最高で最強なふたり

麻木香豆

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ただいま

第三話

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 実のところ、倉田には自分たちに霊能力ができた時から天狗様のお世話係として2人とのパイプ役にもなっていた。子供だった2人は倉田に何度も怒られてはいた。

 怒られると言うものの今のような不気味さのあるものであって子供ながらに怖かったと言うのも覚えている。だが彼のおかげで霊能能力をうまくコントロールしたり手強い霊から身を守って貰えたりアドバイスをもらったりしていた。

 久しぶりに倉田の洗礼を受けたところでいよいよ天狗様の小屋にたどり着いた。

「今日は機嫌が良さそうだから……あ、そのショコラを渡せば喜ぶでしょう。甘いものには目がない、さらに都会のものにはね。今のこの世はネットひとつですぐ手に入るけど天狗様はそういうのが嫌なんですよ、私もですが……こうやってここまで登ってきて手渡しをする、それがいいんです……すぐ手に入っちゃダメです」

 と小屋のドアを開けると甘い匂いがする。

「ういっすー! 虹雨、きたか! ……お前は由貴か」

 大柄の鼻の大きな男がいる、由貴よりも倉田よりもでかい男だ。その男の手には小さい丸いチョコ、足元には無数の箱が置いてあった。

「……天狗様……! 何をしてらっしゃるのですか!」

 倉田にそう言われるとその男、天狗様と言われる男は箱を蹴り上げて隠したつもりだったがチョコが散らばり、拍子に柱に小指をぶつけて痛がってのたうち回っている。

 散らばったチョコは虹雨達が持ってきたブランドのものやハイブランドの関東で出回っているものである。倉田をはじめ坊主達がそれらを取り、片付けている。もはやドリフのコントのようだ。

「……なんで持ってるんや」
「虹雨が前に持ってきてからすっごく気になっちゃってー頼んじゃった」
「そうやったなぁ、前持ってきたやつのお店の新作やん。そんなに気に入ってるならそっちがよかったか。今日は違うやつ持ってきた」
「ほ、欲しい!!」

 と虹雨が渡そうとするとすかさず倉田が間に入って奪い去った。天狗様の静止を振り切って外に出て天高くチョコを投げつけ、カラス達がやってきて全部喰らっていった。

「なにをする倉田! 別にいいだろ、チョコの一つや二つ」
「確かに一つや二つはいいですよ。でもそんなにこっそり持ってたら一つや二つじゃないでしょ。あんなに食べて、あれも食べたら虫歯になります」
「虫歯にならん! ちゃんと歯磨きしとる!」

 ここからしばらく倉田と天狗様のやりとりが続く。虹雨も由貴も坊主もいつもの事だ、と坊主も一緒に座って2人を見ることにした。

「こないだも歯が痛いって言ってここに歯医者さん呼んだら親知らず生えてて奥歯と親知らずの間に虫歯が出来ていて歯茎も腫れて膿んで……なのに抜きたくない、抜かないって」
「だって痛いんじゃもん、前右の奥の二つの親知らず抜いたのにまた抜くなんて嫌じゃ」
「子供じゃないんだからっ。それに今回はレントゲン撮らなくちゃ手術も工事、いいや改修工事よりもひどくなるってあなたが大暴れするから」
「それはいくらなんでも誇大表現じゃっ」
「言っとくとですね、ここまで歯医者さんを派遣するのにいくらかかってると思ってるんですか。医師だけでなくて看護師、器具、それら器具や薬品を運ぶ運送費……」
「あと出張費じゃろ」
「わかってるくせに! 親知らず抜かない限りチョコは当面禁止です!」

 天狗様はうずくまって泣いている。

「相変わらずやん、天狗様」
「やろ、安心したか。帰ろか」

 と虹雨と由貴が帰ろうとすると

「あほ、帰るな」

 と倉田に止められる2人だった。
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