53 / 53
番外編
後
しおりを挟む……はっ、いやいやいや。リアムのリアムに動揺してる場合じゃない。俺にはまだ誕生日プレゼントというミッションが残っている。ここで湯当たりなんてしたら翌日になってしまう!
肩までお湯に浸かりゆっくり十数えてからお風呂を出て、風魔法を駆使し髪の毛をすばやく乾かして脱衣所を後にした。
自室で身支度を整えたら包装された品をこっそりポケットに入れ、急ぎ足でリアムの部屋に向かう。
「兄上、よろしいですか?」
「もちろん。どうぞ」
控えめに扉を叩くとすぐに返答があり、扉が開く。
毎日リアムと寝ているからすっかり慣れた手順だ。部屋に二人きりになれば、まだ少し濡れているリアムの髪の毛をそっと魔法で乾かした。
「ああ、いつもありがとう。俺は髪が長いからどうも乾きにくくて」
「これは僕の特権ですからっ。それに、兄上の髪の毛、とっても似合っていて大好きです」
ベッドに並んで座り彼の触り心地の良い髪の毛を指先に絡める。
こんな綺麗な顔で、成績も良くて、愛想は良くないけど人当たりが悪いわけじゃなくて、その上髪の毛もさらっさらで肌も綺麗って非の打ち所がなさすぎるんだよな。
「シャノンは……もう伸ばさないのか?」
「僕は、あの……伸ばすと男らしさが消えちゃうので!」
断固とした意思で返事をする。リアムはちょっと残念そうだけどこれは俺の意地なのだ。俺が可愛いのはそうだけど、女の子に間違われたいわけじゃないから!!
いつもみたいに就寝前にお話ししているとちょっと眠くなってきてしまって、思わずあくびが出そうになる。
いかんいかん。リアムもリアムでそれを察して寝かしにかかってきている。
「ふぁ……じゃなくて、兄上! 僕からお誕生日プレゼントです」
ポケットからいそいそと小さな包みを取り出して義兄の掌に乗せた。
無難なデザインのにしたし、格式ある場とかには勿論つけていけないと思うけど普段使いに支障はないと思うんだ。
少しだけ目を見張った様子のリアムは、糸が溶けるように笑った。そのまま俺に許可を取って包装を剥がす。
き、気に入ってくれるかな……。
「ネックレス……に、君の魔力を感じる」
「あ、き、気付かれました? ええと、兄上が以前僕にくれたものをちょっと真似しました……。あの、色々防衛特化の魔法を組んであります! 兄上は光魔法があるから必要ないかもしれないけど、良ければ普段つけていただければ」
「シャノン。君がつけてくれる?」
変に緊張して口が止まらなくなってしまった。慌てる俺を目を細めて見ていたリアムが、途中で言葉を止めてそう願い出る。
お、俺が、兄上につける? ネックレスを?
お安い御用だと言いたいけど、ていうか実際快諾してしまったけど、いざ彼の首に正面から手を伸ばすと思ったより距離が縮まって焦る。
彼の匂いを直に感じる距離だ。待ってやばい、なんか手汗出てきたぞ。
もうえっろいキスも済ませた仲なのに、なんでこれくらいで動揺してるんだ。俺は!
内心満身創痍になりながらどうにかリアムにネックレスをつけた。やけに疲れたな。
「つ、つけました……。あ、やっぱりよくお似合いです!」
少しだけくすんだピンク色のそれは彼の全体的な色合いによく似合っていた。
「ありがとう。……君が俺にネックレスを選んでくれたって言う事実が、すごく嬉しい」
「え? えっと……?」
リアムの言わんとするところが上手く汲み取れずに首を傾げる。すると彼はぐっと俺の手を引いた。その勢いのまま肩口に顔を預ける形となる。
「ネックレスを贈るのは、あなたと一緒にいたいという意味だと聞いたことがある。もしシャノンが意図していてもしていなくても、俺がそう解釈するのは自由だろう?」
「……!!」
あ、そういう……!
ええっ。ていうかそれなら余計他のやつあげなくてよかった!! 俺がめちゃくちゃ重いやつみたいじゃないか! 意味知らないならまだしも、俺は知ってるし!
その気持ちがどうやら顔に出ていたらしい。俺の反応が思っていたものと違ったのか、リアムは不思議そうに首を傾げる。
「ん……? もしかして、知って」
「え! あ、ああー! はつみみ、初耳です! ……でもっ、あながち間違ってません。僕は兄上と一緒にいたいです」
反射的に否定するも、本来の気持ちまでは嘘をつきたくなくて小声でそう付け加えた。
実際贈る意味をなんとなく知ってるのに選んだのは、それが嘘じゃあないからだ。
……や、でも恥ずかしいなこれ。
照れ隠しでリアムの肩に顔をぐりぐり押し付ける。
その時、もう何も入っていないはずのポケットから金属が触れ合う音がした。
(ん? なんだ?)
何も考えずそこに手を入れ、入っているものを探り出した。
出てきたのは部屋に置いてきたはずのブレスレットとアンクレット。
(…………なんで? いや、見なかったことにしよう)
平気な顔を作りその手をポケットに戻……そうとしたところで義兄に捕まる。
「それは?」
「うーん、なんでしょう。僕のなんですけど、間違って持ってきちゃったみたいです!」
「それ、シャノンちゃんがギリギリまで兄貴にあげるか迷ったたやつだぜ」
テディが陰からにゅっと顔だけ出して告げ口する。なんだこいつ、敵か!?
俺と目が合うと奴は親指を立てすぐに姿を消した。
(うおおい、グッじゃないんだよ! てか、勝手に入れたのもお前か!?)
残されたのはゴリゴリに削れたHPゲージ。もうなんなら赤色ですが。
「そうなのか。どうしてやめ……ああ、なるほど」
頭が良すぎるのも考えものである!!
先程の俺の反応から察するものがあったのだろう義兄は、ひとつ頷くと手のひらをじっと見つめる。
「……贈ってもらえたら、嬉しいんだが」
「うう……」
上目遣いで俺を見るリアムの顔の良さに全俺がノックアウトした。
おずおずとふたつのアクセサリーを献上する。アクセサリーに罪はないんでね……。
「これは、熱烈なラブレターだと思っていい?」
「う、うう、うー!! お好きにどうぞ!!」
最悪だ。これじゃあまるで俺がめちゃくちゃ束縛屋さんみたいじゃないか!
リアムはめちゃくちゃ嬉しそうな顔で俺の手からふたつのアクセサリーを取り、それに口付けた。
「色も、まるで君みたいだ。シャノン。俺も叶うならば君を雁字搦めにしておきたいよ」
色……たしかに俺の髪色に似ているかもしれない。それは本当に考えていなかった。
でも余計なことを言うと藪蛇になりそうで、口をつぐむ。
そんなことよりもリアムに贈り物以上の想い愛の言葉を囁かれたほうが今の俺には重要で……。
「今度は俺がシャノンにネックレスを贈ろう。とびっきりのデザインの、でも、君だけの首輪だ」
(うわーー!!!!)
重い! 全然いい! かっこいい! 好き!
きっと俺の目にはハートでも浮かんでいるかもしれない。
首を撫でられ告げられた科白はしっかりと俺の心臓に突き刺さった。
なるほど、リアムもプレゼントを受け取った時こんな感情だったのかもしれない。
(……お互い様なら、別にいいか!)
それからリアムが毎日服の下にアクセサリー三つを完全装備しているのを見るたび、三種の神器だと情緒もへったくれもない名前を心の中で呼んでいるのは、普通に呆れられそうなので俺だけの秘密である。
128
お気に入りに追加
4,783
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(53件)
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
弟は僕の名前を知らないらしい。
いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。
父にも、母にも、弟にさえも。
そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。
シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。
BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白くて一気読みしてしまいました。番外編も最高すぎる…
続きが読みたいです…!!!楽しみに待ってます!!!!!シャノンちゃんかわいいです〜
すごく面白かったし幸せ一直線で凄い良かったです!続き楽しみに待ってます!
ノンストレスで 一気に読めました❗️
面白かったです。
続き 楽しみに待ってます(*´~`*)