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静かな家

横たわる美女

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 扉の先には細い廊下があり、昨晩見たベッドが置いてある広めの部屋へと続いていた。窓辺に置かれたベッドには、朝日を浴びるウユチュが美しく微笑んでいる。昨晩と違うのは、ウユチュの髪が美しく結われている事くらいだ。ウユチュがしたのスドゥルがしたのか。スドゥルがしたとするとかなりの器用さである。

「おはようございます、ウユチュ様。素晴らしい朝食をありがとうございます」

「蜂蜜を振る舞おうと言ったのはスドゥルよ。私はそれを許可しただけの事。でも気に入ったならよかったわ」

「スドゥルが?」

「彼には年近い友人なんて今までいないの。少し変わった子かもしれないけれど、父親に似て、優しい良い子なのよ」

「ウユチュ様!」

「あらあら、だめだったかしら?」

 遅れて部屋に入ってきたスドゥルが、慌てた様子でウユチュの言葉を遮った。

 何かからかいの言葉を掛けようとしたタシュだったが、一つの疑念が頭に浮かび、そちらを問うてみる事にした。

「もしかして……なのですがこの国に男はあまりいないのですか?街を歩いていてもほとんど見かけない気がしたのですが」

 いくらスドゥルが変わり者だからといっても、友人の一人もいないのはレアすぎる気がする。商店街で感じた違和感が思い起こされる。鮮やかな果実を持ち商品を品定めする美人や、美しい織物を売る美人、とにかく美人がたくさんいたが、あの空間に男がいたかどうか思い出せない。

 タシュの問いかけに、ウユチュは眉をピクリとも動かさず口を開いた。

「ええ、そうよ。この国では男は希少なの」

 なるほど。という事は、スドゥルがタシュに対して当たりが強いのは、同性の男への対応に戸惑っているという可能性もあるわけだ。

「何故ですか?あと子供もまだ一人として見ていない気がするのですが……」

「ふふ。そうよね。タシュはここの事が知りたいのよね。でも、私もあなたの事が知りたいの。昨晩は聞く前にあなた寝ちゃったから」

「す、すみません」

「元気になったようだし、今日はお話しましょうか。時間はたっぷりあるのだから。まずは私からの質問にも答えて下さるかしら?」

「はい、もちろんです」

「ありがとう。その後にあなたの気になっている事をいくつかお話しましょうね。スドゥル、タシュに椅子を」

 細やかな細工が施された木製の椅子が運ばれてきた。そこに座ると、小さなテーブルに良い香りのする取っ手付きのカップが二つ置かれた。香りからすると紅茶だろう。もちろん蜂蜜が入った壺も当然のように横に置かれた。

 スドゥルは言葉を発する事無く、一つに蜂蜜を入れてくるくると混ぜた。比重の違う液体同士が滑らかに溶け合うのを確認して、ウユチュの前へと置いた。ウユチュがソーサーを受け取るのを見つめてから、タシュの前に蜂蜜の壺を置いた。

「俺の?」

 無言で頷き、紅茶を指さされた。入れて飲めと言う事だろう。

 言われた通りタシュが蜂蜜を掬いあげるのを見ると、スドゥルは玄関側のドアを塞ぐように移動した。

「ふふ、あなた達良いお友達になれるかもしれないわね」

「そ……」

「ありえません」

 そうですね。なんて台詞言わなくて良かった。やっぱりこいつは可愛くない奴だ。鼻息を荒げたタシュにウユチュは訳知り顔で目くばせをした。

 三人の和やかな茶話会はこんな風に始まった。
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