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可哀そうなトゥフタ
苦しさはベッドの上に
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「少し休めばまだ出来るだろう?私は一旦仕事に戻るが、後でまた来る。それまでに体を整えておけ」
大きな柔らかなベッドの上で、うつろな目で天井を見上げるトゥフタにそう言うと、簡易的な服に袖を通し、クロレバは部屋を出ていってしまった。
入れ替わるようにエベツ入室すると、その手には温かい湯と布があった。
「清拭しますね」
「良い、このままで。出ていけ」
「そのままですとクロレバ様が――」
「わかった、自分でする。……しばらく一人にしてくれ」
「――外に控えております、何かありましたらお呼び下さい」
枕もとに湯の入った桶と布を置き、エベツはなるべくトゥフタを見ないようにして扉を薄く開けた。
その瞬間、ドアの間に足が差し込まれた。
「何者!?」
「エベツさん、俺だよ俺!」
「何をして!?部屋にいろと――」
「いやぁ、考えれば考えるほどトゥフタがやっぱり心配で……」
そのままするりとドアの中に体を滑り込ませて来たのは、丈の合っていない女官服を着たタシュだった。
二の句が告げずにいる間にそれが自分の服だと気付いた。窘めようとエベツが口を開きかけた時、目の前の大きな男の顔の表情が驚きへと変化するのが見えて、口を噤んだ。
「大丈夫か、トゥフタ?!」
「タシュ待て!私と退出なさい!」
外へと腕を引くも、さすが男の力である。びくともせず、タシュはベッドに薄布一枚で横たわるトゥフタの元へと駆け寄っていってしまった。
「タシュ?!なぜ――っ」
「大丈夫か?泣いたのか?涙の跡が……」
ここにいるはずの無い男が袖口で涙の跡を拭ってくる事への戸惑いが隠せない。戸惑い、驚き、それ僅かにだが嬉しさが混じっている事をトゥフタは感じた。
しかし、それでもここにいればタシュに危険が及んでしまうかもしれない。
「トゥフタ様は休憩中だ。クロレバ様が少しすれば戻ってくる!早く私の部屋へ――」
「どうしてだ?!エベツさんはトゥフタの味方じゃないのか?!泣いてるぞ?」
「いいから早くこっちへ!」
「嫌だ!一体何がどうなってんだ!?泣くほど辛い事をされてるんだろ!?」
エベツとタシュの押し問答が終わらないのを感じ、トゥフタが細い声で割って入った。
「タシュはここにいろ。エベツ、外で見張っていてくれ」
「――っ……承知しました」
不安げな表情のままトゥフタの言葉に従い、エベツは静かに扉を開けて外で待機した。
「タシュ……こんな姿、見せたくなかった」
いつにもなく弱気な王の頬に、そっと手を添える。頬が冷えているように感じるのはトゥフタの心が冷えているからか。
「話してくれ。俺で力になれる事は何かないか?」
「無い。だが、話さねばお前は帰らないだろう?この数日でお前の事は少しは理解しているつもりだ」
「当たり前だ。お前をこんな悲しませるような事……説明して貰わないと、女王を叱ってしまいそうだ」
タシュの言葉に力なく笑うと、諦めたように、口を開いた。その弱々しい姿に思わず抱きしめそうになる。
大きな柔らかなベッドの上で、うつろな目で天井を見上げるトゥフタにそう言うと、簡易的な服に袖を通し、クロレバは部屋を出ていってしまった。
入れ替わるようにエベツ入室すると、その手には温かい湯と布があった。
「清拭しますね」
「良い、このままで。出ていけ」
「そのままですとクロレバ様が――」
「わかった、自分でする。……しばらく一人にしてくれ」
「――外に控えております、何かありましたらお呼び下さい」
枕もとに湯の入った桶と布を置き、エベツはなるべくトゥフタを見ないようにして扉を薄く開けた。
その瞬間、ドアの間に足が差し込まれた。
「何者!?」
「エベツさん、俺だよ俺!」
「何をして!?部屋にいろと――」
「いやぁ、考えれば考えるほどトゥフタがやっぱり心配で……」
そのままするりとドアの中に体を滑り込ませて来たのは、丈の合っていない女官服を着たタシュだった。
二の句が告げずにいる間にそれが自分の服だと気付いた。窘めようとエベツが口を開きかけた時、目の前の大きな男の顔の表情が驚きへと変化するのが見えて、口を噤んだ。
「大丈夫か、トゥフタ?!」
「タシュ待て!私と退出なさい!」
外へと腕を引くも、さすが男の力である。びくともせず、タシュはベッドに薄布一枚で横たわるトゥフタの元へと駆け寄っていってしまった。
「タシュ?!なぜ――っ」
「大丈夫か?泣いたのか?涙の跡が……」
ここにいるはずの無い男が袖口で涙の跡を拭ってくる事への戸惑いが隠せない。戸惑い、驚き、それ僅かにだが嬉しさが混じっている事をトゥフタは感じた。
しかし、それでもここにいればタシュに危険が及んでしまうかもしれない。
「トゥフタ様は休憩中だ。クロレバ様が少しすれば戻ってくる!早く私の部屋へ――」
「どうしてだ?!エベツさんはトゥフタの味方じゃないのか?!泣いてるぞ?」
「いいから早くこっちへ!」
「嫌だ!一体何がどうなってんだ!?泣くほど辛い事をされてるんだろ!?」
エベツとタシュの押し問答が終わらないのを感じ、トゥフタが細い声で割って入った。
「タシュはここにいろ。エベツ、外で見張っていてくれ」
「――っ……承知しました」
不安げな表情のままトゥフタの言葉に従い、エベツは静かに扉を開けて外で待機した。
「タシュ……こんな姿、見せたくなかった」
いつにもなく弱気な王の頬に、そっと手を添える。頬が冷えているように感じるのはトゥフタの心が冷えているからか。
「話してくれ。俺で力になれる事は何かないか?」
「無い。だが、話さねばお前は帰らないだろう?この数日でお前の事は少しは理解しているつもりだ」
「当たり前だ。お前をこんな悲しませるような事……説明して貰わないと、女王を叱ってしまいそうだ」
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