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旅人

重なり

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「女なら待とうと思ったが男なら良いだろう。俺も入れてくれないか?」

「止まれ……」

 目じりをきっとあげた制止の言葉等聞かず、タシュは置いてあった手桶で体の泥を大方流すと、ざぶざぶと湯をかき分けた。

「風呂に入りたかったから有難いや。男まで美人なんだな、この国は」

「止まれと言っている」

「俺はタシュ、怪しく見えるけど怪しくない。体だけ綺麗にさせてくれたらちゃんと説明するよ」

 タシュが差し出した肉厚な手を取ることなく、美しい男はしばらく見つめてきた。

「言葉が通じないのか?」

 結局差し出した手を握られる事が無く、代わりに皮肉が返って来た。 

「つれないねぇ……そんなところも似ているけど」

 行き場を無くした手を、ぷらぷらと振ると、湯面に指先が当たって飛び散った雫がキラキラと光った。

「似ている、だと?」

「多分この国の人だと思うよ。ここって白の国だろ?皆、金色の髪なの?目も皆青か?アイムも青い目に金の髪だったんだ。……あんたみたいな、深い海みたいな綺麗な青。海、見た事あるか?」

 高台の向こうに見えないかと張り出した崖の下へ目をやるが、真っ白な街と行き交う人々が見えるだけだった。その周りは全て鬱蒼とした森に囲まれている。

「アイム、だと?」

 ぴくりと金糸の男の眉が動いたが、そんなものはお構いなしでタシュは美しい顔を覗き込んだ。やはり、アイムに似ている。彼女が男ならこんな感じなのだろうか。

 ふと、タシュよりも幾分か小柄な金糸の男は、下の毛も金色なのかと気になった。

「おい」

「おっと、失礼」

 目線の動きに気付いた金糸の男が、一歩下がる。まだまだ聞きたいことがあるのに、逃げられては困るとタシュは男の手首を掴んだ。

 態勢が崩れ、男がタシュの胸元へと倒れ込んできた。

 並ぶ腕の色も太さも全く違った。いつも触れて来ていた女達とは違う、なのになめらかだと感じる肌がむず痒くて、タシュは今更恥ずかしくなってきた。

「……ほんと、綺麗だな。あんた」

 太陽がキラキラと湯面を輝かせる。湯気でさえもチカチカして、金の髪が煌めいて、目の前の男そのものが光っているかのように見えてくる。

「離せ……!」

 そう言ってタシュを押してくるもその力は非力で、どうにも嗜虐心を刺激されてしまう。

「離せと言って……!」

 胸元から見上げて来た男の腰と頭へと手を添える。男が目を見開いた。大きな青い目の周りについた睫毛が透けるような金色なのも美しく、見つめているうちについうっかり、本当にそこまでするつもりは無かったのに――二人の唇は重なってしまう。
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