67 / 67
鬼頭先生まで……?!
四巴カルテット【終幕】
しおりを挟むここはどこだろう?
見慣れない白い天井をぼんやりと見上げる。欠伸を一つ。
「おはよう楢本くん」
「……紀藤さん?!」
コーヒーを持った紀藤さんが、ベッドに腰かけてきた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……?」
カップを受け取る。香ばしい香りがした。一口飲むと、甘さがじんわり染みわたる。
「疲れてるから甘めにしておいたけど、大丈夫?甘すぎたかな?」
「結構甘めだけど、美味しいです」
「良かった。私が甘党だから、楢本くんには甘すぎないか心配だったんだ」
ほっとした様子の紀藤さんに、こっちまでほっとする。本当に部下の事を考えてくれる優しい上司だ。
半分くらい飲み、カップを置こうと腕を伸ばす。
「――んが?!」
腰の痛みでオッサンの声が出た。
出来る上司と穏やかな時間を過ごしている場合じゃない。昨日の出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
「大丈夫?」
「いや、あの、玲央さんと穂高くんは?」
二人がいたはずなのに、いない。これはどういう事だろうか。
「あの二人なら、別の部屋を取ってあげたよ。一緒に泊るって聞かなかったんだけど、この部屋定員二名だからね」
「は、はあ……」
「あ、本当は部屋取ってても行き来はよろしくないんだよ。ちゃんと規則は守らなきゃいけないからね」
怪しい薬は飲ませて良いのに、ホテルのルールは守るのかと不思議な気持ちになりながら頷いた。
「あっちもダブル取ってたんだけど、ごねてツインに変えられちゃった」
「あー、その光景はなんとなく目に浮かびます」
部屋がダブルだと聞いた二人狼狽えぶりは、ちょっと見てみたかったな。
「いやあ、それにしても昨夜はとても勉強になったよ。次作の構想が出来た」
「それは楽しみですね!」
「四人の男が出てくる、オムニバス形式の話を考えているんだ。派手髪で今風のイケメンと、瞳の色が明るいチャラ男、年上の子持ち男性、そして黒髪の美人」
「へえ……どういうカップリングですか?」
敬愛する亀頭なめたろう先生の構想が聞けるだなんて、幸せ過ぎる。もっと詳しく聞きたくてたまらない。
「そうだね、イケメンとチャラ男と子持ちがそれぞれ黒髪美人を狙うんだけど、旅行でホテルに泊る時にダブルを二部屋取ってしまうんだ。その部屋割りが――イケメンとチャラ男、子持ちと美人になったら良いかなと思うんだけど、どうかな?」
「わあ、良いですねえそれ!」
答えながら、なんとなく既視感を感じる設定が引っかかる。
「でも4pや3pの描写を入れたいんだよね。昨日の楢本くんが魅力的だったから」
「魅力的?」
褒められてはいるが、昨夜の痴態を思い出して恥ずかしさが勝った。
「うん。私も本気で君を落とそうかなって」
「――え?」
「良い声で鳴いてたからね。今度は、私の下で鳴かせたくなったんだ。――どう?今から一緒にシャワーに……」
寝起きのくせっ毛が色っぽい紀藤さんに優しく頭を撫でられる。つい、イエスと言いそうな雰囲気。
と、
部屋のベルが鳴った。
同時にドンドンとノック音が響く。
「まあ、まだまだ時間はあるから」
ため息をつきながら紀藤さんが入室を許可すると、二人が早足で入って来た。
「渚さん!体は大丈夫ですか?間宮さんが無理させるからですよね」
「渚くん!昨日はつかれさせてごめんね、コイツが馬鹿な事するから」
「いや、間宮さんが俺の前でいちゃいちゃ始めるからじゃないですか!」
「玲央くんが二本差しなんてするからでしょ!?」
俺を挟んで口論する二人の様子を一歩離れた所から紀藤さんが微笑んでみている。俺と目が合うと、意味深なウインクが飛んできて、心臓がどきりとした。
イケメンに囲まれる賑やかな俺の日々は、もう少し続きそうだ。
余談だが、鬼頭なめたろう先生の新作・四ツ巴カルテットは、その生生しい描写から大ヒット作品となった。
更に余談だが、イケメンとチャラ男のカップリングがネットで人気が出て、玲央さんと穂高くんは不服そうだった。
10
お気に入りに追加
63
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
初めまして!お読みいただきありがとうございます!
嬉しすぎます!
続き書けましたら、またさらさんに読んで頂きたいです!コメントありがとうございます。
退会済ユーザのコメントです
退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます!コメントに返事出来ることを今知りまして、遅くなってすみませんー!
もうすぐ終わりますが、お楽しみ頂ければ嬉しいです!