上 下
37 / 38
~冒険者ギルドの依頼~

第37話 魔食紅蓮丸

しおりを挟む

朝は雲雀ヒバリのような鳥の鳴き声で起床する。
久しく深く眠ったため、まだ頭がぼーっとして目が覚めない。
体感的にはまだ6時ごろだろうか、リリはいびきを立てミーシャは寝相が良すぎて死んでいるのかと一瞬考えてしまった。

ハルトは立ち上がり、少しほつれているカーテンを開けて日光を部屋に取り込んだ。
太陽の眩しさに目がくらむが、「光量調整」によってすぐに戻る。

「――さて今日は何をしようか」

ハルトはまず昨日買った魔力を吸収する指輪をアイテムボックスから取り出し、指にめた。
金のリングに紫の魔石がはめ込まれたその指輪は、フィリップ曰く魔力の少ない者が使用すると魔力枯渇によって最悪死に至る、とのことだ。

今は魔力を抑えているがこれでもかなり漏れているので、初対面で警戒されないようにと買ってみたのだ。

指輪を嵌めた途端、少しくすぐったい感触とともに魔力が吸われていく。
微々たるものだが確かにハルトの魔力は薄まっていく。

しかしすぐにパリン、と音を立てて魔石が割れてしまい貯蔵された魔力は霧散むさんする。

「流石に吸いきれないか…」

だが素材を解析してより強い効果の持つ指輪を製作すれば、いつか完全に吸い取ることもできるだろう。いいアイデアを買ったな。

「もう朝ですか…、ハルト様おはようございます」

リリより先にミーシャが起きた。
窓から差し込む光によって朝だと気づく。
ちょうどハルトは武器製作に取り掛かろうとしていたところだった。

「これからリリの武器作るけど、見る?」

「いいのですか!是非!」

ミーシャは急いで髪をくしでとかしてハルトのもとに歩み寄った。
ハルトは床にあぐらをかき、自分のベッドをポンポン、と叩いてミーシャはそこに座る。

創造クリエイト」によってオリハルコンやミスリル銀を生成することは可能だが、とても時間がかかる上に本物と比べると質も劣りやすい。
結局ハルトは”ミスリル銀”を刀身に採用した。

手に持ったごつごつとしたミスリル銀は、薄く伸ばされる。
さらにハルトは指をゆっくりとすべらせ、鋭く研磨されていく。

「これ触ったら指が落ちるから気を付けてね」

ミーシャは目の前にある刃物が、そこまで恐ろしいものだということに鳥肌を立てる。

三回ほど繰り返したところで終了し、取り付けた柄に木材と紐を巻き付けた。
何も操作を加えなくても十分に強固なのだが、ミスリル銀は魔力を加えれば加えるほど頑丈になる性質を持つ。

ハルトは仕上げとして刀身に魔力を限界を超えるまで注いだ。
真っ黒であったそれは段々と赤く変色をし、光を放ち始める。

限界を超えて注がれた魔力によって、中で小さな魔力暴走が引き起こされて赤く変色するのだ…推測にはなるが。

これらは夜な夜な見張りをしながら実験をした結果分かったことだ。

赤くなった刀身は常に最高硬度を保てるだけでなく、魔力が飽和しているために、ある程度の魔法をはじき返すことも出来た。もはや刀の枠組みを超えているだろう。

「――できた。持ってみる?」

「…は、はい」

ミーシャは息を呑んで受け取るが、その手は震えている。
思わず緋色の美しい刀身に見惚れてしまう。

「――あっ」

ミーシャは顔を近づけじっくりと見ていたためか、刀が両手から落ちてしまう。
地面に向かって落ちた刀はにゅるっと床に突き刺さった。
突然天井から刃物が生えてきた女将は絶叫したことだろう。

「ご、ごめんなさい!!」

「大丈夫だよすぐ直すから」

ハルトは鍔で止まった刀を抜き、床を「創造」で修復した。
この恐ろしい切れ味の刀を”魔食紅蓮丸まばみぐれんまる”と名付けた。
実に厨二病心をそそられるネーミングだが、その性能に見合った名前だろう。

リリが起きたら渡してやろう、とハルトは黒い鞘に”魔食紅蓮丸”を納めてアイテムボックスに仕舞った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!

さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。 しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。 とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。 『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』 これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...