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可哀そうなトゥフタ

交わる価値観

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「……これは」
 呟いたトゥフタの瞳が明るい輝きを放っている。
「ああっ!すぐにお着換えをしましょう!」
「いらぬ!どうせまた汚れる。タシュ、他のものはどうやって食べる?教えてくれ」
 王からの願いを断るなんてありえない。それもこんな美しい王から直々だ。
「あ、ああ。もちろんさ!」
「トゥフタ様!」
「もうお前は良い、下がっていろ。これからはタシュと二人で食事を取る事にする。タシュの分の食事も運べ」
「っ!そんな、こんな男と二人では危険です」
「私は王だろ?お前がそう言った。この意味がわかるな?」
「わかり、ました……。申し訳ありません」
 言葉につまりつつもそう告げると、エベツは静かに部屋を出ていってしまった。タシュの横を通る際、ぎろりと冷たい目で見られてしまったのには少し胸が痛んだ。
「荒立ててしまってすまない」
「エベツさんに悪いことをしてしまったな、俺は」
「大丈夫だ。あれは私の言う事は絶対に聞く」
「そういう事じゃなくてさ、エベツさんは何も悪くないのに傷つけてしまったから」
「だが私は新しいことをしたくなったんだ。お前もここに辿り着くまでに新しいものをたくさん見たのか?」
「まあそうです……そうだな、新しい価値観に出会う楽しさはあったな。合う合わないはあるだろうが、それぞれ理由があったり。俺は順応性が高いからどこに行っても楽しかったな」
「新しい価値観か」
「ああ、国によっては女が強い国、男が強い国とか色々あんだよ。飯の味だって違う」
「ふうむ。つまり様々な変化を楽しんで受け入れるのが、旅という事か?」
「うーん……まあ、そうかな」
「そうか、じゃあタシュは私にとっての旅だな」
「どういう事だよそれ」
 意味が分からないと肩をあげたタシュを見て、トゥフタは声をあげて笑った。
 二人の前に続々と料理が並べられていくが、並べる女官の中にエベツはいなかった。
「さあ、これで私に食べ方を教えてくれるね、タシュ」
「はあ」
「さて、先程は零してしまったが次はどうかな」
 幼児が匙を持つような持ち方で、不格好にスープを飲み始めた。その容姿の美しさとのギャップがなんとも不思議な感じがする。本当に自分で匙を持ったことが無いんだと、改めて思った。
「なかなか難しい。しかし、どうしてだろういつもより美味に感じる」
「それは、良かった」
 目が合ったトゥフタが笑っているのに悲しそうに見えて、それしか言葉が出なくなる。
「しかし、これでは服がどろどろだな。さすがにエベツが困るか……」
「こうするんだよ」
 スープの染みをつついている王の横へ移動すると、置かれていたクロスを広げ胸元で結んでやった。故郷では小さい子が食事をするときはこうさせていたから。
「なるほど、タシュは何でも知っているな」
「そんな事は……」
「さあ私の旅は今日から本格的に始まる。タシュ、付き合ってくれ」
「トゥフタが望むのなら」
 暖かな料理に、温もりのある会話。タシュはこの宮での暮らしが一気に楽しみになったのだった。
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