90 / 127
Proving On
chronicle.38
しおりを挟む
影村の怪物じみた強さが全国の舞台で証明される。高峰は自分達がそうであったように、影村の突出した実力はもっと表へ出るべきだという考えだった。それは相方の山瀬も同じで、影村が合宿の費用から何までを賞金を稼いで当て込めたという事実に基づいた結果から判断したものだった。
「......すっげぇ。やっぱ影村ッチすげぇよ。」
「リバースサーブ...まさか国内で打てる選手がいるとは。」
「...それって、あの漫画とかに出てくる逆スライスのかかった回転すよね。」
「そうだ。コントロールの制御が難しいから扱いづらい。彼は大衆の前で190キロ近い速度でそれを叩き込んだんだ。もうこの国のプレーヤー達の常識を破壊しにかかっているな。(吉岡さん、今頃興奮してるんだろうな。)」
新貝は高峰に逆スライス回転のサービスであるリバースサーブの難しさを高峰に教えた。一方実況・解説席では吉岡達が日本国内で机上の空論とされているリバースサーブを打った影村を見て沸き上がっていた。
「吉岡さん、今のサーブ、スライスサーブとは逆の方向へと向かって行きましたがこれはどうでしょうか。」
「いやぁ、これ凄いですよ!?ハッハッハッハ!リバースサーブですねぇ!あんなに速い速度でリバース使うプレーヤー初めてみましたよ!そもそも実戦で使ったの国内プレーヤーほとんどいないんじゃないですかね!」
「影村選手、その技量の引き出しから国内で数少ないプレーヤーのみが使えるサーブを選んで打ち込んできました。2ゲーム目も影村選手が取りました。恐ろしいセカンドサーブを見せつけてのサービスゲームキープです。」
八神のサービスゲームが始まる。八神はボールを受け取る。
「......。(リバースサーブ...まさかあの速度で叩き込んで来るとは...しかし、俺がやる事はあいつをストローク戦へ引きずり込む...でもってカウンターで仕留める!)」
八神のトスが上がりサーブが打たれる180キロのフラットサーブ。コート上で今できる八神の最大速度のフラットサーブが打たれる。影村は八神がラケットを振りだす時点でもうコート内へ入っていた。八神のサーブに対して影村はただのブロックリターンを行う様にコンパクトにラケットを振りだす。
「........!(来た!ストローク戦!)」
影村がサーブを返してきた。ボールは八神の打ちやすい球種で彼のフォアハンド側へとバウンドした。八神はすかさず影村のいない場所へとボールを打つ。フォアハンドのダウンザライン。影村が八神の動きを呼んでいたのか、既に走りながらバックハンドの構えを完了していた。八神は影村に彼の計算した場所へとボールを打つように誘導されたことに気が付く。八神は慌ててがら空きになったバックハンド側へと走る。
「おぉぉぉ!(ダウンザラインを打つように誘導したのか!あからさまにがら空きの状態で追いつくとか!どんだけ脚はえぇんだ!)」
八神は自慢の俊足を生かしてボールへと追いつき、今度はバックハンドで影村のフォアサイドのベースライン際の付近を狙ってコートサイドラインの真上を通るダウンザラインのボールを打った。影村が走ってくる。その顔はポーカーフェースで表情が読めなかった。八神は彼がフォアハンドで自分のがら空きになった対角線側へと打つのだという確信をもって走り出した。影村の口角が上がる。ボールが1バウンドしてトップスピンの回転に身を任せてコートを走る。
「.......っち!」
八神がベースライン、コートの真中付近へと到達したとき、影村が闘牛の様に腰を落として低い姿勢で走りながら、ラケットを下から上に荒々しくスイングする。竹下のウインドミルスイングの様でそうではない。まるでボールをぶん殴ったかのようなスイングだった。影村はラケットにボールが当たった後も、そのまま走り去っていくように移動しながらフォアハンドのフォロースルーを完了した。八神の逆を突いたフラット回転が利いた速いストレートのダウンザライン返しが炸裂した。
「0-15」
「ハァ....ハァ....ハァ....!(ここで逆!?普通切返しの対角線側だろ!?)」
2人の間に観客達の声援は聞こえない。影村と八神は互いに集中した世界の先にいた。影村の視線が八神へと向けられる。
「.......。」
影村は呼吸を整えながらじっと八神の動きを観察する。そして影村が立ち尽くして周りを見渡す。彼はそのまま肩や膝、足首をほぐすように回して背伸びをし、軽く2回ジャンプした。
「....。(俺はこの国で一体何をしているのだろうか。ただ実績を付けるといったが、ここにいると自分が何の為にラケットを振っているのかがわからなくなる...こいつ等、本当にテニスが楽しいんだろうか。)」
八神はボールを貰うと次のサービス位置へと移動する。観客達が八神の健闘を祈っている。1ポイントでもいいから挽回してほしいという眼差しを送る。八神は柄にもなくプレッシャーを感じていた。
「.........。(どうすればいい...俺は...次の作戦は...拾いに行くだけなら奴に押し込まれる...長いラリーが続けばあのライジングショット気味の戦術で追いやられる。互いに左右に打ち続ける消耗戦もと思ったが...いいや、それしかない!)」
八神がトスを上げる。同じく影村のバックハンド側へサーブを打つ。少しでも彼の動きを遅くしてラリー内で時間と戦術を立てる時間を稼ぎたいが、生半可な戦略や半端なコースでは影村のカウンターの餌食になる。八神のフラットサーブが影村のバックハンド側をついてくる。影村はコートへと3歩、サービスラインより30センチへ手前と進んでいた。
「......!?(何を!)」
影村の予測した位置にバックハンド側、コートの外側を突いてきたフラット系のボールがバウンドした。彼は腰の高さよりも若干低めにバウンドするボールに対して、ラケットを持った右腕を背中の後ろへと回して背面打ちを実行した。ボールが八神のいないバックハンド側へとまっすぐ進んでいく。八神は走った。何とかボールに追いついた彼は体勢を崩しながら対角線側へ切返しのフォアハンドストロークを打つ。
しかし影村は八神の打った切返しのボールがわざと自分の足元の真中へと落ちる位置へ来るようにサービスコート前でネットと平行に走った。八神が打ったボールは、影村が走りながら助走して飛び上がった時に開かれた右足と左足の隙間から見せたラケットのスイートスポットに直撃し、彼のいないバックハンド側のサービスラインとサイドラインの交点の上へと落ちた。八神は前に出ようとするも間に合わないと踏み動きを止めた。
「0-30」
「........。(クッソ...化物だ...選ばれた5人の天才を相手にそんなプレーがまかり通るだと...こんなのリベンジでもなんでもねぇ...。)」
解説のタゴザエモンは影村が八神に見せたトリックショット2発に言葉を失った。そして我に返ると吉岡の方を向いた。
「よ、吉岡さん。今の動きは何ですか!?」
「...影村選手がバックハンドを狙ってくるサーブをラケットの背面ショットで返して...それを更にクロス方向に打って来た八神君のボールを股抜きボレーで処理...したようですね。」
「....そんなことできるんですか?」
「彼、これやり慣れてますね。ハハハ。(ハリー・グラスマン...!この少年に一体どこまでの技量を仕込んだんだ...!)」
タゴザエモンは後にこの試合中に影村が見せた今のプレーを見て、吉岡は音声こそ笑っていたが、その表情は凍り付いたようだったと話す。影村のクラスでは試合を見ている生徒達が、彼の見せるえげつないプレーに盛り上がるどころか八神へ同情する声が上がった。
「......えっぐ。」
「...もう暴力じゃねぇのかこれ。」
「完全に遊んでやがるぞ...天才で...。」
「八神君...可哀そう...」
「私、影村くん来たら一言言ってやろうかしら。」
影村の披露する2連続のスーパープレーに対して観客達は拍手も賞賛もしなかった。しなかったというよりはあまりにも違和感なく自然過ぎたためそのままやり過ごしたといった状況であった。視聴覚室にいる竹下と佐藤。両者ともあれだけインターハイで自分達を絶望させた八神に、影村が圧倒的且つ一方的な暴力ともつかない程の実力差を見せつけている事に声を震わせる。
「......うそ、あの八神君が。」
「今まで俺達に見せていた試合は何かの制限を付けていたとでもいうのか...影村...。」
「隆二...。」
「影村...一体どこまでの高みにいるんだ...お前一体何なんだ...日本でトップにいるプレーヤーに...それかよ...。」
八神が追い詰めるられる姿を見て悔しそうに涙を滲ませる竹下。そんな竹下の手を優しく握る佐藤に心配そうに彼を見る部活動報告会の面々。2人の姿を視聴覚室の端から見ている重森の姿があった。
「......。」
重森は部活動会議で男子テニス部の顧問である峰沢と照山が言っていた言葉を思い出す。
“なお、コーチ代は東京の高額草トーナメントにて部員1名が更に30万弱を稼ぎましたので”
“その選手は全国5人の天才の一人である龍谷宰君を6-0のストレートで負かしております。この大会で20万円を獲得しております。選手の事はまだ世間には出せないので伏せておきます。”
“我々男子テニス部の為に日夜賞金を稼いでバックアップしてくれるプロにも匹敵するであろうそのプレーヤーと共にね。尤も、コート1面も持ってませんので、資金調達のため、最後に言った彼を動かし続ける必要がありますので難しいですがね。”
重森は最初は竹下と高峰・山瀬が賞金を稼いでいると考えていたが、彼らでは5人の天才をストレートで破る事は不可能である。そしてその部活動報告会の席で指刺された影村の姿。彼女は当時全く信じていなかった。しかし実際に女子テニス部主将である永井との試合を見た時、そして全県杯での彼の試合を見たこともあってか、影村がこのまま勝ち進めば、現在の状況が生まれることは容易に予測できたため、複雑な表情で2人の背中を見るしかなかった。
「.....ハァ...ハァ...アァ!...ァァッ!。」
八神が苦悶の表情で息を散らしながら影村とのラリー戦を行う。読めないサーブ、コンパクトフォームと正確な読みと位置取りによるライジング気味のストローク、ペースを乱され続けた八神は、影村が表情を変えずに攻撃を押し込んで捻じ伏せて来る状況に絶望感を覚える。ベースラインより後ろへと下げられては走らされてを繰り返し行わされ体力は底をついていた。応援席が八神への声援で一杯になる。しかし奇跡は起こらず、八神は影村のサーブを予測できるほどの集中力を温存できず決勝戦が終了する。
「Game set and match Yoshitaka. 6-0・6-0. 」
観客が静まる。動画のコメントも静まる。タゴザエモンは2セット目の第1ゲームより影村がハイペースで攻撃を仕掛け始めた所からもう実況を止めていた。吉岡はタゴザエモンをフォローしつつ、影村のプレーを全国にいる視聴者へと一生懸命に説明していた。
八神は影村へ全く届かなかった自身の無力さに打ちひしがれるどころか、それよりも全力で動き続け体力を出し切った為、ベンチに座ったまま放心状態となっていた。
「2セット目からラリーのテンポ速すぎだろ。あんなの振り回されるわ。」
「海将の奴、終止ベースラインの内側で打ってたよな。」
「多分あいつ来年のインターハイも掻っ攫っていくだろうな。」
「インターハイどころか、全県杯まで取っていく気じゃ。」
「八神君可哀そう...」
「...もう来年からは海生代かぁ。私あの人怖い。」
「そうね。何だろうなんだか怖いね。華が無いっていうか...ね。」
観客達は試合が終わるとぞろぞろと会場を後にする。影村はベンチに座っている八神を見ると、審判の方へと近寄った。八神の疲労が限界点に達していると考えての事だった。
「Hey, leave him alone.」
「Understood. thank you.」
審判は影村が日系人なのかと思いながら日本語ではなく英語で返した。影村は審判の後姿を見るとラケットバッグへ荷物を突っ込んで選手通用口へと歩いて行った。高峰が通路に立っていた。彼はどことなく嬉しそうに、そしてどことなく複雑そうな表情で立っていた。
「おつかれちん☆」
「フッ...Leave it to me. 俺はそれをやっただけだ。」
「わかってるよ...わかってる...だけど...いや、それ以上はやめとくよ。勝った奴が正義だ。」
高峰は複雑な表情で影村を見ていた。山瀬がけがで勝てなかった手前、5人の天才である八神に勝った事は嬉しかった。しかし対戦した八神への同情もあった。
「......じゃあな。表彰式は田覚コーチ達が戻ってきた時頼んだぜ。」
「影村ッチ...。」
「俺はやる事をやった。それだけだ。」
「.........。(言葉足らずかよ...全く...。)」
表彰式に八神と影村の姿はなかった。山瀬は観客席のベンチから高峰が優勝旗を受け取る姿を笑顔で見ていた。
この日、いつもは各県予選の壁から出て来ない強豪校が入り乱れ、波乱に満ちた全県杯が終わった。
男子ダブルスは五日市工業高校が優勝を飾るも、総合優勝は神奈川県だった。ダブルスでの功績が大きかったようだ。更にベスト8の中で3チームが残っていたことが大きかったようだ。高峰は表彰式では真面目な顔で優勝旗を受け取った様子だった。
影村は有明コロシアムに背を向けて歩き始めようとしていた。
「おい、お前がヨシタカか?」
「............。」
影村が英語で呼び止められる。彼の後ろにはカメラを持ったクリスの姿があった。彼は影村にニッコリ笑って近づいてきた。
「アンディに聞いた時は、一体誰かと思ったが...キミすごいねぇ!さすがあの最強鬼コーチ、ハリ―現役最後の教え子だな!」
「あ、あぁ...あんた、アンディを知ってるのか?」
「知ってるも何も、アンディと俺は幼馴染で親友さ。」
「そうかい。」
「で、ちょっと聞かせてくれよ。時間いいか?アンディにあんたの事聞いて来いって言われててさぁ。な、いいだろ?」
「...あぁ。」
クリスは影村と肩を組んで半ば無理矢理引っ張っていった。影村は「まぁよいか」という顔をして彼に引っ張られていった。田覚は表彰式後、大会運営のテントで吉岡、新貝らと合流した。3人共表情は硬く険しかった。高峰は松葉づえをつく山瀬を支えながら駅へと向かってゆく。笹原は会社事務所で役員を交えた緊急会議へと参加するべく会議室の扉を開けた。
全ての試合日程を終了し、それぞれ全国の学校の生徒達が、またそれぞれの日常へと戻ってゆく。そして全ての大会参加者達には翌日からの補習授業という超現実的な“拷問”が待っていた。
数日後、千葉県市原市 養老川臨海公園
テスト期間中の下校時間、竹下と影村は公園のベンチで座っていた。快晴の天気の下でコンビナートの煙突が聳え立ち、大空へ蒸気を放って風に揺られていびつな形の一筋の造形を作っていた。そんな状景を眺めながら2人は飲み物片手に話をする。
「佐藤じゃなくてよかったのか?野郎2人じゃつまらねぇだろ。」
「フフ、気にしないでくれ。むしろこっちのほうが今は落ち着く。邪魔されず気兼ねなく話せる相手がいるだけで十分なんだ。」
「どうした。八神を倒したのがそんなに不満か。」
「フフ、いいよ。インターハイの仇は取ってくれたからね。」
「仇...殺してないぞ?」
「フフ、時代劇に影響されたのかい?」
「いいや、なんとなくお前が複雑な表情をしていたからな。高峰も同じ顔していたぞ。」
「...影村。」
「......?」
「勝ち続けてくれ...あの後、クラスの人達が何を言ったかはわからないけど、もう遠慮はいらない。一切の妥協を許さずにその力を見せつけ続けてくれ。俺達のテニスの常識を破壊しながらでもいい。」
「...そうかい。」
「...あぁ。」
2人はコンビナートの煙突群に目をやると、そのままゆっくりと空を見上げて互いのこれからの男子テニス部の活動内容や体制について意見と議論を交わした。インターネット動画の生放送、そして小谷と島永両名による全県杯の雑誌の特集記事。その影響により、全国の選手達が海生代高等学校の存在を認知した。
海将影村、天才竹下、トリックスター高峰、鉄壁山瀬というそれぞれの2つ名が公になった日であり、そして彼らが着る黒いジャージの「.海」の文字を見た者達から畏怖の念を向けられる事となる。ここに原点にして最高到達点と云われた海生代高校男子テニス部の黄金時代。海生代高校男子テニス部伝説の2人の時代が始まったのである。
「......すっげぇ。やっぱ影村ッチすげぇよ。」
「リバースサーブ...まさか国内で打てる選手がいるとは。」
「...それって、あの漫画とかに出てくる逆スライスのかかった回転すよね。」
「そうだ。コントロールの制御が難しいから扱いづらい。彼は大衆の前で190キロ近い速度でそれを叩き込んだんだ。もうこの国のプレーヤー達の常識を破壊しにかかっているな。(吉岡さん、今頃興奮してるんだろうな。)」
新貝は高峰に逆スライス回転のサービスであるリバースサーブの難しさを高峰に教えた。一方実況・解説席では吉岡達が日本国内で机上の空論とされているリバースサーブを打った影村を見て沸き上がっていた。
「吉岡さん、今のサーブ、スライスサーブとは逆の方向へと向かって行きましたがこれはどうでしょうか。」
「いやぁ、これ凄いですよ!?ハッハッハッハ!リバースサーブですねぇ!あんなに速い速度でリバース使うプレーヤー初めてみましたよ!そもそも実戦で使ったの国内プレーヤーほとんどいないんじゃないですかね!」
「影村選手、その技量の引き出しから国内で数少ないプレーヤーのみが使えるサーブを選んで打ち込んできました。2ゲーム目も影村選手が取りました。恐ろしいセカンドサーブを見せつけてのサービスゲームキープです。」
八神のサービスゲームが始まる。八神はボールを受け取る。
「......。(リバースサーブ...まさかあの速度で叩き込んで来るとは...しかし、俺がやる事はあいつをストローク戦へ引きずり込む...でもってカウンターで仕留める!)」
八神のトスが上がりサーブが打たれる180キロのフラットサーブ。コート上で今できる八神の最大速度のフラットサーブが打たれる。影村は八神がラケットを振りだす時点でもうコート内へ入っていた。八神のサーブに対して影村はただのブロックリターンを行う様にコンパクトにラケットを振りだす。
「........!(来た!ストローク戦!)」
影村がサーブを返してきた。ボールは八神の打ちやすい球種で彼のフォアハンド側へとバウンドした。八神はすかさず影村のいない場所へとボールを打つ。フォアハンドのダウンザライン。影村が八神の動きを呼んでいたのか、既に走りながらバックハンドの構えを完了していた。八神は影村に彼の計算した場所へとボールを打つように誘導されたことに気が付く。八神は慌ててがら空きになったバックハンド側へと走る。
「おぉぉぉ!(ダウンザラインを打つように誘導したのか!あからさまにがら空きの状態で追いつくとか!どんだけ脚はえぇんだ!)」
八神は自慢の俊足を生かしてボールへと追いつき、今度はバックハンドで影村のフォアサイドのベースライン際の付近を狙ってコートサイドラインの真上を通るダウンザラインのボールを打った。影村が走ってくる。その顔はポーカーフェースで表情が読めなかった。八神は彼がフォアハンドで自分のがら空きになった対角線側へと打つのだという確信をもって走り出した。影村の口角が上がる。ボールが1バウンドしてトップスピンの回転に身を任せてコートを走る。
「.......っち!」
八神がベースライン、コートの真中付近へと到達したとき、影村が闘牛の様に腰を落として低い姿勢で走りながら、ラケットを下から上に荒々しくスイングする。竹下のウインドミルスイングの様でそうではない。まるでボールをぶん殴ったかのようなスイングだった。影村はラケットにボールが当たった後も、そのまま走り去っていくように移動しながらフォアハンドのフォロースルーを完了した。八神の逆を突いたフラット回転が利いた速いストレートのダウンザライン返しが炸裂した。
「0-15」
「ハァ....ハァ....ハァ....!(ここで逆!?普通切返しの対角線側だろ!?)」
2人の間に観客達の声援は聞こえない。影村と八神は互いに集中した世界の先にいた。影村の視線が八神へと向けられる。
「.......。」
影村は呼吸を整えながらじっと八神の動きを観察する。そして影村が立ち尽くして周りを見渡す。彼はそのまま肩や膝、足首をほぐすように回して背伸びをし、軽く2回ジャンプした。
「....。(俺はこの国で一体何をしているのだろうか。ただ実績を付けるといったが、ここにいると自分が何の為にラケットを振っているのかがわからなくなる...こいつ等、本当にテニスが楽しいんだろうか。)」
八神はボールを貰うと次のサービス位置へと移動する。観客達が八神の健闘を祈っている。1ポイントでもいいから挽回してほしいという眼差しを送る。八神は柄にもなくプレッシャーを感じていた。
「.........。(どうすればいい...俺は...次の作戦は...拾いに行くだけなら奴に押し込まれる...長いラリーが続けばあのライジングショット気味の戦術で追いやられる。互いに左右に打ち続ける消耗戦もと思ったが...いいや、それしかない!)」
八神がトスを上げる。同じく影村のバックハンド側へサーブを打つ。少しでも彼の動きを遅くしてラリー内で時間と戦術を立てる時間を稼ぎたいが、生半可な戦略や半端なコースでは影村のカウンターの餌食になる。八神のフラットサーブが影村のバックハンド側をついてくる。影村はコートへと3歩、サービスラインより30センチへ手前と進んでいた。
「......!?(何を!)」
影村の予測した位置にバックハンド側、コートの外側を突いてきたフラット系のボールがバウンドした。彼は腰の高さよりも若干低めにバウンドするボールに対して、ラケットを持った右腕を背中の後ろへと回して背面打ちを実行した。ボールが八神のいないバックハンド側へとまっすぐ進んでいく。八神は走った。何とかボールに追いついた彼は体勢を崩しながら対角線側へ切返しのフォアハンドストロークを打つ。
しかし影村は八神の打った切返しのボールがわざと自分の足元の真中へと落ちる位置へ来るようにサービスコート前でネットと平行に走った。八神が打ったボールは、影村が走りながら助走して飛び上がった時に開かれた右足と左足の隙間から見せたラケットのスイートスポットに直撃し、彼のいないバックハンド側のサービスラインとサイドラインの交点の上へと落ちた。八神は前に出ようとするも間に合わないと踏み動きを止めた。
「0-30」
「........。(クッソ...化物だ...選ばれた5人の天才を相手にそんなプレーがまかり通るだと...こんなのリベンジでもなんでもねぇ...。)」
解説のタゴザエモンは影村が八神に見せたトリックショット2発に言葉を失った。そして我に返ると吉岡の方を向いた。
「よ、吉岡さん。今の動きは何ですか!?」
「...影村選手がバックハンドを狙ってくるサーブをラケットの背面ショットで返して...それを更にクロス方向に打って来た八神君のボールを股抜きボレーで処理...したようですね。」
「....そんなことできるんですか?」
「彼、これやり慣れてますね。ハハハ。(ハリー・グラスマン...!この少年に一体どこまでの技量を仕込んだんだ...!)」
タゴザエモンは後にこの試合中に影村が見せた今のプレーを見て、吉岡は音声こそ笑っていたが、その表情は凍り付いたようだったと話す。影村のクラスでは試合を見ている生徒達が、彼の見せるえげつないプレーに盛り上がるどころか八神へ同情する声が上がった。
「......えっぐ。」
「...もう暴力じゃねぇのかこれ。」
「完全に遊んでやがるぞ...天才で...。」
「八神君...可哀そう...」
「私、影村くん来たら一言言ってやろうかしら。」
影村の披露する2連続のスーパープレーに対して観客達は拍手も賞賛もしなかった。しなかったというよりはあまりにも違和感なく自然過ぎたためそのままやり過ごしたといった状況であった。視聴覚室にいる竹下と佐藤。両者ともあれだけインターハイで自分達を絶望させた八神に、影村が圧倒的且つ一方的な暴力ともつかない程の実力差を見せつけている事に声を震わせる。
「......うそ、あの八神君が。」
「今まで俺達に見せていた試合は何かの制限を付けていたとでもいうのか...影村...。」
「隆二...。」
「影村...一体どこまでの高みにいるんだ...お前一体何なんだ...日本でトップにいるプレーヤーに...それかよ...。」
八神が追い詰めるられる姿を見て悔しそうに涙を滲ませる竹下。そんな竹下の手を優しく握る佐藤に心配そうに彼を見る部活動報告会の面々。2人の姿を視聴覚室の端から見ている重森の姿があった。
「......。」
重森は部活動会議で男子テニス部の顧問である峰沢と照山が言っていた言葉を思い出す。
“なお、コーチ代は東京の高額草トーナメントにて部員1名が更に30万弱を稼ぎましたので”
“その選手は全国5人の天才の一人である龍谷宰君を6-0のストレートで負かしております。この大会で20万円を獲得しております。選手の事はまだ世間には出せないので伏せておきます。”
“我々男子テニス部の為に日夜賞金を稼いでバックアップしてくれるプロにも匹敵するであろうそのプレーヤーと共にね。尤も、コート1面も持ってませんので、資金調達のため、最後に言った彼を動かし続ける必要がありますので難しいですがね。”
重森は最初は竹下と高峰・山瀬が賞金を稼いでいると考えていたが、彼らでは5人の天才をストレートで破る事は不可能である。そしてその部活動報告会の席で指刺された影村の姿。彼女は当時全く信じていなかった。しかし実際に女子テニス部主将である永井との試合を見た時、そして全県杯での彼の試合を見たこともあってか、影村がこのまま勝ち進めば、現在の状況が生まれることは容易に予測できたため、複雑な表情で2人の背中を見るしかなかった。
「.....ハァ...ハァ...アァ!...ァァッ!。」
八神が苦悶の表情で息を散らしながら影村とのラリー戦を行う。読めないサーブ、コンパクトフォームと正確な読みと位置取りによるライジング気味のストローク、ペースを乱され続けた八神は、影村が表情を変えずに攻撃を押し込んで捻じ伏せて来る状況に絶望感を覚える。ベースラインより後ろへと下げられては走らされてを繰り返し行わされ体力は底をついていた。応援席が八神への声援で一杯になる。しかし奇跡は起こらず、八神は影村のサーブを予測できるほどの集中力を温存できず決勝戦が終了する。
「Game set and match Yoshitaka. 6-0・6-0. 」
観客が静まる。動画のコメントも静まる。タゴザエモンは2セット目の第1ゲームより影村がハイペースで攻撃を仕掛け始めた所からもう実況を止めていた。吉岡はタゴザエモンをフォローしつつ、影村のプレーを全国にいる視聴者へと一生懸命に説明していた。
八神は影村へ全く届かなかった自身の無力さに打ちひしがれるどころか、それよりも全力で動き続け体力を出し切った為、ベンチに座ったまま放心状態となっていた。
「2セット目からラリーのテンポ速すぎだろ。あんなの振り回されるわ。」
「海将の奴、終止ベースラインの内側で打ってたよな。」
「多分あいつ来年のインターハイも掻っ攫っていくだろうな。」
「インターハイどころか、全県杯まで取っていく気じゃ。」
「八神君可哀そう...」
「...もう来年からは海生代かぁ。私あの人怖い。」
「そうね。何だろうなんだか怖いね。華が無いっていうか...ね。」
観客達は試合が終わるとぞろぞろと会場を後にする。影村はベンチに座っている八神を見ると、審判の方へと近寄った。八神の疲労が限界点に達していると考えての事だった。
「Hey, leave him alone.」
「Understood. thank you.」
審判は影村が日系人なのかと思いながら日本語ではなく英語で返した。影村は審判の後姿を見るとラケットバッグへ荷物を突っ込んで選手通用口へと歩いて行った。高峰が通路に立っていた。彼はどことなく嬉しそうに、そしてどことなく複雑そうな表情で立っていた。
「おつかれちん☆」
「フッ...Leave it to me. 俺はそれをやっただけだ。」
「わかってるよ...わかってる...だけど...いや、それ以上はやめとくよ。勝った奴が正義だ。」
高峰は複雑な表情で影村を見ていた。山瀬がけがで勝てなかった手前、5人の天才である八神に勝った事は嬉しかった。しかし対戦した八神への同情もあった。
「......じゃあな。表彰式は田覚コーチ達が戻ってきた時頼んだぜ。」
「影村ッチ...。」
「俺はやる事をやった。それだけだ。」
「.........。(言葉足らずかよ...全く...。)」
表彰式に八神と影村の姿はなかった。山瀬は観客席のベンチから高峰が優勝旗を受け取る姿を笑顔で見ていた。
この日、いつもは各県予選の壁から出て来ない強豪校が入り乱れ、波乱に満ちた全県杯が終わった。
男子ダブルスは五日市工業高校が優勝を飾るも、総合優勝は神奈川県だった。ダブルスでの功績が大きかったようだ。更にベスト8の中で3チームが残っていたことが大きかったようだ。高峰は表彰式では真面目な顔で優勝旗を受け取った様子だった。
影村は有明コロシアムに背を向けて歩き始めようとしていた。
「おい、お前がヨシタカか?」
「............。」
影村が英語で呼び止められる。彼の後ろにはカメラを持ったクリスの姿があった。彼は影村にニッコリ笑って近づいてきた。
「アンディに聞いた時は、一体誰かと思ったが...キミすごいねぇ!さすがあの最強鬼コーチ、ハリ―現役最後の教え子だな!」
「あ、あぁ...あんた、アンディを知ってるのか?」
「知ってるも何も、アンディと俺は幼馴染で親友さ。」
「そうかい。」
「で、ちょっと聞かせてくれよ。時間いいか?アンディにあんたの事聞いて来いって言われててさぁ。な、いいだろ?」
「...あぁ。」
クリスは影村と肩を組んで半ば無理矢理引っ張っていった。影村は「まぁよいか」という顔をして彼に引っ張られていった。田覚は表彰式後、大会運営のテントで吉岡、新貝らと合流した。3人共表情は硬く険しかった。高峰は松葉づえをつく山瀬を支えながら駅へと向かってゆく。笹原は会社事務所で役員を交えた緊急会議へと参加するべく会議室の扉を開けた。
全ての試合日程を終了し、それぞれ全国の学校の生徒達が、またそれぞれの日常へと戻ってゆく。そして全ての大会参加者達には翌日からの補習授業という超現実的な“拷問”が待っていた。
数日後、千葉県市原市 養老川臨海公園
テスト期間中の下校時間、竹下と影村は公園のベンチで座っていた。快晴の天気の下でコンビナートの煙突が聳え立ち、大空へ蒸気を放って風に揺られていびつな形の一筋の造形を作っていた。そんな状景を眺めながら2人は飲み物片手に話をする。
「佐藤じゃなくてよかったのか?野郎2人じゃつまらねぇだろ。」
「フフ、気にしないでくれ。むしろこっちのほうが今は落ち着く。邪魔されず気兼ねなく話せる相手がいるだけで十分なんだ。」
「どうした。八神を倒したのがそんなに不満か。」
「フフ、いいよ。インターハイの仇は取ってくれたからね。」
「仇...殺してないぞ?」
「フフ、時代劇に影響されたのかい?」
「いいや、なんとなくお前が複雑な表情をしていたからな。高峰も同じ顔していたぞ。」
「...影村。」
「......?」
「勝ち続けてくれ...あの後、クラスの人達が何を言ったかはわからないけど、もう遠慮はいらない。一切の妥協を許さずにその力を見せつけ続けてくれ。俺達のテニスの常識を破壊しながらでもいい。」
「...そうかい。」
「...あぁ。」
2人はコンビナートの煙突群に目をやると、そのままゆっくりと空を見上げて互いのこれからの男子テニス部の活動内容や体制について意見と議論を交わした。インターネット動画の生放送、そして小谷と島永両名による全県杯の雑誌の特集記事。その影響により、全国の選手達が海生代高等学校の存在を認知した。
海将影村、天才竹下、トリックスター高峰、鉄壁山瀬というそれぞれの2つ名が公になった日であり、そして彼らが着る黒いジャージの「.海」の文字を見た者達から畏怖の念を向けられる事となる。ここに原点にして最高到達点と云われた海生代高校男子テニス部の黄金時代。海生代高校男子テニス部伝説の2人の時代が始まったのである。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彗星と遭う
皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】
中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。
その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。
その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。
突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。
もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。
二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。
部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。
怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。
天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。
各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。
衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。
圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。
彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。
この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。
☆
第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》
第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》
第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》
登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

パラメーターゲーム
篠崎流
青春
父子家庭で育った俺、風間悠斗。全国を親父に付いて転勤引越し生活してたが、高校の途中で再び転勤の話が出た「インドだと!?冗談じゃない」という事で俺は拒否した
東京で遠い親戚に預けられる事に成ったが、とてもいい家族だった。暫く平凡なバイト三昧の高校生活を楽しんだが、ある日、変なガキと絡んだ事から、俺の人生が大反転した。「何だこれ?!俺のスマホギャルゲがいきなり仕様変更!?」
だが、それは「相手のパラメーターが見れる」という正に神ゲーだった
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる