最高で最強なふたり

麻木香豆

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事故物件

第七話

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「そや、俺ら三人同郷なんやて。偶然やろ」
「そやな。てか東京に来ると方言言わんようになったけども虹雨と再会してからは戻ってしもうた」
「俺はずっとこの調子やったわ」
「だから視聴者にも胡散臭いって言われるんや」

 由貴はナァ? とキミヤスに同意を求めると苦笑いしながら頷いた。

「んで、そこがポイントや」
「ポイント?」
 虹雨がババーンと人差し指を突き出す。

「もともとキミヤスの親2人、じいちゃんは岐阜の人間……俺らもそう」
「で」
「多分この家の中でも普通に岐阜弁は使われとった。どや、キミヤス」
 キミヤスは首を傾げる。

「多分キミヤスにとっては普通と思ってたけどそれが岐阜弁であった可能性もある」
「なるほどなぁ……」

『でも友達には指摘された。なんかちゃうって。関西弁かとか言われたけども……恥ずかしくてあまりよう喋らなかった』

「出た、普通に岐阜弁使っとるわ。友達もいなくてこれまた家の中にいた母親とよく一緒にいたからな……キミヤスは」

 少し無礼な言い方でもあるが虹雨はキミヤスとは色々話をしていたらしい。

「虹雨は口も悪いやろ」
「口も、の、もは余計」
『優しい方です』
 ほらみ! と虹雨は笑う。

「まずもって虹雨はここを事故物件でありルームロンダリング目的で住んだ。キミヤス、そして浴室のお母さんとおじいさんの存在は知っていた……」
「そや」
「浴室は怖なかったんか」
「俺の時はあの2人は暴れなかったから塩を撒いておけば平気やったわ」

 キミヤスは2人の話になると顔が曇った、それを由貴は見逃さなかった。

「……なんでだ。僕と虹雨の時との違い」
『お父さんが由貴さんと体格が一緒なんです』
「僕と虹雨の違いは背丈の違い。……お父さんは187センチくらいか」

 キミヤスは頷いた。

「そう、背丈も同じで方言も同じ。東京に同じような男性でここに来られるのはいない。そこでお前が風呂場に入った……あの2人は……」

『日常的に暴力を受けていました』

 由貴は絶句する。他の2人の目立つところにもキミヤスの身体を見ようとするが日常的な暴力と思われるような痕はないことに気づく。

「……キミヤスくんもか、大丈夫か」

『毎日のように怒鳴られていました。おじいちゃんも粗相をするたびに……、母は特に……。東京に来てから父が変わったんです』

 キミヤスは泣き出した。

「目に見えない暴力や。三人は心を抉り取られたんや。だからお父さんと同じ体格のお前を見た瞬間におじいちゃんとお母さんたちは悲鳴を上げた。……また罵られる、怒られると」


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