最高で最強なふたり

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
67 / 99
生き霊編

第九話

しおりを挟む
「記憶まで消しちゃってどうするのよ!!!」
「すいませんでしたあ!!!!」

 探偵事務所に戻ったコウと由貴は所長の美帆子にこっぴどく叱られてしまった。まだ近藤から前金しかもらっておらず、全ての記憶を失った近藤夫妻からお金を請求することはできなかった。

「いやぁーまさか記憶が消えるだなんてなぁー」
「なぁー」

 2人は見合って言うが……

「なぁーーじゃないっ!!!!」
「すいませんっ!!!」

 美帆子の声に2人はピシッとなる。

「近藤夫婦の記憶が事故直後にまで戻ってしまって2人は生き霊に取り憑かれる前くらいだから彼ら自身もまるまる十年くらいごっそり何が何だかって感じらしい……」
「……はぁ、じゃあここに依頼したことをすっかり覚えてないってことなんやな」
「そういうことなのよー、まぁ前金払ったことも覚えてなかったから返金はしないけど……」
「ラッキーでしたね……」
「ラッキーっていうかなんというか……」
「まぁ記憶は無くしてそっからどう過ごすかは俺らの知ったこっちゃないけどああいう性格だから自分らのしたことは忘れてまた誰かから恨みを買ってここに来るかもな」

 美帆子は頷く。が、少し表情が暗い。

「そうそう、茜部警部から連絡あったわ」
「あーあのなべちゃん」
「馴れ馴れしく言わないで。あの人がいるおかげであんた達はここで働けているんだからね」
「そうなんだよなぁ……で?」

 美帆子は椅子から立ち上がった。

「茜部警部の元上司がアキエさんが近藤夫婦始め親戚一同に怪我を負わせた事件に駆けつけた人だったらしくって話を聞いてきたらしいけどアキエさんの義父母、近藤夫婦だけでなくて旦那にも暴力……言葉の暴力を受けていたの。……モラルハラスメント、モラハラ。ただの夫婦喧嘩、嫁姑舅問題ではなかった……目に見えない暴力だったから誰に訴えても助けてもらえなかった。近藤夫婦も過干渉尚且つあの性格だから自分が人に対して嫌な思いをさせていることの自覚がなったから自分たちが加害者であったことなんて全くも思ってなかった」

「被害者意識強いってやつやろ。他の件に関しても近藤夫婦が悪いのにこっちがしてやったとかなんたら鬱陶しかったでぇー」

 コウはうんざりとした顔をしている。首をポキポキ鳴らす。

「あと残念なことにアキエさんは除霊時刻と同じ頃に心筋梗塞で亡くなってたわ」
「……」
 コウと由貴は言葉を失った。でも女性後に一気に消え去ってしまったため察しはしていたようだが。

「あなた達が殺したわけじゃないわよ……もともと精神を病んで心臓も悪かった。でも顔は穏やかだったらしい。白髪で痩せ細っていてみられる姿ではなかったらしいわ……逮捕されてからずっと精神病院に入院していたそうよ。自殺も繰り返してて……聞くだけでも辛い。彼女は辛い思いをしてたのよ、人を傷つけるのはいけなかったけどそうなってしまったのはとても残念だわ」

 美帆子は涙ぐむ。

「……生き霊になってあの夫婦に取り憑いていたけど……アキエさん自身も恨みというものに取り憑かれとったんやなぁ……写真で事故前の見たことあったけど美人さんやったのになぁ」
しおりを挟む

処理中です...