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二章
食われる(物理)
しおりを挟むにっこにこのエドモンドに引き攣った顔で別れを告げ、帰路につく。疲れた気持ちでソファに雪崩れ込んだ。
嵐みたいな人だった。あの眩しいくらい輝いてた殿下の側近が、ショタコン芸術肌の男か……。
「ふ、シャノンちゃん、モデルって……。良い人生経験だなあ?」
(う、うるさいなあ!)
俺ら以外に姿が見えないことをいいことに、ケラケラと笑いながら揶揄ってくるテディの言葉に羞恥心が募った。
リアムが慰めるみたいにそっと肩を撫でた。それで機嫌がなおる俺も大概である。
「すまない、シャノンとその……。二人で並んでいる絵を、と思うと揺らいでしまって」
「いえ……うう、恥ずかしいですけど兄上が喜ぶなら……。あ、それより! 誕生日……」
そうだ、絵よりも俺には大事な案件がある。
義兄は直接俺にプレゼントをリクエストしてくれると言っていた。欲しいものをあげるのが一番だ。なんでも言って欲しい。俺にできることなら!
じーっと彼の目を見つめていると、ふと口元を柔らげて俺の手を取った。
「ああ、欲しいものがある。シャノンにしか用意できないんだ」
「!! 遠慮なさらずに言ってくださいっ」
しばらく黙って視線を絡めていたけど、不意に手に取った俺の指を唇に寄せる。
(……え!?)
まるで物語の王子様みたいに、俺の手のひらに口付けを落とした。
何!? なんだ!?
当たり前にドキドキが止まらない。こんなキザな仕草も様になっている。
まさか欲しいのは君だとか言われるんだろうか。そんな台詞現実で言うやるがおるかと思ってしまうけど正直リアムに言われるなら満更でもないかもしれない。
「……いっ……? たくはない……」
頭の中が残念な子になっている俺だったが、突如薬指に走ったちくっとした感覚で現実に戻ってきた。
違和感に目を向けると、リアムが俺の左手の薬指を軽く噛んでいる。
状況が飲み込めなくて視線が泳いだ。
「……欲しい」
「え?」
「これが欲しい。……お願いだ」
口付けを交わしていたあの日みたいに、義兄の熱のこもった目が俺を射抜く。
あの甘さを思い出して、段々と身体の体温が上がってきた。
黙ったままの俺をどう思ったのか、すごくうっすらと噛み跡のついたそこに再度唇が触れて、思わず情けない声が出る。
甘ったるい空気に毒されて、彼の言葉をまともに理解しようとする脳が停止してしまう。脳死で頷きそうになるところをギリギリで耐えた。
どういうことだ? リアムにカニバの趣味があるなんて聞いたことがない。漫画でも現実でも、この人は真っ当な青年だったはずだが。それに俺も痛いのはちょっと勘弁だ。
「え、えと、僕痛いのはちょっと苦手かなあ….。でも兄上がどうしてもって言うなら……うーん……」
「……? 痛い? ……あ、い、いや、それは後々……今すぐ強いるつもりはないよ。流石にシャノンが十六、成人するまで待つさ」
「後々!?」
成長したら食われるのか?!
成長した俺が頭からガブリと義兄に食われている想像をして何エンドだよと困惑する。
リアムはなぜか頬を染めて視線を逸らしていた。かわいい。
……というか、リアムにカニバ疑惑が絶賛かかっているのに変わらずこの人が好きだと思う俺はおかしいのかもしれない! それ以前に積んでいる好感度が高すぎる。
この人が快楽殺人とかしない限りもしかしたらずっと好きかもしれない。いや、快楽殺人してもメロっちゃうかもしれない。そうなったらもう俺は終わりだ!
あ、ていうか、光魔法があるんだから痛くせずになんか……うまいことできるんじゃないか? 痛覚消すとかなんか……それもちょっとグロいか。
頭の中がぐるぐるする。まともな思考ができていない自覚はあるけどどこがまともじゃないのかわからない。
この人にこういう目で見つめられると、俺は脳が爆発して何もわからなくなってしまう!
我ながらリアムに弱すぎる!
「あの……痛くしないって約束してくれますか? その、光魔法とかでなんとか……ならないですかね。……約束してくれるなら、いいですよ。これを差し上げます」
「!」
もう何もわからん! 何もわからんけど俺だって男だ! 腹を括ろう。リアムが欲しいなら指の一本や二本持ってけ!
指がなくなるなんて普通に考えて嫌だが!
でもなんか、今後俺が魔道具作りの道に進めたら義手や義足とかを作って世に出したりしてもいいかもしれない。見てる限りこの世界にそういう技術は無いみたいだし。指のない俺がその道の第一人者になろう。
光魔法は欠損を治せるんだからそれでやればいいんだろうけど、光魔法は世に出せるものじゃないからなあ。リアムが王宮に囲われて会えないとかなったら泣いてしまうし。
思考が飛びに飛んで余計に頭がぐるぐるした。
ん? あれ、なんか身体が熱……。
視界がぐらぐらと揺れる。口の中に籠る息がすごく熱くて不快で眉を寄せると、何故か涙まで滲んできた。太もものあたりがぞわっとしていて気持ち悪い。
あ、これ、倒れるかも。
意識が飛ぶ寸前に見たのは、慌てて俺の額に手を当てる麗しい義兄の姿だった。
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