最高で最強なふたり

麻木香豆

文字の大きさ
上 下
20 / 99
事故物件

第九話

しおりを挟む
 由貴の夢の中。



 あの時だ、山で遭難して重傷を負った時のこと。霞みゆく意識の中、1人の大きな男がスタッと降りてきた。天気も悪く薄暗くなっていく中、その大きな男に担がれる。
 誰かわからないが助かった、と由貴は最後の力でしがみつく。

『本当になんでもするんだな、最後の確認だ』

 その声に由貴は

「はい」

 と答えたことを今になって後悔しているか、と言ったら嘘になる。

 命を助けてもらい能力も授かり幽霊がみえるようになった事でいろんなことが起きて大変であったし、大人になってからは君悪がられて仕事も何も続かず、この能力なんていらない、こうなるのならあの時に……だなんて思ったことは何十回もあった由貴ではあるが。

 だが一緒に助かった虹雨がこうして今も横にい……


「ってすぐそばで寝てるぅ!!!」

 目を覚ますとベッドの上、すぐ隣には虹雨が涎を垂らしていた。

 昨晩あんなに部屋の中が荒れていたのにも関わらず窓ガラスは割れてない、物も壊れていない、荒れていた部屋が嘘のように綺麗になっていた。そして由貴は自分が肌着とショーツだけであることに気づく。

「なんでや、いつの間に着替えたん?」

 すると虹雨がぬくっと起きた。

「おう、起きたか……」
「起きたかって、何呑気なことを。昨晩のことは夢だったんか??」
「は? 夢ではない」

 由貴は部屋を見渡すとキミヤスがいた和室、父親が落とされたベランダには何も気配がなく、母親と祖父のいた浴室も同様に何も無くなっていた。

「面倒やで一気にまとめて空に送ったわ。疲れたー」

 虹雨も肌着とボクサーパンツ。メガネをかけて床に落ちていた部屋着を着る。

「あんなに部屋が荒れていたのに……きれいになったな」
「あー、それな……」
「ん?」

 ぐううううう……

 2人同時お腹が鳴った。目を合わせて

「食べよか、ブランチだけどなこの時間やと」
「そやな、食べたい……」
「そこに服置いてるからまた今日服を買いに行くで」

 だが既に台所からいい匂い。スープと目玉焼きとベーコンの匂いもだ。

「次は火事か?」
「あほ、火事やない……」
「ならなんや」
 匂いする方向、台所に行く。いい匂いが近づいてくる。
「……先に虹雨が作った? いや、ちゃうな……」
 由貴は匂いと同時に何かを察した。

『よっす! おはよう……て、誰あんた』
「あんたこそ誰」
 台所に立っていたのは1人の若い女性、少しギャルっぽい。
 そんな彼女が朝食を作っていた。

『……虹雨の彼女だけど、ふふふ』
しおりを挟む

処理中です...