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哀しみの檻4
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17年間生きてきて、美しさでここまで衝撃を受けた事はなかった。
「オレリアン国第一王女マリアベラと申します。どうぞお見知り置きを。この国で勉強させていただける事を、光栄に存じます」
すっと耳に心地よく通る美しい声音が響いた。声だけでもこれほどまでに綺麗なのに、姿形までも美しい少女が優雅に膝を折った。
その途端、波打つプラチナブロンドの髪がサラリと揺れて、柔らかな紅い唇が弧を描く。
金色の長い睫毛がゆっくりと瞬けば光が散るように弾け、瞳をあげれば美しいサファイアのように深い蒼の瞳がキラキラと光る。
マクシミリアンを見た時も、オリヴァーを見た時もその綺麗な容姿に息を呑んだし、マーガレットや貴族層の少女たちの美貌にも驚いた。素地は悪くないと思うが、やはり日本人である自分と周囲の違いには微妙な気持ちになっていた。
だが、目の前の王女の美しさはそのレベルを遥かに凌駕していた。冗談でも誇張でもなく、女神や妖精を思わせるような人間離れした美貌だった。
白い肌は透明感があり、内側から光を帯びているようにすら見える。
謁見の間には国王と宰相を筆頭とした側近に、マクシミリアン、オリヴァーとエドワード、私、そして件のオレリアン王女マリアベラとその側近たちが向き合っていた。
彼女が入ってきた時、誰もが息を飲んだ。美しさに圧倒され、数瞬言葉を失ったが宰相のブルタクスが正気を取り戻してベルナールを誘導した。
言葉を交わしている二人を横目に、私はマクシミリアンを盗み見た。
マクシミリアンの透明な瞳が静かにマリアベラを見ていた。その瞳が僅かに揺らいでいるのを見つけて、私はコクリと息を呑む。
自分も彼女に圧倒されたのだから、彼の反応は頷けた。けれど言い知れぬ不安が過る。
マリアベラには見るものを惹き込む圧倒的な存在感がある。
「マクシミリアン、お前にマリアベラ王女の案内を任せた」
「かしこまりました」
いつの間にか話が終わっており、国王の視線がマクシミリアンと隣に佇む私にうつる。
「グレイヒ王国第一王子マクシミリアンと申します。マリアベラ様とお呼びしても?」
「ええ。よろしくお願いします、マクシミリアン様」
「サクラ、君も挨拶を」
マクシミリアンに優しく背を押されてハッと私は膝を折る。
「サクラ・カツラギと申します」
「サクラ様…貴方が聖女様ですか」
マリアベラは大きな瞳を見開くと、王族としてはあり得ない深さで礼をした。
「この度はグランディアをお救いくださり、ありがとうございました」
「ま、マリアベラ様!顔をお上げくださいませ!浄化が成功したのは私の力だけではありません!どうか顔を上げてください!」
慌てふためく私にマリアベラがかぶりを振った。
「サクラ様の成されたことは偉大ですわ。西大陸に生きるものをお救いになられたのです。私は民を背負う王族として、貴方に礼を言わなければなりません。――本当にありがとうございました」
言いきって、マリアベラは顔を上げた。その所作ですら洗練されて美しい。見つめ合うと、瞳の中に吸い込まれそうだった。
真摯なマリアベラの言葉に私も落ち着いて微笑んだ。
「こちらこそ、そのように言ってくださりありがとうございます」
言って、マクシミリアンと視線を交わす。マクシミリアンに意図は伝わったようで彼は軽く頷けた。
「マリアベラ様、長い道中でお疲れでしょう。まずは部屋にご案内します」
「ありがとうございます」
マクシミリアンに促されて、マリアベラの視線が私から外れる。
二人は従者を引き連れて謁見の間から退出した。
私も一緒に退出したが、案内はマクシミリアンだけが命じられているため自室に戻る。
自室にはマーガレットが不安げな様子で控えていた。
「サクラ様、どうでしたか」
「すごく綺麗で、すごく性格がいい方だったわ」
思わずため息をついてしまう。
マリアベラの美しさは外見からではないと肌で感じた。嬉しい筈なのに、私の胸中は複雑だ。
あれだけの美貌で性格がいい、だなんて。
マクシミリアンと並んだ姿が美しかった。
彼女の性格が良さそうで嬉しいのに、不安感とモヤモヤが体をゆっくりと侵食する。
少し会話した私ですら、彼女の雰囲気全てに好意を抱いたのだ。
これから半年間案内をするマクシミリアンは、彼女をどう思うだろう。
そう思って私はプルプルと顔をふる。
彼を信じると決めたではないか。私は堂々としていればいい。
けれどこの僅か2ヶ月後、マクシミリアンとマリアベラの噂が国中に広がるのだった。
「オレリアン国第一王女マリアベラと申します。どうぞお見知り置きを。この国で勉強させていただける事を、光栄に存じます」
すっと耳に心地よく通る美しい声音が響いた。声だけでもこれほどまでに綺麗なのに、姿形までも美しい少女が優雅に膝を折った。
その途端、波打つプラチナブロンドの髪がサラリと揺れて、柔らかな紅い唇が弧を描く。
金色の長い睫毛がゆっくりと瞬けば光が散るように弾け、瞳をあげれば美しいサファイアのように深い蒼の瞳がキラキラと光る。
マクシミリアンを見た時も、オリヴァーを見た時もその綺麗な容姿に息を呑んだし、マーガレットや貴族層の少女たちの美貌にも驚いた。素地は悪くないと思うが、やはり日本人である自分と周囲の違いには微妙な気持ちになっていた。
だが、目の前の王女の美しさはそのレベルを遥かに凌駕していた。冗談でも誇張でもなく、女神や妖精を思わせるような人間離れした美貌だった。
白い肌は透明感があり、内側から光を帯びているようにすら見える。
謁見の間には国王と宰相を筆頭とした側近に、マクシミリアン、オリヴァーとエドワード、私、そして件のオレリアン王女マリアベラとその側近たちが向き合っていた。
彼女が入ってきた時、誰もが息を飲んだ。美しさに圧倒され、数瞬言葉を失ったが宰相のブルタクスが正気を取り戻してベルナールを誘導した。
言葉を交わしている二人を横目に、私はマクシミリアンを盗み見た。
マクシミリアンの透明な瞳が静かにマリアベラを見ていた。その瞳が僅かに揺らいでいるのを見つけて、私はコクリと息を呑む。
自分も彼女に圧倒されたのだから、彼の反応は頷けた。けれど言い知れぬ不安が過る。
マリアベラには見るものを惹き込む圧倒的な存在感がある。
「マクシミリアン、お前にマリアベラ王女の案内を任せた」
「かしこまりました」
いつの間にか話が終わっており、国王の視線がマクシミリアンと隣に佇む私にうつる。
「グレイヒ王国第一王子マクシミリアンと申します。マリアベラ様とお呼びしても?」
「ええ。よろしくお願いします、マクシミリアン様」
「サクラ、君も挨拶を」
マクシミリアンに優しく背を押されてハッと私は膝を折る。
「サクラ・カツラギと申します」
「サクラ様…貴方が聖女様ですか」
マリアベラは大きな瞳を見開くと、王族としてはあり得ない深さで礼をした。
「この度はグランディアをお救いくださり、ありがとうございました」
「ま、マリアベラ様!顔をお上げくださいませ!浄化が成功したのは私の力だけではありません!どうか顔を上げてください!」
慌てふためく私にマリアベラがかぶりを振った。
「サクラ様の成されたことは偉大ですわ。西大陸に生きるものをお救いになられたのです。私は民を背負う王族として、貴方に礼を言わなければなりません。――本当にありがとうございました」
言いきって、マリアベラは顔を上げた。その所作ですら洗練されて美しい。見つめ合うと、瞳の中に吸い込まれそうだった。
真摯なマリアベラの言葉に私も落ち着いて微笑んだ。
「こちらこそ、そのように言ってくださりありがとうございます」
言って、マクシミリアンと視線を交わす。マクシミリアンに意図は伝わったようで彼は軽く頷けた。
「マリアベラ様、長い道中でお疲れでしょう。まずは部屋にご案内します」
「ありがとうございます」
マクシミリアンに促されて、マリアベラの視線が私から外れる。
二人は従者を引き連れて謁見の間から退出した。
私も一緒に退出したが、案内はマクシミリアンだけが命じられているため自室に戻る。
自室にはマーガレットが不安げな様子で控えていた。
「サクラ様、どうでしたか」
「すごく綺麗で、すごく性格がいい方だったわ」
思わずため息をついてしまう。
マリアベラの美しさは外見からではないと肌で感じた。嬉しい筈なのに、私の胸中は複雑だ。
あれだけの美貌で性格がいい、だなんて。
マクシミリアンと並んだ姿が美しかった。
彼女の性格が良さそうで嬉しいのに、不安感とモヤモヤが体をゆっくりと侵食する。
少し会話した私ですら、彼女の雰囲気全てに好意を抱いたのだ。
これから半年間案内をするマクシミリアンは、彼女をどう思うだろう。
そう思って私はプルプルと顔をふる。
彼を信じると決めたではないか。私は堂々としていればいい。
けれどこの僅か2ヶ月後、マクシミリアンとマリアベラの噂が国中に広がるのだった。
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