最高で最強なふたり

麻木香豆

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番外編

この霊媒師は疎すぎる!

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「なんとなく所長に呼ばれる気はしてました」
「それは第六感かしら」
「そうではないんですけど……なんとなく、そろそろじゃないかと」
「ふふふ」

 真津喫茶店に併設されている真津探偵事務所所長の真津美帆子は喫茶店内でロイヤルミルクティーをすすっている。喫茶店のオーナーである夫が彼女の好みの温度、濃さで用意したものである。

 彼女は40過ぎだがすごく整ったいわゆる美魔女といったところだろうか。そんな彼女の目の前には彼女の事務所と業務提携している霊媒師の虹雨、通称コウを呼び寄せた。

 コウは子供の頃に山の中で事故に遭い、一緒に遭難した幼馴染が山に住む天狗様に命乞いをした際に命を助けてやるから悪さをする幽霊たちを懲らしめるのを手伝えと言われて霊視能力と除霊能力を授かったという。(ある意味巻き込まれている気もするが)

 それからずっと今まで悪さをする霊たちをたくさん除霊してきて二十年近く経つという。

 上下黒のスーツを着て黒の革手袋、薄黒いサングラスをかけていかにも怪しい出立ちで、いかがわしいとも言われているがコウにとってはこの格好で気持ちの切り替えをしているようで、胡散臭いと言われようがちゃんと除霊実績はある。

 そのためただの探偵業以外の心霊に関しての依頼は八十%この彼が受け持っていて人懐っこいコウは美帆子に可愛がられている。

「なんで呼ばれたかわかるかしら」
「うーん、いきなり呼ばれてそれですか」
「それはわからないのね……」
「流石にヒントなしでは分かりませんけども」

 美帆子がコウの目をじっと見つめる。

「まさか……報告書の書き間違え」
「それは日常茶飯事」

 と報告書を何枚か並べ、そこには赤いペンで修正がいくつかされている。

「確定申告全部税理士さんに投げたら経費と見なされなかった」
「それもある」

 とファイルからたくさん領収書が出る。コウは慌ててかき集めてなんとかしてファイルに戻す。ちらっと中を見てあれはだめだったかとため息が出る。

「いや、これ半分くらい経費にしてもらわないと採算合わんですよ」
「ダメって言われたらダメらしいから。で、それ以外に思い浮かぶことは」
 うーんとコウは顔を顰める。

「……」
「……」
 ニコニコの美帆子。この笑顔が怖い、とコウ。常に可愛がられていて何かがあってもその笑顔の裏で何かがあったことはよくある。

 しかし何かが違う、奥にいるマスターはコーヒーを古い昔ながらのサイフォン式のコーヒーメーカーで淹れていてコポコポという音がする。
 隣ではマスターの弟がサンドイッチを作っている。お店には数人客がいて、そのオーダーを取るのはマスターの娘の渚。

 いつもと変わらないはずなのに何かが違う……とコウは感じ取った瞬間だった。

「ほんともう、あなたったら……鈍感で、そんなのでいいのかしら」

 
「だから、俺がここに今日呼ばれたのは……」

 コウはここにくる前、何か嫌な予感がしたのだ。霊ではない何か違うものを感じたのだ。頭痛がする、何か悪いことが起きそうだと。

 美帆子はいつものようにふふふと笑った。

「絶対何か裏あるで。めっちゃ目の前に喫茶店のメニューでめっちゃ美味しくて高いやつおかれてるから。何も注文してないのに」

 確かにコウの目の間には厚みのあるハニートーストチョコがけ、ハンバーグとエビフライとピラフとポテトとサラダてんこ盛りのランチ特上セットがコーヒーとともに置かれている。渚が次々と置いていく。
 何かあると思ってコウは手をつけていなかった。

「で、所長。今日は……」

 美帆子は微笑んでスーツの内ポケットから封筒を出してコウに出した。

「報告書、経費のミス……まだこれいじょうになにか?」

 コウは封筒を開けない。もう何かわかってしまったのだ。美帆子はニコニコして二杯目のロイヤルミルクティを注いで飲んだ。
 しかしコウが心配したこととは違ったことを言おうとしたのだ。

 それはオーナーの連れ子である渚は30近くにもなって恋人もおらず、コウに惚れ込んでいた。そんな彼のためにたっぷりと食事を作り食べてもらおうとしたのだ。

 内気だった彼女は自分が作ったと言えず遠くからコウがたくさん食べている姿を見てドキドキしているのであった。

「あぁ、コウ様……いつになったら私の恋心気づいてくれるのかしら……」

 美帆子の渡した封筒の中身は渚からコウへのラブレター。彼は開けることはなさそうだ。

 第六感、霊感のあるコウだがやはり女性からの恋心を察する能力は全くなさそうであった。

 どこかで続く



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