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Proving On
chronicle.13
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吉岡昭三。全盛期の実力は世界ランク54位、ウィンブルドン男子シングルス62年ぶりのベスト8という快挙を達成するもケガに悩まされその後引退。現在はタレント、全日本テニス連盟協会の役員を務める傍ら、シニアクラスの大会に出場している。
東京都内某所 日本テニス連盟協会
吉岡は高いビルに入っている事務所の窓から外を眺めていた。彼は窓から見える曇りがかった空を眺めた。部屋の扉をノックする音が聞こえると、彼は扉の方を振り返る。部屋に雲出が入ってきた。
「全県杯の会場...有明へ向かう準備ができました。」
「....わかった。」
「その後、ファイヴ・パーソンプロジェクトの件で会議の予定です。」
「そのプロジェクトへは関与しない。俺は最初から反対の立場を表明している。頑固者と言われたほうがましだ。適当な理由を付けて欠席としておいてくれ。子供達への指導はするが、その子供達を食い物にする連中へは加担したくはないのだ。いくら日本テニス協会の為と考える人間が多いとはいえな。」
「...わかりました。では失礼いします。」
雲出は一礼すると部屋を出て行った。吉岡は彼女が出て行った後に大きくため息をついた。彼の頭に当時まだ小学生だった頃の5人の顔が浮かぶ。竹下、龍谷、八神、水谷、矢留。皆どんな振るいにかけようとしても、最期まで残留し、それどころか厳しい指導を行った自分へ目を輝かせ憧れてくれた者達。吉岡はそんな彼らが企業の金儲けの餌にされていることを気に病んでいた。
「連盟協会を出て行ってでも俺は反対するさ...。(5人の天才を打倒す人間が出れば...せめて、ウィングシューターズに所属していた影村君が優勝すれば、彼らの精神は解放されるのかもしれない。作られた天才...。彼ら5人はあまりにも...。)」
吉岡は駐車場へ向かう道中頭の中で考え事をしていた。雲出が運転する車の助手席へと乗り込んだ吉岡。車両は全県杯の会場である有明テニスの森公園へと向かうべく、タイヤをゆっくりと回転させながら徐行速度で駐車場を出ようとしていた。
「今年の全県杯は千葉県勢が突出して総合力での強さを振るう。吉岡さんの予想通りです。」
「まぁ...予測に値する選手達が揃っているからね。特に今年は竹下と...そんな彼と同格の天才達が口を揃えて警戒している海将...ヨシタカがいる。」
「あのハリー・グラスマン引退前の最後の教え子達の一人。天才に勝ち、全国優勝を獲得できる実力が?」
「グラスマンの教え子だよ。あの人の教育は世界トップクラスの選手達を何人も生み出している。」
車は304号線を行き、勝鬨橋を越えたところだった。新貝は吉岡の登場を待っていた。田覚は何かを予感して背筋がゾッとしたが持ち直した。彼にとって吉岡は熱血漢の恐怖の大王でしかなかった。それは当時、田覚が竹下へまだ未開のテクニックであったウインドミルスイングによるリバースフォアハンドを教え、大いに叱責を受けてプロジェクトメンバーから外された思い出があるためだった。結果としてはこのスイング方式が竹下と愛称が抜群だったため、その後に天才と呼ばれる地位を確立したのはとても皮肉な話であった。
「田覚君は元気にしているだろうか。」
「まだ引きずってらっしゃったのですか?」
「あぁ...当時の彼は若くしてファイヴパーソンプロジェクトへ参加できるほどの実力、教育のセンスがあった。私は彼が竹下君へ教えたフォアハンドを見て思わず怒涛の叱責をしてしまっただけでなく、プロジェクトメンバーから外してしまったという愚行を犯してしまった。まぁ、当時30代後半だった自分の話だ。情熱も過ぎれば他者への価値観の押し付けにしかならない。記憶に刻んだ事だ。」
「...おそらく彼もわかっていますよ。千葉県代表選手団の専属コーチですから。」
走る車の中、吉岡は空を見上げて物思いに耽っていた。車は道を有明テニスの森へ向かって進んだ。
第2セット第6ゲーム 辻内の表情は歪み、応援は絶望し声も挙げられない程だった。
「...はぁ...はぁ...。(化け物...化け物だ...あんなの勝てるやついんのかよ!)」
息を上げる辻内。それに対して影村はまるで練習前のウォーミングアップでもしているかのような涼しい顔だった。影村のサーブを1球も予測できない。見わけもつかない同じ動作からの同じトス。スイングフォームから繰り出されるボールが何処を狙うのかさえも分からない。ましてや自分のサービスゲームの際はどれだけ狙ってファーストサーブを入れたとしても、すぐにコースや球種を読まれた挙句ベースラインの内側でボールを叩き返されるため、その早いタイミングの返球に対応できずリターンエースを量産される。そしてゲームカウント 0-30では自分がどんなウィナー級のボールを打ち込んでも同じ位置、同じ威力、同じ球速、同じ回転量のボールが2分弱永遠と返ってくる。彼のスタミナは悲鳴を上げ、そしてその苦悶の表情は地方から応援に来てくれた学校の後輩、先輩、黄色い声援を送る女子生徒達に不安と恐怖を与え、彼を支えてきた雪里はそんな状況から絶望に打ちひしがれる顔を浮かべる。
「...ぜぇ...ぜぇ...ぜぇ...。(あーやべぇ...息ができねぇ。マラソン全力で走った後みてぇ...雪里...そんな顔すんじゃねえよ...海将...さすがだ...5人の天才達が警戒してたのも納得だ...俺は決して弱くない...あいつが...あいつらが強すぎるんだ...そう...。)」
「0-40...!」
審判からゲームカウントが告げられる。第2セット第12ゲーム、影村のマッチポイント。辻内のサーブを打つ為に構えるラケットから汗がしたたり落ち、ボールを持つ手は微小に震えた。彼のトスが上がる。影村はトスの位置、脚の動き、体の向きから彼がどれだけの肩の可動域を持っているのか、ラケットをスイングして打てるボールの角度と威力を即座に感覚で予測した。そして更に辻内が次に打つであろうファーストサーブがバックハンドを狙ったスピンサーブだと予測した。バックハンド側にスピンサーブを打ち込み、遅くも高くボールが跳ねる事を利用して、影村がバックハンドの処理に追われる間のわずかな間、サーブを打ち終わってからの態勢の立て直し、そして次の行動へ移るためのスプリットステップを行うまでの時間を稼ぐ狙いが見えていた。
「ぉぉ...アッ!」
辻内から渾身のスピンサーブが放たれた。バウントしてからの伸びと高さを重視したそれは、急速は遅くともバウンドしてから影村がバックハンドでボールを処理するまでの時間が発生することを前提としていた。
「......!(よし、バックハンド!着地...ステップ...!)」
辻内は諦めていなかった。影村はそんな彼が最後まで棄権せずにゲームをやりきるという姿勢に感動した。雪里はハンカチを握りしめた。
「......。(行って...届いて!あんたは天才だって越えられるじゃない!)」
雪里の目に力が入る。握りしめたハンカチに彼女の手汗がにじむ。辻内は顔を歪めながら着地するとスプリットステップの態勢に入る。しかし彼は影村の方を見て背筋が凍った。
「...!(おぃ...まじかよ...フィニッ...シュ...かよ...)」
影村はバックハンドスイングを繰り出すのではなく、そのままバックハンド側へとバウンドするボールの高さ、スピード、跳ね上がり具合を予測した上で大きくステップを踏むと、ボールがバウンドする位置へと一気に回り込みながら、もう既に大きくラケットをテイクバックしていた。鹿子フェスの八神戦で見せた、回り込んでの大ぶりフォアハンド。ラケットの角度、打点の場所、体の向き、体勢、その全てが完璧だった。そして辻内から見た世界の全てがスローモーションに見えた。
影村は辻内の打ったスピンサーブがバウンドして上がりきる前の、丁度上からボールを叩き落とせる位置へとラケット面が来るようにラケットをフルスイングで振りぬいた。ボールが彼のフルスイングしたラケット面のスイートスポットへと直撃し、腰の回転に乗せられ、けたたましい打音と共に勢いそのままに辻内のコートへと返っていった。
「..........!?」
重森、川合、吉永を始めとした速いボールを経験した観戦者達が、そのボールの威力を目の当たりにして目を大きく見開き絶句した。影村がラケットをスイングし、そのラケット面にボールが当たってすぐ辻内のコート内にボールが着地する。これは彼のボールが180キロ台を超えていることを意味する。
「.........。」
辺りが静まり返る。まるで巨大な鞭がボールを叩き潰したようなけたたましい打音に、国内の試合で数々のゲームを見てきた協会連盟所属の審判も言葉を失った。
「嘘...フォアで...サーブ...?」
震える雪里声を聞いた同じ地元からきている観戦者達は、彼女の方へゆっくりと目をやった後再びコートへと視線を戻す。この時1人の観戦者がゆっくりと拍手をした。周囲の者達、そして重森を始めとした海生代高校の面々達を含め、ゆっくりと拍手をする人間をみて驚いた。吉永は思わずその名を口に出す。
「水谷...修永...。」
愛知県代表で5人の天才の一人である。彼の拍手を見るとその数秒後、コートの観客席が拍手で埋まった。
「ゲームセット マッチ ウォンバイ 千葉県代表 影村! 6-0・6-0! 」
「いいぞー!海将ー!」
「いやー!辻内君が負けたー!」
「すげぇ!すげぇぞ海将!」
「海将―!」
試合終了のコールの後、観客席からの拍手の中で影村と辻内は審判台の前へと移動し、試合終了の握手を交わす。
「すごいな君...影村君...だっけ?」
「...あぁ。」
「.....次は絶対勝つからな!」
「意外に早く会えるかもしれねぇな...。」
2人はバッグに荷物を詰める。影村はそそくさとコートを後にした。辻内が雪里の正面に立つ。涙目の彼女に頭を下げる辻内へ地元から足を運んだ応援者らの拍手が送られる。
「修永。そろそろ。」
「あぁ、分かっている。明日には当たるだろうな。海将。」
「その前に次の試合。次東京都の強豪校なんだからよ。」
「海将...でら武者震いするわ。」
水谷の腕の筋肉が盛り上がる。それを見た付き添いの生徒は、そんなテニスジャンキーな水谷に大きくため息をついた。2人はコートを後にする。その後、彼は6-1・6-0で2回戦を突破し、この試合で相手のラケットを吹っ飛ばすほどの威力を持つボールを打つことから別名“破壊王”と呼ばれた。
東京都内某所 日本テニス連盟協会
吉岡は高いビルに入っている事務所の窓から外を眺めていた。彼は窓から見える曇りがかった空を眺めた。部屋の扉をノックする音が聞こえると、彼は扉の方を振り返る。部屋に雲出が入ってきた。
「全県杯の会場...有明へ向かう準備ができました。」
「....わかった。」
「その後、ファイヴ・パーソンプロジェクトの件で会議の予定です。」
「そのプロジェクトへは関与しない。俺は最初から反対の立場を表明している。頑固者と言われたほうがましだ。適当な理由を付けて欠席としておいてくれ。子供達への指導はするが、その子供達を食い物にする連中へは加担したくはないのだ。いくら日本テニス協会の為と考える人間が多いとはいえな。」
「...わかりました。では失礼いします。」
雲出は一礼すると部屋を出て行った。吉岡は彼女が出て行った後に大きくため息をついた。彼の頭に当時まだ小学生だった頃の5人の顔が浮かぶ。竹下、龍谷、八神、水谷、矢留。皆どんな振るいにかけようとしても、最期まで残留し、それどころか厳しい指導を行った自分へ目を輝かせ憧れてくれた者達。吉岡はそんな彼らが企業の金儲けの餌にされていることを気に病んでいた。
「連盟協会を出て行ってでも俺は反対するさ...。(5人の天才を打倒す人間が出れば...せめて、ウィングシューターズに所属していた影村君が優勝すれば、彼らの精神は解放されるのかもしれない。作られた天才...。彼ら5人はあまりにも...。)」
吉岡は駐車場へ向かう道中頭の中で考え事をしていた。雲出が運転する車の助手席へと乗り込んだ吉岡。車両は全県杯の会場である有明テニスの森公園へと向かうべく、タイヤをゆっくりと回転させながら徐行速度で駐車場を出ようとしていた。
「今年の全県杯は千葉県勢が突出して総合力での強さを振るう。吉岡さんの予想通りです。」
「まぁ...予測に値する選手達が揃っているからね。特に今年は竹下と...そんな彼と同格の天才達が口を揃えて警戒している海将...ヨシタカがいる。」
「あのハリー・グラスマン引退前の最後の教え子達の一人。天才に勝ち、全国優勝を獲得できる実力が?」
「グラスマンの教え子だよ。あの人の教育は世界トップクラスの選手達を何人も生み出している。」
車は304号線を行き、勝鬨橋を越えたところだった。新貝は吉岡の登場を待っていた。田覚は何かを予感して背筋がゾッとしたが持ち直した。彼にとって吉岡は熱血漢の恐怖の大王でしかなかった。それは当時、田覚が竹下へまだ未開のテクニックであったウインドミルスイングによるリバースフォアハンドを教え、大いに叱責を受けてプロジェクトメンバーから外された思い出があるためだった。結果としてはこのスイング方式が竹下と愛称が抜群だったため、その後に天才と呼ばれる地位を確立したのはとても皮肉な話であった。
「田覚君は元気にしているだろうか。」
「まだ引きずってらっしゃったのですか?」
「あぁ...当時の彼は若くしてファイヴパーソンプロジェクトへ参加できるほどの実力、教育のセンスがあった。私は彼が竹下君へ教えたフォアハンドを見て思わず怒涛の叱責をしてしまっただけでなく、プロジェクトメンバーから外してしまったという愚行を犯してしまった。まぁ、当時30代後半だった自分の話だ。情熱も過ぎれば他者への価値観の押し付けにしかならない。記憶に刻んだ事だ。」
「...おそらく彼もわかっていますよ。千葉県代表選手団の専属コーチですから。」
走る車の中、吉岡は空を見上げて物思いに耽っていた。車は道を有明テニスの森へ向かって進んだ。
第2セット第6ゲーム 辻内の表情は歪み、応援は絶望し声も挙げられない程だった。
「...はぁ...はぁ...。(化け物...化け物だ...あんなの勝てるやついんのかよ!)」
息を上げる辻内。それに対して影村はまるで練習前のウォーミングアップでもしているかのような涼しい顔だった。影村のサーブを1球も予測できない。見わけもつかない同じ動作からの同じトス。スイングフォームから繰り出されるボールが何処を狙うのかさえも分からない。ましてや自分のサービスゲームの際はどれだけ狙ってファーストサーブを入れたとしても、すぐにコースや球種を読まれた挙句ベースラインの内側でボールを叩き返されるため、その早いタイミングの返球に対応できずリターンエースを量産される。そしてゲームカウント 0-30では自分がどんなウィナー級のボールを打ち込んでも同じ位置、同じ威力、同じ球速、同じ回転量のボールが2分弱永遠と返ってくる。彼のスタミナは悲鳴を上げ、そしてその苦悶の表情は地方から応援に来てくれた学校の後輩、先輩、黄色い声援を送る女子生徒達に不安と恐怖を与え、彼を支えてきた雪里はそんな状況から絶望に打ちひしがれる顔を浮かべる。
「...ぜぇ...ぜぇ...ぜぇ...。(あーやべぇ...息ができねぇ。マラソン全力で走った後みてぇ...雪里...そんな顔すんじゃねえよ...海将...さすがだ...5人の天才達が警戒してたのも納得だ...俺は決して弱くない...あいつが...あいつらが強すぎるんだ...そう...。)」
「0-40...!」
審判からゲームカウントが告げられる。第2セット第12ゲーム、影村のマッチポイント。辻内のサーブを打つ為に構えるラケットから汗がしたたり落ち、ボールを持つ手は微小に震えた。彼のトスが上がる。影村はトスの位置、脚の動き、体の向きから彼がどれだけの肩の可動域を持っているのか、ラケットをスイングして打てるボールの角度と威力を即座に感覚で予測した。そして更に辻内が次に打つであろうファーストサーブがバックハンドを狙ったスピンサーブだと予測した。バックハンド側にスピンサーブを打ち込み、遅くも高くボールが跳ねる事を利用して、影村がバックハンドの処理に追われる間のわずかな間、サーブを打ち終わってからの態勢の立て直し、そして次の行動へ移るためのスプリットステップを行うまでの時間を稼ぐ狙いが見えていた。
「ぉぉ...アッ!」
辻内から渾身のスピンサーブが放たれた。バウントしてからの伸びと高さを重視したそれは、急速は遅くともバウンドしてから影村がバックハンドでボールを処理するまでの時間が発生することを前提としていた。
「......!(よし、バックハンド!着地...ステップ...!)」
辻内は諦めていなかった。影村はそんな彼が最後まで棄権せずにゲームをやりきるという姿勢に感動した。雪里はハンカチを握りしめた。
「......。(行って...届いて!あんたは天才だって越えられるじゃない!)」
雪里の目に力が入る。握りしめたハンカチに彼女の手汗がにじむ。辻内は顔を歪めながら着地するとスプリットステップの態勢に入る。しかし彼は影村の方を見て背筋が凍った。
「...!(おぃ...まじかよ...フィニッ...シュ...かよ...)」
影村はバックハンドスイングを繰り出すのではなく、そのままバックハンド側へとバウンドするボールの高さ、スピード、跳ね上がり具合を予測した上で大きくステップを踏むと、ボールがバウンドする位置へと一気に回り込みながら、もう既に大きくラケットをテイクバックしていた。鹿子フェスの八神戦で見せた、回り込んでの大ぶりフォアハンド。ラケットの角度、打点の場所、体の向き、体勢、その全てが完璧だった。そして辻内から見た世界の全てがスローモーションに見えた。
影村は辻内の打ったスピンサーブがバウンドして上がりきる前の、丁度上からボールを叩き落とせる位置へとラケット面が来るようにラケットをフルスイングで振りぬいた。ボールが彼のフルスイングしたラケット面のスイートスポットへと直撃し、腰の回転に乗せられ、けたたましい打音と共に勢いそのままに辻内のコートへと返っていった。
「..........!?」
重森、川合、吉永を始めとした速いボールを経験した観戦者達が、そのボールの威力を目の当たりにして目を大きく見開き絶句した。影村がラケットをスイングし、そのラケット面にボールが当たってすぐ辻内のコート内にボールが着地する。これは彼のボールが180キロ台を超えていることを意味する。
「.........。」
辺りが静まり返る。まるで巨大な鞭がボールを叩き潰したようなけたたましい打音に、国内の試合で数々のゲームを見てきた協会連盟所属の審判も言葉を失った。
「嘘...フォアで...サーブ...?」
震える雪里声を聞いた同じ地元からきている観戦者達は、彼女の方へゆっくりと目をやった後再びコートへと視線を戻す。この時1人の観戦者がゆっくりと拍手をした。周囲の者達、そして重森を始めとした海生代高校の面々達を含め、ゆっくりと拍手をする人間をみて驚いた。吉永は思わずその名を口に出す。
「水谷...修永...。」
愛知県代表で5人の天才の一人である。彼の拍手を見るとその数秒後、コートの観客席が拍手で埋まった。
「ゲームセット マッチ ウォンバイ 千葉県代表 影村! 6-0・6-0! 」
「いいぞー!海将ー!」
「いやー!辻内君が負けたー!」
「すげぇ!すげぇぞ海将!」
「海将―!」
試合終了のコールの後、観客席からの拍手の中で影村と辻内は審判台の前へと移動し、試合終了の握手を交わす。
「すごいな君...影村君...だっけ?」
「...あぁ。」
「.....次は絶対勝つからな!」
「意外に早く会えるかもしれねぇな...。」
2人はバッグに荷物を詰める。影村はそそくさとコートを後にした。辻内が雪里の正面に立つ。涙目の彼女に頭を下げる辻内へ地元から足を運んだ応援者らの拍手が送られる。
「修永。そろそろ。」
「あぁ、分かっている。明日には当たるだろうな。海将。」
「その前に次の試合。次東京都の強豪校なんだからよ。」
「海将...でら武者震いするわ。」
水谷の腕の筋肉が盛り上がる。それを見た付き添いの生徒は、そんなテニスジャンキーな水谷に大きくため息をついた。2人はコートを後にする。その後、彼は6-1・6-0で2回戦を突破し、この試合で相手のラケットを吹っ飛ばすほどの威力を持つボールを打つことから別名“破壊王”と呼ばれた。
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