義兄のものをなんでも欲しがる義弟に転生したので清く正しく媚びていくことにしようと思う

縫(ぬい)

文字の大きさ
上 下
34 / 53
二章

無理難題をあっさり承知してきてしまうリアムのことがもはや心配になる

しおりを挟む


 リアムから話を聞いた俺はしばらく押し黙ってしまった。
 自分に特別な力があると思っていて、ありもしない出来事を事実だと思い込んで義兄に自信満々で接触するって、どこからどう見ても危ない人だが……。
 けど俺だけはその女の子が言ったらしい「」に心当たりがある。

(俺と同じ転生者か? しかも、同じ漫画を読んだことのある……)

 いや、そもそも俺は転生者っていうほど前世の記憶なんてないんだけど。なんとなく読んだことある世界だなってくらいで……。

 リアムは殿下方が狙いなのかもと言っていたけど、わざわざ義兄に話しかけるあたり俺にはリアム狙いにしか見えない。
 しかしそれなら殿下やその側近の詳細なプロフィールを知ってるアピールをしていたらしい意味がわからないな。あれか、複数の男にちやほやされたいタイプか?
 でも、漫画に殿下とかその側近って多分出てきてないんだよな。リアムと義弟にフォーカス当てた話だったし。

 うーん、その女の子がリアムを狙ってさえいなければさりげなく話を聞いてみたかったな。俺の朧げな記憶じゃ分からないとこも多いし。もしかしたら知らないうちに続編とか出てたのかもしれない。

「そんな顔をしないで」

「ひょっ!?」

 耳元で囁かれ地面から三センチ飛び上がる。
 色々と考え込んでいた俺は目の鼻の先にリアムが近づいていることに全く気づけなかった。

「もしかして誤解している? ……信じてくれシャノン、確かにしばらく君と下校は叶わないけど、俺も本当はシャノンと一分一秒でも一緒にいたい」

「わ、わ、わ、わわ分かってます分かってます! 誤解も嫉妬もしてません!」

 リアムはなんでスイッチが入るとこうやって息を吸うように砂糖を錬成するんだ!
 直接的な愛の言葉に考えていたことがすっ飛んでいってしまった。

「……嫉妬はしてくれて構わないが。なるべく早く探って片付けるから」

「はい、いえ、兄上の安全第一で……。それよりも、どうやってその……。彼女が精神魔法の使い手では無いと証明するんですか?」

 今度はリアムが困ったように言葉を詰まらせた。それはそうだろう、属性を明らかにさせるならともかく、無いものを無いと証明するのは骨が折れる作業だ。だって無いのだから、証明のしようがないじゃないか。

「簡単さ。『ある』と言っている側が実際にその女に会って、魔法にかからないことをその身をもって証明したらいい」

 軽やかな声が聞こえて、ぱっとマシュが姿を現す。

「しかし、それでは殿下を彼女に引き会わせることになる。それができないから俺が先んじて調査を」

「悪魔の証明をしたいなら、あると言っている側が証拠を示す以外に方法はないだろ。おまえは魅了が効かないから万が一がないってことなんだろうけど、万が一がないんだからもっと証明のしようがないと思うけど」

 マシュの言っていることはもっともだと思う。でもリアムの言うことも間違っていない。というか、殿下としてはそれ以外の方法で調査して欲しくて依頼したんだと思うけど、無理なことを言うなあというのが素直な感想だ。

「……つまりはその王子サマの安全が確保できるなら交渉の余地はあるんだよね。よし、ボクらの可愛い可愛いシャノンたん。おまえに課題を与えよう」

「え?」

 俺?
 ついきょとんとしてしまった。俺をわざわざ指名ってことは闇魔法の出番だろうか。

「魔道具職人に憧れてるんだろ? その第一歩にしてあげるよ。おまえはこれから『撃たれた魔法を無効化する魔道具』を作るんだ」

 そう言ったマシュは、それはそれは綺麗な笑みを浮かべてた。




「無効化、ねぇ。闇魔法を使えばできないこともないぜ」

「じゃあその力を込めた……何か、身につけるようなものを作ったらいいのかな」

「バーカ!」

 テディに思いっきりデコピンをされる。彼の辞書には手加減という言葉がないのかもしれない。

 とりあえず俺の魔道具が出来上がるまで、リアムには普通に彼女を探ってもらうことにしている。嫉妬なんてしてない、してないからな。

「約束しただろ、闇魔法も光魔法も詳細は漏らさないって。中身はなんだって聞かれた時になんて答える気だ」

「それは……」

「お前の兄貴だってパッシブスキルが判明してるだけでこんなめんどくさいことに巻き込まれてるだろ。闇魔法の力を使って解決するのは今回は諦めるんだな」

 むむ。初手から詰まってしまった。
 俺がさっさと何かを作り上げないと、リアムの放課後が一生あの転生者(仮)に奪われることになってしまう。

「というか、闇魔法を使うのがだめならマシュはなんで俺に手伝えなんて言ったんだろう」

「あー、アイツなりの親心だと思うぜ」

「お、親?」

「そこに引っかかるな、言葉のあやだ」

 そうか……。
 俺はそれ以上突っ込むのをやめて、テディの言葉の続きを待つことにする。

「シャノンちゃん、ずっと魔道具に興味示してたのになかなか機会がなかっただろ。あの親父にも会いに行けてないし。だから、その機会を与えてるんだと思うぜ」

 マシュの気持ちはとてもありがたい。ありがたいけど、俺は魔道具の作り方をそもそも知らないぞ。
 困る俺に、テディは「その辺はお前なら感覚でなんとなくできると思うぜ。ま、とりあえず闇魔法以外で魔力を無効化する方法を考えな」と随分過大評価な言葉をかけてくれた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

貴方だけは愛しません

玲凛
BL
王太子を愛し過ぎたが為に、罪を犯した侯爵家の次男アリステアは処刑された……最愛の人に憎まれ蔑まれて……そうしてアリステアは死んだ筈だったが、気がつくと何故か六歳の姿に戻っていた。そんな不可思議な現象を味わったアリステアだったが、これはやり直すチャンスだと思い決意する……もう二度とあの人を愛したりしないと。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

俺の異世界先は激重魔導騎士の懐の中

油淋丼
BL
少女漫画のような人生を送っていたクラスメイトがある日突然命を落とした。 背景の一部のようなモブは、卒業式の前日に事故に遭った。 魔王候補の一人として無能力のまま召喚され、魔物達に混じりこっそりと元の世界に戻る方法を探す。 魔物の脅威である魔導騎士は、不思議と初対面のようには感じなかった。 少女漫画のようなヒーローが本当に好きだったのは、モブ君だった。 異世界に転生したヒーローは、前世も含めて長年片思いをして愛が激重に変化した。 今度こそ必ず捕らえて囲って愛す事を誓います。 激重愛魔導最強転生騎士×魔王候補無能力転移モブ

処理中です...