上げて落として落として上げて、愛されるべき聖女は憎まれて尚聖女だった

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目覚めた王太子

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「エクゼオ様。お気付きになったの······ですね」

ブリアンヌの瞳がエクゼオの瞳を捉え、二日ぶりのその瞳に心を奪われる。

この世の物とは思えぬ美しい輝きを放つエクゼオの瞳はインペリアルトパーズ。
瞳にトパーズカラーを持つ王族の中でも稀有な存在。

ああ······わたくしのエクゼオ様······

国宝と評されるどんな宝石よりも美しい、とブリアンヌは思う。

「······ブリアンヌ······僕は······」

「ああ···エクゼオ様···無理にお身体を起こさず、まだお休みになってくださいまし。すぐに侍医をお呼びします」

まだ少年特有の高い声と共に起き上がろうとするエクゼオを制して、ブリアンヌはベルを鳴らす。

すぐにやって来た侍女に、医師の手配と新しい飲み物や軽食の準備を命じると、再び横になったエクゼオの手を握った。

「お眠りになられて、二日経ちましたのよ」

「······そうか······。心配をかけたね」

「良いのです。こうしてお目覚めになってくださったのですから。ご気分はいかがですか?」

「······良い。······こんなに身体が楽なのはいつぶりだろう。今すぐにでも剣の稽古が出来そうだよ」

「うふふ。それはさすがにお控えくださいませ。先ずはきちんとしたお食事を召し上がっていただけるようになりませんといけませんわ」

「······確かにそうだね。随分胃も小さくなってるだろうし、筋肉も落ちたから······鍛え直すのに苦労しそうだよ」

「エクゼオ様ならすぐに元通りになりますわ。ですから御無理だけはなさらないでください。今はお休みになることこそが、エクゼオ様のすべきことでございます」

「ああ、わかってるよ。これ以上皆に心配をかけさせるわけにはいかないからね。ところで、聖女は今──」

エクゼオが言いかけたところでノックの音が響く。
入室の許可を得て入ってきたのは医師モードゥ。

簡単な診察と、エクゼオに完治を告げれば次いで侍女が軽食を運び入れる。
そして遅れて国王、王妃もやって来ると、途端に室内は賑やかになった。

そんな中、ブリアンヌは一人複雑な気持ちを抱く。

エクゼオが聖女を気にかけている。

エクゼオは聖女の死を知らない。

今は国王と王妃が上手く聖女の話題が出ないようにしているが、そう長く持たないだろう。

エクゼオは一度目の癒しを受けて意識を取り戻した後も、とかく聖女を気にかけていた。

その時も聖女が死に瀕していることは伏せ、単に目減りした力を戻すために休んでいる、とした。

今回国民に告げたように傲慢になった聖女を処したと告げたとして、果たしてエクゼオは納得するだろうか。

ブリアンヌも知らされていない聖女を処した本当の理由。
それを王はエクゼオに告げるのだろうか。

ブリアンヌは今更ながら胸のざわつきを抑えきれず、愛しいエクゼオの元を辞し、王太子宮内に用意された自室へ下がる。

王と王妃がエクゼオの中から聖女という名の塵を一粒残らず払ってくれると、信じて祈ることしかできなかった。
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