣く。
そして膝から崩れ落ちる。美佳子は彼に寄り添う。今は触ることができた。それにも驚いていたが背中をさすってやった。
「あっくん、まだ泣かないで」
「そ、そうだな。早く食べたい」
「わかったわ……ダイニングで座っていて」
阿久津とコウはダイニングに行き座って待つ。
「はい、お待たせ……美佳子特製のかさ増し親子丼!」
阿久津は目を輝かせながら、涙もボロボロ流しながらどんぶりを自分の前に引き寄せ、コウから渡されたスプーンでバクバクと食べ始める。泣きながら。
あっという間に親子丼は無くなって空っぽのどんぶり。
「……本当は美佳子ちゃんと養鶏場をやって、近くに食堂作って……その親子丼をみんなに食べて欲しかったっ!」
「もう、それくらいいつも言ってくれればよかったのに」
阿久津は美佳子の手を握る。
「……美佳子ちゃん、ただいま。そしてご馳走様でした」
美佳子は微笑んだ。
「あっくん、おかえりなさい」
と同時に美佳子の体は透き通り、徐々に消えていった。どんぶりも消えて台所も元通りになった。
「美佳子ちゃん……」
ボロボロと涙を流して名前を呼んでも彼女は再び現れなかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
THE TOUCH/ザ・タッチ -呪触-
ジャストコーズ/小林正典
ホラー
※アルファポリス「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」サバイバルホラー賞受賞。群馬県の山中で起こった惨殺事件。それから六十年の時が経ち、夏休みを楽しもうと、山にあるログハウスへと泊まりに来た六人の大学生たち。一方、爽やかな自然に場違いなヤクザの三人組も、死体を埋める仕事のため、同所へ訪れていた。大学生が謎の老人と遭遇したことで事態は一変し、不可解な死の連鎖が起こっていく。生死を賭けた呪いの鬼ごっこが、今始まった……。
ゴーストキッチン『ファントム』
魔茶来
ホラー
レストランで働く俺は突然職を失う。
しかし縁あって「ゴーストキッチン」としてレストランを始めることにした。
本来「ゴーストキッチン」というのは、心霊なんかとは何の関係もないもの。
簡単に言えばキッチン(厨房)の機能のみを持つ飲食店のこと。
店では料理を提供しない、お客さんへ食べ物を届けるのはデリバリー業者に任せている。
この形態は「ダークキッチン」とか「バーチャルキッチン」なんかの呼び方もある。
しかし、数か月後、深夜二時になると色々な訳アリの客が注文をしてくるようになった。
訳アリの客たち・・・なんとそのお客たちは実は未練を持った霊達だ!!
そう、俺の店は本当の霊(ゴースト)達がお客様として注文する店となってしまった・・・
俺と死神運転手がキッチンカーに乗って、お客の未練を晴らして成仏させるヘンテコ・レストランの物語が今始まる。
その影にご注意!
秋元智也
ホラー
浅田恵、一見女のように見える外見とその名前からよく間違えられる事が
いいのだが、れっきとした男である。
いつだったか覚えていないが陰住むモノが見えるようになったのは運が悪い
としか言いようがない。
見たくて見ている訳ではない。
だが、向こうは見えている者には悪戯をしてくる事が多く、極力気にしない
ようにしているのだが、気づくと目が合ってしまう。
そういう時は関わらないように逃げるのが一番だった。
その日も見てはいけないモノを見てしまった。
それは陰に生きるモノではなく…。
ツギハギ・リポート
主道 学
ホラー
拝啓。海道くんへ。そっちは何かとバタバタしているんだろうなあ。だから、たまには田舎で遊ぼうよ。なんて……でも、今年は絶対にきっと、楽しいよ。
死んだはずの中学時代の友達から、急に田舎へ来ないかと手紙が来た。手紙には俺の大学時代に別れた恋人もその村にいると書いてあった……。
ただ、疑問に思うんだ。
あそこは、今じゃ廃村になっているはずだった。
かつて村のあった廃病院は誰のものですか?
暗夜の灯火
波と海を見たな
ホラー
大学を卒業後、所謂「一流企業」へ入社した俺。
毎日毎日残業続きで、いつしかそれが当たり前に変わった頃のこと。
あまりの忙しさから死んだように家と職場を往復していた俺は、過労から居眠り運転をしてしまう。
どうにか一命を取り留めたが、長い入院生活の中で自分と仕事に疑問を持った俺は、会社を辞めて地方の村へと移住を決める。
村の名前は「夜染」。
呪配
真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。
デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。
『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』
その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。
不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……?
「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる