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正しい事

美少女、女官、多分女官

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 この国では区画をセルと呼ぶ。何セルまであるのか、タシュは知らないが、ナンバリングされたセルのゼロ番は王宮を指し、第一セルが女王と王の子供たちを育てる区画である。皆が目指す第二セルは外から来た人間と交わって出来た子供や、その子孫が営んでいるセルだ。
 その第二セルへの道順は、拍子抜けするぐらいスムーズだった。やはり、先導するエベツが女官たちには効果的だったらしい。若干訝しむように見つめてくる女官もいたが、エベツの一瞥を受けて目を逸らしていた。
 女官たちの中には、布で隠しきれないトゥフタの美しさに目を奪われていただけの人物もいたかもしれないけれど。
「エベツ様様だなあ」
 口笛混じりにそう言ったタシュの歩き方は、すっかり大股に戻ってしまっている。
「気を抜くな。これでも女官長だからな。私に進言出来る女官は少ない。……しかし、第二セルに入るには理由が必要だぞ?どうするんだ?」
「これは失礼。理由かあ、それは多分、大丈夫」
「多分……?」
「スドゥルがなんとかするって言ってたから大丈夫」
 人任せすぎる回答に眉を寄せたエベツが、第二セルの門の前に立つ人影を捉えた。
「あれは――」
 門の前で、楽し気に談笑する美少女が一人と女官が二人見える。否、その女官のうちの一人はスドゥルで、気を張っていたエベツの肩の力が抜ける。
「お前までそんな恰好を……」
「仕方ないだろう。これしか案が無かったんだ」
 スドゥルの女装に、思わず頬を緩ませそうになったエベツだったが、すぐに気を正した。
「それよりどうした?ここは衛兵がいるはずでは?」
 守るべき守り人がいないという、警備の薄さは今は有難いが宮の守りとしては見過ごせない。眉を寄せたまま詰問しかけたエベツは、美少女の正体に今更気がついた。
「ウユチュ、様……」
「お久しぶりね、エベツ。そして、トゥフタ」
 名を呼ばれ、トゥフタは顔を覆っていた布を外し、頭を垂れた。その横で、エベツも倣うように頭を下げる。
「お久しぶりです」
「やはり、あなたは変わらず美しいのね」
 眩しそうに目を細めるウユチュの言葉に、タシュはうんうん、と一人同意している。
「貴方も変わらないじゃないですか」
「お気遣いありがとうトゥフタ。……こんな事態になってしまってごめんなさい。全ての責任は私にあるわ」
「そんな事は――」
「お話しはそれくらいで。いつ衛兵が戻ってくるのかわかりませんから」
 言葉を交わす二人に割って入ったのはもう一人の女官だ。こちらはキチンと女性である。この女官に、タシュは見覚えがあった。
「君は確か――」
「その恰好の時に良くお会いしますね」
「やっぱりあの時の!」
 前回女装した時に出会った女官だと理解し、見覚えがあると感じたことが当たって素直に嬉しかった。
「どうか、皆さまを無事に外に連れ出して下さい」
 女官が花が綻ぶように笑った顔がウユチュにそっくりだった。雰囲気はクロレバよりも彼女の方がウユチュに似ている。この国の血筋の話を聞いた後だと、なんとも言えない気持ちになった。
「やっぱり、君は笑顔が凄く良いね」
「うふふ。ありがとうございます。どうぞ皆さまご無事で――」
 ぺこりと頭を下げた女官に、皆がそれぞれ言葉をかけ、門の中へと順に入っていく。最後に門を通ったエベツとは、特に長く話しているようだった。皆と縁深い女官なのだろう。聞きたかったが今は時間が少ない。タシュは、薄暗い通路に目を凝らした。
 門の中は蝋燭の灯がついた、細長い通路だった。危険が無いように身を寄せ合って進んでいく。
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