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Moving On
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練習試合 海生代高等学校 VS 永新第2高等学校 団体戦 ダブルス
海生代を除く2校の、中学生の頃からダブルスをメインとしている選手達は、高峰と山瀬の試合前の掛声に背筋がぞわっとした。そして竹下の件で、興奮冷め止まぬ雰囲気の中に更なる刺激を与える。
2人の「Let's get started! Nice, cool and tricky!Yeah!」という掛声は病気で急逝した恩師である英語教員が、試合前の彼らにやらせたものだった。
永新第2高校の男子テニス部の面々はダブルス勢の興奮が止まらなかった。当時弱小だった彼らの母校である中学校に一人の英語教員が赴任してきた。彼は当時副顧問で、3軍の虐げられていた山瀬と高峰の才能にいち早く気が付き、秘密裏にトレーニングや練習を行い、彼らを全国大会に出場させるかどうかまでのレベルへと実力を押し上げた。しかし志半ばで病気により急逝するという話があった。
「...もしかして。」
「やっべ...生で見ちまった...」
「トリックスターと鉄壁...千葉県最強勢のタッグじゃねぇか!」
「最後の県大会の試合マジで感動したわ...マジでおかえり...」
「おい、お前泣くほどか?」
「あの感動の試合を見なかったのか!?全国の有名ダブルスプレーヤーを警戒させた、千葉教育大学附属中学校との伝説のタイブレークだぞ!」
「ちょ、そう熱くなんなよ...。」
関東中山女子大高等部女子テニス部のダブルスチームの面々も2人の登場に盛り上がった。
「ねぇ!涼子!あの子が鉄壁君で、あの大きい子がトリックスター!初めて見た!あの子達だったんだ!」
「......。」
「涼子?」
「...これ、大変な事よ。今この時点で...千葉県の高校男子テニスの勢力図が変わってしまう。」
「え!?そんなに!?」
海生代の面々も山城と酒井はよくわかっていなかったようだった。彼ら2人は照山の方を見て首をかしげる。佐藤は彼ら2人の有名さに、そして他校の生徒の中には泣き出す者もいたので驚きのあまり口元を押さえる。
「なぁ、照山。あの2人ってそんなに凄いのか?」
「すごいってもんじゃないわよ。全中ダブルスの代表に最も近かった子達なんだから。」
「......それって即ち?」
「えぇ、実力だけなら全中ダブルスでも十分に通用するレベルだったってことよ。」
2人は快晴の空の下、拳を合わせてニヤリと笑う。2人はそれぞれ中学生の時の練習の日々、ダブルスプレーヤーとして目が出始めたころ、病床に伏していた恩師の姿、最期の躍進から敗北までの記憶がフラッシュバックする。
「帰って来た...僕達帰って来たよ高峰。」
「おう、ノブノブ!今日も盛大にTrick or Treatしてやろうぜ!」
「うん!たぶん高峰警戒されるだろうから、僕がそれをかき消すよ。」
「センキュッ!」
山瀬の表情が純粋無垢な少年の顔へと変わる。2人はコートを審判台に向かって歩き出す。2人の相手をする榊原洋太と一木彰太はいきなりの大物相手に互いに顔を合わせて笑った。試合前から激しい盛り上がりを見せていた。
「やっべ...オーラすげぇ。」
「いきなり全国クラスと同等の実力者かよ。」
高峰と山瀬がネットを挟んで相手ペアと向き合う。緊張する榊原と一木。審判は運動神経と動体視力がよい渚が行う。
「これから海生代高校 高峰、山瀬ペア、永新第2高校 榊原、一木ペアの試合を行います。」
「よろしくお願いしまーす!」
海生代陣営は高峰が後衛、山瀬が前衛を務め、永新第2は榊原が後衛、一木が前衛というポジションである。コイントスによりサービスは榊原が打つことになる。
「 1セットマッチ 榊原 トゥ サーブ レディ...プレイ。」
榊原はサービスの構えに入る。彼はワイドへサービスを打って、一番警戒しなければいけない高峰をコートの外へ追いやり、山瀬をトップスピンロブで抜いて片付けるという作戦に出た。
「........。(あ、こいつワイドに打つし!ずるいし!どうせ俺外に弾いて山瀬をロブで抜く気だし!...でも、そううまくいかんしぃ?)」
「......。(兄ちゃん。先生。僕、自分なりに答えを見つけるよ!テニスで!)」
榊原がトスを上げる。山瀬がロブを警戒して前衛の位置から少しだけ後ろに下がる。高峰は榊原のサーブがおそらく外側に来るだろうと、わざとコートの外側へと位置を移動する。榊原がサーブを打つ。ボールは高峰の読み通り、彼のフォアハンド側へとバウンドする。高峰はボールをよく見て一瞬の判断によりラケットを下から上に重いっ切り振り上げる。
「......ハハッ!(俺のウインドミルフォアハンドだ!)」
竹下は自分のフォアハンドが高峰にコピーされたかのように、再現されたことに驚きのあまり笑ってしまった。佐藤は開いた口が塞がらなかった。照山は頷いた。山城と岡部と酒井は目を見開いてボールの後を追う。高峰は更にウインドミルのフォアハンドの勢いに合わせ、昇竜拳の要領で体をぐんと思いっきり半回転させながら飛び上がった。
「............!」
高峰の打ち返したボールは竹下に比べれば全く威力はなかった。しかしそれでよかった。彼の打ったボールは、無理やり引っ張られ、榊原のフォアサイドのネット際へと落ちる。ボールのあまりにも滅茶苦茶な軌道に意表を突かれる榊原と一木。
「.........っく!(な、そんなことが!)」
榊原は全力でネット前へ走る。ボールにぎりぎり追いつき、思いっきりラケットを振る。
「.....!(しまっ!)」
榊原の目の前。至近距離に鉄壁と呼ばれる165センチの小さな巨人がネット前へ走って来て待ち構えている。榊原は構わずラケットをフルスイングする。榊原と山瀬の距離はたった1.0m。普通ならばネット前でしゃがんでボールを避け、後衛に任せるところだが山瀬は超至近距離から全力のフォアハンドで打たれたボールをボレーしてはじき返した。パッパァン!という音が響いた。それは一瞬だった。
「.........。(え...ボレーしたのか?あれを...。)」
「......!」
一木は反応できない。ボールは彼らのコート内のベースライン上に落ちる。
「フィ...15-0...」
渚はポイントコールを行うが、その声は震えていた。彼女は山瀬の目を見てしまった。冷酷な何か別人のような眼に、一切瞬きをしていない。普通のボールを処理するように彼は当たり前のように向かって来たボールをボレーしたのだ。
「トリックスターと鉄壁は健在ね...先輩として誇らしいわ。」
「自分何もやってないじゃん。」
「おい、山城。そこに座れ。」
「うぇーい...」
照山がニヤリとした表情で言うも、山城が茶化したのですぐに彼を正座させる。
「...ひえーあれ取んのかよ。」
「俺だったら絶対顔面にくらってたわ。」
「フフ、恐ろしいね。」
岡部、酒井、竹下は山瀬のマネできないプレースタイルに驚く。山瀬と高峰は近寄ると互いに拳を合わせて互いをねぎらった。
「ナイス、ノブノブ!」
「ナイス、高峰!」
次のポイントで、山瀬がレシーブとなる。榊原はセンターにサーブを打ってきた。山瀬はバウンドしたボールをボレーするように打ち返すとネット前へと走り出す。それを見た高峰がすかさず後衛へと下がる。山瀬と高峰のポジションが入れ替わった。榊原はストレートにボールを打って高峰に返す。
高峰はボールの着地するサービスライン付近へと歩いていき、ボールが落ちてくると同時にラケットヘッドを逆さまに立ててコート面につけた。ボールはバウンドしてすぐにラケットに当たると緩く飛んで行き、ネットのギリギリ上を通過する。それに気が付いた一木は直ぐに走ったが、間に合わなかった。
「0-30...。」
「ウェーイ...ナイスリターン☆」
一木は高峰のコート上でのコミカルな動きに対応できなかった。竹下はノリノリでふざけた動きをする高峰を見てその予想の付かない、何をするのかよくわからないという要素を称賛していた。山瀬が前衛で低い球を防ぎ、山瀬を追い越してきた高めのボールを高峰が意表を突くように予想だにしない動きで対応して、試合展開を乱していくスタイル。
山瀬は至近距離の速い球でも、相手のスマッシュでも、自分の届く範囲ならば超反応してボレーできるという驚異的な動体視力を駆使し、高確率でボール防ぐことから鉄壁と呼ばれ、高峰は相手の虚を突きペースやゲーム展開を乱すこと、そして当時流行っていたダンジョンゲームからトリックスターと云われる敵と彼のプレースタイルとの特徴が似ている為に仲間からそう呼ばれ今に至る。
「.........。(やっべ、全くあいつの動きの予測がつかねぇ。)」
榊原はファーストサーブをネットに掛けると、今度はスピン系のサーブで高峰を崩すことにした。ボールは高峰の腰の付近まで上がる。高峰はわざと一木にスマッシュしろと言わんばかりに高いボールを上げる。
「......フッ。(さぁ、ノブノブ!出番だぜ!復活のご挨拶だ!)」
彼はロブを打ち終わると、山瀬が打ち漏らした時の為に身を引きながら、コートの真中のベースラインより後ろへと移動する。一木はスマッシュの態勢に入る。山瀬は一木の目の前に向かい合うように位置取りした。海生代の面々は山瀬の事を心配した。佐藤はあまりの怖さに目を閉じ、竹下は拳を握り、岡部と酒井はオドオドしながらタオルで目を隠し、峰沢については口から泡を吹いて倒れそうになっていた。
ボールが落ちてきて一木がスマッシュを打つ。
「......!(鉄壁ぃ!?)」
一木がスマッシュを打つすぐ目の前に山瀬がいた。彼の目は瞬くことも無くじっと一木がスマッシュを打つのを待っていた。一木はもう構わないとラケットでボールを打ち下ろした。彼の打ったスマッシュは山瀬の顔30センチ横を通過しようと猛スピードで向って行ったが、山瀬のラケットがボールを捉える。この試合を見ていた全ての者達が硬直する。山瀬は瞬き一つせず一木のスマッシュによって飛んでくるボールにラケットを合わせてボレーで返した。
「.........。」
佐藤は閉じていた目を少しずつあける。竹下は笑顔で試合を見る。西野は普段生徒達には見せない驚いた表情で山瀬を見ていた。渚と里宮は目をぐんと開いてまるで石のように固まっていた。辺りが静まり返る。スマッシュされたボールが山瀬のボレーで打ち返され、コート内でバウンドしそしてコート外へ出て行く。
「スッゲー!なんだ今の!」
「スマッシュ潰しやがったぁ!?」
「あんな技、人間が使えんのか!?」
槇谷と植島はもう何があったのかもわからないままただ試合を見届けていた。杉田も一木のスマッシュを止めに入ろうと声を出しそうになったほどだった。
「鉄壁にトリックスター...今年の海生代はふざけているのか。」
杉田は海生代の新たな躍進に内心羨ましさを感じる。天才の竹下、鉄壁の山瀬、トリックスターの高峰、そしてまだ見ぬ裏で燻る大きな大きなとてつもない強烈な戦力が一人控えている。照山は携帯端末を見ると手を震わせる。送られてきたのは、草トーナメントの結果とスコアボードの写真だった。そこには“賞金取りました。”という短いメッセージに “影村 6 - 0 龍谷”と書かれたスコアボードの写真と、5人の天才の一人である龍谷と、ラーメン屋で撮影されたと思われる写真が添付されていた。
海生代を除く2校の、中学生の頃からダブルスをメインとしている選手達は、高峰と山瀬の試合前の掛声に背筋がぞわっとした。そして竹下の件で、興奮冷め止まぬ雰囲気の中に更なる刺激を与える。
2人の「Let's get started! Nice, cool and tricky!Yeah!」という掛声は病気で急逝した恩師である英語教員が、試合前の彼らにやらせたものだった。
永新第2高校の男子テニス部の面々はダブルス勢の興奮が止まらなかった。当時弱小だった彼らの母校である中学校に一人の英語教員が赴任してきた。彼は当時副顧問で、3軍の虐げられていた山瀬と高峰の才能にいち早く気が付き、秘密裏にトレーニングや練習を行い、彼らを全国大会に出場させるかどうかまでのレベルへと実力を押し上げた。しかし志半ばで病気により急逝するという話があった。
「...もしかして。」
「やっべ...生で見ちまった...」
「トリックスターと鉄壁...千葉県最強勢のタッグじゃねぇか!」
「最後の県大会の試合マジで感動したわ...マジでおかえり...」
「おい、お前泣くほどか?」
「あの感動の試合を見なかったのか!?全国の有名ダブルスプレーヤーを警戒させた、千葉教育大学附属中学校との伝説のタイブレークだぞ!」
「ちょ、そう熱くなんなよ...。」
関東中山女子大高等部女子テニス部のダブルスチームの面々も2人の登場に盛り上がった。
「ねぇ!涼子!あの子が鉄壁君で、あの大きい子がトリックスター!初めて見た!あの子達だったんだ!」
「......。」
「涼子?」
「...これ、大変な事よ。今この時点で...千葉県の高校男子テニスの勢力図が変わってしまう。」
「え!?そんなに!?」
海生代の面々も山城と酒井はよくわかっていなかったようだった。彼ら2人は照山の方を見て首をかしげる。佐藤は彼ら2人の有名さに、そして他校の生徒の中には泣き出す者もいたので驚きのあまり口元を押さえる。
「なぁ、照山。あの2人ってそんなに凄いのか?」
「すごいってもんじゃないわよ。全中ダブルスの代表に最も近かった子達なんだから。」
「......それって即ち?」
「えぇ、実力だけなら全中ダブルスでも十分に通用するレベルだったってことよ。」
2人は快晴の空の下、拳を合わせてニヤリと笑う。2人はそれぞれ中学生の時の練習の日々、ダブルスプレーヤーとして目が出始めたころ、病床に伏していた恩師の姿、最期の躍進から敗北までの記憶がフラッシュバックする。
「帰って来た...僕達帰って来たよ高峰。」
「おう、ノブノブ!今日も盛大にTrick or Treatしてやろうぜ!」
「うん!たぶん高峰警戒されるだろうから、僕がそれをかき消すよ。」
「センキュッ!」
山瀬の表情が純粋無垢な少年の顔へと変わる。2人はコートを審判台に向かって歩き出す。2人の相手をする榊原洋太と一木彰太はいきなりの大物相手に互いに顔を合わせて笑った。試合前から激しい盛り上がりを見せていた。
「やっべ...オーラすげぇ。」
「いきなり全国クラスと同等の実力者かよ。」
高峰と山瀬がネットを挟んで相手ペアと向き合う。緊張する榊原と一木。審判は運動神経と動体視力がよい渚が行う。
「これから海生代高校 高峰、山瀬ペア、永新第2高校 榊原、一木ペアの試合を行います。」
「よろしくお願いしまーす!」
海生代陣営は高峰が後衛、山瀬が前衛を務め、永新第2は榊原が後衛、一木が前衛というポジションである。コイントスによりサービスは榊原が打つことになる。
「 1セットマッチ 榊原 トゥ サーブ レディ...プレイ。」
榊原はサービスの構えに入る。彼はワイドへサービスを打って、一番警戒しなければいけない高峰をコートの外へ追いやり、山瀬をトップスピンロブで抜いて片付けるという作戦に出た。
「........。(あ、こいつワイドに打つし!ずるいし!どうせ俺外に弾いて山瀬をロブで抜く気だし!...でも、そううまくいかんしぃ?)」
「......。(兄ちゃん。先生。僕、自分なりに答えを見つけるよ!テニスで!)」
榊原がトスを上げる。山瀬がロブを警戒して前衛の位置から少しだけ後ろに下がる。高峰は榊原のサーブがおそらく外側に来るだろうと、わざとコートの外側へと位置を移動する。榊原がサーブを打つ。ボールは高峰の読み通り、彼のフォアハンド側へとバウンドする。高峰はボールをよく見て一瞬の判断によりラケットを下から上に重いっ切り振り上げる。
「......ハハッ!(俺のウインドミルフォアハンドだ!)」
竹下は自分のフォアハンドが高峰にコピーされたかのように、再現されたことに驚きのあまり笑ってしまった。佐藤は開いた口が塞がらなかった。照山は頷いた。山城と岡部と酒井は目を見開いてボールの後を追う。高峰は更にウインドミルのフォアハンドの勢いに合わせ、昇竜拳の要領で体をぐんと思いっきり半回転させながら飛び上がった。
「............!」
高峰の打ち返したボールは竹下に比べれば全く威力はなかった。しかしそれでよかった。彼の打ったボールは、無理やり引っ張られ、榊原のフォアサイドのネット際へと落ちる。ボールのあまりにも滅茶苦茶な軌道に意表を突かれる榊原と一木。
「.........っく!(な、そんなことが!)」
榊原は全力でネット前へ走る。ボールにぎりぎり追いつき、思いっきりラケットを振る。
「.....!(しまっ!)」
榊原の目の前。至近距離に鉄壁と呼ばれる165センチの小さな巨人がネット前へ走って来て待ち構えている。榊原は構わずラケットをフルスイングする。榊原と山瀬の距離はたった1.0m。普通ならばネット前でしゃがんでボールを避け、後衛に任せるところだが山瀬は超至近距離から全力のフォアハンドで打たれたボールをボレーしてはじき返した。パッパァン!という音が響いた。それは一瞬だった。
「.........。(え...ボレーしたのか?あれを...。)」
「......!」
一木は反応できない。ボールは彼らのコート内のベースライン上に落ちる。
「フィ...15-0...」
渚はポイントコールを行うが、その声は震えていた。彼女は山瀬の目を見てしまった。冷酷な何か別人のような眼に、一切瞬きをしていない。普通のボールを処理するように彼は当たり前のように向かって来たボールをボレーしたのだ。
「トリックスターと鉄壁は健在ね...先輩として誇らしいわ。」
「自分何もやってないじゃん。」
「おい、山城。そこに座れ。」
「うぇーい...」
照山がニヤリとした表情で言うも、山城が茶化したのですぐに彼を正座させる。
「...ひえーあれ取んのかよ。」
「俺だったら絶対顔面にくらってたわ。」
「フフ、恐ろしいね。」
岡部、酒井、竹下は山瀬のマネできないプレースタイルに驚く。山瀬と高峰は近寄ると互いに拳を合わせて互いをねぎらった。
「ナイス、ノブノブ!」
「ナイス、高峰!」
次のポイントで、山瀬がレシーブとなる。榊原はセンターにサーブを打ってきた。山瀬はバウンドしたボールをボレーするように打ち返すとネット前へと走り出す。それを見た高峰がすかさず後衛へと下がる。山瀬と高峰のポジションが入れ替わった。榊原はストレートにボールを打って高峰に返す。
高峰はボールの着地するサービスライン付近へと歩いていき、ボールが落ちてくると同時にラケットヘッドを逆さまに立ててコート面につけた。ボールはバウンドしてすぐにラケットに当たると緩く飛んで行き、ネットのギリギリ上を通過する。それに気が付いた一木は直ぐに走ったが、間に合わなかった。
「0-30...。」
「ウェーイ...ナイスリターン☆」
一木は高峰のコート上でのコミカルな動きに対応できなかった。竹下はノリノリでふざけた動きをする高峰を見てその予想の付かない、何をするのかよくわからないという要素を称賛していた。山瀬が前衛で低い球を防ぎ、山瀬を追い越してきた高めのボールを高峰が意表を突くように予想だにしない動きで対応して、試合展開を乱していくスタイル。
山瀬は至近距離の速い球でも、相手のスマッシュでも、自分の届く範囲ならば超反応してボレーできるという驚異的な動体視力を駆使し、高確率でボール防ぐことから鉄壁と呼ばれ、高峰は相手の虚を突きペースやゲーム展開を乱すこと、そして当時流行っていたダンジョンゲームからトリックスターと云われる敵と彼のプレースタイルとの特徴が似ている為に仲間からそう呼ばれ今に至る。
「.........。(やっべ、全くあいつの動きの予測がつかねぇ。)」
榊原はファーストサーブをネットに掛けると、今度はスピン系のサーブで高峰を崩すことにした。ボールは高峰の腰の付近まで上がる。高峰はわざと一木にスマッシュしろと言わんばかりに高いボールを上げる。
「......フッ。(さぁ、ノブノブ!出番だぜ!復活のご挨拶だ!)」
彼はロブを打ち終わると、山瀬が打ち漏らした時の為に身を引きながら、コートの真中のベースラインより後ろへと移動する。一木はスマッシュの態勢に入る。山瀬は一木の目の前に向かい合うように位置取りした。海生代の面々は山瀬の事を心配した。佐藤はあまりの怖さに目を閉じ、竹下は拳を握り、岡部と酒井はオドオドしながらタオルで目を隠し、峰沢については口から泡を吹いて倒れそうになっていた。
ボールが落ちてきて一木がスマッシュを打つ。
「......!(鉄壁ぃ!?)」
一木がスマッシュを打つすぐ目の前に山瀬がいた。彼の目は瞬くことも無くじっと一木がスマッシュを打つのを待っていた。一木はもう構わないとラケットでボールを打ち下ろした。彼の打ったスマッシュは山瀬の顔30センチ横を通過しようと猛スピードで向って行ったが、山瀬のラケットがボールを捉える。この試合を見ていた全ての者達が硬直する。山瀬は瞬き一つせず一木のスマッシュによって飛んでくるボールにラケットを合わせてボレーで返した。
「.........。」
佐藤は閉じていた目を少しずつあける。竹下は笑顔で試合を見る。西野は普段生徒達には見せない驚いた表情で山瀬を見ていた。渚と里宮は目をぐんと開いてまるで石のように固まっていた。辺りが静まり返る。スマッシュされたボールが山瀬のボレーで打ち返され、コート内でバウンドしそしてコート外へ出て行く。
「スッゲー!なんだ今の!」
「スマッシュ潰しやがったぁ!?」
「あんな技、人間が使えんのか!?」
槇谷と植島はもう何があったのかもわからないままただ試合を見届けていた。杉田も一木のスマッシュを止めに入ろうと声を出しそうになったほどだった。
「鉄壁にトリックスター...今年の海生代はふざけているのか。」
杉田は海生代の新たな躍進に内心羨ましさを感じる。天才の竹下、鉄壁の山瀬、トリックスターの高峰、そしてまだ見ぬ裏で燻る大きな大きなとてつもない強烈な戦力が一人控えている。照山は携帯端末を見ると手を震わせる。送られてきたのは、草トーナメントの結果とスコアボードの写真だった。そこには“賞金取りました。”という短いメッセージに “影村 6 - 0 龍谷”と書かれたスコアボードの写真と、5人の天才の一人である龍谷と、ラーメン屋で撮影されたと思われる写真が添付されていた。
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