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Moving On
manuscript.36
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神奈川商工大学のメンバーらは影村のサーブを見て固まった。隣にいた八神を応援していた中高生女子らは、今目の前で起きた現実が理解できていなかった。影村がラケットを振ったコンマ数秒。瞬きをする内にサービスライン上でバウンドしたボール。それは天才の中で頂点と云われる少年に驚きを与える。そしてその一瞬の出来事に試合観戦者達が沈黙した。
「え?なに?何今の音。」
「八神君ポイント取ったの?」
「え、でも今15-0って...。」
「...ね、ねぇ...こ、これ...。」
一人のテニス好きの女子中学生が興味本位で使った、「一球入魂君」という名前のスピード計測アプリ。彼女は震える手を押さえながら隣にいた友人に自分が持っていた携帯端末アプリの画面を見せる。そこには232.75㎞/hと表示されていた。
「....。」
「ね、ねぇ...これ、故障じゃないよね...ねぇってば!」
隣にいたその友人は目を見開いて八神がサービスエースを取られた光景を信用したくなかったが、審判が告げたポイントコールを聞いて、それを認めざるを得なかった。遠くから試合を見ていた矢留と桃谷は、冷静になろうとするも体の震えがそれを許さなかった。
「...矢留君どう見る?」
「...勝てない。」
「.....!?」
「あれは...スピードだけなんて生半可なものじゃない...。」
「...そうね。少なくとも、八神君、サーブのコースが読めなかったんじゃないのかしら。」
「読めなかったんじゃない。読んだ方向と逆の方へと撃ち込まれたんだ。あいつは瞬きするたった一瞬を突かれたんだ。」
「....化物ね。」
「あぁ...もっと近くで見たい。」
矢留と桃谷は前の方のベンチへと進む。他の参加選手や観戦者達は突然の天才の出現に矢留を凝視する。矢留はベンチの空いている場所へと座った。影村は淡々と精悍な顔つきでボールを突きながら次のサービス位置へと向かう。信行は手が震えていた。
「フフフ...刺激が強かったかな?」
「影村君...一体何なの...僕、照山さんにどう報告したら...」
「ノブ。黙っとけ。」
「森野さん...。」
「...黙っておくんだ。」
「......。」
信行は不安そうな顔で影村を見た。当の本人はサーブのルーティンへと入っていた。八神は自分が1ポイントを取られたことに歓喜する。そして影村のサーブを読もうとラケットを構えた。影村はボールを1回だけ手で突くと流れるようにサーブの構えに入った。
「.....。(あぁ、これだ。これを待っていたんだ。圧倒的で徹底した強さ。もういないと思っていた。)」
影村はサーブの構えからトスを上げる。同じ位置に上がる正確なトス。八神はもう一度フラットサーブが来るのかと身構える。その刹那、彼は影村の上がるトスの時間内で思考を張り巡らせる。
「......。(速度は龍谷以上、極端なクローズスタンスからのラケットが見えづらいフォーム...どうする...いや、目を凝らせ...奴はおそらくフラット系のプレーヤー。あの分厚い当り。直線系のボールを多用するはずだ。)」
影村の振り上げたラケットヘッドが見える。フォームも先程と同じ、脚、膝、肘の使い方も同じ。彼が次に打ってくるサーブの球種とコースが予測できなかった。八神は影村のラケットヘッドのわずかな傾きを見た。
「......!(来る!左!フォア!)」
八神はフォアハンド側へ飛び出す。影村の打ち込んだボールはバックハンド側への200キロを超えるフラット系のファーストサーブだった。八神は固まった。その瞳は動揺に震えていた。彼の中に何か自分の持っていた常識という自身が積み上げてきた経験や知識に基づくものに亀裂が入ったような衝撃が走った。高校生で200キロを打つサーバーは稀にいるが、完璧なコントロールに思考が伴ったそれを実践できる者はほぼ皆無といってもいい。そして何といっても、影村の様にファーストサーブを常時220キロから230キロ台を打てるプレーヤは高校テニス界には前例がなかった。
「30-0」
「...嘘、いつも1ゲーム目からポイントを取っていくのに。」
「そんな...八神君...」
「あの選手誰?プロ?」
「...全中で見なかった選手だわ。」
「224キロ...」
「...はっや。」
神奈川商工大学の面々は影村のフォームを見ていた。相沢が何かに気が付いた。隣にいた近藤敬信は相沢へ声をかける。
「相沢。どうした。」
「近藤...あの影村って奴のサーブ。もしかしたらこの国で取れるやつ居ないかもしれない。」
「どういうことだ。」
「あいつがラケットを打つ前の身体を引き寄せる動作をする時、曲げた肘が肩甲骨よりも内側に入ってるんだ...。」
「......お、おいそれって!」
「あぁ、そうだ。俺の予測だがあれは...打つ瞬間にも球種やコースを変えられる...。」
「なんつう肩の可動域だよ.......。」
近藤は同じスポーツ工学専攻の相沢が言った一言を聞くと、自分が薄っすらと思っていた事と重なりゾッとした。影村の肩はとても柔らかい。それはつまり影村の肩の可動域が広いという事であり、力加減を微妙にコントロールすると共に、自由にラケットスイングを変えられる。それ故、相手から見て、影村が何処へサーブを打つのかを判断するのは彼のラケットがボールに当たった瞬間の僅かコンマゼロ数秒の一瞬のみだという。そして彼のスイングスピードはとても速かった。それは稀代の天才と云われた5人でも気を抜けば刹那の一瞬を見落とす事を意味している。
「......。(おい、なんで俺の足が動かねぇんだ?俺が読んだ方向とあいつが打つ方向が逆で、自分自身に疑心暗鬼になっているのか?それとも本当に動けない魔法でもかかっているのか?)」
実に奇妙なことは、影村がサーブを打とうとする時に、それを受けるレシーブ側が影村のサーブが何処へ来るのかという思考と、サーブを取ってからのゲームの組み立てを考えてしまう事だ。影村がどこにどんな球種のサーブを打ってくるのかがわかりにくい上に、ラケットからサービスコート内への着弾までの速度が速い。相手は思考と体の動作が混乱したまま、無意識に体が動かない状態になってしまう。八神は思考と現実の狭間に取り残された状態でコートのベースライン上に佇んだ状況となり、そのまま動けない状態で影村の打ち込んだボールが通過するのを見ているしかなかった。
「40ー0」
「...影村君。竹下君でも勝てなかった相手に連続サービスエース...。」
「ま、高校生離れ...つーか、常軌を逸脱したレベルの速度じゃ、そりゃエースも取られるわ。」
「も、森野さん。いつも影村君のサーブ受けてるんですか!?」
「敏が言ってたろ?本気じゃないって。俺達に打って来るサーブなんてせいぜい190キロか200キロの間だ。」
「な...じゃぁ...今の影村君は。」
「ありゃぁ、力を絞っていってるな。」
「そ、それって...!」
「あぁ、影は最初の1ゲーム目のサーブ権取った時には、必ず相手を牽制する為に全力のファーストサーブを1発打ち込む。そして自分が無駄な動きをして体力が尽きないよう、相手が勝てないだろうと目ぼしいラインまでに力の出力をチューニングをするんだ。」
「......。(そういえば...サーブの速さ...さっきより落ちてる...。)」
信行は森野の言う通りに影村が段々と力を緩めて言っていることに気が付く。影村は淡々とボールを突きながら次のサービス位置へと移動する。その表情は冷静だが精悍だった。八神は影村が打った最初の一撃が脳裏に焼き付く。彼の思考ではもう影村のサーブを捉えられなかった。
「......ハハッ...ハッハッハ。(くっそ...くっそ...くっそ!面白れぇじゃねぇか!これだから強いやつが目の前にいるとたまらない!)」
八神はレシーブの構えに入っている。気が付けば天辺にいて、周囲を見下ろしていた自分の目の前に突然現れた更なる高く大きな山が聳え立ったのを見上げる喜び。ともかく彼の表情は新しい世界を見つけた子供のようだった。影村は八神と竹下が重なったように見えた。
「......。(あぁ...竹下。お前との決着の前に俺はその先へ行ってしまいそうだ。)」
影村がトスを上げた。八神は目を見開いて影村のトスされたボールがラケットに当たる瞬間を見極める。影村のラケットがボールへ振れる。八神は動き出す。ボールはラケットに当たると約190キロ程のスピードで飛んでいく。八神は自分のフォアハンド側にボールが来ると判断して動いた。ボールは確かにフォアハンド側へとバウンドする。しかし影村が打ち込んだのはスライスサーブだった。
「......!(スライス!...ボールが...遠くに!)」
八神はボールに飛びつくようにラケットを出すも、ラケットは空を斬った。影村のスライスサーブはバウンド後急角度でコートの外側へと逃げてゆき、八神を避けて進んでいった。影村はサーブの打ち終わりと共に口角を上げた。それは侮辱的なものではなく。相手への称賛だった。国に帰って始めて自分のサーブに触れる手前までいった選手が居たことに喜びを感じていた。八神は影村の方を見る。
「......。(コースを読ませない。なんてサーブ力だ。)」
審判が「ゲーム 影村。」とコールを終えると、観客席がどよめきに包まれる。八神は中学生の大会では今まで5人の天才意外で1ゲームも落としたことはなかった。彼の公式戦を追っかけてきたファンの中高生女子達や、同じ世代の矢留を含んだ男子テニス選手達は初めての光景に固まる。
「ねぇ。八神君負けちゃうのかな?」
「まだ始まったばかりでしょ。」
「だって相手の侍みたいな人すっごいサーブ打つよ?」
「あのサーブ、まともにくらったらラケットぶっ飛ばされんじゃねぇのか?」
「第1試合でプロに当たったの見たけど、サーブに触れてすらなかったぞ。」
「あぁ、なんか動けなかったって感じだったよな。」
ざわつく観客を横目に、影村と八神がすれ違ってコートをチェンジする。丁度審判台の前をさしかかったところで八神が影村に口を開く。
「お前、強いな。国内トップクラスか?」
「...通りすがりの学生だ。」
「あとで学校名教えな。」
「竹下の行方を追いな。そうすればわかるだろ。」
「.......。」
審判は八神が影村に声をかけたところで何か注意をしようとしたが、影村が回答するとともに自分を見たため、止めたようだった。影村と八神はコートの立ち位置を移動し、互いにベースラインへと立った。
「八神 トゥ サーブ。」
2人は向かい合う。影村はレシーブの構えに入る。彼は左足を半歩前に出して少しオープンスタンスの体の向きでラケットを構えた。八神を見る彼の目は野性的で、体全体からはどこか男らしさ溢れるワイルドな雰囲気を醸し出していた。八神はサービスルーティンの中、まるで影村が自分の前に大きな壁がように立ちはだかった様に見えた。彼は先ほどベンチで敏孝が言って来た言葉を思い出すと。やっと自分が影村という高い山への挑戦者であるということを自覚した。
「え?なに?何今の音。」
「八神君ポイント取ったの?」
「え、でも今15-0って...。」
「...ね、ねぇ...こ、これ...。」
一人のテニス好きの女子中学生が興味本位で使った、「一球入魂君」という名前のスピード計測アプリ。彼女は震える手を押さえながら隣にいた友人に自分が持っていた携帯端末アプリの画面を見せる。そこには232.75㎞/hと表示されていた。
「....。」
「ね、ねぇ...これ、故障じゃないよね...ねぇってば!」
隣にいたその友人は目を見開いて八神がサービスエースを取られた光景を信用したくなかったが、審判が告げたポイントコールを聞いて、それを認めざるを得なかった。遠くから試合を見ていた矢留と桃谷は、冷静になろうとするも体の震えがそれを許さなかった。
「...矢留君どう見る?」
「...勝てない。」
「.....!?」
「あれは...スピードだけなんて生半可なものじゃない...。」
「...そうね。少なくとも、八神君、サーブのコースが読めなかったんじゃないのかしら。」
「読めなかったんじゃない。読んだ方向と逆の方へと撃ち込まれたんだ。あいつは瞬きするたった一瞬を突かれたんだ。」
「....化物ね。」
「あぁ...もっと近くで見たい。」
矢留と桃谷は前の方のベンチへと進む。他の参加選手や観戦者達は突然の天才の出現に矢留を凝視する。矢留はベンチの空いている場所へと座った。影村は淡々と精悍な顔つきでボールを突きながら次のサービス位置へと向かう。信行は手が震えていた。
「フフフ...刺激が強かったかな?」
「影村君...一体何なの...僕、照山さんにどう報告したら...」
「ノブ。黙っとけ。」
「森野さん...。」
「...黙っておくんだ。」
「......。」
信行は不安そうな顔で影村を見た。当の本人はサーブのルーティンへと入っていた。八神は自分が1ポイントを取られたことに歓喜する。そして影村のサーブを読もうとラケットを構えた。影村はボールを1回だけ手で突くと流れるようにサーブの構えに入った。
「.....。(あぁ、これだ。これを待っていたんだ。圧倒的で徹底した強さ。もういないと思っていた。)」
影村はサーブの構えからトスを上げる。同じ位置に上がる正確なトス。八神はもう一度フラットサーブが来るのかと身構える。その刹那、彼は影村の上がるトスの時間内で思考を張り巡らせる。
「......。(速度は龍谷以上、極端なクローズスタンスからのラケットが見えづらいフォーム...どうする...いや、目を凝らせ...奴はおそらくフラット系のプレーヤー。あの分厚い当り。直線系のボールを多用するはずだ。)」
影村の振り上げたラケットヘッドが見える。フォームも先程と同じ、脚、膝、肘の使い方も同じ。彼が次に打ってくるサーブの球種とコースが予測できなかった。八神は影村のラケットヘッドのわずかな傾きを見た。
「......!(来る!左!フォア!)」
八神はフォアハンド側へ飛び出す。影村の打ち込んだボールはバックハンド側への200キロを超えるフラット系のファーストサーブだった。八神は固まった。その瞳は動揺に震えていた。彼の中に何か自分の持っていた常識という自身が積み上げてきた経験や知識に基づくものに亀裂が入ったような衝撃が走った。高校生で200キロを打つサーバーは稀にいるが、完璧なコントロールに思考が伴ったそれを実践できる者はほぼ皆無といってもいい。そして何といっても、影村の様にファーストサーブを常時220キロから230キロ台を打てるプレーヤは高校テニス界には前例がなかった。
「30-0」
「...嘘、いつも1ゲーム目からポイントを取っていくのに。」
「そんな...八神君...」
「あの選手誰?プロ?」
「...全中で見なかった選手だわ。」
「224キロ...」
「...はっや。」
神奈川商工大学の面々は影村のフォームを見ていた。相沢が何かに気が付いた。隣にいた近藤敬信は相沢へ声をかける。
「相沢。どうした。」
「近藤...あの影村って奴のサーブ。もしかしたらこの国で取れるやつ居ないかもしれない。」
「どういうことだ。」
「あいつがラケットを打つ前の身体を引き寄せる動作をする時、曲げた肘が肩甲骨よりも内側に入ってるんだ...。」
「......お、おいそれって!」
「あぁ、そうだ。俺の予測だがあれは...打つ瞬間にも球種やコースを変えられる...。」
「なんつう肩の可動域だよ.......。」
近藤は同じスポーツ工学専攻の相沢が言った一言を聞くと、自分が薄っすらと思っていた事と重なりゾッとした。影村の肩はとても柔らかい。それはつまり影村の肩の可動域が広いという事であり、力加減を微妙にコントロールすると共に、自由にラケットスイングを変えられる。それ故、相手から見て、影村が何処へサーブを打つのかを判断するのは彼のラケットがボールに当たった瞬間の僅かコンマゼロ数秒の一瞬のみだという。そして彼のスイングスピードはとても速かった。それは稀代の天才と云われた5人でも気を抜けば刹那の一瞬を見落とす事を意味している。
「......。(おい、なんで俺の足が動かねぇんだ?俺が読んだ方向とあいつが打つ方向が逆で、自分自身に疑心暗鬼になっているのか?それとも本当に動けない魔法でもかかっているのか?)」
実に奇妙なことは、影村がサーブを打とうとする時に、それを受けるレシーブ側が影村のサーブが何処へ来るのかという思考と、サーブを取ってからのゲームの組み立てを考えてしまう事だ。影村がどこにどんな球種のサーブを打ってくるのかがわかりにくい上に、ラケットからサービスコート内への着弾までの速度が速い。相手は思考と体の動作が混乱したまま、無意識に体が動かない状態になってしまう。八神は思考と現実の狭間に取り残された状態でコートのベースライン上に佇んだ状況となり、そのまま動けない状態で影村の打ち込んだボールが通過するのを見ているしかなかった。
「40ー0」
「...影村君。竹下君でも勝てなかった相手に連続サービスエース...。」
「ま、高校生離れ...つーか、常軌を逸脱したレベルの速度じゃ、そりゃエースも取られるわ。」
「も、森野さん。いつも影村君のサーブ受けてるんですか!?」
「敏が言ってたろ?本気じゃないって。俺達に打って来るサーブなんてせいぜい190キロか200キロの間だ。」
「な...じゃぁ...今の影村君は。」
「ありゃぁ、力を絞っていってるな。」
「そ、それって...!」
「あぁ、影は最初の1ゲーム目のサーブ権取った時には、必ず相手を牽制する為に全力のファーストサーブを1発打ち込む。そして自分が無駄な動きをして体力が尽きないよう、相手が勝てないだろうと目ぼしいラインまでに力の出力をチューニングをするんだ。」
「......。(そういえば...サーブの速さ...さっきより落ちてる...。)」
信行は森野の言う通りに影村が段々と力を緩めて言っていることに気が付く。影村は淡々とボールを突きながら次のサービス位置へと移動する。その表情は冷静だが精悍だった。八神は影村が打った最初の一撃が脳裏に焼き付く。彼の思考ではもう影村のサーブを捉えられなかった。
「......ハハッ...ハッハッハ。(くっそ...くっそ...くっそ!面白れぇじゃねぇか!これだから強いやつが目の前にいるとたまらない!)」
八神はレシーブの構えに入っている。気が付けば天辺にいて、周囲を見下ろしていた自分の目の前に突然現れた更なる高く大きな山が聳え立ったのを見上げる喜び。ともかく彼の表情は新しい世界を見つけた子供のようだった。影村は八神と竹下が重なったように見えた。
「......。(あぁ...竹下。お前との決着の前に俺はその先へ行ってしまいそうだ。)」
影村がトスを上げた。八神は目を見開いて影村のトスされたボールがラケットに当たる瞬間を見極める。影村のラケットがボールへ振れる。八神は動き出す。ボールはラケットに当たると約190キロ程のスピードで飛んでいく。八神は自分のフォアハンド側にボールが来ると判断して動いた。ボールは確かにフォアハンド側へとバウンドする。しかし影村が打ち込んだのはスライスサーブだった。
「......!(スライス!...ボールが...遠くに!)」
八神はボールに飛びつくようにラケットを出すも、ラケットは空を斬った。影村のスライスサーブはバウンド後急角度でコートの外側へと逃げてゆき、八神を避けて進んでいった。影村はサーブの打ち終わりと共に口角を上げた。それは侮辱的なものではなく。相手への称賛だった。国に帰って始めて自分のサーブに触れる手前までいった選手が居たことに喜びを感じていた。八神は影村の方を見る。
「......。(コースを読ませない。なんてサーブ力だ。)」
審判が「ゲーム 影村。」とコールを終えると、観客席がどよめきに包まれる。八神は中学生の大会では今まで5人の天才意外で1ゲームも落としたことはなかった。彼の公式戦を追っかけてきたファンの中高生女子達や、同じ世代の矢留を含んだ男子テニス選手達は初めての光景に固まる。
「ねぇ。八神君負けちゃうのかな?」
「まだ始まったばかりでしょ。」
「だって相手の侍みたいな人すっごいサーブ打つよ?」
「あのサーブ、まともにくらったらラケットぶっ飛ばされんじゃねぇのか?」
「第1試合でプロに当たったの見たけど、サーブに触れてすらなかったぞ。」
「あぁ、なんか動けなかったって感じだったよな。」
ざわつく観客を横目に、影村と八神がすれ違ってコートをチェンジする。丁度審判台の前をさしかかったところで八神が影村に口を開く。
「お前、強いな。国内トップクラスか?」
「...通りすがりの学生だ。」
「あとで学校名教えな。」
「竹下の行方を追いな。そうすればわかるだろ。」
「.......。」
審判は八神が影村に声をかけたところで何か注意をしようとしたが、影村が回答するとともに自分を見たため、止めたようだった。影村と八神はコートの立ち位置を移動し、互いにベースラインへと立った。
「八神 トゥ サーブ。」
2人は向かい合う。影村はレシーブの構えに入る。彼は左足を半歩前に出して少しオープンスタンスの体の向きでラケットを構えた。八神を見る彼の目は野性的で、体全体からはどこか男らしさ溢れるワイルドな雰囲気を醸し出していた。八神はサービスルーティンの中、まるで影村が自分の前に大きな壁がように立ちはだかった様に見えた。彼は先ほどベンチで敏孝が言って来た言葉を思い出すと。やっと自分が影村という高い山への挑戦者であるということを自覚した。
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