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Moving On
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ゴールデンウィークが明けた朝...
男子テニス部はこの日、駅前に集結していた。ゴールデンウィーク前と比べると、メンバー全員の顔つきが変わっている。メンバー達は歩き始める。周りの学生達は、圧倒的な威圧感と貫禄の大きさに後退りする者まで現れた。
一行は学校の校門をくぐる。この日挨拶当番だった水泳部顧問の教員は開いた口が塞がらない。そのほかの部活の面々も、男子テニス部のメンバー達に釘付けとなる。
「お、おい、男子テニス部なんか変わったな...」
「あ、あぁ...雰囲気違い過ぎだろ...どこの強豪校だよ。」
「コートを無くして、外で活動してるって聞いたぜ。」
「嘘だろ?部費も廃止になったのにか?」
部活動に所属している生徒達は、既にテニス部が廃部を待つだけの状態になっている事を知っていた。なのにメンバーらの表情を見て、まったくそんな雰囲気ではなかった。校門を通り過ぎると、彼らは部室へと向かった。男子テニス部の部室の入口に張り紙がしてある。
“ 退去命令:当部屋は、3日後に女子テニス部の所有する部室となる為、速やかに中の荷物を整理して退去してください。従わない場合は、強制措置としてすべての物品を処分します。 女子テニス部顧問 重森 ”
「.........。」
男子テニス部員達は無言で部室の扉を開ける。海生代の歴代テニス部が残してきた雑多な物があふれている中で、彼らはこれから使うであろう用品のみを取り出て段ボール箱へと入れる。
「これだけね。」
「段ボール1個か。翔子先輩...本当にこれだけでいいの?」
「えぇ...これだけで十分よ。」
「主将...泣くのはインターハイで燃え尽きるまで取っておいてください。」
「あぁ、山城...そうだな。やめていった2年生連中にも面目ないと思っているよ。俺達がもっと強ければ、あんなことが起きなかったんだ。」
「2年生の集団退部事件すか...重森が女テニの顧問になってから全部が破壊されたぜ。」
「あぁ、だから最後に見せつけてやるんだ。“お前たちが破壊した男子テニス部の最後の花道”ってな。」
「......。」
「あれ、影村君どうしたの?活動日誌?」
影村は古びた活動日誌を見つけるとそれを広げた。中身は歴代の海生代高校が行ってきた練習内容、練習試合の結果、大会の実績の数々だった。
「な、なにこれ...嘘でしょ...。」
「これが、このテニス部の真実って奴だろうよ。」
「練習試合...菊池台西校主将と6-1で勝利...田覚コーチ!?シングルス県大会準優勝...選手名、田覚コーチ...インターハイ出場選手、男子シングルス...新貝...ってこれ今の日本代表のコーチじゃん...。」
「...。」
影村が瓦礫の中から見つけた1冊のノート。その中身は、海生代男子テニス部の全盛期の記録が記されていた。海生代高校は田覚と現日本代表のテニスコーチである新貝という男の母校だった。
「全国に...行ったことがあるのか...この学校は...。」
動揺する山城。岡部は段ボールにその日誌を入れた。
「あとは処分だ。俺達はこれから始まるんだ。部室なんかくれてやるよ。この学校のテニス部は形だけの生きるバケモノだ。試合にさえ出られればそれでいい。」
「結局重森先生への対処法見つからなかったわね。」
「実績がものを言うんだ。現実思考の重森には、この過去の栄光すら笑い飛ばす程のものなんだろうよ。」
「許せない...」
「照山...俺達はできることを全力でやるんだ。」
部活動日誌を見た彼らは凛とした表情で段ボールの中身を見る。残ったものは、部活動日誌2冊、虫食い穴が目立つボロボロになった2メートル程ある海生代の横断幕だけだった。静かに箱を見る彼らに威勢のいい女子生徒らの声が背中から突き刺さる。
「あ、男テニじゃん。ここ女テニが使うからさぁ、さっさとどいてくんない?」
「あーまだいたんだ、男子テニス部。重森先生がGW直前にやった職員会議でこの部室貰えるようにしたの。」
女子テニス部の主将である川合真理と吉永夏帆だった。吉永は腕を組んで何処か男子テニス部を挑発するように顎をクイッとさせてエラそうな態度で彼らを見下す。川合はお嬢様のように歩き出して部室の中へ入る。
「男子テニス部も可哀そうねぇ。重森先生に目を付けられちゃって...でも、弱い部活は生き残れないの。これだけは分かってくださいね。フフフ。御免なさぁい。私達が強くてそちらに被害が出てしまいましたわ。」
「おう、そうだ!実績のない弱小部には廃部してもらう!これが今の海生代の部活動組織のルールだ。」
岡部は得意げな顔で話す吉永と、可愛らしくもどこか嫌味な口調の川合をまるで無視するように段ボールを持って通り過ぎる。
「おい、岡部!」
「.........。」
「無視すんじゃねぇよ。」
吉永は岡部の肩を掴んだ。しかし彼女は振り返った岡部の目を見てゾッとする。その目は絶望に打ちひしがれてはないかった。むしろ現状を楽しんでいるといったものだった。
「...あとは全部不用品だ。勝手に処分しといてくれ。」
「そうそう、ありがとうねぇ...正直こんなにいっぱい残って手焼いてたのよ。助かるわぁ。」
「お、二人とも待てよ。この酒井も忘れるな!」
岡部、酒井、照山は何も感じない。それがどうしたと言わんばかりの表情で淡々と部室から出ていく。
「俺達外で活動、イエ~イ!」
「イエ~イ!」
「2人共チャラーい!」
「あ、竹下君。そろそろ授業始まるから行きましょう。」
「フフ、学校の外の方が練習が楽しそうだね。」
残りのメンバー達も次々に部室を後にする。川合と吉永は男子テニス部の面々がどこか別の次元にいるような感覚に見舞われる。そして最後に影村が出て行こうとする。
「おい、1年!無視すんじゃねぇよ!おい!」
「お前の実績、なんだ?」
「全国ベスト16だ。」
影村は隠れた前髪から自慢げに答える吉永を見等見つめる。
「じゃあ質問を変えるが、お前らのテニス...賞金いくら稼げる。」
「はぁ?何言って―――」
「じゃあな。答えられねぇなら、それだけの事だ。」
影村は部室を出て行った。残された二人は机の上に置かれたタグの紙が引きちぎられたカギを見て無言になった。
「よく目に焼き付けておけ。そしていつかあいつらが吠え面かく日が来るその時を待つんだ。」
外へ出た岡部は震えた声で部室を睨み付けながら立っていた。酒井は軽く2回程、岡部の肩を叩く。岡部は静か
に酒井と教室へと向かって行った。
授業が終わり、部活動会議が始まる。
各部活の顧問、部長、副部長達が座っている中、男子テニス部顧問である峰沢の席はあるがその他のメンバーの席はなかった。他の部活動の面々らは“ここまでやるのか”という表情で、女子テニス部の顧問である重森に眉を顰める。しかし、顧問を含め、同席した岡部も影村も照山もそれは想定内だった。生徒会長が部活動報告会の進行を始める。
「では、これから部活動報告会を始めます。まず、ゴールデンウィーク中の活動報告を水泳部からお願いします。」
「はい、水泳部は選手強化のため、霞ケ浦水泳競技場にて合宿を行いました。私を始め各生徒のタイムは自己ベストを更新。次回のインターハイは全国優勝を目指す者として活動しております。」
「次に剣道部お願いします。」
「剣道部です。今年は例年通り木更津でインターハイに向けた合宿を実施しました。特別講師として天然理心流の諸先生方のご指導の下鍛錬に励みました。今年こそ上位3位以上及び、主力選手層の優勝を狙います。」
「次に女子テニス部お願いします。」
「女子テニス部です。今年は有明の森テニスセンターの使用許可をいただき、1週間の内3日ほど吉岡修三先生をお呼びしての特別強化合宿を実施しました。今年こそは全国優勝を狙います。」
「はい...では...男子テニス部お願いします。」
「.........。」
「あ、あの...男子テニス部...。」
男子テニス部の面々は黙り込んで、周囲を見ながらほくそ笑んでいる。最初に口を開いたのは照山だった。
「男子テニス部は学校の部活としては活動させてもらう権限がありませんので、校内行事としては何もやっておりません。報告の義務ありますか?一応学校の外でいろいろやってましたが。」
「......え?」
困惑する生徒会長。他の部の面々も互いに顔を合わせる。すると、重森が席を立ち峰沢を見下すように発言し始める。
「聞きましたよ。男子テニス部の皆さん。合宿されたご様子で...大変ですわね。どこからそんな費用が出たのか...報告したくありませんわよね。」
森重は峰沢の顔を見たが、峰沢はまるで馬耳東風と云わんばかりに涼し気な顔をしている。峰沢は照山の方を見た。彼女はとても面倒そうな表情で活動報告を上げる。
「峰沢先生。頼みますよ。顧問なんですからね。」
照山は良い感じの芋演技で取り出した書類を読み上げる。
「では、しょうがないので男子テニス部の活動を報告します。4月の3周目からゴールデンウィーク前にかけて行われた草トーナメントに主力メンバーが参加。賞金付きトーナメントで稼いだ約30万を費用に、ゴールデンウィークの期間合宿を開催しました。」
「.........。」
「そこで関東中山女子大高等部の女子テニス部と合同練習及び永新第2高校の男子テニス部の男子テニス部とも合同練習を...」
重森の眉がピクリと動く。関東中山女子大高等部女子テニス部は、前回のインターハイでは海生代女子テニス部に負けてはいるものの、毎年インターハイに出場している強豪校だった。
「いいですか?では続きを始めます。また、今回は海生代男子テニス部のOBで、元ジュニアインターナショナルテニストレーナーの参加者で、Sランクコーチの資格を持った田覚コーチの指導の下合宿を実施しました。」
「Sランクコーチ?そんなコーチを雇うお金が30万で足りますか?出鱈目云うんじゃありません!」
「なお、コーチ代は東京の高額草トーナメントにて部員1名が更に30万弱を稼ぎましたので、合宿を行うのに十分足る金額ですが?すでに支払いも完了しています。迷彩見ます?」
照山は淡々とゴールデンウィークに行った事を読み上げていく。竹下の活躍、高峰と山瀬が元県大会上位クラスのダブルスプレーヤー、とある部員1名がプロも参加する草トーナメントで賞金を荒稼ぎした事など全部を報告した。
「あ、ありえません!草トーとはいえ、プロも参加する大会ですよ!?そんな方々に敵う選手がいるのですか?竹下君やダブルスの2人はともかく、男子テニス部なんかのどこにそんな恐ろしい選手がいるのです!」
「なお、その選手は全国5人の天才の一人である龍谷宰君を6-0のストレートで負かしております。この大会で20万円を獲得しております。選手の事はまだ世間には出せないので伏せておきます。以上、報告でした。」
吉永は重森の横で震えていた。彼女は影村と田覚の試合を見ていたためか、その選手が影村であると簡単に予測がついた。更に隣にいた川合も「ふーん」といった具合に影村の方を見ていた。
「で、出鱈目です!それが本当だったら海生代の男子テニス部は次のインターハイで―――」
「インターハイ。取りますよ?出場なんかではなく。」
「峰沢先生...今なんて!?なんて言いましたか!?」
「えぇ、もう一回言いますよ。インターハイ取りに行きます。天才と云われる竹下君の才覚、全国の中学校のダブルス勢を警戒させたペア、そして我々男子テニス部の為に日夜賞金を稼いでバックアップしてくれるプロにも匹敵するであろうそのプレーヤーと共にね。尤も、コート1面も持ってませんので、資金調達のため、最後に言った彼を動かし続ける必要がありますので難しいですがね。」
峰沢はメガネを光らせて足を組んだ。重森はどこかヒステリックに峰沢を恫喝しようとするが、吉永が震える手を押さえて立ち上がった。川合はやれやれと言った具合で彼女の方を見ていた。
「その選手...ここにいます。」
「吉永...」
「彼が...そこの影村君が...その選手です。」
「............。」
吉永は賞金トーナメントの話が出た時点で、朝の部室での影村の質問を思い出し、更に彼と田覚の試合の情景を思い出し、それが彼女の頭の中でリアルな現実として結びつき、もう隠すことができないという精神状態になっていた。更に峰沢は重森の方を見上げて行った。
「えぇ、廃部寸前の我々の心配する暇があったら、自分の部の心配をした方がいいですよ?重森先生。」
「.....なんだと?」
「関東中山女子大高等部の西野先生言ってましたよ?前回のインターハイには間に合わなかった、すっごい選手が返って来るっていう話じゃないですか。」
「......。」
川合はニヨニヨと笑顔を作るが、内心今年のインターハイは諦めていた。私立関東中山女子大高等部には今年3年生で、全国でも有名な “ 絶対女王 ” と呼ばれる選手がいた。
「なんでしたっけ?芳江南恵香選手が帰ってくるんですよ。まぁ、女子テニス部の事をよろしく言っておきましたよ。我々には一切関係ありませんけどね。まぁ、これだけは言わせてください。あんた、身内にいる眠れる巨人の足と、他校のトラの尾踏んでんだぜ?」
重森はぐっと奥歯を噛む。照山、岡部、影村はどこかあくどそうな表情で重森を見ていた。吉永はゆっくり座り、去年のジュニア選抜の悪夢の試合を思い出した。川合は芳江南に2-6・2-6のストレートで負けた試合を思い出し、もう駄目だと云わんばかりに笑顔で溜息をついた。
男子テニス部はこの日、駅前に集結していた。ゴールデンウィーク前と比べると、メンバー全員の顔つきが変わっている。メンバー達は歩き始める。周りの学生達は、圧倒的な威圧感と貫禄の大きさに後退りする者まで現れた。
一行は学校の校門をくぐる。この日挨拶当番だった水泳部顧問の教員は開いた口が塞がらない。そのほかの部活の面々も、男子テニス部のメンバー達に釘付けとなる。
「お、おい、男子テニス部なんか変わったな...」
「あ、あぁ...雰囲気違い過ぎだろ...どこの強豪校だよ。」
「コートを無くして、外で活動してるって聞いたぜ。」
「嘘だろ?部費も廃止になったのにか?」
部活動に所属している生徒達は、既にテニス部が廃部を待つだけの状態になっている事を知っていた。なのにメンバーらの表情を見て、まったくそんな雰囲気ではなかった。校門を通り過ぎると、彼らは部室へと向かった。男子テニス部の部室の入口に張り紙がしてある。
“ 退去命令:当部屋は、3日後に女子テニス部の所有する部室となる為、速やかに中の荷物を整理して退去してください。従わない場合は、強制措置としてすべての物品を処分します。 女子テニス部顧問 重森 ”
「.........。」
男子テニス部員達は無言で部室の扉を開ける。海生代の歴代テニス部が残してきた雑多な物があふれている中で、彼らはこれから使うであろう用品のみを取り出て段ボール箱へと入れる。
「これだけね。」
「段ボール1個か。翔子先輩...本当にこれだけでいいの?」
「えぇ...これだけで十分よ。」
「主将...泣くのはインターハイで燃え尽きるまで取っておいてください。」
「あぁ、山城...そうだな。やめていった2年生連中にも面目ないと思っているよ。俺達がもっと強ければ、あんなことが起きなかったんだ。」
「2年生の集団退部事件すか...重森が女テニの顧問になってから全部が破壊されたぜ。」
「あぁ、だから最後に見せつけてやるんだ。“お前たちが破壊した男子テニス部の最後の花道”ってな。」
「......。」
「あれ、影村君どうしたの?活動日誌?」
影村は古びた活動日誌を見つけるとそれを広げた。中身は歴代の海生代高校が行ってきた練習内容、練習試合の結果、大会の実績の数々だった。
「な、なにこれ...嘘でしょ...。」
「これが、このテニス部の真実って奴だろうよ。」
「練習試合...菊池台西校主将と6-1で勝利...田覚コーチ!?シングルス県大会準優勝...選手名、田覚コーチ...インターハイ出場選手、男子シングルス...新貝...ってこれ今の日本代表のコーチじゃん...。」
「...。」
影村が瓦礫の中から見つけた1冊のノート。その中身は、海生代男子テニス部の全盛期の記録が記されていた。海生代高校は田覚と現日本代表のテニスコーチである新貝という男の母校だった。
「全国に...行ったことがあるのか...この学校は...。」
動揺する山城。岡部は段ボールにその日誌を入れた。
「あとは処分だ。俺達はこれから始まるんだ。部室なんかくれてやるよ。この学校のテニス部は形だけの生きるバケモノだ。試合にさえ出られればそれでいい。」
「結局重森先生への対処法見つからなかったわね。」
「実績がものを言うんだ。現実思考の重森には、この過去の栄光すら笑い飛ばす程のものなんだろうよ。」
「許せない...」
「照山...俺達はできることを全力でやるんだ。」
部活動日誌を見た彼らは凛とした表情で段ボールの中身を見る。残ったものは、部活動日誌2冊、虫食い穴が目立つボロボロになった2メートル程ある海生代の横断幕だけだった。静かに箱を見る彼らに威勢のいい女子生徒らの声が背中から突き刺さる。
「あ、男テニじゃん。ここ女テニが使うからさぁ、さっさとどいてくんない?」
「あーまだいたんだ、男子テニス部。重森先生がGW直前にやった職員会議でこの部室貰えるようにしたの。」
女子テニス部の主将である川合真理と吉永夏帆だった。吉永は腕を組んで何処か男子テニス部を挑発するように顎をクイッとさせてエラそうな態度で彼らを見下す。川合はお嬢様のように歩き出して部室の中へ入る。
「男子テニス部も可哀そうねぇ。重森先生に目を付けられちゃって...でも、弱い部活は生き残れないの。これだけは分かってくださいね。フフフ。御免なさぁい。私達が強くてそちらに被害が出てしまいましたわ。」
「おう、そうだ!実績のない弱小部には廃部してもらう!これが今の海生代の部活動組織のルールだ。」
岡部は得意げな顔で話す吉永と、可愛らしくもどこか嫌味な口調の川合をまるで無視するように段ボールを持って通り過ぎる。
「おい、岡部!」
「.........。」
「無視すんじゃねぇよ。」
吉永は岡部の肩を掴んだ。しかし彼女は振り返った岡部の目を見てゾッとする。その目は絶望に打ちひしがれてはないかった。むしろ現状を楽しんでいるといったものだった。
「...あとは全部不用品だ。勝手に処分しといてくれ。」
「そうそう、ありがとうねぇ...正直こんなにいっぱい残って手焼いてたのよ。助かるわぁ。」
「お、二人とも待てよ。この酒井も忘れるな!」
岡部、酒井、照山は何も感じない。それがどうしたと言わんばかりの表情で淡々と部室から出ていく。
「俺達外で活動、イエ~イ!」
「イエ~イ!」
「2人共チャラーい!」
「あ、竹下君。そろそろ授業始まるから行きましょう。」
「フフ、学校の外の方が練習が楽しそうだね。」
残りのメンバー達も次々に部室を後にする。川合と吉永は男子テニス部の面々がどこか別の次元にいるような感覚に見舞われる。そして最後に影村が出て行こうとする。
「おい、1年!無視すんじゃねぇよ!おい!」
「お前の実績、なんだ?」
「全国ベスト16だ。」
影村は隠れた前髪から自慢げに答える吉永を見等見つめる。
「じゃあ質問を変えるが、お前らのテニス...賞金いくら稼げる。」
「はぁ?何言って―――」
「じゃあな。答えられねぇなら、それだけの事だ。」
影村は部室を出て行った。残された二人は机の上に置かれたタグの紙が引きちぎられたカギを見て無言になった。
「よく目に焼き付けておけ。そしていつかあいつらが吠え面かく日が来るその時を待つんだ。」
外へ出た岡部は震えた声で部室を睨み付けながら立っていた。酒井は軽く2回程、岡部の肩を叩く。岡部は静か
に酒井と教室へと向かって行った。
授業が終わり、部活動会議が始まる。
各部活の顧問、部長、副部長達が座っている中、男子テニス部顧問である峰沢の席はあるがその他のメンバーの席はなかった。他の部活動の面々らは“ここまでやるのか”という表情で、女子テニス部の顧問である重森に眉を顰める。しかし、顧問を含め、同席した岡部も影村も照山もそれは想定内だった。生徒会長が部活動報告会の進行を始める。
「では、これから部活動報告会を始めます。まず、ゴールデンウィーク中の活動報告を水泳部からお願いします。」
「はい、水泳部は選手強化のため、霞ケ浦水泳競技場にて合宿を行いました。私を始め各生徒のタイムは自己ベストを更新。次回のインターハイは全国優勝を目指す者として活動しております。」
「次に剣道部お願いします。」
「剣道部です。今年は例年通り木更津でインターハイに向けた合宿を実施しました。特別講師として天然理心流の諸先生方のご指導の下鍛錬に励みました。今年こそ上位3位以上及び、主力選手層の優勝を狙います。」
「次に女子テニス部お願いします。」
「女子テニス部です。今年は有明の森テニスセンターの使用許可をいただき、1週間の内3日ほど吉岡修三先生をお呼びしての特別強化合宿を実施しました。今年こそは全国優勝を狙います。」
「はい...では...男子テニス部お願いします。」
「.........。」
「あ、あの...男子テニス部...。」
男子テニス部の面々は黙り込んで、周囲を見ながらほくそ笑んでいる。最初に口を開いたのは照山だった。
「男子テニス部は学校の部活としては活動させてもらう権限がありませんので、校内行事としては何もやっておりません。報告の義務ありますか?一応学校の外でいろいろやってましたが。」
「......え?」
困惑する生徒会長。他の部の面々も互いに顔を合わせる。すると、重森が席を立ち峰沢を見下すように発言し始める。
「聞きましたよ。男子テニス部の皆さん。合宿されたご様子で...大変ですわね。どこからそんな費用が出たのか...報告したくありませんわよね。」
森重は峰沢の顔を見たが、峰沢はまるで馬耳東風と云わんばかりに涼し気な顔をしている。峰沢は照山の方を見た。彼女はとても面倒そうな表情で活動報告を上げる。
「峰沢先生。頼みますよ。顧問なんですからね。」
照山は良い感じの芋演技で取り出した書類を読み上げる。
「では、しょうがないので男子テニス部の活動を報告します。4月の3周目からゴールデンウィーク前にかけて行われた草トーナメントに主力メンバーが参加。賞金付きトーナメントで稼いだ約30万を費用に、ゴールデンウィークの期間合宿を開催しました。」
「.........。」
「そこで関東中山女子大高等部の女子テニス部と合同練習及び永新第2高校の男子テニス部の男子テニス部とも合同練習を...」
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「いいですか?では続きを始めます。また、今回は海生代男子テニス部のOBで、元ジュニアインターナショナルテニストレーナーの参加者で、Sランクコーチの資格を持った田覚コーチの指導の下合宿を実施しました。」
「Sランクコーチ?そんなコーチを雇うお金が30万で足りますか?出鱈目云うんじゃありません!」
「なお、コーチ代は東京の高額草トーナメントにて部員1名が更に30万弱を稼ぎましたので、合宿を行うのに十分足る金額ですが?すでに支払いも完了しています。迷彩見ます?」
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「で、出鱈目です!それが本当だったら海生代の男子テニス部は次のインターハイで―――」
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「峰沢先生...今なんて!?なんて言いましたか!?」
「えぇ、もう一回言いますよ。インターハイ取りに行きます。天才と云われる竹下君の才覚、全国の中学校のダブルス勢を警戒させたペア、そして我々男子テニス部の為に日夜賞金を稼いでバックアップしてくれるプロにも匹敵するであろうそのプレーヤーと共にね。尤も、コート1面も持ってませんので、資金調達のため、最後に言った彼を動かし続ける必要がありますので難しいですがね。」
峰沢はメガネを光らせて足を組んだ。重森はどこかヒステリックに峰沢を恫喝しようとするが、吉永が震える手を押さえて立ち上がった。川合はやれやれと言った具合で彼女の方を見ていた。
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「吉永...」
「彼が...そこの影村君が...その選手です。」
「............。」
吉永は賞金トーナメントの話が出た時点で、朝の部室での影村の質問を思い出し、更に彼と田覚の試合の情景を思い出し、それが彼女の頭の中でリアルな現実として結びつき、もう隠すことができないという精神状態になっていた。更に峰沢は重森の方を見上げて行った。
「えぇ、廃部寸前の我々の心配する暇があったら、自分の部の心配をした方がいいですよ?重森先生。」
「.....なんだと?」
「関東中山女子大高等部の西野先生言ってましたよ?前回のインターハイには間に合わなかった、すっごい選手が返って来るっていう話じゃないですか。」
「......。」
川合はニヨニヨと笑顔を作るが、内心今年のインターハイは諦めていた。私立関東中山女子大高等部には今年3年生で、全国でも有名な “ 絶対女王 ” と呼ばれる選手がいた。
「なんでしたっけ?芳江南恵香選手が帰ってくるんですよ。まぁ、女子テニス部の事をよろしく言っておきましたよ。我々には一切関係ありませんけどね。まぁ、これだけは言わせてください。あんた、身内にいる眠れる巨人の足と、他校のトラの尾踏んでんだぜ?」
重森はぐっと奥歯を噛む。照山、岡部、影村はどこかあくどそうな表情で重森を見ていた。吉永はゆっくり座り、去年のジュニア選抜の悪夢の試合を思い出した。川合は芳江南に2-6・2-6のストレートで負けた試合を思い出し、もう駄目だと云わんばかりに笑顔で溜息をついた。
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