上げて落として落として上げて、愛されるべき聖女は憎まれて尚聖女だった

文字の大きさ
上 下
8 / 15

受け入れる聖女

しおりを挟む
メラルゥルの痩せ細った身体と、おそらくこれ以上ない程小さくなった胃を考え、少なすぎではあるものの適量の食事をメラルゥルに飲み込ませた後、カイエンがわずかに動いた。

今まではソファの背に身体を預け、くつろいでいた姿勢を正す。
そしておもむろに口を開いた。

「時に聖女よ。己の身に起きていることは理解しているだろうか······。······毒······を盛られたことは気付いているか?」

「······はい」

カイエンは小さく「そうか」と呟いて続けた。

「先ず1つ言っておく。おそらく耐え難い苦しみだったであろう。おまえは1度、死んでいる。······とは言っても仮死、だが。······ただこれはミラージュの王ですら知らないことであろうが、聖女に毒は効かないんだ」

メラルゥルは特に驚いた様子もなく、黙ってカイエンの言葉を聞き続ける。

「これも語弊がないように言っておくが、効かないと言っても常人における致死量を飲めば仮死状態にはなる。だからこそミラージュ王国も聖女は死んだものと思って、おまえを砂漠に捨てたんだ······魔物に喰わせて、文字通り骨も残さない為にな」

「カイエン様。あまり直接的なことは──」

ジョッシュが思わず声を上げるが、カイエンはそれを片手で制す。

「聖女よ。はっきり言うがおまえは何も知らない。勿論俺も知らないことは多いであろうが、それでもおまえに伝えねばならないことが山のようにある。だがそれを今、全ておまえに伝える事は出来ない。それはなにもおまえに嫌がらせをしたいわけではなく、おまえの心の安寧を図るためだ。わかってくれるか?」

「······はい······」

「よし。では、今から俺が行うことも、全ておまえの為を思ってやることだと理解してくれると助かる」

「······はい······」

メラルゥルがそれしか答えられないと知ってはいても、カイエンは優しい笑みを浮かべてソファから離れる。

そしてそのままメラルゥルの座るソファに近づくと、床に跪いてメラルゥルを見上げた。

「聖女メラルゥルよ。今からおまえと俺の縁を結ぶ儀式を行う。これはおまえを今まで虐げてきたミラージュ王国から、おまえを守る為にどうしても必要な儀式だ。俺はかの国とは違う。誓っておまえを傷つけない。生涯おまえを敬い、慈しむ。どうか俺を受け入れてくれ」

メラルゥルはここに至って初めて、砂漠で言われた「妻」と言う意味を正しく理解した気がした。

縁を結ぶ儀式というものが結婚に直結しているかどうかはわからない。
ただ、カイエンはその先に結婚を見据えている。

言葉としてのみ知る『夫婦』という絆は、メラルゥルにとっての空想上のおとぎ話。

それでもこれほど強く「守り、敬い、慈しむ」という言葉をくれたカイエンにメラルゥルは、生まれて初めて感謝し、心の底から

「はい」

と応えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

元上司に捕獲されました!

世羅
恋愛
気づいたら捕獲されてました。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

処理中です...