平凡な佐々木さんと風俗案内所の理一郎さん

花田トギ

文字の大きさ
上 下
9 / 32
2night--ホテヘル

1

しおりを挟む
「佐々木サンってホント真面目だねえ」

 あれから二日が経った。
 理一郎からの一方的な約束にも関わらず案内所に訪れた佐々木を見つけた理一郎は、口笛を拭きながら半分呆れて笑った。

 佐々木からしてもあんな事があって、正直な所ここに来るかどうか迷っていた。だが、頭から離れないのだ。理一郎と二人で過ごしたあのエロティックな空間が。

 理一郎に目線を合わせると、ズレたサングラスの向こうに丸い瞳が見えた。笑った時に細くなる目に再会出来た事に佐々木の心は躍っていた。

「まあまあ、前回のはジャブみたいなもんだから。ゆるーいのから攻めていこうよオニーサン。次はもっと気持ち良い射精しようよ!」

「そんっ!も、もう良いですからっ」

「あ、そうだ一個だけ注意し忘れたんだけど」

 肩を組んできた理一郎が、内緒話でもするように声を落とした。これは重要な話の声量だ。

「ミナミちゃんさ、皆に手コキやってるわけじゃないんだよね。つーかメンエスって基本射精禁止なんだ」

「えぇ?!じゃあ俺捕まっちゃうんですか?!」

 ほやほやと理一郎の可愛らしさに浮かれていた佐々木の顔が、瞬時に引きつる。

 ピュアな佐々木の反応に、どうしてか嬉しそうに理一郎言葉を続けた。

「いやいや、バレなきゃ大丈夫でしょ。でもネットに書いたり他のメンエス行くときに抜きアリだと思って行っちゃダメだよ?って言おうと思って」

「行きませんよ!!!」

「えー?まあ一応一応!」

「一応って……」

「ほら、今日はまた出しに行こう?リハビリ、リハビリ!」

「リハビリって……一応前回り、理一郎さんで出せましたし……」

「ん-……まあそこはほら、オレのテクが最上級だからさぁ。素人さんに求めるレベルじゃないんだよねぇ。それにハンドだけだと自慰と変わんないと思うなあ。やっぱもうちょいセックスっぽいのでイってもらわないと!」

「え?!」

 ビクついた佐々木の肩をぽんぽんと叩きながら、ニシシと理一郎は耳元に口を寄せてきた、内緒話のようでドキドキする。

「ふふふ。皆まで言うなだよ佐々木サン。なんと本日は!恋人プレイが上手なユウちゃんの枠が取れそうなんだよ。今日はあの目の前のホテルに入ってくれればオッケー。受付に話通しておくから。とりあえず緊張しいっぽいし80分あればいいっしょ」

「いやいやいやいや、無理ですって!」

「まーまー分かってるって。男相手でも風俗店行きたい!とは男のプライド的に言い難い人いるもんなあ」

 否定して逃げてしまおうとする佐々木の腕を、リイチローは掴んで離さない。可愛い顔をしていてもさすが男性。しっかりと掴まっている。

 佐々木を捕まえたまま理一郎は鉄に目だけで指示を出すと、鉄はすぐにどこかへ電話をかけ『予約完了』のポーズで返してきた。仕事が無駄に早い。

「はい。これでユウちゃん予約取れました。ここから見えるラブホの403に入ってればユウちゃん来るかさ」

「そ、そんな強引な……俺は……」

 理一郎ともう少し話がしたかったのだけれど、そんな時間すら貰えないのだろうか。不安げな佐々木を覗き込む理一郎の瞳は、百パーセント善意に見えた。

 昨日の熱を帯びた瞳は本当にあくまでプレイだったのだろうか。だっていくらGメンだからって実際に抜くまでしてくれるなんて、そこに何かしらの感情が絡んでいる筈だと思って今日は勇気を出して来たと言うのに。

 執拗にユウちゃんを勧めてくる理一郎に、若干の苛立ちを感じてしまう。

「どうする?行かないとユウちゃんが悲しむと思うんだけど?」

「うぅ……い、行きますよぅ……」

 根本的に人の好い佐々木はそんな風に言われてしまっては断れない。

「よし、今日こそお楽しみくださーい」

 ひらひらと手を振るリイチローに律儀にもお辞儀して、きょどりながらも佐々木は一人、おどおどとすぐそこのラブホへと消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

太陽を追いかける月のように

あらんすみし
BL
僕は、ある匿名SNSでフォロワーのFの死を知る。 僕がそのSNSを始めたとき、Fは職場の後輩との恋について幸せな投稿を綴っていて、僕はそれを楽しみに、羨ましく思っていた。 だが、そんな2人にも別れが訪れて、次第にFの投稿はたまに辛い心情を綴ったものばかりになる。 そして、その年の春の訪れと共にFの投稿は途絶えた。 日々の忙しなさに忙殺されていた僕が、Fの死を知ったのは夏も終わりに近づいたある日の別のフォロワーの投稿だった。 Fと親しくしていたそのフォロワーの報告で、Fのあとを追うように後輩君も亡くなったという。 2人に何が起きたのか、僕はその軌跡を辿ってみることにする。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...