鬼怒川さんと坊

花田トギ

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逃亡先の安らぎ

クッキーで誤魔化す

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 ピンポーンと使い込まれたインターホンが、必死に呼んでいる。そのすぐ後に前川がすみませんと声を上げた。
「お届け物でーす。絹田さーん、竜児さーん」
 鬼怒川が玄関に向かう前に、竜児が先にたどり着き、扉を開けた。
 イケメン配達員が、朝日を背負って笑顔で立つ姿は健康的だ。
「今日は美味しい物ですね、オレもこれ好きです」
「なんだろ?」
 片手で持てる重さの、小さなダンボールの外面は美しい柄が入っている。贈答用のダンボールだ。
「じゃあ、また」
「うん、お疲れ様でーす」
 ぱたぱたと手を振る竜児を、鬼怒川は無表情で見つめた。
「……何?何か言いたい事あるの?」
「―-坊ちゃんが受け取らなくても……」
「いいじゃん、前川サンだったし。それ以外ならちゃーんと隠れてるからさ」
「どうして、あの男は――」
「それより、これ何ー?」
 いうより早く箱を開ける。中には美しい缶が入っていた。
「お菓子っぽい!」
「……若いもんの間で流行っているそうです。おとりよせってやつです」
 強面の鬼怒川とお取り寄せの単語の組み合わせに、竜児は思わず吹き出した。
「美味しそう!」
 缶を開くと、シンプルだが丁寧に作られたクッキーが所狭しと詰め込まれていた。鬼怒川がお取り寄せランキングを調べて取り寄せた逸品だ、喜んでもらえて内心ほっとした。
「へぇ……あ、カードにお店の住所書いてある。――お店、行きたいな」
「坊……それは、無理です」
「そろそろ良くない?軟禁何か月だよ。俺外に出たい。飽きてきた」
「でもほら、ここには美味いクッキーと、可愛いピぃさんがいますし……」
 本気で慌てだした鬼怒川に、竜児の口元が綻んだ。
「まあそうか、じゃあ……きぬがデロデロに俺の事甘やかしてくれるならいいよ。ここにいる」
 明らかにほっとした鬼怒川は、竜児の隣に座って問いかけた。
「どうして欲しいですか?」
「ん-……そうだなぁ。……まずはクッキー口移しで食べさせてよ」
「お安い御用で。ここでですか?それとも布団の上で?」
「両方だよ」
 そう言ってクスクスと笑う細めた目が、本当に姐さんに似てきたと鬼怒川は思った。親父に愛していると言っていた時に浮かべていたあの笑顔とそっくりだと。

 血は抗えない。どんどん坊は似てきた。ここにいては危ない。
 鬼怒川の頭の中には、どんどん危険音が鳴り響いていたが、それより何より、目の前の竜児の、この作ったような綺麗な笑顔を歪めたくて仕方が無かった。
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