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王の器
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カイエンの手にあるのは砂漠で魔物の首を落とした時の物とは違う、細身の剣。
その先端は躊躇なく見慣れぬ男の喉元に突きつけられている。
それを見たジョッシュも瞬時に剣を抜いた。
尋常ではない様子のジョッシュを追ったセイロンも再び室内に駆け込んできた──と同時に声を出した。
「······エクゼオ······」
その声に反射して、カイエンが敵意を向けた男──エクゼオが身動ぐと、喉にあった剣が僅かに皮膚に触れ、血が滲む。
そのピリッとした痛みに、今更ながら自分が敵意の中心にいることに気付いたエクゼオの動きは固まった。
それに反してセイロンは我に返ったようにジョッシュに遅れて抜剣し、その刃先をエクゼオに向ける。
三人から殺意を込めた剣先を向けられたエクゼオは、息を呑んでただまっすぐにカイエンをみつめた。
エクゼオの周りに残る魔力から、転移魔法で飛んで来たのは一目瞭然。
最早魔法を使えるのはここイリブィーデの民のみと思っての慢心。
聖女の気配を探られぬ様、聖女を結界で覆っておくべきだったとジョッシュは後悔しつつもカイエンの動きに注視した。
張り詰めた空気の中、呼吸すらままならない緊張感が室内を支配し、ジョッシュもセイロンも、そしてエクゼオも初動を仕掛けられない。
そんな静寂を破ったのはやはり王であるカイエンだった。
「殺した聖女を今更追って、何とする」
「······」
「先程臣下も名を口にしていたが、ミラージュの王太子、エクゼオに相違ないな」
エクゼオの首に滲んだ血が筋を作って鎖骨へ向かう。
虫が這う様なその不快感にエクゼオの眉が僅かに動き、それに合わせるような声を絞り出した。
「······そう······だ」
「そうか。ならば聖女を追った理由はとどめを刺しに来た、というところか?」
そうではない、とはっきり確信を抱いたようにカイエンは嘲った表情を浮かべ、エクゼオに向けていた剣を鞘へ戻す。
「違う!!」
まだ年若いエクゼオにその含みは通じず、大きな声が室内に響く。
「ぼっ、私は、ただっ、聖女の身を案じてっ」
「喚くな。聖女が起きてしまう。部屋を移るぞ、ついてこい」
そう言ってカイエンが自身に背を向けたことでようやく、今まで喉元に突きつけられていた剣が消えていることに気付いたエクゼオは、細く息を吐いてすぐにカイエンの後を追う。
既に主の意を汲んで剣を鞘にしまっていたジョッシュとセイロンもその後に続いた。
聖女の部屋から3つ程離れた部屋に通されたエクゼオは勧められた椅子に座ることなく、ただただカイエンの言葉を待った。
王太子とは言え弱冠十三歳の、しかもつい数日前まで病に侵され伏していた自分と、目の前の逞しく精悍な、一国の若き王。
自分がメラルゥルを屠りに来たのではないと瞬時に見抜いた鋭い目。
器が違う。
エクゼオはそう感じながらも、必死でその視線を受け止める。
そんなエクゼオの一挙一動を見ながらカイエンは「フ」と口許に笑みを浮かべた。
嘲笑ったものではない、柔らかなその笑みにエクゼオは困惑しつつも僅かながら力が抜ける。
「まあ、惑うだろうな。とにかく座れ。ミラージュの王太子よ」
「······」
「落ち着いて話も出来ないか?それともまだ、俺に敵意があると?」
そんなことすらわからないのか?
ここまで言わないとわからないのか?
そんな含みを感じるだけの余裕が出来たエクゼオは、カイエンに従った。
「······失礼、します」
エクゼオがカイエンの正面のソファに座ったのを見て、カイエンの表情は更に柔らかくなる。
「ジョッシュ、セイロン、おまえたちは下がって休め。少し二人で話す」
「では部屋の外に控えております」
ジョッシュの力強い言葉に、これ以上言葉を重ねても無駄だと悟ったカイエンは軽く右手を上げて了承の意を示した。
その先端は躊躇なく見慣れぬ男の喉元に突きつけられている。
それを見たジョッシュも瞬時に剣を抜いた。
尋常ではない様子のジョッシュを追ったセイロンも再び室内に駆け込んできた──と同時に声を出した。
「······エクゼオ······」
その声に反射して、カイエンが敵意を向けた男──エクゼオが身動ぐと、喉にあった剣が僅かに皮膚に触れ、血が滲む。
そのピリッとした痛みに、今更ながら自分が敵意の中心にいることに気付いたエクゼオの動きは固まった。
それに反してセイロンは我に返ったようにジョッシュに遅れて抜剣し、その刃先をエクゼオに向ける。
三人から殺意を込めた剣先を向けられたエクゼオは、息を呑んでただまっすぐにカイエンをみつめた。
エクゼオの周りに残る魔力から、転移魔法で飛んで来たのは一目瞭然。
最早魔法を使えるのはここイリブィーデの民のみと思っての慢心。
聖女の気配を探られぬ様、聖女を結界で覆っておくべきだったとジョッシュは後悔しつつもカイエンの動きに注視した。
張り詰めた空気の中、呼吸すらままならない緊張感が室内を支配し、ジョッシュもセイロンも、そしてエクゼオも初動を仕掛けられない。
そんな静寂を破ったのはやはり王であるカイエンだった。
「殺した聖女を今更追って、何とする」
「······」
「先程臣下も名を口にしていたが、ミラージュの王太子、エクゼオに相違ないな」
エクゼオの首に滲んだ血が筋を作って鎖骨へ向かう。
虫が這う様なその不快感にエクゼオの眉が僅かに動き、それに合わせるような声を絞り出した。
「······そう······だ」
「そうか。ならば聖女を追った理由はとどめを刺しに来た、というところか?」
そうではない、とはっきり確信を抱いたようにカイエンは嘲った表情を浮かべ、エクゼオに向けていた剣を鞘へ戻す。
「違う!!」
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「ぼっ、私は、ただっ、聖女の身を案じてっ」
「喚くな。聖女が起きてしまう。部屋を移るぞ、ついてこい」
そう言ってカイエンが自身に背を向けたことでようやく、今まで喉元に突きつけられていた剣が消えていることに気付いたエクゼオは、細く息を吐いてすぐにカイエンの後を追う。
既に主の意を汲んで剣を鞘にしまっていたジョッシュとセイロンもその後に続いた。
聖女の部屋から3つ程離れた部屋に通されたエクゼオは勧められた椅子に座ることなく、ただただカイエンの言葉を待った。
王太子とは言え弱冠十三歳の、しかもつい数日前まで病に侵され伏していた自分と、目の前の逞しく精悍な、一国の若き王。
自分がメラルゥルを屠りに来たのではないと瞬時に見抜いた鋭い目。
器が違う。
エクゼオはそう感じながらも、必死でその視線を受け止める。
そんなエクゼオの一挙一動を見ながらカイエンは「フ」と口許に笑みを浮かべた。
嘲笑ったものではない、柔らかなその笑みにエクゼオは困惑しつつも僅かながら力が抜ける。
「まあ、惑うだろうな。とにかく座れ。ミラージュの王太子よ」
「······」
「落ち着いて話も出来ないか?それともまだ、俺に敵意があると?」
そんなことすらわからないのか?
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そんな含みを感じるだけの余裕が出来たエクゼオは、カイエンに従った。
「······失礼、します」
エクゼオがカイエンの正面のソファに座ったのを見て、カイエンの表情は更に柔らかくなる。
「ジョッシュ、セイロン、おまえたちは下がって休め。少し二人で話す」
「では部屋の外に控えております」
ジョッシュの力強い言葉に、これ以上言葉を重ねても無駄だと悟ったカイエンは軽く右手を上げて了承の意を示した。
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