最高で最強なふたり

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
81 / 99
番外編

虹雨と焼き鳥屋台2

しおりを挟む
それからとある夜。

「父がここの道で亡くなったんですね、ようやく見つかりました」
 店主は
「数週間かかったな。ここは道がたくさんあってお父さんの幽霊を探すのは大変でしたね」
 焼き鳥屋台に座っていたもう1人の客は黒い大きなコートを脱いでその下には上下黒スーツを着てブラックグローブをはめていている。そしてサングラスをクイっと上げた。

「父にも十年越しにようやく美味しいって言葉をもらえて良かったです」
「そやな、喜んでたで」
 店主は十年前に自分の誕生日の夜に行方不明になっていた父は遠くの川で見つかった。なかなか捜査も進まず、犯人も捕まらなかった。

 大人になった息子はやがて自分で生計を立てるために焼き鳥屋台を出すことになったのだが犯人探しと父親の最後の姿、そして父親に自分の焼き鳥が美味しいって言って欲しいと思っていた頃に、ネットで話題になっていた霊媒師コウという怪しい男の存在を知った。

 いろんな怪奇現象を独自の視点で暴いたり、みえはしないが幽霊と対話して除霊するというもので、気になって連絡を取ってから話がトントンと進んで父親の帰り道であろう通りを一箇所ずつ探し出して屋台を出店していたのであった。

 気が遠くなるものであったがようやく父親の霊と遭遇した。幽霊になった父親は息子の焼き鳥をむしゃむしゃ泣きながら食べてあの夜のことを思い出しながら語った。

 轢いた男は代議士の息子、自動車整備工の友人もいた、柔道経験者もいた。それをらをコウは知り合いの刑事に情報を渡し、先日当時の代議士の息子で現在市長と、自動車修理店の店長と警察官の3人が捕まった。

「本当はあの時に成仏させたかったけどようやく犯人捕まったってことで報告するために待ってたで」
「すいません、僕のわがままで」
「そやで……まぁ霊界の方では早よせんかって言われてるが多めに見たるわ」
 コウの前にはたくさんの焼き鳥。彼は焼き鳥が大好物なのだ。ハフハフ言いながら食べ尽くす。
「ありがとうございます。どうしても最後に一緒に酒を飲みたくて」
 息子も酒を飲める歳になった。子供の頃に母親を亡くして親戚頼らずに仕事をバリバリして男手一つで自分を育ててくれた父。
 大きくなったらビールを一緒に飲みたいなと子供の頃言われていたが叶わなかった。

 事件解決のお祝いもだが、親子男2人の約束を……。

 遠くから自転車の音がする。今日は20歳になった息子の誕生日、少し日が暮れる前に現れた父親、あの頃も息子の誕生日のために早く帰えろうとしていた。
「おう、焼き鳥食べにきたぞ。あとだし巻き卵もな」
 店主は目を潤ませた。

「はい、ビールも一緒に飲みましょう」
 店主と男がビールを一緒に飲んでお祝いしている横目で霊媒師のコウは2人にバレないように泣きながら焼き鳥を食べていた。

「う、う、う、うメェええええええ」
 クールを売りにしているし、一々情を持ってはいけないとはわかってはいるが無理なコウであった。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

秘密の仕事

桃香
ホラー
ホラー 生まれ変わりを信じますか? ※フィクションです

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

THE TOUCH/ザ・タッチ -呪触-

ジャストコーズ/小林正典
ホラー
※アルファポリス「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」サバイバルホラー賞受賞。群馬県の山中で起こった惨殺事件。それから六十年の時が経ち、夏休みを楽しもうと、山にあるログハウスへと泊まりに来た六人の大学生たち。一方、爽やかな自然に場違いなヤクザの三人組も、死体を埋める仕事のため、同所へ訪れていた。大学生が謎の老人と遭遇したことで事態は一変し、不可解な死の連鎖が起こっていく。生死を賭けた呪いの鬼ごっこが、今始まった……。

ツギハギ・リポート

主道 学
ホラー
 拝啓。海道くんへ。そっちは何かとバタバタしているんだろうなあ。だから、たまには田舎で遊ぼうよ。なんて……でも、今年は絶対にきっと、楽しいよ。  死んだはずの中学時代の友達から、急に田舎へ来ないかと手紙が来た。手紙には俺の大学時代に別れた恋人もその村にいると書いてあった……。  ただ、疑問に思うんだ。    あそこは、今じゃ廃村になっているはずだった。  かつて村のあった廃病院は誰のものですか?

ゴーストキッチン『ファントム』

魔茶来
ホラー
レストランで働く俺は突然職を失う。 しかし縁あって「ゴーストキッチン」としてレストランを始めることにした。 本来「ゴーストキッチン」というのは、心霊なんかとは何の関係もないもの。 簡単に言えばキッチン(厨房)の機能のみを持つ飲食店のこと。 店では料理を提供しない、お客さんへ食べ物を届けるのはデリバリー業者に任せている。 この形態は「ダークキッチン」とか「バーチャルキッチン」なんかの呼び方もある。 しかし、数か月後、深夜二時になると色々な訳アリの客が注文をしてくるようになった。 訳アリの客たち・・・なんとそのお客たちは実は未練を持った霊達だ!! そう、俺の店は本当の霊(ゴースト)達がお客様として注文する店となってしまった・・・ 俺と死神運転手がキッチンカーに乗って、お客の未練を晴らして成仏させるヘンテコ・レストランの物語が今始まる。

呪配

真霜ナオ
ホラー
ある晩。いつものように夕食のデリバリーを利用した比嘉慧斗は、初めての誤配を経験する。 デリバリー専用アプリは、続けてある通知を送り付けてきた。 『比嘉慧斗様、死をお届けに向かっています』 その日から不可解な出来事に見舞われ始める慧斗は、高野來という美しい青年と衝撃的な出会い方をする。 不思議な力を持った來と共に死の呪いを解く方法を探す慧斗だが、周囲では連続怪死事件も起こっていて……? 「第7回ホラー・ミステリー小説大賞」オカルト賞を受賞しました!

暗夜の灯火

波と海を見たな
ホラー
 大学を卒業後、所謂「一流企業」へ入社した俺。  毎日毎日残業続きで、いつしかそれが当たり前に変わった頃のこと。  あまりの忙しさから死んだように家と職場を往復していた俺は、過労から居眠り運転をしてしまう。  どうにか一命を取り留めたが、長い入院生活の中で自分と仕事に疑問を持った俺は、会社を辞めて地方の村へと移住を決める。  村の名前は「夜染」。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...