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鬼頭先生まで……?!
売り子初体験
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売り子を代わった俺に待っていたのは、明らかにテンションの下がった人達だった。そりゃそうだ、イケメンから購入できると思っていたのに直前でモブに代わるんだから仕方がない。
自分の書いた本を買ってくれる喜びは何にも代えがたいのだけれど、やはりあからさまにため息をつかれると心がチクチクする。
「んー……ちょっとだけお待ちください――渚くん、こっち向いて」
「え?」
横を向いた俺の前髪に、穂高君がピンを止めた。
「ちょ、な、何?!」
「今だけこうしといて」
「どうして……?」
「ほら、お客さん対応!笑顔を忘れない!」
「は、はい!」
慣れない販売で、無表情だったことに気付いた。そうか、そりゃモブが暗い顔で本売ってたら受け取る人も微妙な顔になるよな。
接客は向いていないという自負はあるが、今はそんな事をいっている段階じゃない。玲央さんが表紙を、穂高くんが萌える話を、そして俺の魂と時間を詰め込んだ本を売っているんだ。
「お待たせしました!こちらどうぞ!」
渾身の笑顔で目の前の女性に本を差し出した。その途端、受け取った人の目が丸くなり、後ろの並んでいる人達がざわざわし始めた。
「え……っとす、すみません、俺キモかったですよね……」
慣れない笑顔は気持ち悪かったのかな……内心泣きたい気持ちでいっぱいの俺の前で、女性が渡した本を抱きしめた。
「そんな事あるわけないよ渚くん!ね?!お客さんも突然目の前に綺麗な男が現れてびっくりしただけだよ!」
「そんなまさか!」
ありえない発言をする穂高くんに強い否定の言葉を投げる。
すると穂高くんの目が意地悪に光った。――ような気がした。
「えー?……ねえ、お姉さん、この人綺麗だよね?」
穂高くんの問いかけに女性はコクコクと首を縦に振る。
「そんでもって可愛いよね!」
首の立て振りは列に並んだ人たちに伝染したように、皆一斉に首を振った。
「……そんなまさか……」
ドッキリかな?なんて一瞬思った俺の肩を、穂高くんが抱いて引き寄せた。顔が近づいて、彼の色素の薄い長い睫毛が良く見える。
「もさっぽい髪の毛上げたら顔綺麗って、やっぱり定番だけど外せないよね!渚くんから買った初めてのお客さんにサービスサービス♪」
そう言って、穂高くんが俺の頬に口付けた。
「ちょっ?!」
「きゃー!ありがとうございますありがとうございます!」
戸惑う俺よりも、お客さんの声が大きくて咄嗟に拒否できない。
次に並んでいた女性が、前の女性を押し出す形で割り込んできた。
「あ、あの、私もファンサ下さい!」
「ファンサ?!」
「もちろん!じゃあ次は……こうとか?」
穂高くんは今度は俺の顎をくいっと持ち上げて、吐息が当たる距離まで近づいてきた。
「ひー!今度資料写真撮らせてください!」
「あはは、それ本気だったら感想メールついでに書いといてね。考えてみるから」
「ありがとうございます!」
ぺこぺこと頭を下げて去る女性に、にこにこ手を振る穂高くん。俺はというと、それ以降もファンサというか、穂高くんに良いようにポージングさせられていた。
いつまで続くのかという恥ずかしさと、皆がちやほやしてくれるこそばゆさに不思議な気分になってきていたその時だった。
「はい、そろそろだーめ」
「わっ……?!」
俺の目の前は真っ暗になった。後ろで休憩していた玲央さんの大きな手が、俺の目を覆ったからだ。
自分の書いた本を買ってくれる喜びは何にも代えがたいのだけれど、やはりあからさまにため息をつかれると心がチクチクする。
「んー……ちょっとだけお待ちください――渚くん、こっち向いて」
「え?」
横を向いた俺の前髪に、穂高君がピンを止めた。
「ちょ、な、何?!」
「今だけこうしといて」
「どうして……?」
「ほら、お客さん対応!笑顔を忘れない!」
「は、はい!」
慣れない販売で、無表情だったことに気付いた。そうか、そりゃモブが暗い顔で本売ってたら受け取る人も微妙な顔になるよな。
接客は向いていないという自負はあるが、今はそんな事をいっている段階じゃない。玲央さんが表紙を、穂高くんが萌える話を、そして俺の魂と時間を詰め込んだ本を売っているんだ。
「お待たせしました!こちらどうぞ!」
渾身の笑顔で目の前の女性に本を差し出した。その途端、受け取った人の目が丸くなり、後ろの並んでいる人達がざわざわし始めた。
「え……っとす、すみません、俺キモかったですよね……」
慣れない笑顔は気持ち悪かったのかな……内心泣きたい気持ちでいっぱいの俺の前で、女性が渡した本を抱きしめた。
「そんな事あるわけないよ渚くん!ね?!お客さんも突然目の前に綺麗な男が現れてびっくりしただけだよ!」
「そんなまさか!」
ありえない発言をする穂高くんに強い否定の言葉を投げる。
すると穂高くんの目が意地悪に光った。――ような気がした。
「えー?……ねえ、お姉さん、この人綺麗だよね?」
穂高くんの問いかけに女性はコクコクと首を縦に振る。
「そんでもって可愛いよね!」
首の立て振りは列に並んだ人たちに伝染したように、皆一斉に首を振った。
「……そんなまさか……」
ドッキリかな?なんて一瞬思った俺の肩を、穂高くんが抱いて引き寄せた。顔が近づいて、彼の色素の薄い長い睫毛が良く見える。
「もさっぽい髪の毛上げたら顔綺麗って、やっぱり定番だけど外せないよね!渚くんから買った初めてのお客さんにサービスサービス♪」
そう言って、穂高くんが俺の頬に口付けた。
「ちょっ?!」
「きゃー!ありがとうございますありがとうございます!」
戸惑う俺よりも、お客さんの声が大きくて咄嗟に拒否できない。
次に並んでいた女性が、前の女性を押し出す形で割り込んできた。
「あ、あの、私もファンサ下さい!」
「ファンサ?!」
「もちろん!じゃあ次は……こうとか?」
穂高くんは今度は俺の顎をくいっと持ち上げて、吐息が当たる距離まで近づいてきた。
「ひー!今度資料写真撮らせてください!」
「あはは、それ本気だったら感想メールついでに書いといてね。考えてみるから」
「ありがとうございます!」
ぺこぺこと頭を下げて去る女性に、にこにこ手を振る穂高くん。俺はというと、それ以降もファンサというか、穂高くんに良いようにポージングさせられていた。
いつまで続くのかという恥ずかしさと、皆がちやほやしてくれるこそばゆさに不思議な気分になってきていたその時だった。
「はい、そろそろだーめ」
「わっ……?!」
俺の目の前は真っ暗になった。後ろで休憩していた玲央さんの大きな手が、俺の目を覆ったからだ。
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