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ふーふになるまで

第22話 告白

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 朝起きて湊音は李仁が用意してくれた朝ごはんを食べる。
朝から手の込んだものを作るもんだと。
『この食器や箸は元彼のものだろうか』
 と気にしてしまう湊音。

「それ、お客様用だから」
「えっ、そ、そう……」
『あまり見てたからバレたかな……』

「カイから連絡あってさ……あ、元彼はカイくんっていうんだけどね。昨日メール入っててねー。『また男を連れて来たのか』って。驚かせてごめんね」
「ううん、僕も聞こうとしたけど……アレかなぁと思ってさ」
「まぁいつかはバレると思ったけどさ。もう別れるし、このマンションもらえるし。今はミナくん一筋」
 李仁はニコッと微笑む。湊音はそれを聞いて少し嬉しいような、そうでもないような。

「李仁は過去とか気にするほう?」
「んー、犯罪とかなければ……」
 湊音はお茶を飲んで少し間を開けて言った。

「僕がバツイチでも?」
「別に」
「女性と結婚していたとしても?」
「ノンケとは何人かとしたことあるから大丈夫」
そして少し間を開けて

「元妻との間に……子供がいてもか」
李仁は流石に手を止めたがすぐ返した。
「……認知はしてるの?」
「うん」
李仁は笑った。
「だからこないだ絵本見てたんだー」
「うん、そういうわけ」
「……ふぅん」
「ごめん、朝からこんな話」
「大丈夫。認知してなかったら張り手だけど」
「……怖っ」
「どういう経緯かは今は聞かないけど少しほっとした」

『ほっとした?』
 湊音はキョトンとした。李仁はごはんを食べ終わり食器を片付ける。

「ミナくんの遺伝子がこの世に残っていること」
「えっ」
「私たちこれからずっと一緒にいるとして……男と男同士では組み合わせできないから」

 李仁は簡単にさらっと言ったが湊音は同性同士付き合うことの行く末は全く考えておらず、普通とは違うということを思い知ることになる。

 だがまだ付き合ったのかというとまだ始まったばかりの二人であり、湊音にとっては早い話にしか思えなかった。

「なんてね、重い話返し」
 と李仁が舌を出していつものように戯ける。

 湊音もごはんをたべおわり、それを李仁が片付ける。そしてスーツはあのオーダーしたものを。
「すごく似合うねーカッコいい」
「ありがとう。しかも取りに行ってくれて……また頼みたい」
「うんうん、そうしよー。わたしも毎年作ってるし。仕事の気合いの入り具合が違うのよー」
 李仁は昼前の出勤とのことでまだルームウェア。そのまま玄関先まで送り届けてくれるらしい。駅までは歩いていくため少し早めにでることにした。

「今夜は本屋で終わりまで仕事だから来てね」
「うん……行けたら」
「合鍵渡しておくし、夜ご飯も作っておくから先食べていいよ」
 湊音は今日1日のことを考えるとすごく気持ちが萎えてしまう。だが戻る場所はある。

「もぉ、少しはいい顔して。じゃあわたしがおまじないかけてあげる」
 と言って湊音のおでこにキスをした。

『おまじないってこのこと?! 口じゃなくて……』
 湊音は嬉しくて爪先待ちになり李仁の唇に軽くキスをした。

「あらっ、キスをしたくなるおまじないだったかしらー。いってらっしゃい」

「いってきます」


 それから湊音は学校に行き、授業をし、放課後にはPTA総会。ほとんど彼に対しての批判的な抗議で湊音は謝罪に追い込まれるが大島のフォローでその場はおさまった。

 クラブに行ったこと、街中で李仁とキスをしたということ、元妻との間に子供がいたことなどだが教師のプライベートのことだとあまり深く掘り下げないとしたものの、あまりにも親たちからの心象は良い物ではない。
 
 生徒に示しがつかないとか、ましてや今は二年生を受け持つ湊音はそのまま来年受験生を受け持たせるかと不安になる親たちもいた。

 彼の今後は湊音を帰らせたあと、主任や校長、教頭らが話し合いをして次の日に判断を下すとのことになった。

『疲れた……クラブに行ったことは軽率だったが同性愛者ってことに食いつく親たちが多かったな』
 街中で男女のカップルが行き交うのを見ると同性同士は普通ではないのか、と湊音は感じた。今後李仁と付き合うとして堂々と街を歩けるのだろうか。
 まずもって同性同士結婚ができる国ではない。

『李仁に会いたい、けど疲れた……』
湊音は李仁の家に戻ることにした。スマホには志津子からのメールがあり、

「昨日はごめんなさい。パパと二人で話し合いました。今日は帰ってくるの?待ってます」
 と。湊音は
「帰らない」
 とかえした。今帰ったとしても話さなくてはいけないだろう、疲れることが目に見えている。
 子供のことを隠していたことは申し訳なかったと思う湊音だが、今話すものではないかと。それを考えるだけでも頭が痛くなる。

 駅から李仁の家に向かう途中でも色々考えてしまうがネガティブなことしか思いつかない湊音。
 明日には自分の進退が決まる。2年の担任はそのまま持ち上がって3年も担当することが多い。それを見守ってやらないのか、練習を休みにしている剣道部の部員たちにもなんと言えばいいのか、担当を受け持つクラスの生徒たちになんと言われるのか、どんな目で見られるのか。今日1日でもちょっと変な雰囲気がした。

『もう嫌だ』
 気づけば李仁のマンションに着いていた。
『李仁はやたらとポジティブだからあのポジティブさを分けて欲しい。そういえば彼がかけてくれた魔法というのは効果あったのだろうか……』

 とぼとぼと部屋まで行き、鍵を開ける。すると明かりがついていた。

『ん? 李仁帰ってきてるのか』
 すると李仁が出てきた。湊音はびっくりする。そこにはニコニコと待っている彼がいた。

「おかえりなさい。今日は早く帰ってきちゃったー。早くご飯食べよっ」
 美味しい匂いもする。湊音はカバンを置き、李仁に抱きついた。

「ちょっとぉ、ミナくんー」
「李仁ぉおおおお」
 しばらく湊音は李仁に抱きつきながらたくさん泣いた。気が張っていたのが一気に弾けた。
 李仁は頭を撫でて何も聞かず抱きしめた。
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