12 / 78
静かな家
横たわる美女
しおりを挟む
扉の先には細い廊下があり、昨晩見たベッドが置いてある広めの部屋へと続いていた。窓辺に置かれたベッドには、朝日を浴びるウユチュが美しく微笑んでいる。昨晩と違うのは、ウユチュの髪が美しく結われている事くらいだ。ウユチュがしたのスドゥルがしたのか。スドゥルがしたとするとかなりの器用さである。
「おはようございます、ウユチュ様。素晴らしい朝食をありがとうございます」
「蜂蜜を振る舞おうと言ったのはスドゥルよ。私はそれを許可しただけの事。でも気に入ったならよかったわ」
「スドゥルが?」
「彼には年近い友人なんて今までいないの。少し変わった子かもしれないけれど、父親に似て、優しい良い子なのよ」
「ウユチュ様!」
「あらあら、だめだったかしら?」
遅れて部屋に入ってきたスドゥルが、慌てた様子でウユチュの言葉を遮った。
何かからかいの言葉を掛けようとしたタシュだったが、一つの疑念が頭に浮かび、そちらを問うてみる事にした。
「もしかして……なのですがこの国に男はあまりいないのですか?街を歩いていてもほとんど見かけない気がしたのですが」
いくらスドゥルが変わり者だからといっても、友人の一人もいないのはレアすぎる気がする。商店街で感じた違和感が思い起こされる。鮮やかな果実を持ち商品を品定めする美人や、美しい織物を売る美人、とにかく美人がたくさんいたが、あの空間に男がいたかどうか思い出せない。
タシュの問いかけに、ウユチュは眉をピクリとも動かさず口を開いた。
「ええ、そうよ。この国では男は希少なの」
なるほど。という事は、スドゥルがタシュに対して当たりが強いのは、同性の男への対応に戸惑っているという可能性もあるわけだ。
「何故ですか?あと子供もまだ一人として見ていない気がするのですが……」
「ふふ。そうよね。タシュはここの事が知りたいのよね。でも、私もあなたの事が知りたいの。昨晩は聞く前にあなた寝ちゃったから」
「す、すみません」
「元気になったようだし、今日はお話しましょうか。時間はたっぷりあるのだから。まずは私からの質問にも答えて下さるかしら?」
「はい、もちろんです」
「ありがとう。その後にあなたの気になっている事をいくつかお話しましょうね。スドゥル、タシュに椅子を」
細やかな細工が施された木製の椅子が運ばれてきた。そこに座ると、小さなテーブルに良い香りのする取っ手付きのカップが二つ置かれた。香りからすると紅茶だろう。もちろん蜂蜜が入った壺も当然のように横に置かれた。
スドゥルは言葉を発する事無く、一つに蜂蜜を入れてくるくると混ぜた。比重の違う液体同士が滑らかに溶け合うのを確認して、ウユチュの前へと置いた。ウユチュがソーサーを受け取るのを見つめてから、タシュの前に蜂蜜の壺を置いた。
「俺の?」
無言で頷き、紅茶を指さされた。入れて飲めと言う事だろう。
言われた通りタシュが蜂蜜を掬いあげるのを見ると、スドゥルは玄関側のドアを塞ぐように移動した。
「ふふ、あなた達良いお友達になれるかもしれないわね」
「そ……」
「ありえません」
そうですね。なんて台詞言わなくて良かった。やっぱりこいつは可愛くない奴だ。鼻息を荒げたタシュにウユチュは訳知り顔で目くばせをした。
三人の和やかな茶話会はこんな風に始まった。
「おはようございます、ウユチュ様。素晴らしい朝食をありがとうございます」
「蜂蜜を振る舞おうと言ったのはスドゥルよ。私はそれを許可しただけの事。でも気に入ったならよかったわ」
「スドゥルが?」
「彼には年近い友人なんて今までいないの。少し変わった子かもしれないけれど、父親に似て、優しい良い子なのよ」
「ウユチュ様!」
「あらあら、だめだったかしら?」
遅れて部屋に入ってきたスドゥルが、慌てた様子でウユチュの言葉を遮った。
何かからかいの言葉を掛けようとしたタシュだったが、一つの疑念が頭に浮かび、そちらを問うてみる事にした。
「もしかして……なのですがこの国に男はあまりいないのですか?街を歩いていてもほとんど見かけない気がしたのですが」
いくらスドゥルが変わり者だからといっても、友人の一人もいないのはレアすぎる気がする。商店街で感じた違和感が思い起こされる。鮮やかな果実を持ち商品を品定めする美人や、美しい織物を売る美人、とにかく美人がたくさんいたが、あの空間に男がいたかどうか思い出せない。
タシュの問いかけに、ウユチュは眉をピクリとも動かさず口を開いた。
「ええ、そうよ。この国では男は希少なの」
なるほど。という事は、スドゥルがタシュに対して当たりが強いのは、同性の男への対応に戸惑っているという可能性もあるわけだ。
「何故ですか?あと子供もまだ一人として見ていない気がするのですが……」
「ふふ。そうよね。タシュはここの事が知りたいのよね。でも、私もあなたの事が知りたいの。昨晩は聞く前にあなた寝ちゃったから」
「す、すみません」
「元気になったようだし、今日はお話しましょうか。時間はたっぷりあるのだから。まずは私からの質問にも答えて下さるかしら?」
「はい、もちろんです」
「ありがとう。その後にあなたの気になっている事をいくつかお話しましょうね。スドゥル、タシュに椅子を」
細やかな細工が施された木製の椅子が運ばれてきた。そこに座ると、小さなテーブルに良い香りのする取っ手付きのカップが二つ置かれた。香りからすると紅茶だろう。もちろん蜂蜜が入った壺も当然のように横に置かれた。
スドゥルは言葉を発する事無く、一つに蜂蜜を入れてくるくると混ぜた。比重の違う液体同士が滑らかに溶け合うのを確認して、ウユチュの前へと置いた。ウユチュがソーサーを受け取るのを見つめてから、タシュの前に蜂蜜の壺を置いた。
「俺の?」
無言で頷き、紅茶を指さされた。入れて飲めと言う事だろう。
言われた通りタシュが蜂蜜を掬いあげるのを見ると、スドゥルは玄関側のドアを塞ぐように移動した。
「ふふ、あなた達良いお友達になれるかもしれないわね」
「そ……」
「ありえません」
そうですね。なんて台詞言わなくて良かった。やっぱりこいつは可愛くない奴だ。鼻息を荒げたタシュにウユチュは訳知り顔で目くばせをした。
三人の和やかな茶話会はこんな風に始まった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
孤狼のSubは王に愛され跪く
ゆなな
BL
旧題:あなたのものにはなりたくない
Dom/Subユニバース設定のお話です。
氷の美貌を持つ暗殺者であり情報屋でもあるシンだが実は他人に支配されることに悦びを覚える性を持つSubであった。その性衝動を抑えるために特殊な強い抑制剤を服用していたため周囲にはSubであるということをうまく隠せていたが、地下組織『アビス』のボス、レオンはDomの中でもとびきり強い力を持つ男であったためシンはSubであることがばれないよう特に慎重に行動していた。自分を拾い、育ててくれた如月の病気の治療のため金が必要なシンは、いつも高額の仕事を依頼してくるレオンとは縁を切れずにいた。ある日任務に手こずり抑制剤の効き目が切れた状態でレオンに会わなくてはならなくなったシン。以前から美しく気高いシンを狙っていたレオンにSubであるということがバレてしまった。レオンがそれを見逃す筈はなく、シンはベッドに引きずり込まれ圧倒的に支配されながら抱かれる快楽を教え込まれてしまう───
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる