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Moving On
manuscript.30
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5月も後半に差し掛かった頃、高峰はふと携帯端末のクラウドファンディングのサイトを確認する。彼は画面を見て固まった。山瀬は彼の顔を見てどうせナンパした女にでも振られたのかと思い呆れた目で彼を見る。
「...高峰どうしたの?どうせ昨日ナンパした女の子に振られたんでしょ?」
「...いや、ノブ。これ見ろよ。」
「...1...10...100...。」
山瀬は桁を数えるのをやめた。彼は青ざめた顔で黙って高峰の方を見る。高峰の手は震えていた。彼は席を立つと、山瀬もそれに続いた。2人は影村のいるクラスへと走っていった。影村のいるクラスの入り口に息を散らした高峰達が入ってくる。
「影村...影村居るか!」
「影村君大変!」
「.....。」
影村のクラスメイトの女子テニス部員達は2人の登場にどこか異物を見るような視線を送った。影村は席を立った。そして廊下の方へと出ていく。影村は高峰達と廊下に出た。
「何があった。」
「影村、見てくれ。クラウドファンディングやったんだ。」
「....。」
影村は高峰の携帯端末の募集要項を見る。
“全国5人の天才の一人、竹下隆二要する廃部寸前の海生代高等学校男子テニス部の応援をお願いします!東北の震災以降、福島県代表選手の竹下隆二選手が入学した男子テニス部です!全国5人の天才の一人、元全中男子シングルス2位、竹下隆二選手の今後の活躍を期待していただける方々の熱い応援をお待ちしております!近日インターハイ千葉県大会に優勝。全国大会への切符を手にしました!”の文章と共に最近横田兄弟と対戦した時の写真が掲載された。
「...これ誰が作った。」
「俺っすぅ☆」
「写真どうしたんだ?」
「横田兄弟と試合した時に雑誌記者のお姉さんがいてさぁ、ちょっと声かけて煽てたらすぐ写真くれたよん~☆」
「.........。(こいつのコミュ力は一体。)」
「.........。(こいつのコミュ力は一体。)」
影村と山瀬は呆れた顔で高峰を見た。影村は金額の桁を数える。目標金額700,000円に対して、寄付額が既に2,300,000円を越えていた。この中から手数料最大30%を差し引かれても約1,610,000円が集まった事になる。高峰は影村の肩を叩いた。
「影村....お前はもう...無理やり賞金を稼ぎに行かなくてもいいんだ...。」
「そうだよ影村君...僕達知ってるんだ。影村君が稼いでくる賞金額...国内じゃ並大抵の選手じゃ稼げないぐらいの金額だよ。影村君はもっと表舞台で活躍するべきなんだ!」
「あぁ、竹下、影村、そして俺達2人を皮切りに、この部を馬鹿にする連中にデカいインパクトで一泡吹かせてやるんだ。」
「......。」
「頼むぜ、時期キャプテン。」
「うん。頼むよ。影村君。」
「Cap...おい、どういう...」
「んじゃ俺達授業あっから、放課後ねぇ~ウェーイ!」
「うぇ~い!」
「お、いいじゃんいいじゃんノブ。ちょっとチャラくなったんじゃない?」
高峰と山瀬は廊下を歩いて自分のクラスへと戻って行った。影村は後ろから女子生徒達の声を聞いた。彼女達は影村に背を向けてヒソヒソと話していた。
「....いま、賞金が何とかって言ってたね。」
「もしかして...影村が?」
「いや、でもテニスやってるようには見えないわ。」
「でも、今高峰って人が言ってたじゃん。もう賞金を稼がなくていいって。」
「川合主将に報告ね。」
影村は席に座ると静かに佇んだ。周りの生徒達が影村の方を見てヒソヒソと話し出す。
「な、なぁ...影村って友達いたのか?」
「あれ、3組の高峰と山瀬だ。同じテニス部だからじゃねぇのか?」
「え?マジ?男子テニス部ってまだあったのか?」
「コートと部室、女子テニス部に奪われたって話だぜ?」
「なにそれ、ザッコ。」
「いや、でもさ...竹下って奴と今の2人、インターハイ県予選通過して全国行ったらしいぜ?」
「え、マジか。」
「マジだわ。剣道部の主将が言ってた。」
彼らが男子テニス部の活動状況と実績を全く知らないのも無理はない。部活動報告会への脱退はもちろんの事、部室、コートといった場所が一切ない状況。男子テニス部の練習風景を見ていない彼らからすれば、男子テニス部は完全にアウトサイダーだった。
海生代高等学校 職員室
「峰沢先生、OBの方が見えました...ってか、あの人テレビで見たことがあるんですけど。」
一人のスーツを着た185センチの高身長な男性が峰沢を訪ねてきた。彼の事をテレビで見たという体育の教員は内心興奮した面持ちだった。
「はい。お待ちしておりました...新貝さん。」
職員室にいた教員達が男の方を見つめる。海生代高校男子テニス部のOBであり、日本テニス連盟協会所属日本代表選手団監督権コーチの肩書を持つ男のオーラは全ての教職員を圧倒していた。重森はまだ30代前半という若さにして日本代表の監督を務めている男の姿を見て立ち上がる。
「し、新貝さん!?」
「おぉ?おぉぉ!?北瀬の女王か。懐かしいな。聞いたぞ。今女子テニス部は全国屈指の選手がそろってるってな。」
「いえ、私の指導もまだまだです。田覚のようには...。」
「田覚か。俺が日本代表の監督になってからは全然連絡がないな。もう3年が経つ。」
「...あいつめ。最近会いましたので、明日にでも電話するように伝えます。」
重森は男へ一礼すると、次の授業の為、職員室を出て行った。男は彼女が早足で教室を出ていくとき、遠い昔の記憶、当時の北瀬の女王と呼ばれていた彼女の姿が重なった。
男の名は新貝実。海生代高校男子テニス部創設以来最強と言われた世代の1人。16歳でインターハイ本戦ベスト8、17歳でインターハイ優勝。18歳で全国選抜シングルス優勝、その後に選抜された選手が参加する全米オープンジュニアで第2位という華々しい戦績を収めた。プロに転向後は怪我に悩まされて26歳で引退後、日本テニス連盟協会の職務へと就きテニスの普及と選手育成に力を入れてきた。そして将来開かれるであろう東京を舞台としたオリンピックを目指して有望な選手を育成するという役目を果たすため今の地位についた。
海生代高校 応接室。
新貝実を前に緊張する峰沢。新貝は名刺を取り出して峰沢へ渡した。峰沢は名刺を受け取る。2人は互いに挨拶を終えるとソファへと座った。
「フフフ、吉岡さんから聞きましたよ。この学校に我々の探していた5人の天才最後の1人が在籍しているって。」
「吉岡昭三さんですか?」
「えぇ。この学校に在籍している生徒と面識があったようで...なんでも賞金付きトーナメントのパーソナリティとして参加した際に再会したとかどうとか。」
「賞金...あぁ...それはおそらく影村だと思います。」
「...影村。聞いたことがありませんね。」
「えぇ、どうにも彼は謎の多い生徒でして...東越大のテニス部レギュラーの方々とも面識があるようで。」
「...面白いですね。その子。」
「新貝さん、今日は我々にどういったご用件でしょうか。ただOBとしてこの学校を見に来た...という訳でもないでしょう?」
「ハハハ、それもありますがね。」
新貝は笑顔になった後真剣な表情となる。どうやら本題に入るようだ。彼は書類を取り出す。そこには長々と文章が書かれ、最後に4名分の署名欄があった。
「竹下君を始め、今年の海生代高校は史上稀に見ぬ才能の宝庫ともいえる。千葉県におけるテニスプレーヤー育成プログラムの一環として、4校の各強豪校に海生代高校を加え、合同強化合宿を実施する計画があります。是非とも参加いただきたい。」
「......我々がですか?」
「えぇ、これは近いうちに行われる、県別対抗戦の選抜メンバー選考会も兼ねています。」
「...インターハイ、全国選抜、国体の3大大会の他にもう一つ大きな大会を立ち上げるのですね。」
「そうです。この国のテニス選手層は吉岡さんの世代以降急下降しています。日本テニス連盟協会も焦っているのでしょう。」
「...そうなのですか。ではこちらからは竹下、高峰、山瀬...山し」
峰沢は山城の名を出そうとしたが止めた。彼は山城が先日見に行った影村の試合を撮影した動画を見て、3年生と全会一致で、次の主将は影村だと言っていた事を思い出す。現実、プロも参加するであろう賞金の大きな草トーナメントに部外参加枠として殴り込みをかけて賞金を獲得してくる。峰沢は考えた末に顔を上げて新貝を見る。
「新貝さん、今年は全員1年生でやらせてもらいますよ。最後の1人は...影村義孝をシングルス枠の育成で入れます。」
「3年生、2年生の選手層はいないのですか?」
「迷いましたよ。ですが、今年の1年生は天才の竹下、トリックスターと呼ばれている高峰、インカレ代表の山瀬敏孝の弟がいます。しかし、海生代高校のテニス部には、上級生達が認めている次期主将となるであろう選手がいます。」
「...天才の他にいるのですね。有望な選手が。」
「新貝さん。あなたが日本テニス連盟協会に所属している身ならば、千葉県の草トーナメント界隈で流れているとある噂をご存じでしょうか。」
「......賞金稼ぎですか。」
「それが影村です。」
「フフ、ハッハッハッハッハ!御冗談を。」
「...嘘ではありません。影村は男子テニス部の活動資金をずっと稼いでました。何十万という賞金を獲得しては全てテニス部の運営費に充てているのです。男子テニス部はあなたの後輩である田覚さんが卒業して以降、強さが急下降しました。そして今、ほぼ廃部の危機にあります。コートは女子テニス部に取上げられ、部室も失いました。私達は今、学校の外で活動をしています。影村はそんな部を支えるために夜な夜な賞金稼ぎに奔走しているのです。自分が裏方に回って、竹下君を前面に出して彼を全国へ行かせれば寄付金も集まると踏んだのでしょう...ほんと...変わってますよ。彼。」
「...そんな事情があったのですか。」
「お恥ずかしながら、男子テニス部は今大規模な立て直しの時期に入っています。しかしながら皮肉にも、学校の外で活動したほうが有意義な練習が行われている。」
「海外では、学校でのスポーツに関する部活を、部外の一般企業が運営するクラブチームに一任している国だってあります。何もおかしいことはない。部活が学校の中でしかやってはいけないというのは、古い価値観に捕らわれた前時代の世代達が推し進めた事。もう過去の話です。」
「...新貝さん。」
新貝は峰沢へ頷く。彼は窓側に歩いて立つと、峰沢の方へと振り向いた。そして峰沢へニッコリと笑顔を見せた。
「では、竹下君、影村君、山瀬君、高峰君の4名を県選抜合同合宿への参加選手として認めましょう。竹下君だけでも大きな戦力です。合宿は7月23日から1週間行われます。開けてすぐにインターハイの本戦です。忙しくなるでしょうが、ご尽力いただきたい。」
「えぇ、お話をいただき感謝します。」
峰沢は新貝と握手した。新貝は応接室からを出て行き、学校の駐車場で車へと乗り込むと協会へと戻って行った。季節は夏へとシフトしていく頃。影村はこの週の土日、東越大の面々達ととある大規模な賞金が出るトーナメントへ参加するために静岡県へと向かった。
「...高峰どうしたの?どうせ昨日ナンパした女の子に振られたんでしょ?」
「...いや、ノブ。これ見ろよ。」
「...1...10...100...。」
山瀬は桁を数えるのをやめた。彼は青ざめた顔で黙って高峰の方を見る。高峰の手は震えていた。彼は席を立つと、山瀬もそれに続いた。2人は影村のいるクラスへと走っていった。影村のいるクラスの入り口に息を散らした高峰達が入ってくる。
「影村...影村居るか!」
「影村君大変!」
「.....。」
影村のクラスメイトの女子テニス部員達は2人の登場にどこか異物を見るような視線を送った。影村は席を立った。そして廊下の方へと出ていく。影村は高峰達と廊下に出た。
「何があった。」
「影村、見てくれ。クラウドファンディングやったんだ。」
「....。」
影村は高峰の携帯端末の募集要項を見る。
“全国5人の天才の一人、竹下隆二要する廃部寸前の海生代高等学校男子テニス部の応援をお願いします!東北の震災以降、福島県代表選手の竹下隆二選手が入学した男子テニス部です!全国5人の天才の一人、元全中男子シングルス2位、竹下隆二選手の今後の活躍を期待していただける方々の熱い応援をお待ちしております!近日インターハイ千葉県大会に優勝。全国大会への切符を手にしました!”の文章と共に最近横田兄弟と対戦した時の写真が掲載された。
「...これ誰が作った。」
「俺っすぅ☆」
「写真どうしたんだ?」
「横田兄弟と試合した時に雑誌記者のお姉さんがいてさぁ、ちょっと声かけて煽てたらすぐ写真くれたよん~☆」
「.........。(こいつのコミュ力は一体。)」
「.........。(こいつのコミュ力は一体。)」
影村と山瀬は呆れた顔で高峰を見た。影村は金額の桁を数える。目標金額700,000円に対して、寄付額が既に2,300,000円を越えていた。この中から手数料最大30%を差し引かれても約1,610,000円が集まった事になる。高峰は影村の肩を叩いた。
「影村....お前はもう...無理やり賞金を稼ぎに行かなくてもいいんだ...。」
「そうだよ影村君...僕達知ってるんだ。影村君が稼いでくる賞金額...国内じゃ並大抵の選手じゃ稼げないぐらいの金額だよ。影村君はもっと表舞台で活躍するべきなんだ!」
「あぁ、竹下、影村、そして俺達2人を皮切りに、この部を馬鹿にする連中にデカいインパクトで一泡吹かせてやるんだ。」
「......。」
「頼むぜ、時期キャプテン。」
「うん。頼むよ。影村君。」
「Cap...おい、どういう...」
「んじゃ俺達授業あっから、放課後ねぇ~ウェーイ!」
「うぇ~い!」
「お、いいじゃんいいじゃんノブ。ちょっとチャラくなったんじゃない?」
高峰と山瀬は廊下を歩いて自分のクラスへと戻って行った。影村は後ろから女子生徒達の声を聞いた。彼女達は影村に背を向けてヒソヒソと話していた。
「....いま、賞金が何とかって言ってたね。」
「もしかして...影村が?」
「いや、でもテニスやってるようには見えないわ。」
「でも、今高峰って人が言ってたじゃん。もう賞金を稼がなくていいって。」
「川合主将に報告ね。」
影村は席に座ると静かに佇んだ。周りの生徒達が影村の方を見てヒソヒソと話し出す。
「な、なぁ...影村って友達いたのか?」
「あれ、3組の高峰と山瀬だ。同じテニス部だからじゃねぇのか?」
「え?マジ?男子テニス部ってまだあったのか?」
「コートと部室、女子テニス部に奪われたって話だぜ?」
「なにそれ、ザッコ。」
「いや、でもさ...竹下って奴と今の2人、インターハイ県予選通過して全国行ったらしいぜ?」
「え、マジか。」
「マジだわ。剣道部の主将が言ってた。」
彼らが男子テニス部の活動状況と実績を全く知らないのも無理はない。部活動報告会への脱退はもちろんの事、部室、コートといった場所が一切ない状況。男子テニス部の練習風景を見ていない彼らからすれば、男子テニス部は完全にアウトサイダーだった。
海生代高等学校 職員室
「峰沢先生、OBの方が見えました...ってか、あの人テレビで見たことがあるんですけど。」
一人のスーツを着た185センチの高身長な男性が峰沢を訪ねてきた。彼の事をテレビで見たという体育の教員は内心興奮した面持ちだった。
「はい。お待ちしておりました...新貝さん。」
職員室にいた教員達が男の方を見つめる。海生代高校男子テニス部のOBであり、日本テニス連盟協会所属日本代表選手団監督権コーチの肩書を持つ男のオーラは全ての教職員を圧倒していた。重森はまだ30代前半という若さにして日本代表の監督を務めている男の姿を見て立ち上がる。
「し、新貝さん!?」
「おぉ?おぉぉ!?北瀬の女王か。懐かしいな。聞いたぞ。今女子テニス部は全国屈指の選手がそろってるってな。」
「いえ、私の指導もまだまだです。田覚のようには...。」
「田覚か。俺が日本代表の監督になってからは全然連絡がないな。もう3年が経つ。」
「...あいつめ。最近会いましたので、明日にでも電話するように伝えます。」
重森は男へ一礼すると、次の授業の為、職員室を出て行った。男は彼女が早足で教室を出ていくとき、遠い昔の記憶、当時の北瀬の女王と呼ばれていた彼女の姿が重なった。
男の名は新貝実。海生代高校男子テニス部創設以来最強と言われた世代の1人。16歳でインターハイ本戦ベスト8、17歳でインターハイ優勝。18歳で全国選抜シングルス優勝、その後に選抜された選手が参加する全米オープンジュニアで第2位という華々しい戦績を収めた。プロに転向後は怪我に悩まされて26歳で引退後、日本テニス連盟協会の職務へと就きテニスの普及と選手育成に力を入れてきた。そして将来開かれるであろう東京を舞台としたオリンピックを目指して有望な選手を育成するという役目を果たすため今の地位についた。
海生代高校 応接室。
新貝実を前に緊張する峰沢。新貝は名刺を取り出して峰沢へ渡した。峰沢は名刺を受け取る。2人は互いに挨拶を終えるとソファへと座った。
「フフフ、吉岡さんから聞きましたよ。この学校に我々の探していた5人の天才最後の1人が在籍しているって。」
「吉岡昭三さんですか?」
「えぇ。この学校に在籍している生徒と面識があったようで...なんでも賞金付きトーナメントのパーソナリティとして参加した際に再会したとかどうとか。」
「賞金...あぁ...それはおそらく影村だと思います。」
「...影村。聞いたことがありませんね。」
「えぇ、どうにも彼は謎の多い生徒でして...東越大のテニス部レギュラーの方々とも面識があるようで。」
「...面白いですね。その子。」
「新貝さん、今日は我々にどういったご用件でしょうか。ただOBとしてこの学校を見に来た...という訳でもないでしょう?」
「ハハハ、それもありますがね。」
新貝は笑顔になった後真剣な表情となる。どうやら本題に入るようだ。彼は書類を取り出す。そこには長々と文章が書かれ、最後に4名分の署名欄があった。
「竹下君を始め、今年の海生代高校は史上稀に見ぬ才能の宝庫ともいえる。千葉県におけるテニスプレーヤー育成プログラムの一環として、4校の各強豪校に海生代高校を加え、合同強化合宿を実施する計画があります。是非とも参加いただきたい。」
「......我々がですか?」
「えぇ、これは近いうちに行われる、県別対抗戦の選抜メンバー選考会も兼ねています。」
「...インターハイ、全国選抜、国体の3大大会の他にもう一つ大きな大会を立ち上げるのですね。」
「そうです。この国のテニス選手層は吉岡さんの世代以降急下降しています。日本テニス連盟協会も焦っているのでしょう。」
「...そうなのですか。ではこちらからは竹下、高峰、山瀬...山し」
峰沢は山城の名を出そうとしたが止めた。彼は山城が先日見に行った影村の試合を撮影した動画を見て、3年生と全会一致で、次の主将は影村だと言っていた事を思い出す。現実、プロも参加するであろう賞金の大きな草トーナメントに部外参加枠として殴り込みをかけて賞金を獲得してくる。峰沢は考えた末に顔を上げて新貝を見る。
「新貝さん、今年は全員1年生でやらせてもらいますよ。最後の1人は...影村義孝をシングルス枠の育成で入れます。」
「3年生、2年生の選手層はいないのですか?」
「迷いましたよ。ですが、今年の1年生は天才の竹下、トリックスターと呼ばれている高峰、インカレ代表の山瀬敏孝の弟がいます。しかし、海生代高校のテニス部には、上級生達が認めている次期主将となるであろう選手がいます。」
「...天才の他にいるのですね。有望な選手が。」
「新貝さん。あなたが日本テニス連盟協会に所属している身ならば、千葉県の草トーナメント界隈で流れているとある噂をご存じでしょうか。」
「......賞金稼ぎですか。」
「それが影村です。」
「フフ、ハッハッハッハッハ!御冗談を。」
「...嘘ではありません。影村は男子テニス部の活動資金をずっと稼いでました。何十万という賞金を獲得しては全てテニス部の運営費に充てているのです。男子テニス部はあなたの後輩である田覚さんが卒業して以降、強さが急下降しました。そして今、ほぼ廃部の危機にあります。コートは女子テニス部に取上げられ、部室も失いました。私達は今、学校の外で活動をしています。影村はそんな部を支えるために夜な夜な賞金稼ぎに奔走しているのです。自分が裏方に回って、竹下君を前面に出して彼を全国へ行かせれば寄付金も集まると踏んだのでしょう...ほんと...変わってますよ。彼。」
「...そんな事情があったのですか。」
「お恥ずかしながら、男子テニス部は今大規模な立て直しの時期に入っています。しかしながら皮肉にも、学校の外で活動したほうが有意義な練習が行われている。」
「海外では、学校でのスポーツに関する部活を、部外の一般企業が運営するクラブチームに一任している国だってあります。何もおかしいことはない。部活が学校の中でしかやってはいけないというのは、古い価値観に捕らわれた前時代の世代達が推し進めた事。もう過去の話です。」
「...新貝さん。」
新貝は峰沢へ頷く。彼は窓側に歩いて立つと、峰沢の方へと振り向いた。そして峰沢へニッコリと笑顔を見せた。
「では、竹下君、影村君、山瀬君、高峰君の4名を県選抜合同合宿への参加選手として認めましょう。竹下君だけでも大きな戦力です。合宿は7月23日から1週間行われます。開けてすぐにインターハイの本戦です。忙しくなるでしょうが、ご尽力いただきたい。」
「えぇ、お話をいただき感謝します。」
峰沢は新貝と握手した。新貝は応接室からを出て行き、学校の駐車場で車へと乗り込むと協会へと戻って行った。季節は夏へとシフトしていく頃。影村はこの週の土日、東越大の面々達ととある大規模な賞金が出るトーナメントへ参加するために静岡県へと向かった。
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