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極彩色
イーリン
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ヤンは頭を床に擦りつけた。
「それ、は……?!」
「ウユチュ様、早く逃げてください。女王があなた達を捕まえにもう来るでしょう。……お湯を沸かす前にあちらに報告しました」
「なん、だって!?」
「ヤンおばさん……顔を上げてください……どうして、今それを我々に教えてくれるのですか?」
「ウユチュ様達を捕えればイーリンを返してくれると言われました。この事態を招いたのも全てウユチュ様のせいだとも。でも……やっぱりウユチュ様やスドゥル坊ちゃんが不幸になるのは耐えられない。――どうか、逃げて……逃げて、イーリンに私は元気だと伝えてください。いつでも思っていると」
「ヤンおばさん……」
頭を地べたに貼り付けたまま、ヤンはずっと詫びの言葉を述べている。なんとかしてやりたいが、今は逃げる事しかできない。
「皆行くぞ!立つんだ! 」
タシュの声を合図に、皆が一様に動き出す。ただ、ウユチュを除いて。
「ウユチュ様、どうしましたか?」
「スドゥル……力が入らないわ……痺れてしまって……」
素早く動いたエベツがヤンの首元をつかみ持ち上げ、立ち上がらせた。
「何か入れたのか!?」
「申し訳ありません……でも、命を取るような薬ではありません、痺れ薬です」
「何故ウユチュ様を狙った?縁があるお方だろう?」
「狙ってません!一つ分しか薬が手に入らなかったから……でも、ウユチュ様は何度も茶を飲んでいるから、あなたの前に置いたつもりだったのです――!……イーリンに会いたかった」
ヤンの目からは、涙が溢れ続けている。エベツとて、老女を詰問なんぞしたくない。
「どれくらいの量だ?」
「……多分、数時間かと。少しでも足止めになればと……」
「皆、聞いて。逃げて頂戴。……私はここに残ります。そしてクロレバの足止めをする」
「何を言うんです!?あなた無くして外に出る意味が私にはありません!」
「大丈夫よスドゥル、あなたは賢い子よ。それに、タシュという友を得た今、私がいなくても生きていけるわ」
「そんな事は――」
「これ以上足枷にはなりたくないの。あの道は過酷だと聞いているわ。行き着く先が砂漠だと言う人もいた。歩けない足では足手まといだわ最後くらい、母親らしい事をさせて頂戴」
ウユチュの柔らかな手が、スドゥルの頬に添えられる。頬を伝っていた涙が、ウユチュの指へと流れていく。
「いいえ、ウユチュ様。それはさせません。ヤンおばさん、布をお借りします」
スドゥルはヤンの頭に巻かれいた長い布を取ると、ウユチュを背に括り付けた。赤子のように負ぶられて、ウユチュは恥ずかしそうだ。
「スドゥル!私を背負ったままなんて無理よ!」
「あなたが居なければ、外に出る理由はないのです。今は私に従って下さい」
「――スドゥル……」
「それに、抜け道はウユチュ様しか知らないんだろ?じゃあ、来てもらわないと困るじゃないか」
「タシュ……そう、そうね、私がいないと困るのなら――。スドゥル、お願いね」
「もちろんです」
ウユチュはスドゥルの首に腕を回し、後ろから抱きしめる。しばらくして、顔をあげ、エベツに捕えられたままのヤンへと顔を向けた。
「エベツ、離してあげて。彼女にも事情がある事は分かっているでしょう?」
「はっ」
解放されたヤンは、スドゥルに縋るように掴まった。
「ウユチュ様……!私は愚かな事をしてしましました……!」
「ヤンさん。私の方こそ至らなくてごめんなさい。――あなたを許します。イーリンも必ず見つけるわ。私には無理でも、スドゥルがしてくれる筈よ。だから安心して、長生きして下さい」
「イーリンは外に出たらすぐに探します、ヤンおばさん」
「ウユチュ様!スドゥル坊ちゃんも……!ありがとう、ありがとう……」
拝むように何度も手を合わせるヤンを残し、一行は家を飛び出した。
「それ、は……?!」
「ウユチュ様、早く逃げてください。女王があなた達を捕まえにもう来るでしょう。……お湯を沸かす前にあちらに報告しました」
「なん、だって!?」
「ヤンおばさん……顔を上げてください……どうして、今それを我々に教えてくれるのですか?」
「ウユチュ様達を捕えればイーリンを返してくれると言われました。この事態を招いたのも全てウユチュ様のせいだとも。でも……やっぱりウユチュ様やスドゥル坊ちゃんが不幸になるのは耐えられない。――どうか、逃げて……逃げて、イーリンに私は元気だと伝えてください。いつでも思っていると」
「ヤンおばさん……」
頭を地べたに貼り付けたまま、ヤンはずっと詫びの言葉を述べている。なんとかしてやりたいが、今は逃げる事しかできない。
「皆行くぞ!立つんだ! 」
タシュの声を合図に、皆が一様に動き出す。ただ、ウユチュを除いて。
「ウユチュ様、どうしましたか?」
「スドゥル……力が入らないわ……痺れてしまって……」
素早く動いたエベツがヤンの首元をつかみ持ち上げ、立ち上がらせた。
「何か入れたのか!?」
「申し訳ありません……でも、命を取るような薬ではありません、痺れ薬です」
「何故ウユチュ様を狙った?縁があるお方だろう?」
「狙ってません!一つ分しか薬が手に入らなかったから……でも、ウユチュ様は何度も茶を飲んでいるから、あなたの前に置いたつもりだったのです――!……イーリンに会いたかった」
ヤンの目からは、涙が溢れ続けている。エベツとて、老女を詰問なんぞしたくない。
「どれくらいの量だ?」
「……多分、数時間かと。少しでも足止めになればと……」
「皆、聞いて。逃げて頂戴。……私はここに残ります。そしてクロレバの足止めをする」
「何を言うんです!?あなた無くして外に出る意味が私にはありません!」
「大丈夫よスドゥル、あなたは賢い子よ。それに、タシュという友を得た今、私がいなくても生きていけるわ」
「そんな事は――」
「これ以上足枷にはなりたくないの。あの道は過酷だと聞いているわ。行き着く先が砂漠だと言う人もいた。歩けない足では足手まといだわ最後くらい、母親らしい事をさせて頂戴」
ウユチュの柔らかな手が、スドゥルの頬に添えられる。頬を伝っていた涙が、ウユチュの指へと流れていく。
「いいえ、ウユチュ様。それはさせません。ヤンおばさん、布をお借りします」
スドゥルはヤンの頭に巻かれいた長い布を取ると、ウユチュを背に括り付けた。赤子のように負ぶられて、ウユチュは恥ずかしそうだ。
「スドゥル!私を背負ったままなんて無理よ!」
「あなたが居なければ、外に出る理由はないのです。今は私に従って下さい」
「――スドゥル……」
「それに、抜け道はウユチュ様しか知らないんだろ?じゃあ、来てもらわないと困るじゃないか」
「タシュ……そう、そうね、私がいないと困るのなら――。スドゥル、お願いね」
「もちろんです」
ウユチュはスドゥルの首に腕を回し、後ろから抱きしめる。しばらくして、顔をあげ、エベツに捕えられたままのヤンへと顔を向けた。
「エベツ、離してあげて。彼女にも事情がある事は分かっているでしょう?」
「はっ」
解放されたヤンは、スドゥルに縋るように掴まった。
「ウユチュ様……!私は愚かな事をしてしましました……!」
「ヤンさん。私の方こそ至らなくてごめんなさい。――あなたを許します。イーリンも必ず見つけるわ。私には無理でも、スドゥルがしてくれる筈よ。だから安心して、長生きして下さい」
「イーリンは外に出たらすぐに探します、ヤンおばさん」
「ウユチュ様!スドゥル坊ちゃんも……!ありがとう、ありがとう……」
拝むように何度も手を合わせるヤンを残し、一行は家を飛び出した。
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