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Proving On 2
rekordon.9
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高峰と山瀬が拳を合わせて声を発すると観戦席が騒がしくなった。
「いっけー!」
「やべぇ!掛け声生で聞いちまった!」
「やっべかっけぇわ...。」
「きゃー!高峰くーん!」
「あの子が山瀬君!?めっちゃ可愛い!」
お祭り騒ぎの観客席にも見慣れているのか、海生代高校の面々はどっしりと構えている。
「しっかし、海生代の連中すっげぇよな。」
「あぁ...これだけ観客席が騒いでるのに全く動じてないぜ。普通自分達の事のように喜ぶっしょ」
「普通一緒に騒ぐよな...。」
海生代男子テニス部は特殊な空気感があった。常に客観的にそして冷静に試合を分析し、この場合はどうか、このパターンの時はこの動きはベストなのかとまるで大人のように議論を始める。常に観客席で試合を見て分析と議論をし、次の試合までに選手へそれを伝えてインプットするの繰り返し。常に実践主義であり、常に試合で課題を見つけ、練習で補填し再度試合を行う。
「......フゥ。(海生代?鉄壁?ふざけやがって!)」
相手側の選手がサーブを打った。高峰が相手のサーブをわざと打ち上げる。ボールが空を泳ぐようにゆっくりと滞空する合間に相手選手がスマッシュの態勢へと入る。
「......。(カモン...カモン...そのままスマッシュちょうだいさぁ!)」
高峰はボールを見ながらベースラインの真中へと移動する。相手の前衛がスマッシュを打ち込む。しかし、ラケットを振り上げた相手選手の目の前にいきなり山瀬が現れる。そして放たれたスマッシュを超至近距離のボレーで跳ね返す。
「..........!?(お、ぉぃ!?目の前に!?)」
「.........!!!(くっそ!フォロー間に合わねぇ!)」
スマッシュが打たれたコンマゼロ数秒でそれを打ち返される。その刹那の間に出るたった一言の心の声。相手選手は初手の1発目で出鼻を挫かれる。高峰と山瀬は1ポイント目で相手の対応を見て戦略を構築する。影村のサーブと同じである。
「フフ、取れなかったね。」
「えぇ、隆二。この試合すぐに終わる。」
「理恵華。相手は慣れてくると思うかい?」
「...多分だめね。完全に意表を突かれて目が泳いでる。」
竹下は山瀬の無機質な顔つきを見て後退りする。ただボールを見つめる機械のような異質な無表情。高峰はラフなスタイルでラケットを構える。相手選手らは顔を合わせると頷いた。山瀬が障害となるならばそれを避けて高峰を狙っていく。
「マジかよ。あんなの人間技じゃねえよ。」
「あ、あぁ...兄以上の反射神経じゃねえのか?」
「あの兄にしてこの弟ありか...」
観戦席では山瀬の動きを初めて見た観戦者達のどよめきが聞こえてきた。試合は竹下の言う通りあっという間にゲーム差が開いた。
高峰が意表をついた戦術やフェイクプレーで相手コートを引っ掻き回し、前衛である山瀬がそれにボレーでトドメを刺す。観客達はそれを見て歓声を上げる。相手選手らはそのまま雰囲気に飲み込まれていった。
「ゲームセット マッチ ウォンバイ 海生代高校 高峰&山瀬ペア! 8-0! 」
「ウェーイ!」
「ウェーイ!」
高峰と山瀬が拳を合わせる。相手選手達は圧倒的な存在感を放つ2人を見て立ち尽くす。観客席で彼らの1回戦を見た三重県代表五日市工業のダブルス主力戦力である前衛の一志と後衛の嬉野は、まるで湧き上がる衝動を抑えるように歯を食いしばって静かに立ち上がる。
「あ、あれ五日市の全国最強コンビ...」
「間違いねえ、嬉野と一志だ。」
「海生代の連中とのリベンジマッチが見られるかもな。」
周囲にいた観戦者達が二人の後姿に目をやる中、一志はラケットバッグを担いだ。
「口がほころんでるぞイッシー。よっぽどあの2人が気に入っとるんやな。」
「こんなうれしいことってないなぁ。」
「あぁ?」
「あのな、去年のインターハイじゃ俺達に手も足も出なかったやつらが、あんな強くなって戻ってくるのを見るとな。」
「...せやな。」
「んもぉたまらんわぁ!俺達もささっと試合済まそか。」
「あのなぁ...全国の場でそれ言えるってどないなん?」
「.........!」
「.........!」
一志と嬉野は後ろから大きな圧を感じ足を止めた。2人は振り返る。そこに影村がいた。
「...海将...影村。(うわ...エグい圧やん...)」
「噂に聞いとったが...(迫力やべぇな。)」
影村は黙って2人を見下ろす。身長190センチを超える日本人離れした体格の影村を前にしてその威圧感で足が震えた。
「...。」
影村は携帯端末を取り出し、大会本部のあるテントへと歩いて行った。影村の背中でたなびく「海.」の文字を見た2人は心の中でどこか確信した。
「なぁ、イッシー。」
「言わんくってもわかる。嬉野。それ以上は言わんでもわかる。」
「せやな...。(あかん...あれには勝てん...ダブルスコートをフルに使った2対1でも...あいつには勝てん。)」
後に影村の試合を生で見た2人は、全県杯での釜谷南高校の元最高戦力であるレギュラー2名がそうだったように、自分がダブルスに専念していた事にどこか安堵感を覚えたという。
一方、練習用の壁打ちコートでは、ボールを叩き潰す強打音が響いた。龍谷はラケットをコートに落とし、膝に手をついて中腰のまま息を散らした。水谷は龍谷の熱の入れ様に唯々驚いていた。
「はぁ...はぁ...ゼェ...ゼェ...。」
「九州テニス界一の負けず嫌いって噂はあったものの...よくもまぁこんだけボール打ったな。でらすげぇわお前。」
「負けられん。海将は別やけん...じゃが、少のうとも...他ん天才ば呼ばれとる奴らには...負けん!」
「...プッ!ハッハッハッハッハ!」
「何ば笑いよる!当たり前ん事やろう!」
「あー...。お前がそんなどえらい真面目な奴だなんて思っとらんかった。もっとこうオラついとるやつかと思っとったわ。」
「...何?」
「龍谷。これで俺がお前に教えられる全部を教えてやった。次、前年度国体選手とだろ?お披露目でぶっ放してこいよ。」
「元国体選手だか何だか知らんが、蹴散らしたる。(待っとれよ海将、八神も倒してお前とリベンジマッチしたるんじゃ。)」
「まぁ、これだけ動いたんだ。どら腹減ってんだろ。飯行こうぜ。」
「よか。腹減っとる。爆食いしちゃる。」
2人はボールを拾いながら談笑し、練習用の壁打ちコートから出てきた。テニス雑誌記者が彼らを撮影するもお構いなし。体格の大きな2人はそのまま話しながら駐車場の方へと向かっていった。
「水谷、お前んいる愛知県、変わった飯がようけあるって聞いたんけ本当か?」
「...まぁ、他県からすりゃぁ変わってるな。インターハイ終わったら食いに来るか?」
「マジか、香織と泊りで行くけん。」
「泊まりに来いよ。俺ん家、山の手で無駄にデカいから部屋空いてる。」
「マジけ!?ええんか?」
「あぁ、両親も仕事で殆ど居ないから、でら静かなんだわ。本当は賑やかな方が好きなんだ。何ならその辺観光もしていくか?」
「おぉ!終わったら早速行く!竹下、矢留、八神、海将とか、他ん連中も誘うちゃろう!」
「いいなそれ。小学生の頃以来だがん、でぇら楽しみだわ。」
「海将追加されてんのは新鮮じゃ。」
「違いねぇ。早速日を決めるか。早い方がいいだろう。次の11月頃には全県杯もあるし。」
2人が仲良く歩く姿を見た雑誌記者らは邪魔をするのは失礼だと取材をやめた。この大会が終わった後、2人の話していた泊まり観光が本当に実行されるとは龍谷も思っていなかった。
東京都代表の集団。今年で最後のインターハイを迎える高校3年生が一人。聡明で涼しい顔をした背の高い優男は受付で電話をしている影村の姿を見ていた。
「.........。」
「やっちゃ...ぁ、副主将、明日の試合...対戦相手は。」
「ありがとう。明日は朝から全力か。天才に勝っても天才っていう2連続試合...きつそうだな。特に八神君にはインターハイのお礼をしないといけない。」
「パワー系の龍谷、持久戦とカウンター主体の八神...そして...」
「あぁ、練習試合では竹下君に負けてしまった...でも、八神君はそんな彼以上なんでしょう?」
「はい。そして海将は...」
「...行こうか友康。明日は明日の風が吹くよ。それに、2人の時はやっちゃんでいいよ。」
「うん、やっちゃん。」
2人は他校の女子らの憧れの視線、そして彼を知る他校の男子らの畏怖の視線に見送られながら、後輩部員を連れて試合会場を後にする。
「あれ、去年の国体代表選手の...」
「あぁ、間違いねぇ。全県杯で姿を見せなかったが...なんでだ?」
「八神とのリベンジマッチ楽しみすぎるぜ。」
「あぁ、その前に龍谷とだな。昨日水谷を倒したって聞いたぜ。」
「ねぇねぇ!あれ殿村の!」
「わぁ、マジイケメ...美男子ぃ...」
「あれで企業の御曹司なんだもん、人生勝ち組じゃん。」
「うわぁ...もう漫画の世界にいる人みたい...。」
釜谷南高校の兄弟校、私立八王子殿村学院大学高等部 男子テニス部 副主将 谷塚幸仁。後に引退した水谷の人生を一変させる強力な助っ人となる人物である。
夕方、海生代高校の面々が宿泊先へ戻る。バスから寝ぼけたダブルスコンビが下りてきた後、次々と黒ジャージを着た部員達が下りてくる。影村はバスを降りると2人の女性が民宿の入り口に立っていることに気が付く。
「竹下。取材らしいぜ。お前の。」
「フフ、影村かもしれないよ。」
「俺は連盟協会から札付き認定されてるんだろ?」
「フフ、コートの上で起きたことが全てなんだろう?話しかけてみたら...ぁ。」
竹下は影村に雑誌記者2名に声をかけるよう促そうとしたが、前を歩いていた高峰が既に話しかけていた。
「ウェーイ!雑誌記者の人?↑」
「はい!月刊テニスコレクションズの島永です!」
「私は小谷といいます。いきなりの訪問ごめんなさい。どうしても海生代高校の皆さんを取材したいものでしたから。」
「.......。」
海生代高校男子テニス部一同は衝撃のあまり無言のまま立っていた。小谷と島永は何かまずいことを言ってしまったのかと固まっていた。
「よっしゃあー!」
「すごーい!月テニだー!やったね!高峰も副主将も今はチャラくてもいいよ!」
「ウェーイ!(あれ?許可制?)」
「ウェーイ!(あれ?許可制?)」
「フフ、よかったね影村。」
「俺の部分はカットじゃねぇのか?」
「何言ってるんすか主将!絶対主将の事記事になるっすよ!なぁ鼎!」
「吉野、やっと主将が真っ当に評価される日が来るなんて、俺はもう嬉しすぎて飛び降りちゃう!一緒に飛ぼう!」
「早まるなおまえら。」
生まれて初めての取材が来てハイテンションの海生代高校男子テニス部の面々。竹下は影村に笑顔でサムズアップのハンドサインを向ける。影村はどこかやれやれと呆れた顔をする。佐藤は明日の2人の激突が不安で仕方がなかったが、取材に舞い上がる高峰と山城、そして吉野をはじめとするメンバーに無理やりテンションを合わせていた。
「いっけー!」
「やべぇ!掛け声生で聞いちまった!」
「やっべかっけぇわ...。」
「きゃー!高峰くーん!」
「あの子が山瀬君!?めっちゃ可愛い!」
お祭り騒ぎの観客席にも見慣れているのか、海生代高校の面々はどっしりと構えている。
「しっかし、海生代の連中すっげぇよな。」
「あぁ...これだけ観客席が騒いでるのに全く動じてないぜ。普通自分達の事のように喜ぶっしょ」
「普通一緒に騒ぐよな...。」
海生代男子テニス部は特殊な空気感があった。常に客観的にそして冷静に試合を分析し、この場合はどうか、このパターンの時はこの動きはベストなのかとまるで大人のように議論を始める。常に観客席で試合を見て分析と議論をし、次の試合までに選手へそれを伝えてインプットするの繰り返し。常に実践主義であり、常に試合で課題を見つけ、練習で補填し再度試合を行う。
「......フゥ。(海生代?鉄壁?ふざけやがって!)」
相手側の選手がサーブを打った。高峰が相手のサーブをわざと打ち上げる。ボールが空を泳ぐようにゆっくりと滞空する合間に相手選手がスマッシュの態勢へと入る。
「......。(カモン...カモン...そのままスマッシュちょうだいさぁ!)」
高峰はボールを見ながらベースラインの真中へと移動する。相手の前衛がスマッシュを打ち込む。しかし、ラケットを振り上げた相手選手の目の前にいきなり山瀬が現れる。そして放たれたスマッシュを超至近距離のボレーで跳ね返す。
「..........!?(お、ぉぃ!?目の前に!?)」
「.........!!!(くっそ!フォロー間に合わねぇ!)」
スマッシュが打たれたコンマゼロ数秒でそれを打ち返される。その刹那の間に出るたった一言の心の声。相手選手は初手の1発目で出鼻を挫かれる。高峰と山瀬は1ポイント目で相手の対応を見て戦略を構築する。影村のサーブと同じである。
「フフ、取れなかったね。」
「えぇ、隆二。この試合すぐに終わる。」
「理恵華。相手は慣れてくると思うかい?」
「...多分だめね。完全に意表を突かれて目が泳いでる。」
竹下は山瀬の無機質な顔つきを見て後退りする。ただボールを見つめる機械のような異質な無表情。高峰はラフなスタイルでラケットを構える。相手選手らは顔を合わせると頷いた。山瀬が障害となるならばそれを避けて高峰を狙っていく。
「マジかよ。あんなの人間技じゃねえよ。」
「あ、あぁ...兄以上の反射神経じゃねえのか?」
「あの兄にしてこの弟ありか...」
観戦席では山瀬の動きを初めて見た観戦者達のどよめきが聞こえてきた。試合は竹下の言う通りあっという間にゲーム差が開いた。
高峰が意表をついた戦術やフェイクプレーで相手コートを引っ掻き回し、前衛である山瀬がそれにボレーでトドメを刺す。観客達はそれを見て歓声を上げる。相手選手らはそのまま雰囲気に飲み込まれていった。
「ゲームセット マッチ ウォンバイ 海生代高校 高峰&山瀬ペア! 8-0! 」
「ウェーイ!」
「ウェーイ!」
高峰と山瀬が拳を合わせる。相手選手達は圧倒的な存在感を放つ2人を見て立ち尽くす。観客席で彼らの1回戦を見た三重県代表五日市工業のダブルス主力戦力である前衛の一志と後衛の嬉野は、まるで湧き上がる衝動を抑えるように歯を食いしばって静かに立ち上がる。
「あ、あれ五日市の全国最強コンビ...」
「間違いねえ、嬉野と一志だ。」
「海生代の連中とのリベンジマッチが見られるかもな。」
周囲にいた観戦者達が二人の後姿に目をやる中、一志はラケットバッグを担いだ。
「口がほころんでるぞイッシー。よっぽどあの2人が気に入っとるんやな。」
「こんなうれしいことってないなぁ。」
「あぁ?」
「あのな、去年のインターハイじゃ俺達に手も足も出なかったやつらが、あんな強くなって戻ってくるのを見るとな。」
「...せやな。」
「んもぉたまらんわぁ!俺達もささっと試合済まそか。」
「あのなぁ...全国の場でそれ言えるってどないなん?」
「.........!」
「.........!」
一志と嬉野は後ろから大きな圧を感じ足を止めた。2人は振り返る。そこに影村がいた。
「...海将...影村。(うわ...エグい圧やん...)」
「噂に聞いとったが...(迫力やべぇな。)」
影村は黙って2人を見下ろす。身長190センチを超える日本人離れした体格の影村を前にしてその威圧感で足が震えた。
「...。」
影村は携帯端末を取り出し、大会本部のあるテントへと歩いて行った。影村の背中でたなびく「海.」の文字を見た2人は心の中でどこか確信した。
「なぁ、イッシー。」
「言わんくってもわかる。嬉野。それ以上は言わんでもわかる。」
「せやな...。(あかん...あれには勝てん...ダブルスコートをフルに使った2対1でも...あいつには勝てん。)」
後に影村の試合を生で見た2人は、全県杯での釜谷南高校の元最高戦力であるレギュラー2名がそうだったように、自分がダブルスに専念していた事にどこか安堵感を覚えたという。
一方、練習用の壁打ちコートでは、ボールを叩き潰す強打音が響いた。龍谷はラケットをコートに落とし、膝に手をついて中腰のまま息を散らした。水谷は龍谷の熱の入れ様に唯々驚いていた。
「はぁ...はぁ...ゼェ...ゼェ...。」
「九州テニス界一の負けず嫌いって噂はあったものの...よくもまぁこんだけボール打ったな。でらすげぇわお前。」
「負けられん。海将は別やけん...じゃが、少のうとも...他ん天才ば呼ばれとる奴らには...負けん!」
「...プッ!ハッハッハッハッハ!」
「何ば笑いよる!当たり前ん事やろう!」
「あー...。お前がそんなどえらい真面目な奴だなんて思っとらんかった。もっとこうオラついとるやつかと思っとったわ。」
「...何?」
「龍谷。これで俺がお前に教えられる全部を教えてやった。次、前年度国体選手とだろ?お披露目でぶっ放してこいよ。」
「元国体選手だか何だか知らんが、蹴散らしたる。(待っとれよ海将、八神も倒してお前とリベンジマッチしたるんじゃ。)」
「まぁ、これだけ動いたんだ。どら腹減ってんだろ。飯行こうぜ。」
「よか。腹減っとる。爆食いしちゃる。」
2人はボールを拾いながら談笑し、練習用の壁打ちコートから出てきた。テニス雑誌記者が彼らを撮影するもお構いなし。体格の大きな2人はそのまま話しながら駐車場の方へと向かっていった。
「水谷、お前んいる愛知県、変わった飯がようけあるって聞いたんけ本当か?」
「...まぁ、他県からすりゃぁ変わってるな。インターハイ終わったら食いに来るか?」
「マジか、香織と泊りで行くけん。」
「泊まりに来いよ。俺ん家、山の手で無駄にデカいから部屋空いてる。」
「マジけ!?ええんか?」
「あぁ、両親も仕事で殆ど居ないから、でら静かなんだわ。本当は賑やかな方が好きなんだ。何ならその辺観光もしていくか?」
「おぉ!終わったら早速行く!竹下、矢留、八神、海将とか、他ん連中も誘うちゃろう!」
「いいなそれ。小学生の頃以来だがん、でぇら楽しみだわ。」
「海将追加されてんのは新鮮じゃ。」
「違いねぇ。早速日を決めるか。早い方がいいだろう。次の11月頃には全県杯もあるし。」
2人が仲良く歩く姿を見た雑誌記者らは邪魔をするのは失礼だと取材をやめた。この大会が終わった後、2人の話していた泊まり観光が本当に実行されるとは龍谷も思っていなかった。
東京都代表の集団。今年で最後のインターハイを迎える高校3年生が一人。聡明で涼しい顔をした背の高い優男は受付で電話をしている影村の姿を見ていた。
「.........。」
「やっちゃ...ぁ、副主将、明日の試合...対戦相手は。」
「ありがとう。明日は朝から全力か。天才に勝っても天才っていう2連続試合...きつそうだな。特に八神君にはインターハイのお礼をしないといけない。」
「パワー系の龍谷、持久戦とカウンター主体の八神...そして...」
「あぁ、練習試合では竹下君に負けてしまった...でも、八神君はそんな彼以上なんでしょう?」
「はい。そして海将は...」
「...行こうか友康。明日は明日の風が吹くよ。それに、2人の時はやっちゃんでいいよ。」
「うん、やっちゃん。」
2人は他校の女子らの憧れの視線、そして彼を知る他校の男子らの畏怖の視線に見送られながら、後輩部員を連れて試合会場を後にする。
「あれ、去年の国体代表選手の...」
「あぁ、間違いねぇ。全県杯で姿を見せなかったが...なんでだ?」
「八神とのリベンジマッチ楽しみすぎるぜ。」
「あぁ、その前に龍谷とだな。昨日水谷を倒したって聞いたぜ。」
「ねぇねぇ!あれ殿村の!」
「わぁ、マジイケメ...美男子ぃ...」
「あれで企業の御曹司なんだもん、人生勝ち組じゃん。」
「うわぁ...もう漫画の世界にいる人みたい...。」
釜谷南高校の兄弟校、私立八王子殿村学院大学高等部 男子テニス部 副主将 谷塚幸仁。後に引退した水谷の人生を一変させる強力な助っ人となる人物である。
夕方、海生代高校の面々が宿泊先へ戻る。バスから寝ぼけたダブルスコンビが下りてきた後、次々と黒ジャージを着た部員達が下りてくる。影村はバスを降りると2人の女性が民宿の入り口に立っていることに気が付く。
「竹下。取材らしいぜ。お前の。」
「フフ、影村かもしれないよ。」
「俺は連盟協会から札付き認定されてるんだろ?」
「フフ、コートの上で起きたことが全てなんだろう?話しかけてみたら...ぁ。」
竹下は影村に雑誌記者2名に声をかけるよう促そうとしたが、前を歩いていた高峰が既に話しかけていた。
「ウェーイ!雑誌記者の人?↑」
「はい!月刊テニスコレクションズの島永です!」
「私は小谷といいます。いきなりの訪問ごめんなさい。どうしても海生代高校の皆さんを取材したいものでしたから。」
「.......。」
海生代高校男子テニス部一同は衝撃のあまり無言のまま立っていた。小谷と島永は何かまずいことを言ってしまったのかと固まっていた。
「よっしゃあー!」
「すごーい!月テニだー!やったね!高峰も副主将も今はチャラくてもいいよ!」
「ウェーイ!(あれ?許可制?)」
「ウェーイ!(あれ?許可制?)」
「フフ、よかったね影村。」
「俺の部分はカットじゃねぇのか?」
「何言ってるんすか主将!絶対主将の事記事になるっすよ!なぁ鼎!」
「吉野、やっと主将が真っ当に評価される日が来るなんて、俺はもう嬉しすぎて飛び降りちゃう!一緒に飛ぼう!」
「早まるなおまえら。」
生まれて初めての取材が来てハイテンションの海生代高校男子テニス部の面々。竹下は影村に笑顔でサムズアップのハンドサインを向ける。影村はどこかやれやれと呆れた顔をする。佐藤は明日の2人の激突が不安で仕方がなかったが、取材に舞い上がる高峰と山城、そして吉野をはじめとするメンバーに無理やりテンションを合わせていた。
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