上げて落として落として上げて、愛されるべき聖女は憎まれて尚聖女だった

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束の間の休息

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とは言え、聖女を迎え入れたことで変わる警護体制に予算の組み換え等、カイエンがララァルの傍に落ち着いてからも臣下たちによって会議は続き、案が出る度に纏められた書類が届けられ、朝を迎えてもカイエンは書類と睨みあっていた。

時折ジョッシュに意見を求め、サラサラとペンを走らせて改善箇所の指示を出しつつ、ララァルの様子にも気を配る。

日はすっかり昇り、昨日ララァルと共に軽食を摂って以来、食事をしていないカイエンに気遣った侍女が食事を届けても
「ラァラが起きたら一緒に食うから」
と、僅かに水を含むのみ。

殺しても死なないような頑丈さを知りつつも、寝ず、食べずの王を気遣うロゼニアとジョッシュを、逆に
「おまえたちこそ食って寝てこい」
と部屋から追い出し、眠るララァルと束の間の二人だけの時間を楽しんだ。

追い出されたジョッシュは、カイエンの気持ちを汲んで会議室に向かう。

さすがに皆疲れ果ててはいるが、今までの聖女の境遇を思ってか黙々と働き続けていた。

「皆、カイエン様から休めとのお達しだ。特にセイロン。おまえは長きに渡ってミラージュに潜っていたんだ。帰国後まだ家にも帰ってないのではないか?一度帰り、両親に顔を見せなければカイエン様からお叱りを受けることになるぞ」

「それは······だが······」

「私も今から仮眠を取らせていただく。縁結びの儀式を受けられたララァル様はまだお目覚めにならないだろう。お目覚めになった時、我ら臣下が万全であることも肝要なのではないか?」

「そう、だな。ではカイエン様にご挨拶申し上げてから下がることにする」

「ああ、そうしろ。私はこのまま下がらせてもらう」

会議室から最後の一人が出ていったのを見送って、ジョッシュは食堂に向かった。

食堂には多くの従者が遅い朝食を摂っている。

ジョッシュは柔らかいパンや暖かいスープには目もくれず、魔物討伐の際にも携帯している乾いたパンのようなクッキーを5枚重ねて口に詰め、ワインで流し込むと衛兵の配置にぬかりがないか、最後の確認をすべく配置ポイントに向かった。

ララァルの眠る場所から一番離れた場所から順に、中へ中へと進むその途中。
まだ若く経験も浅いが、魔力量の多さからララァルの居る宮内部での護衛に抜擢された兵士が声をかけてきた。

「ジョッシュ様に申し上げます」

「どうした?」

「何分経験不足故、確証はもてませんが······」

「言ってみろ」

「はっ。いましがた遥か遠い場所にて、大きな魔力が放出されたように感じました」

「方角はわかるか?」

「はい。東······ミラージュ王国の方向です」

「······ミラージュか。わかった。引き続き警戒体制を怠らないように。何か異変を感じたらすぐに知らせろ」

「はっ」

ジョッシュは、カイエンを追いかけて走った時よりも更にスピードをあげるべく、脚力強化の魔法を使って走った。

ララァルの部屋を視界にとらえると、丁度そこから挨拶を終えたらしいセイロンが出てくる。

「どうした?慌てて」

驚いたセイロンが問いかけてくるも、その横を風だけ残して駆け抜ける。

「カイエン様!」

ジョッシュが声を上げながら室内に入ったのと、カイエンが抜剣したのは同時だった。
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