最高で最強なふたり

麻木香豆

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真新しいエレベーター

第八話

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「こんなのわざわざくれなくてもよろしいのに、こっちは依頼した方ですから」

 と管理人さんが目を細めて喜びながら虹雨と由貴が持ってきた菓子折りを奥の部屋に持っていく。

「お仏壇があるのですね」

 虹雨は覗こうとするがすぐ管理人さんは部屋から出て襖を閉めた。

「ええ、まあ」
 とまた座る。

「急ですまんの、解体の件は前からも出ててな。例の事件が起きてから退去される方々がおってな」

 管理人さんは2人にお茶を注ぎながら話し始めた。やかんから何茶かわからないが並々と注がれる。他には家族はいないようだ。

「……その件ですが、例の事件の前にもう一つ事件が起きてますよね」
「……!」
「隠さなくてもいいですよ」

 虹雨が由貴に目配せし、由貴がタブレットに図書館で許可を得て撮影してきた5年前の事件の記事を出した。管理人さんの目が泳ぐ。

「もう5年前から退去者が多かったはずですよね……俺も何人かしかすれ違わなかったし、夜8時頃帰った時は明かりも少ない。もうかなりどの部屋も家賃を下げないと入居者は増えない。だから家賃安くしてお金のない子連れのシングルマザーや若者、日雇い労働者など……。しかしそれでさえ家賃も滞納する人が多い、交流もなくゴミ捨て場は荒れ放題。治安の不安さから女性の住人は立ち退き、それが故に経営が回らない、はい取り壊し! 別にあの部屋、ルームロンダリングさせなくてもよかった気もするけどなぁ……一応俺雇うのにも金かかってますしね」

 虹雨が流れるように話し出すと管理人さんがぶるぶる震えてお茶はほぼ飲まずに溢れている。由貴は近くにあったタオルで拭こうとするがもう濡れていて、由貴は顔を歪める。

「失礼ですか奥様や他の家族の方は」
「……いません、ごらんのとおりですよ」

 よく見ると今見える部屋から見える他の部屋もあまり掃除がされていないのだ。

「いない、のではなくて殺されたんじゃないんですか……5年前に」
「ぶひっ!!!」

 管理人さんは変な声が出た。

「ここはもともと奥さんの亡くなったお父様が所有していたアパート。その当時は家族連れも多かったでしょう……しかしあなたは不貞をし、家を追い出されて別居。あの時、不倫相手の女性と共に妻のところに呼び出されたんでしょう……」

 虹雨がそう話してる横でいつのまにか由貴もビデオを構える。管理人さんはガクガク震える。

「エレベーターは血まみれ、不倫相手と奥様は死亡、あなたは重症……事件が起きてから一気に退去者は増え、赤字なのになぜ新しくエレベーターを変えたのか……」

 管理人さんはもう空になった湯呑みをぶるぶると震えながら握る。

「記事では奥さんが殺したことになっていますが、あなたが奥さんと不倫相手を殺した……それの証拠を隠すために……あとその後ろめたさにエレベーターを取り替えた……」
「ち、ちちちちちちち違うっ!!!」
「何が違うんですか?」

 ようやく管理人さんは言葉を発した。
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