義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

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二章

一方その頃

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(?視点)


 私が前世でハマっていたの世界に転生したと気付いたのはこの国の第二王子殿下の名前を知った時だった。
 生まれ落ちたその時から自分が「転生した」という自覚はあったけど、まさか知っている世界に生まれていたなんて。
 ……しかも、ヒロインとして!

 タイトルは思い出せないけど、話の内容はよく覚えている。
 色々なスタイルの乙ゲーが世に蔓延る中、「庶子で貴族に引き取られる」「光魔法を持つヒロイン」「攻略対象が王子・騎士団長の息子・宮廷魔術師の息子・侯爵家の跡取りetc……」というどこかで見たことのあるテンプレの大盤振る舞いなストーリーが逆に流行ったゲームだった。そして何より、イラストがすごく綺麗だった!
 原作者は不明で、持ち込みによる作品なんだとか聞いた気がする。

 自分がヒロインだと分かってから、恐る恐るゲーム通りに治癒魔法を使ってみたら周りの人にすごく驚かれ、喜ばれた。
 それはそうでしょう。治癒ができるのは光魔法で、それをきっかけにして王子達と交流が始まるっていうシナリオなんだから。
 特別な力があることが嬉しくて、家族にも私のこの特別な力でいずれ楽させてあげる、と言って回っていた。引き取ってくれたことに対してのお礼だ。いずれ私がストーリー通りこの魔力を使って功績を挙げたら、爵位くらい上げてあげられるかもしれない。それにもしヒーローの誰かと結婚したら、パイプも繋げてあげられる。

 でも実は私の推しは攻略対象のヒーロー達じゃない。

 殿下の親友で伯爵家の嫡子、ゲーム中ではヒーロー達と城下町でお忍びデートする時におすすめスポットを教えてくれるだけのモブ、リアム様……!

 麗しいお顔もカラーリングも、ちょっと死んでる目も。あとはなんと言っても、目尻ではなく黒目の下にある黒子がすごく可愛くてドストライク。
 なんで彼を攻略できないのかと思ってる人は私だけじゃなかった。

 リアム様がモブなのにあまりにも人気なのを見て、なんとリアム様が主人公のスピンオフ漫画が連載されることになった。

 いや結局攻略できないのかよ! と思ったけど、わがままは言わない。一介のモブの彼にフォーカスをあてた話が読めるだけすごいことだ。
 ……でも、ヒロインとのifルート胸キュン恋愛話とかほのぼのストーリーを期待していた私たちの予想は見事に裏切られる。
 リアム様の義弟として引き取られることになったシャノンという少年が、魔性な上性格がゴミカスでリアム様のものをなんでも盗っていってしまう人物として登場したのだ。胸キュンのむの字もない。
 私物、家での立場にとどまらず挙げ句の果てには婚約者まで寝取られるリアム様。確かにシャノンはビジュアルがやたらいい可愛い男だったけど、リアム様という人がいながら寝取られる元婚約者も婚約者でしょう!
 そしてどんなにいじめてもまともな反応を返さないリアム様に痺れを切らしたシャノンは、魔法を巧みに操りリアム様に冤罪を着せ彼を国外追放してしまう。
 その後も馬車が襲撃されたり持ち出したはずの荷物の中身をいじられていたり等の陰湿な嫌がらせを掻い潜り外国に渡ったリアム様は元々あった才能をぐんぐん伸ばして力をつけ、最終的に自国に戻ってシャノンと元家族を逆に断罪するっていうオチ。……なんだけど。

(最後はハッピーエンドだとしても、何も悪くない推しがなんで道中辛い思いをしなきゃならないの! 私はハッピーエンドまでの過程で主人公が死ぬほど辛い思いをするのも、恋愛モノでやたら変なすれ違いをするのも、胃が痛くなるから読むの苦痛なタイプなのよ!)

 だから学園へ入学する時に決めた。せめて彼を国外追放になんてさせないと。
 リアム様と出会う、というかお話しする機会を得るには、ヒーロー達を攻略してその途中アドバイス役として出てくる彼をとっ捕まえるのが一番安全な気がした。私はこの世界ではしがない男爵家の娘だから、伯爵家の彼にそう易々と話しかけられない。
 そう思ってまずは攻略対象者達への足掛かりを掴もうと、ゲームで知った彼らのプロフィールや好みを使って近づこうとした。
 ついでににいるシャノンも見張ろうかと思ったけど、そもそも見つけることができなかった。まあ、それは置いといて。

 全然ヒーロー達に接触できない!

 彼らの身分は私からすれば雲の上の存在だし、普通に考えたら近寄るなんてできっこない。
 でもその辺はゲーム補正が上手く働いてくれるはずだ。


 どうしよう、早くリアム様に接触しないと義弟にいじめぬかれてあらぬ罪を……!


 焦った私はもうなりふり構ってられなくて、ある日偶然見かけたリアム様に不敬不審者のダブルコンボ覚悟で話しかけに行った。
 実際にお話ししたリアム様はそれはそれは美しくて眩くて、神が降臨なさったのかと目眩がする。
 推しはあくまでも推しで、私が恋愛感情を持つなんて烏滸がましいって思ってたけど、彼と直接言葉を交わした私はそれはそれは簡単に恋に落ちてしまった。

 ……前世の私ならいざ知らず、今の私は可愛い可愛いヒロインのはず。
 本当に始めは推しを助けたいってそれだけで下心なんてなかったけど、その瞬間からちょっとだけ、手助けする代わりに夢を見させてくれないかなと欲を抱いてしまった。
 何にしろ殿下達への攻略はうまくいってないし、乙女ゲームの世界だとしても私は感情を持つ人間なんだから、ゲーム通り動かなくてもいいよね?

 恋愛初心者の私は駆け引きなんてできないから、直球で愛を伝えることしかできない。

 もうこの時期に婚約者がいると聞いた時は驚いたけど、彼の婚約者はシャノンが寝取ってくれるから問題ないはず。
 リアム様がなぜ連日会ってくれているのか分からないけど、もしかしてもしかすると彼もちょっと私に? なんてお花畑の頭で思ってしまう。

(それに私がリアム様に会うことで、もしかしてシャノンが私に接触をはかってくるかもしれない。義兄と親しい女なんて、気にならないはずないもんね)

 そう最もらしい理由を描きながら、まるで夢みたいな気持ちで目の前に座る推しを見つめた。
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