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受け入れる聖女
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メラルゥルの痩せ細った身体と、おそらくこれ以上ない程小さくなった胃を考え、少なすぎではあるものの適量の食事をメラルゥルに飲み込ませた後、カイエンがわずかに動いた。
今まではソファの背に身体を預け、くつろいでいた姿勢を正す。
そしておもむろに口を開いた。
「時に聖女よ。己の身に起きていることは理解しているだろうか······。······毒······を盛られたことは気付いているか?」
「······はい」
カイエンは小さく「そうか」と呟いて続けた。
「先ず1つ言っておく。おそらく耐え難い苦しみだったであろう。おまえは1度、死んでいる。······とは言っても仮死、だが。······ただこれはミラージュの王ですら知らないことであろうが、聖女に毒は効かないんだ」
メラルゥルは特に驚いた様子もなく、黙ってカイエンの言葉を聞き続ける。
「これも語弊がないように言っておくが、効かないと言っても常人における致死量を飲めば仮死状態にはなる。だからこそミラージュ王国も聖女は死んだものと思って、おまえを砂漠に捨てたんだ······魔物に喰わせて、文字通り骨も残さない為にな」
「カイエン様。あまり直接的なことは──」
ジョッシュが思わず声を上げるが、カイエンはそれを片手で制す。
「聖女よ。はっきり言うがおまえは何も知らない。勿論俺も知らないことは多いであろうが、それでもおまえに伝えねばならないことが山のようにある。だがそれを今、全ておまえに伝える事は出来ない。それはなにもおまえに嫌がらせをしたいわけではなく、おまえの心の安寧を図るためだ。わかってくれるか?」
「······はい······」
「よし。では、今から俺が行うことも、全ておまえの為を思ってやることだと理解してくれると助かる」
「······はい······」
メラルゥルがそれしか答えられないと知ってはいても、カイエンは優しい笑みを浮かべてソファから離れる。
そしてそのままメラルゥルの座るソファに近づくと、床に跪いてメラルゥルを見上げた。
「聖女メラルゥルよ。今からおまえと俺の縁を結ぶ儀式を行う。これはおまえを今まで虐げてきたミラージュ王国から、おまえを守る為にどうしても必要な儀式だ。俺はかの国とは違う。誓っておまえを傷つけない。生涯おまえを敬い、慈しむ。どうか俺を受け入れてくれ」
メラルゥルはここに至って初めて、砂漠で言われた「妻」と言う意味を正しく理解した気がした。
縁を結ぶ儀式というものが結婚に直結しているかどうかはわからない。
ただ、カイエンはその先に結婚を見据えている。
言葉としてのみ知る『夫婦』という絆は、メラルゥルにとっての空想上のおとぎ話。
それでもこれほど強く「守り、敬い、慈しむ」という言葉をくれたカイエンにメラルゥルは、生まれて初めて感謝し、心の底から
「はい」
と応えた。
今まではソファの背に身体を預け、くつろいでいた姿勢を正す。
そしておもむろに口を開いた。
「時に聖女よ。己の身に起きていることは理解しているだろうか······。······毒······を盛られたことは気付いているか?」
「······はい」
カイエンは小さく「そうか」と呟いて続けた。
「先ず1つ言っておく。おそらく耐え難い苦しみだったであろう。おまえは1度、死んでいる。······とは言っても仮死、だが。······ただこれはミラージュの王ですら知らないことであろうが、聖女に毒は効かないんだ」
メラルゥルは特に驚いた様子もなく、黙ってカイエンの言葉を聞き続ける。
「これも語弊がないように言っておくが、効かないと言っても常人における致死量を飲めば仮死状態にはなる。だからこそミラージュ王国も聖女は死んだものと思って、おまえを砂漠に捨てたんだ······魔物に喰わせて、文字通り骨も残さない為にな」
「カイエン様。あまり直接的なことは──」
ジョッシュが思わず声を上げるが、カイエンはそれを片手で制す。
「聖女よ。はっきり言うがおまえは何も知らない。勿論俺も知らないことは多いであろうが、それでもおまえに伝えねばならないことが山のようにある。だがそれを今、全ておまえに伝える事は出来ない。それはなにもおまえに嫌がらせをしたいわけではなく、おまえの心の安寧を図るためだ。わかってくれるか?」
「······はい······」
「よし。では、今から俺が行うことも、全ておまえの為を思ってやることだと理解してくれると助かる」
「······はい······」
メラルゥルがそれしか答えられないと知ってはいても、カイエンは優しい笑みを浮かべてソファから離れる。
そしてそのままメラルゥルの座るソファに近づくと、床に跪いてメラルゥルを見上げた。
「聖女メラルゥルよ。今からおまえと俺の縁を結ぶ儀式を行う。これはおまえを今まで虐げてきたミラージュ王国から、おまえを守る為にどうしても必要な儀式だ。俺はかの国とは違う。誓っておまえを傷つけない。生涯おまえを敬い、慈しむ。どうか俺を受け入れてくれ」
メラルゥルはここに至って初めて、砂漠で言われた「妻」と言う意味を正しく理解した気がした。
縁を結ぶ儀式というものが結婚に直結しているかどうかはわからない。
ただ、カイエンはその先に結婚を見据えている。
言葉としてのみ知る『夫婦』という絆は、メラルゥルにとっての空想上のおとぎ話。
それでもこれほど強く「守り、敬い、慈しむ」という言葉をくれたカイエンにメラルゥルは、生まれて初めて感謝し、心の底から
「はい」
と応えた。
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