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可哀そうなトゥフタ

芽生えた願い

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 白い腕に締め付けられた跡が鮮やかだった。トゥフタと過ごした時間はそんなに長くは無いけれど、彼が悪い奴ではな事は分かった。どちらかと言うと世間知らずな籠の鳥で、話を聞く限り可哀そうな立場にいるのかもしれない。
 綺麗な綺麗なトゥフタ。出来るなら笑っていて欲しい。美しい顔で涙を流さないで欲しい。白い手に、赤い跡なんか付けず、白いシーツに包まれてただただ穏やかにいて欲しい。叶うなら、彼に快楽を教えてやりたい。人が交わう事は、幸福なことだと分かって欲しい。

 額にひんやりとした手が触れて、タシュは目を開いた。
「起きたか?」
 その手を思わず掴み、引き寄せる。
「――っと……!どうしたタシュ?」
 態勢が崩れたトゥフタの長い髪が顔にかかった。金糸の髪の隙間から見えた窓の外は、夜の帳が降りきっていて、遠くにキラキラと小さな星が見えた。
「痛くは無いか?」
「痛く……?」
 言われて、腕を動かしてみるが特に痛みは無かった。むしろ唇を開く時に若干くっ付いていて、発声がしにくかった。
「一体……」
「説明してやるから、まずは手を離せ。そろそろ腕が辛い」
「ああそうか、すまない」
 タシュに体重を掛けまいと、肘で支えていたトゥフタの声が僅かに震えているのは、細腕が限界だからだろう。しかし、タシュはトゥフタの手を離さなかった。
「タシュ?」
「こうすれば良い」
「わっ……」
 タシュはトゥフタの手を更に引くと、仰向けに寝転がる自身の上へと抱き留めた。丁度タシュの胸元にトゥフタの頬が触れる。
「何を――?」
 戸惑いの声をあげるトゥフタの頭を、優しく撫でた。
「――お前、心の臓が早鐘を打っているぞ」
「そりゃ、美人を抱いてるんだから、そうなるさ」
「私は男だ。お前が恋したアイムとは違う」
「分かってるよ。男だろうがなんだろうが、あんたが美しいって事にかわりは無いさ」
「まあそうだが、……外の男はそういうものか?」
 胸元から顔を上げたトゥフタと目が合った。緩む胸元には、女性ならではの膨らみは無いが、小さな突起が見えた。
「皆の事はしらん。だが、俺は、今まで見た誰よりもあんたが魅力的に見える。辛さしか知らないあんたに、性の悦びを教えてやりたいって思うほどに」
「それは、私を抱きたいという意味か?」
「そう聞こえたか?」
「……タシュ、さっきより心臓のリズムが上がってるぞ」
「しょうがないだろ、自分からこんなこというのは初めてなんだ。まあそっちはこんな事言われたくらいじゃ何も響かんだろうけどさ」
 トゥフタが目元を緩ませて、微笑んだ。
 いつもよりも妖艶に見えるのは、彼が情事の後だからか、それとも夜という時間だからか。
「……私のこれはどういう事だと思う?」
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