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生きていた聖女
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1人で手早く湯を浴び、早々に湯殿から出てきた、まだ髪も乾かぬカイエンのもとに、メラルゥルを案内していった女性がやってきた。
その表情は酷く暗く、苦痛に耐えているようにも見える。
それだけでカイエンには今から聞かされるであろうことがわかって、それを遮りたくなった。
「カイエン様、聖女様はまだ湯浴みの最中にございますが、お身体にはやはり予想をはるか上回る虐待の痕がございました」
「······そう、だろうな······」
「わたくしどもから癒しの力をお使いいただくよう進言するのは、聖女様を戸惑わせてしまうかと······今は控えております」
「ああ。それで良い」
「ただ、不幸中の幸いと申しますか、全ては痕のみ。傷は全てふさがっておりましたので、最近ご自身に力をお使いになったのではないかと思われます」
「そうか。ならば痕を消すのも容易いだろうに···そうしなかったのはこれまでの経験則か···。それについては俺から折を見て伝えよう」
「お願いいたします」
「それで、儀式の間は整ったのか?」
「はい。そちらは既に。それと、聖女様が召し上がれるような軽食もご用意しておきますので、儀式の前にカイエン様もご一緒にお召し上がりください」
「ああ。わかった。場所はそうだな······」
「噴水に面したテラスはいかがでしょうか。聖女様の湯殿にも儀式の間にも近く、ロングソファにクッションを多めに敷いておけば、聖女様もおくつろぎいただけるかと」
「そうだな。ではそうしてくれ。ジルダスたちは帰ってきたか?」
「はい。今はジョッシュ様が対応しておりま──」
「カイエン様」
女性の声を遮る男の声が響く。
カイエンがそちらに視線を移せば、アーチ型にくり貫かれた出入口からジョッシュが姿を見せた。
その後ろには1人の男が続く。
「セイロン!」
カイエンの声に、セイロンと呼ばれた男が胸に手を宛て頭を下げる。
「戦士隊情報部セイロン、ただいま帰りました。此度は聖女様をお救い出来ず、申し開きのしようもございません」
「······聖女の死亡原因は何と報された?」
「服毒による処刑と」
「ならば縁切りも出来る絶離草で間違いないな」
「はい。聖女様死亡の報を受け急ぎ城に潜入したところ、僅かではありましたが絶離草の粉末を発見いたしました。ただ、聖女様の亡骸は既に砂漠に······」
セイロンが無念を表情に滲ませ、拳を握る。
カイエンはそんなセイロンをみとめ、ジョッシュを呆れたように見た。
「なんだ、ジョッシュ教えてないのか」
「ええ。鬼気迫る勢いで先ずはカイエン様に謝罪を······と申しておりましたので」
セイロンはほんの一瞬『なんのことだ?』と疑問を浮かべ、次の瞬間何かに気付いたように瞳を潤ませた。
「もしや······聖女様は······」
「ああ。生きている。今ミラージュの汚れを落としているところだ」
カイエンのその言葉に、みるみる盛り上ったセイロンの涙はしばらくの間留まることなく流れ続けた。
その表情は酷く暗く、苦痛に耐えているようにも見える。
それだけでカイエンには今から聞かされるであろうことがわかって、それを遮りたくなった。
「カイエン様、聖女様はまだ湯浴みの最中にございますが、お身体にはやはり予想をはるか上回る虐待の痕がございました」
「······そう、だろうな······」
「わたくしどもから癒しの力をお使いいただくよう進言するのは、聖女様を戸惑わせてしまうかと······今は控えております」
「ああ。それで良い」
「ただ、不幸中の幸いと申しますか、全ては痕のみ。傷は全てふさがっておりましたので、最近ご自身に力をお使いになったのではないかと思われます」
「そうか。ならば痕を消すのも容易いだろうに···そうしなかったのはこれまでの経験則か···。それについては俺から折を見て伝えよう」
「お願いいたします」
「それで、儀式の間は整ったのか?」
「はい。そちらは既に。それと、聖女様が召し上がれるような軽食もご用意しておきますので、儀式の前にカイエン様もご一緒にお召し上がりください」
「ああ。わかった。場所はそうだな······」
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「そうだな。ではそうしてくれ。ジルダスたちは帰ってきたか?」
「はい。今はジョッシュ様が対応しておりま──」
「カイエン様」
女性の声を遮る男の声が響く。
カイエンがそちらに視線を移せば、アーチ型にくり貫かれた出入口からジョッシュが姿を見せた。
その後ろには1人の男が続く。
「セイロン!」
カイエンの声に、セイロンと呼ばれた男が胸に手を宛て頭を下げる。
「戦士隊情報部セイロン、ただいま帰りました。此度は聖女様をお救い出来ず、申し開きのしようもございません」
「······聖女の死亡原因は何と報された?」
「服毒による処刑と」
「ならば縁切りも出来る絶離草で間違いないな」
「はい。聖女様死亡の報を受け急ぎ城に潜入したところ、僅かではありましたが絶離草の粉末を発見いたしました。ただ、聖女様の亡骸は既に砂漠に······」
セイロンが無念を表情に滲ませ、拳を握る。
カイエンはそんなセイロンをみとめ、ジョッシュを呆れたように見た。
「なんだ、ジョッシュ教えてないのか」
「ええ。鬼気迫る勢いで先ずはカイエン様に謝罪を······と申しておりましたので」
セイロンはほんの一瞬『なんのことだ?』と疑問を浮かべ、次の瞬間何かに気付いたように瞳を潤ませた。
「もしや······聖女様は······」
「ああ。生きている。今ミラージュの汚れを落としているところだ」
カイエンのその言葉に、みるみる盛り上ったセイロンの涙はしばらくの間留まることなく流れ続けた。
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