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3night--セフレ

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 男はラブホ街の裏通りへと理一郎を連れてきた。人通りの少ない、この街でも一番寂しい地域だ。

「ごめんね仕事中なのに」 

「い、いいえ。あの、なのはサンに何が?」

「あ、うん、なのはサンと僕ね、結構長いじゃない?個人的に連絡取らせてもらってるんだけど……」

「え」

「ああうん、直のやりとりは禁止だよね。分かってる。でもほら、歴も長いし、最近は僕らホテル入っても話するだけなんだよね」

「は、はあ……あの、なのははどこに?」

「まあまあいいじゃない」

「いやあの、この通りヤバい人いるから女の子達には通らないように言ってるんです。ここにいるはずがないんですけど」

 理一郎の中に沸々と不信感が沸いて出てきたが、男はまだ足を止めない。

「……なのはちゃんお話しが上手でね。色んな事話してくれて……なのはちゃんが妹みたいに感じてね。可愛いんだけど、性的には見れないって言うかさ」

「それは……じゃあ、他の子今度指名して下さ……っ?!ちょ、ちょっと何するんですか?!」

 男は狭い路地で急に立ち止まると、理一郎の両手を掴み、壁へと押し付けてきた。

「なのはちゃん、昨日あった時に教えてくれたんです。理一郎くんが恋してるって。前も男と付き合ってて、今度も男に恋してるって」

「え?はあ?!」

「いやあ、なのはちゃん最初は全然理一郎くんの事話してくれなかったんだけどね。やっと絆されてくれたよ。僕の事『お兄ちゃんみたい』なんて言ってくれてさ。ホントのお兄ちゃんは?って聞いたら『理一郎がお兄ちゃんみたいな感じ』だってさ」

 なのはに慕ってもらっている。それはちょっと、いやすごく嬉しい話だ。今のこの状況で聞かなければという前提の元だけど。

 察しの悪い理一郎でも、今の状況はなんとなく理解した。したくはないのだけれど。

「ホントはそこのホテルの中まで連れていこうと思ってたんだけど、理一郎くんの勘が良いから……ちょっと小汚いけど、良いよね」

「何が良いって――うぐぁっ」

 股間を膝で蹴り上げられ、体をくの字に曲げたくなったが両手を掴まれていてそれすら叶わない。

「男はここ弱いよねぇ。――ちゃんと男の子だね、理一郎くん」

「な、何すん……なのはにもこんな事してたのか……?」

「泣けるねえ。こんな時にも女の子の心配するの?なのはちゃんともヤッてるの?節操無しだなあ」

「抱いてる、わけ、無いだろ……」

 痛すぎて頭まで痛い。腕っぷし担当は鉄なのだ。理一郎には自分より体格の良い男を張っ倒すような力は無い。

「知ってるよ、この辺の売れっ子の女の子達って理一郎くんが面倒みてるんだよね。ミナミちゃんとか、ユウちゃんとかさ。一番仲良しなのかなのはちゃんなのかな?一番君の事教えてくれたよ」

「まさ、か……」

「やっと分かってくれた?初めて会った時に僕言ったよね『君を指名したいんですけど』って」

 そういえばそうだった。佐々木が案内所に来るよりずっと前。顔を真っ赤にして緒方はそう言っていたのだけれど、酔っ払いの発言だと笑って流して理一郎がテクニックを仕込んだ子として、始めはミナミを紹介したのだ。

 思い返せばあの時、鉄にあの客は気を付けろと言われていたのに、女の子からの評判が良くて警戒を解いてしまっていた。

「みんな、きみの事大好きだよね。理一郎くんを褒めると、彼女たち嬉しそうだったよ。そんな時間も確かに楽しかったけど……僕は理一郎くんのテクニック、じゃなくて理一郎くんが良いんだよね」

「御冗談を……っ!」

 掴まれた手を振りほどこうと体をくねらせるが、それは叶わない。

「アハ。逃げられると思う?知ってるでしょ?この時間、この場所に人なんかほとんど来ないって。来てもヤバい売人くらいだから、トラブルがあっても見て見ぬふりだって」

「んんっ!」

 緒方の膝が、理一郎の腹にヒットした。重量のある膝蹴りに、胃がひっくり返りそうだ。

「悪い子にはおしおきだよ。ねえ、逃げないでよ理一郎くん。男に抱かれるの、好きなんだろ?」

「誰でも良いわけ、ないだろっ!や、やめろ……っ!」

 冷たい男の手が、服の中に入ってくる。腹の部分をすりすりとさすると、胸の突起を探ってくる。

「目が怯えてるよ、可愛いね、理一郎くん。可愛い理一郎くんの可愛い乳首見ようかな」

「うぅっ……」

 冷えたビル風が、露わになった体に吹き付ける。

「わあ、立ってるねおっぱい。やっぱり僕に触られて、嬉しいのかな?」

「寒いだけだっつーの」

 嬉しそうな緒方に冷たく言葉をかけるが、返事はなく。緒方は嬉しそうに理一郎の胸へとしゃぶりついた。

「ン……、や、やめろ……っ!やめろって……っ」

「んふふ、可愛いね。もっと気持ちよくしてあげるね。男の子だもんね。刺激されたら反応しちゃうよね」

「ち、ちがっ」

 ピン、と立った突起を嬉しそうに弾かれると、体が跳ねた。嫌なのに反応してしまう開発済の体が悔しい。

 潤んだ目に業務用のゴミ箱が見えた。

 昔ここに良く来ていた。知らない人とセックスをする、そんな仕事が嫌になると、あのゴミ箱の裏に隠れるように座っていた。

 ゴミ箱がトリガーとなり、一気に昔の記憶がフラッシュバックする。

「……うっ……や、やめ、やめて下さいっ、い、いやです……っ」

「り、理一郎くん?」

 ぽた、と緒方の額に水滴が落ちた。理一郎の涙だ。下半身へ伸ばそうとしていた手を、思わずひっこめた。

「オレ、オレが悪いですっ……ご、ごめんなさい……やめて下さい……」

 手を押さえつけているせいで、涙を拭う事も出来ず、理一郎の涙はぽろぽろとアスファルトに染みを作っていく。

「え?ど、どうして?どうして泣くの?気持ち良い事しようとしてるのに?」

「うぐっ、うぅっ……ごめんなさいっ」

 理一郎が切なそうに涙を零すたび、緒方は狼狽えた。狼狽えた緒方が最後に見たのは理一郎が目を丸くして、

「あ、鉄」

 と、呟いた顔だった。
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