上 下
62 / 78
極彩色

住処

しおりを挟む
「――どちらにせよ、そのままの姿では動きにくいだろう?家にあるのでよければ、服を着替えると言い。それくらいの時間なら、あるだろう?」
「そんな、そこまでお世話になるなんて……」
「家はこの裏だ。覚えてるだろう?」
 ウユチュは後ろに立ったままだった皆の顔を見ると、首を傾げた。ヤンに付いて行っても良いかを聞いているのだと合点がいったタシュは、こくり、と頷いた。
 前回よりは大きな女官服を用意してもらったとはいえ、やはり脇やらが少々キツく、動きづらいのが正直なところだ。もうここからは外に出る道しか行かない筈。となれば、もう女官服を脱ぎ去ってしまってもよいだろう。
 ちら、と横に立ったままのトゥフタを見ると、合図もしていないのに目が合った。
 この美しい姿も見納めかと思うと、少々勿体ない気持ちになる。
「――ウユチュやスドゥルは、ここで生活していたのだな」
「あ?――ああ、そうらしいな。んで、あの婆さんはそん時の知り合いってことだな」
「初めて本物の老人を見た」
「……どう思った?」
「私は……私達は老いる前に命が尽きる。それが良い事だと教えられてきた。美しいままで、醜く老いる事なく死ねるのは、幸せだと」
「……まあ、ある意味そうかもな」
「だが、あの老女を見ても私は醜いとは思わない。ウユチュを見て流した涙は美しいと思えた」
「ふぅん……?」 
「タシュはどう思うんだ?」
 トゥフタの純粋な問いに、腕を組んで少々考えてみた。タシュからすれば老人なんて珍しくもなんとも無い存在だ。それを今更どう思うと聞かれても返答に困ってしまう。トゥフタは何を聞きたいんだろう。
「――まあ、トゥフタ達の受けた教えの真偽は分からんが、トゥフタなら、ジジイになっても綺麗なままだと思うぞ。多分、綺麗なジジイになる」
「――っ!なんだそれは……!ありえないっ」
 トゥフタが軽く握った拳でタシュの肩を叩く。その表情は明るく、多分、トゥフタの聞きたかった答えに近かったのだろうと安堵した。
 大袈裟に痛がりながら、老人になったトゥフタを想像してみる。金糸の髪は白髪になるのだろうか。艶やかな長い髪を切って、白髪で短髪になるトゥフタ。
 年齢を感じさせる皺は、彼の年輪であり、生きてきた背景が映し出されるようで威厳に満ちていそうだ。
 白髪になったタシュ自身を、トゥフタの横に添えてみる。
「うん、悪くない」
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない。ほら、ウユチュ様達もう進んでるぞ。追い付こう!」
 差し出したタシュの手を、トゥフタは自然と取った。二人は前を歩く一行に追い付いても、手を繋いだままだった。
 極彩色な世界は、前に進む力を与えてくれるように感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

処理中です...